師匠が切れる?!
オレと師匠は、相変わらず続く森の中の道を移動していた。すると、しばらくいなかったカゲロウが戻ってきた。
「シン様。ご報告です。」
「何かわかったの?」
「どうやらこの大陸にも古代遺跡があるようです。」
「それは本当か? だとすると、古代遺跡は各大陸にあるということかもしれないな。」
「シン。もしかすると、大昔に大陸間で大きな戦争があったのかもしれんぞ!」
「なるほど、オレのいた地球でも同じでした。それならミサイルがあったことも納得です。」
「シン。旅をしながら、古代遺跡を片付けていかないといけなくなったな。」
「はい。でも、カゲロウが協力してくれるので、本当に助かりますね。」
「えっ?! 私はシン様のお役に立てているんですか。なら、もっと頑張ります。」
「ところで、カゲロウはどうしてこの大陸に古代遺跡があるって思ったの?」
「この連邦の隣の国、チギト王国の兵士達が銃を持っていました。」
「なるほどね。間違いなさそうだね。」
ここで、師匠がカゲロウに聞いた。
「カゲロウ。この大陸では魔法は使われていないのか?」
「どうやら魔石は利用されているみたいですが、人々が魔法を使用しているのを見たことがありません。」
「そうか。やはり、シン。私達もできるだけ魔法を使わないほうがよさそうだ。お前、刀を出しておいた方がいいぞ!」
「そうですね。魔法と刀がないとすごく大変だと分かりました。師匠はどうするんですか?」
「私も大分昔に使っていた剣を取り出すさ。」
「師匠が剣を使うなんて知りませんでしたよ。」
「お前、馬鹿にしているのか? これでもハヤトよりは強いと思うぞ!」
「そうだったんですね。さすが、ナツ=カザリーヌです。」
「お前、完全に馬鹿にしているだろう!」
師匠がオレを追いかける。オレは師匠から逃げる。なんか、漫才のようだ。でも、結局は仲直りするんだ。
そんなこんなで、次の街の前まで来た。街の入り口に看板があった。“森の都キリュウへようこそ”と書かれていた。もしかしたら、この連邦の中心地なのかもしれない。オレと師匠は街に入った。カゲロウは再び調査に行ってしまった。
街の中に入ると人族だけだ。オレはこの大陸に渡ってから、人族以外はあったことがない。
やはりこのキリュウの街が中心地のようで、家の数も人の数も非常に多い。食堂、服屋、武器屋、お土産屋などありとあらゆる店があった。通りには屋台も数件出ていた。屋台によって扱っているものが違うようだ。中には海産物の串焼きもある。
「師匠。この街は流通が発達しているようですね。」
「ああ、そのようだ。山のもの、海のもの、なんでもあるな。」
オレ達はいつものように狩人ギルドに向かった。狩人ギルドには大勢の人間がいた。男性も女性もいる。やはりどこの大陸も同じようで、女性の服装は肌の露出が多い。恐らく動きやすさを優先しているのだろう。師匠が近くにいるのに、女性達の胸元に目が行ってしまう。
「シン。お前、また鼻の下が伸びてるぞ!」
「僕は師匠が丁度いいんです。形もいいし。」
「シン。お前何の話をしているんだ?」
知らず知らずオレの視線が師匠の胸に行った。
“ポカッ”
「馬鹿! 恥ずかしいだろう!」
すると後ろから体格のいい男性が声をかけてきた。
「お前達。ここは狩人ギルドだ。イチャイチャするなら他でやれ!」
「すみません。」
オレは素直に謝った。その後、掲示板まで行って何かないかと見渡していた。討伐系の依頼が少ないようだ。街のごみの片付けや糞尿の処理。引越しの手伝い。ペット探し。めぼしい仕事が何もない。
「師匠。何もないですね。もっと、ワイバーンの討伐とかドラゴンの討伐のようなものがあったらよかったんですけど。」
「シン。声がでかいぞ! なるべく目立たないようにしろ!」
「すみません。」
すると、さっきの大男が再び声をかけてきた。
「お前がドラゴンだと~?! わらわせるな。そんなへなちょこの身体でドラゴンに勝てるわけねぇだろう。せいぜい、ごみの片づけでもやっていな。」
「お前、今なんと言った。シンのことをへなちょことか言ったか?」
「ああ、言ったさ。」
「へなちょこはへなちょこだ。ハッハッハッ。」
男の声で周りの狩人達も大声で笑っている。師匠の眉間にだんだん青筋が立ってきた。
「師匠。ダメですよ。目立たないようにするんでしょ。」
「黙っていろ! シン。お前のことを悪く言われて、私は我慢の限界だ!」
「ひゅ~! ひゅ~! 熱いねぇ~! でも、おままごとは家に帰ってやりな!」
師匠は男の襟首をつかんで、ギルドの外に連れて行った。細い腕の師匠が軽々と大男を引きずっていったので、周りの狩人達は口を開けて驚いている。
「謝罪すれば許してやる。」
師匠が大男に言い放った。最初は何が起こったのかよくわかっていなかった大男の顔がだんだん赤くなっていく。
「お前、誰にものを言っているんだ! 俺様はAランクのマッスル様だぞ!」
「そうか。謝らぬか。」
師匠は身にも止まらぬ速さで、マッスルの腹に拳をお見舞いした。マッスルは後方に大きく吹っ飛ばされる。そして腹を抱えて立ち上がった。
「女だからと油断したが、我慢ならねぇ! 殺してやる!」
マッスルは背中から大剣を抜いて師匠に切りかかった。だが、師匠は軽くかわして、マッスルの足を蹴飛ばした。マッスルは体制を崩して顔から地面にこけ、鼻血を出している。
「Aランクのマッスル様は、まだランクもない素人の女よりも弱いのか?」
周りの見物人達も騒いでいる。もう、目立たないどころの話ではない。
「貴様! 本気で殺してやるよ!」
マッスルは地面に落とした大剣を拾い、再び師匠に切りかかる。師匠が指2本で受け止めた。
「お前の剣など、ハエが止まって見えるぞ!」
師匠はマッスルの頭上にジャンプして、頭に踵を落とした。マッスルは泡を吹いて意識を失った。
「スゲ――――!」
「あの美人の姉ちゃん。強ぇな―――!」
「Aランクが子ども扱いだったぜ!」
オレと師匠がその場を立ち去ろうとした時、執事風の男に声をかけられた。
「そこの方、少しお話をさせていただけませんか?」
「いいですけど。どなたです?」
「私はさる方にお仕えするものです。場所を変えてゆっくりとお話をさせてください。」
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