シタナの街(1)
アゲオ村を出たオレと師匠は道なりに歩くことにした。シゲの話では、昔、連邦内にいくつも小さな国があり、それぞれに国王と貴族がいたようだ。度重なる戦争や重税、王族や貴族の傍若無人な振る舞い、それに不満を感じた国民達が一斉に蜂起して、次々と国がつぶれ、現在の連邦制度になったようだ。
オレと師匠は森の中を道なりに進んだ。魔力感知に魔物の反応があるが、オレと師匠を襲うような魔物はいない。オレと師匠の姿を見ると、避けるように逃げて行ってしまうのだ。
しばらく進むと街に出た。アゲオ村よりは少し大きい。街の入り口に“シタナの街”と看板が出ていた。
「師匠。この街、冒険者風の人が多いですね。この大陸にも冒険者ギルドとかあるんですかね?」
「誰かに聞いてみるか?」
「はい。」
「オレは街を歩いている女性に声をかけた。」
「ちょっと聞きたいんですが、いいですか?」
「君、可愛いわね? もしかして、ナンパ? 子ども癖におませさんね。いいわよ。付き合ってあげるわ。」
「違います。誤解です。」
「えっ?! そうなの?」
「冒険者ギルドとかないんですか?」
「冒険者? なにそれ?」
「討伐した魔物の素材とかを売ったりするところです。」
「ああ、狩人ギルドのことね。それなら、この道を真っすぐに行って、あのレストランを右に曲がったところにあるわよ。」
「ありがとうございます。」
「今度、寂しくなったら声をかけてね。いつでもOKだからね。」
師匠がオレに近づいてきた。
「シン。お前、ああいうのが好みなのか?」
「何を言っているんですか? オレは師匠一筋ですから。」
師匠が嬉しそうに腕を組んで、身体を密着してきた。オレ達は狩人ギルドに行った。ギルドの中に入ると、受付と掲示板があり、冒険者ギルドとつくりは似ているが、オレが知っている冒険者ギルドとは雰囲気が違った。お酒を飲んでいる人達がいないのだ。
オレと師匠は受付の女性に声をかけた。
「魔物の素材を売りたいんですが」
「裏に来てくれるかな。」
「はい。」
オレは言われた通り裏に行くと倉庫と解体場がある。
「どこに持ってきているの?」
「この鞄の中に入っています。」
「えっ?!」
オレは鞄の中から出すふりをして、以前討伐したホーンベアを空間収納から取り出した。
「え―――――――?!」
「どうしたんですか?」
「あなた、この鞄は何よ?」
「空間魔法が付与してあるんですよ。」
「え――――――――!!」
受付の女性は慌てて建物の中に入って行った。しばらくして、体格のいい男性と一緒に戻ってきた。
「君か、空間魔法を付与した鞄を持っているのは。どこで手に入れたんだ!」
「祖父からもらったものですが。」
「祖父っていうのは、どこの王だった人間だ。」
「この鞄はそんなに貴重なものなんですか?」
「当たり前だろう。魔法の鞄なんか持っていることが知られたら命を狙われるぞ!」
「ありがとうございます。では、魔物の買取をお願いします。」
「ああ、そうだったな。これなら金貨5枚だな。」
オレと師匠はお金を受け取ってギルドを後にした。
「シン。気づいているか?」
「はい。」
オレと師匠は急ぎ足で歩いて、建物の陰で待ち伏せした。すると、帽子を深くかぶった少年が後をつけていた。
「君、オレ達に何か用かい?」
「お兄さん達、強いんでしょ?」
「どうして?」
「だって、ギルドでホーンベアを売っていたよね?」
「見ていたのかい?」
「うん。おいら、強い人を探しているんだ。」
オレは師匠と少年から少し距離を取って話した。
「シン。あの少年は何か訳ありのようだな。」
「はい。聞いてみましょうか?」
「そうだな。」
少年の近くに行って事情を聴くことにした。
「君はどうして強い人を探しているの?」
「おいら、父ちゃんの敵を討ちたいんだ。」
「敵?」
「そうさ。父ちゃんは狩人だったんだ。盗賊を退治に行って帰ってこないんだ。母ちゃんはもう父ちゃんは殺されて帰ってこないって言っている。」
「分かったよ。君に協力するから、詳しく教えてくれるかな?」
「うん。」
「オレの名前はシン。」
「私はナツだ。よろしくな。」
