村娘のマナ登場
隣街にやってきたが、街の中が寂れている。人の姿もまばらだ。閉まっている商店も結構あった。オレと師匠は『隠密』を発動して領主の館に忍び込んだ。
「ドレン子爵様。先日の野菜も高値で売れましたよ。これが、ドレン様の取り分です。お納めください。」
「お前に任せてよかったぞ! エルゴ。」
「エルゴ商会はドレン様あっての商会ですので、今後もよろしくお願いしますよ。」
「わしも、この金を使って伯爵ぐらいにはなるつもりだ。これからも頼むぞ!」
「今日は手土産も用意しました。少しお待ちください。」
そこには両手を縛られた12歳ぐらいの少女が連れてこられた。
「いつも悪いな~。」
「いいえ。この娘にしても、両親の借金が返済できるんですから、喜んでおりますよ。そうだな!」
少女は下を向いて頷いている。
オレと師匠はその場で姿を現した。誰もいない場所に突然姿を現したので、領主もエルゴも少女も驚いている。
「お前達は何者だ!」
「悪党に名乗る名前はないな!」
師匠がやっぱり切れている。
「誰かいるか――――! 侵入者だ!」
外から兵士達が入ってくる。俺達を見て剣を抜いた。
「死にたくなければ去れ。さもないと殺す。」
兵士の一人が切りかかってきた。オレは1歩前に出て刀を振った。すると、剣が2つに切れた。それを見て兵士達は後ずさりする。
「お前達は、農民を苦しめるこんな悪党に味方するのか?」
「何をしている。早く殺さぬか!」
別の兵士が切りかかってきた。今度は師匠が剣を振る。切りかかってきた兵士の剣が切られた。さすがの兵士達も、蒼い顔をしてみんな逃げだしていく。部屋に残っているのは、ドレン子爵とエルゴと少女だけだ。
「お前達、言い残すことはあるか。」
「助けてくれ! 金ならいくらでもやる!」
「お前らに生きる資格はなさそうだな。」
オレは刀で2人を切り捨て、少女の拘束を解いた。
「ありがとうございました。」
「一人で帰れるかい?」
「はい。」
「ちょっと待ってな。」
オレは机の上にあったお金を少女にすべて渡した。
「これは?」
「こいつらが悪さをしてためた金だ。君が持っていけばいい。他にも苦しんでいる人達がいたら分けてやってくれ。」
「わかりました。」
オレと師匠は少女を屋敷の外まで連れて行き、少女を帰した。それから最初の村に戻って、倉庫のカギを壊して張り紙をして立ち去った。
“悪事を働いたドレン子爵には天罰が下った。野菜を持ち帰るがよい。神の使者より”
朝になると村中が大騒ぎだ。村では子ども達も飛び回っている。戦争さえなければいい村のようだった。オレと師匠は一通り村の中を見学すると、次の街に向けて村を出た。
オレと師匠はフードを被って、再びドレン子爵の屋敷がある街まで行くと、領主が何者かに殺されたと噂が飛び回っていた。兵士達の手前、大々的に喜ぶ人もいないが、皆の顔に安堵の表情が見られた。
「師匠、次の街に行きましょうか。」
次の街に行こうと郊外までくると、昨夜助けた少女が道の端で座っていた。どうやらオレと師匠が来るのを待っていたようだ。
「どうした? 両親が心配しているだろうから、早く帰った方がいいぞ!」
「実は私の村はこの少し先にあるんですが、度々魔物に襲われるんです。それで、村にお金がなくて・・・・」
「オレ達に何とかして欲しいの?」
「はい。2人の強さなら・・・・・お願いできませんか?」
オレが師匠を見ると、師匠は笑顔で頷いている。
「いいよ。じゃぁ、一緒に行こうか。」
「ありがとうございます。」
「私はマナといいます。」
「オレはシン。」
「私はナツだ。」
「シン様にナツ様ですね。」
師匠は相変わらずオレの腕を取って体を密着させている。
「お二人は仲がよろしいんですね。」
「ああ。」
師匠がぶっきらぼうに答える。
「羨ましいです。」
街道が周りを見渡せる草原近いから、高い木々が生い茂る森の中に入って行った。
「この辺りには、よく魔物が出るんです。」
マナが言った通り、魔物の反応がある。どうやら、近くに群れでいるようだ。
「マナちゃん。近くに魔物がいるから気を付けてね。」
オレ達の後をつけるように森の中を魔物の群れも移動する。オレが横を見るとそこにいたのはブラックモンキーだった。ブラックモンキーは、木の上からオレ達に向けて石を投げつけてきた。
オレは刀でそれを叩き落して、刀を振って斬撃で倒していく。ある程度倒すと、ブラックモンキー達は森の中に消えて行った。
「シン様は本当にお強いんですね。」
マナがオレの顔をじっと見つめながら、顔を赤くしていった。
「それに、シン様の顔を始めてみました。すごくかっこいいです。ナツ様が羨ましいです。」
「マナ。ダメだぞ! シンに惚れるなよ!」
「はい。大丈夫です。多分。」
3人は冗談を言いながら先を進んだ。やっと、村が見えてきた。村にはやはり木の柵があった。
「魔物はどんな奴だ?」
「はい。ブラックボアが多いです。たまに、ブラックベアも姿を見せます。」
「そうか。村に入ってからどうするか考えよう。」
3人が村に入ると村には誰もいなかった。
「どうして? どうして誰もいないの?」
「もしかしたら、村を放棄して他の街に移住したのかもしれんな。」
マナは村中を走り回って村人を探し回ったが、やはり誰もいなかった。マナの目からは大粒の涙が流れる。
「マナちゃん。次の街に行ってみようよ。何かわかるかもしれないし。」
その日は誰もいなくなった村にあるマナちゃんの家に泊まった。いつもはオレの隣に師匠がいるが、今日、師匠はマナと一緒に寝ている。考えてみればマナは12歳だ。地球なら中学1年ぐらいだろう。まだまだ親に甘えていたい年ごろだ。
翌朝、朝食を取った後、オレ達3人は村を出て次の街に向かった。再び街道は森の中に入って行く。いつものように師匠がオレの右側の腕を組んで密着している。何故か今日は、マナがオレの左腕を持って密着しているのだ。オレは師匠を見た。師匠はニコニコしながら言い始めた。
「マナは両親がどこに行ったか分からなくて不安なんだ。しばらくマナの兄になってやれ。」
「そういうことですか。」
「よろしくお願いします。シン兄様。」
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