マング王国のチャック辺境伯
オレと師匠は執事風の男について行った。すると、近くに馬車が止まっていた。馬車の中には、貴族風の紳士が乗っている。
「私は隣のマング王国で辺境伯をしているチャックといいます。お二人のお力をお借りしたいのですが。」
「オレはシンです。」
「私はナツだ。」
「ナツさんの戦いを見させていただきましたが、あの強さは尋常ではありません。恐らく、シンさんも相当強いのでしょう。お二人を見込んで是非お願いしたいのですが。」
「どんなことかわからなければ、協力しかねます。」
「それもそうですね。これから私が話すことは秘密でお願いできますか。」
「わかりました。」
オレは神眼でチャックさんを見た。だが、チャックさんからは悪意が感じられなかった。
「この連邦国家は2つの国に接しています。一つは我が国マング王国、もう一つはチギト王国です。最近チギト王国が軍備を拡張しているんです。チギト王国に接している我が領土では、度々侵入してくるマング王国の兵士と戦闘になっているんですが、相手が最新の武器で攻めてくるため、大勢の犠牲者が出ているんです。このままだと、我が領土を始め、マング王国はチギト王国に占領されてしまいます。中立のこの連邦国家も恐らく、チギト王国に滅ぼされるでしょう。」
師匠を見ると、師匠が頷いている。
「わかりました。どこまで、お役に立てるかわかりませんが、協力しましょう。」
「ありがとうございます。では早速、我が領土に行きましょう。」
オレ達はそのまま、マング王国に行くことになった。いくつか街を通過して、やっとマング王国の辺境伯領に到着した。目の前にはのどかな風景が広がっている。そこを通過すると街が見えてきた。ここが我が領都のキルルです。
キルルの街は人々の笑顔にあふれた街だった。大通りには、お祭りのような旗が飾られている。中央広場はたくさんの若者で賑わっていた。治世の良さがうかがわれる。きっと、チャックはいい領主なのだろう。
「師匠。どうしたんですか?」
「いいや。向こうの空が何かおかしい。」
すると、街を取り囲む城壁に何かがぶつかった。そして、爆炎が上がり、城壁の一部が破壊された。どうやらミサイルのようだ。
「師匠。やはり古代兵器が発掘されているようです。」
「しかも、すでに実用化に成功したようだな。急がなければならんな。」
チャック辺境伯はすぐに兵士達を集めるように指示を出した。オレと師匠は街の外に出て、ミサイルの発射された場所に急いだ。
「師匠。あそこのようです。」
「行くぞ! シン。」
オレは刀を抜き、師匠は剣を抜いた。そして、ミサイルが発射されたと思われる場所に急いだ。そこには、たくさんの兵士達がいた。
「お前達は何者だ?」
「そんなことはどうでもいい。命が欲しいものはこの場から立ち去れ。さもないと殺す。」
師匠の身体から漆黒のオーラがあふれ出した。オレも魔力と闘気を解放する。するとオレの身体からは眩しい光が放射された。
「怪しい奴らだ。打ち取れ―――――!」
兵士達が一斉に銃を向けてきた。そして銃が放たれる。
「バキュ――ン」「バキュ――ン」
オレは瞬間移動を使い銃を持った兵士達のところに行き、全員の首を撥ねていく。
「ギャ――――」
「こいつはバケモンだ――――!」
師匠が剣を横に振ると、周りの兵士達の頭が次々と落ちて行く。
「助けてくれ―――――!」
武器を捨てて逃げだす兵士もいた。仕方がないので、オレは魔法を使った。
「ファイアーウォール」
兵士達の行く手を炎の壁が閉ざした。
「お前達は何者だ?!」
「オレは魔王シン=カザリーヌだ。」
「私は魔王軍筆頭ナツ=カザリーヌよ。」
「魔王?! 嘘だ! そんなものがいるはずがない!」
「ならば見せてやろう。」
オレと師匠は背中から漆黒の翼を出した。
「まさか?! まさか?! 本当なのか?」
「シャドウアロー」
空に黒い矢が無数に現れ地上に降り注ぐ。そこにいた兵士達は全員が死んだ。
「シン。ミサイルを回収して!」
「はい。」
オレはそこに残っていたミサイルや銃を『グラトニー』ですべて回収した。
「どうしますか? 師匠。」
「一旦戻ろうか?」
「はい。」
オレと師匠はキルルの街の中央広場に行った。すると、兵士達が隊列を組んで並んでいる。俺達の姿を見つけたチャック辺境伯が駆け寄ってきた。
「シン殿、ナツ殿。どこにいたのだ? これから攻撃してきた相手を殲滅するのだ。準備してくれ。」
「それならもう大丈夫ですよ。」
チャック辺境伯が不思議そうな顔をしている。師匠がチャック辺境伯に言った。
「すでに、シンと私で殲滅してきた。もう、攻撃されることもあるまい。」
「シン殿、ナツ殿。貴殿達はいったい何者なんだ?」
「平和を望む人達の味方です。」
オレが笑って答えると、チャック辺境伯は気が抜けたようにその場に座り込んでしまった。
その後、オレと師匠はチャック辺境伯の城に案内され、チャック辺境伯の馬車に同乗していった。さすがに辺境伯だけあって、屋敷は『城』だった。だが、城の中は内装も置物も質素そのものだった。チャック辺境伯が着替えて準備をする間、オレ達は執事につれられて応接室に案内された。
オレと師匠が暇そうに応接室で待っていると、チャック辺境伯が入ってきた。椅子に腰かけ言ってきた。
「貴殿達が何者かはもう詮索しないようにしよう。」
「そうしていただけると嬉しいです。」
「今回は無事に終わったが、これからもチギト王国からの攻撃があると思うと、気が休まらんよ。」
「なら、オレと師匠でチギト王国に行ってきますよ。」
「なんと?!」
「チギト王国を変えればいいんですよね? 平和な国に!」
「そんなことができるのかね? 貴殿達2人だけで。」
「大丈夫だと思いますよ。ねっ! 師匠。」
「貴殿達を見て、この大陸に古くから伝わる昔話を思い出したよ。」
「どんな話ですか?」
「“余が乱れる時、神により遣わされた2人の男女が大陸の混乱を鎮め、平和をもたらすだろう。”という話さ。ただ、その神の使徒は魔族とされているから、君達のことではないがね。」
チャックさんの話を聞いて、オレと師匠は顔を見合わせた。
その日、オレ達は城にとまるように言われ部屋に案内された。
「シン。」
「師匠が何を言いたいのかわかります。オレ達の行動はすでに予見されていたんですね。」
「ああ、私もそう思ったよ。だが、私も使徒の扱いなのはなぜだ?」
「オレにもわかりません。」
「まぁいい。今日はもう寝よう。」
読んでいただいてありがとうございます。