「おいらはジミーだよ。でも、シン兄ちゃん達はどうして剣を持ってないんだ? 剣もなくてホーンベアをどうやって倒したんだ?」
「この街の狩人の人達はみんな剣を持っているのかい?」
「当たり前じゃん。仕事道具だもん。」
「魔法とか使わないのかい?」
「ハッハッハッ。人族にそんな夢のようなことができるはずないじゃん。」
ここでジミーが真剣な顔になった。
「もしかしたら、シン兄ちゃん達は魔法が使えるの?」
「使えないよ。オレも師匠も体術が得意だからな。」
「シン兄ちゃん、ナツ姉ちゃん。おいらの家に来てくれよ。母ちゃんに紹介するよ。」
オレと師匠はジミーについてジミーの家まで行くことになった。ジミーの家は裏通りにあった。
「ここだよ。ちっと待ってて。」
「母ちゃ――――ん。帰ったよ――――。」
「ジミー、あんたまたギルドに行っていたのかい?無駄なことはやめて、仕事を手伝っておくれ。」
ジミーの母親は畑でとれた野菜の仕分けをしていた。
「母ちゃん。父ちゃんの仇を一緒に取ってくれる人達を連れてきたよ。」
ジミーの母親がオレ達の方を見た。そしてため息をついた。
「あんた達、旅人かい? この子を揶揄うのはよしておくれ。この子は真剣なんだよ。」
「オレ達も真剣ですよ。」
「母ちゃん。シン兄ちゃんとナツ姉ちゃんはホーンベアを倒したんだよ。」
「それは本当かい? でも、武器も持っていないし、身体も華奢でどう見ても強そうには見えないね。」
「オレと師匠は体術が得意なんですよ。」
「体術がねぇ~。」
ジミーの母親は疑うような目でオレ達を見ている。
「まぁ、いいわ。私はこの子の母親のチサよ。一つお願いがあるんだけど。」
「なんでしょう?」
「うちの畑が何かに荒らされるのよね。調べて欲しいのよ。あまり出せないけど報酬も渡すわよ。」
「わかりました。」
オレと師匠はチサさんの畑に案内された。畑を見ると思っていたよりかなり広い。畑には様々なものが植えられている。森に近い場所で、たくさんの足跡を見つけた。
「シン。この足跡はボアだな。」
「はい。師匠の畑に来るやつと似てますね。」
チサさんが帰った後も、オレと師匠とジミーは畑の様子を見ていた。その間にジミーに色々聞いた。父親はもともと王国に使える騎士の家柄だったそうだ。王国が滅亡したあと、自分の領地に戻ってきて畑仕事をするようになった。ただ、父親は小さいことから武術で体を鍛えていたため、街から依頼されて魔物や盗賊の討伐に参加していたようだ。
「おいらも、いつか父ちゃんのように強くなるんだ。父ちゃんのように困っている人達を助けるんだ。」
「ジミーは偉いな。なら、オレと師匠で訓練してやるよ。」
「本当かい?」
「ああ、この棒でオレに殴りかかってきな。」
ジミーに棒を渡した。ジミーはそれを握り締めて構えた。その構えはしっかりと様になっていた。恐らく一人で相当練習したんだろう。
「ジミー。いつでもいいぞ!」
ジミーが棒で殴りかかってくる。オレはそれを簡単に避ける。それでもジミーは一生懸命にオレに向かって来た。どれくらい時間が経っただろうか。ジミーが両肩で息をしながら、地面に座り込んだ。
「シン兄ちゃん。やっぱり強いんだね。掠りもしなかったよ。おいらもすごく練習したから、少しは自信があったんだけどな~。」
「ジミー。シンは特別だ。こいつに怪我をさせられる者はこの世界に誰もいないさ。」
「ナツ姉ちゃん。それは言いすぎだよ。いくらシン兄ちゃんのことが好きだからって、それはシン兄ちゃんを褒めすぎだよ。」
師匠の顔が真っ赤になっていく。
「よくも言ったな。ジミー! お仕置きしてやる!」
師匠がジミーを追いかける。ジミーが必死に逃げている。これも師匠なりの訓練方法だ。
その日は何もなく全員が家に帰った。オレと師匠はジミーと別れた後、師匠の家に戻った。
「師匠。あの大陸には魔法がないんでしょうか?」
「あるかもしれないが、使える者がほとんどいないのだろう。」
「なら、うっかり人前で魔法を使えませんね。」
「そうだな。気を付けた方がいいな。」
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