神聖エリーヌ教国(2)
上官は腰から剣を抜いた。剣から魔力を感じる。どうやら魔剣のようだ。上官が剣を振ると斬撃が飛んでくる。オレがそれをかわすとさらに上官は剣に魔法を付与した。剣から炎が噴き出した。
上官が剣をオレに向けて突き出した瞬間、剣から火炎放射のように火が噴き出した。オレは水の壁を作り出してそれを防いだ。すると、上官は剣を下に向けた。地面が赤色に変色し溶岩のように溶け始める。
「シン。遊びはそこまでにしろ! 早く口を割らせろ!」
師匠の言葉に上官が反応する。上官は剣をこちらに構える。剣から炎が噴き出し、巨大な竜へと形を変えた。
「そんな舐めたこと言っている余裕があるのか?」
「それがお前の最高の技か?」
「この竜からは誰も逃れることはできんぞ!」
「くだらないな!」
オレは手を前に出して魔法を唱えた。
「グラトニー」
オレの手から放たれた光が炎の竜をどんどん飲み込んでいく。そして、上官の持っている剣はただの剣となった。
「どうしたんだ? お前何をした?」
「あんたの魔剣をただの剣にしただけさ。」
「そんなことができるはずがなかろう!」
「オレのことを聞いていないの?」
「何をだ!」
オレは背中に翼を出して、魔力を放出して魔王の姿に戻った。
「オレ、魔王なんだよね。」
「魔王?!」
「そうさ。お前には知っていることをすべて話してもらうよ。言っておくけど、お前がしゃべりたくなくても勝手にしゃべるから。」
「コウァース」
上官は必死で抵抗しようとするが、身体も口も自由が利かない。ここで、師匠が気を失っていた聖騎士達を起こした。
「貴様ら、何をした。」
「これから真実が語られるから、しっかりと聞いているがいい。」
オレは上官に向かって質問を始めた。
「お前に指示したのは誰だ?」
「だ、大、大司教様」
「聖女はどこにいる?」
「か、かざ、火山の遺跡」
「ナザルはどこだ?」
「し、知らない。」
「教皇を殺したのは誰だ!」
「お、俺が殺した。」
オレは魔法を解除した。上官の男はまだ剣を持って向かって来ようとしている。オレは、手刀で上官の首を撥ねた。聖騎士達は唖然としていた。
「これでわかっただろう。本当の犯人が。」
「貴様のその姿は! いったい何者だ?」
「オレ?! オレは見た通り魔王だよ。」
「魔王?!」
聖騎士達は一斉に剣を構えた。そこで、師匠が言った。
「シン。あまり揶揄うな。教えてやれ!」
オレは精霊王の姿に変身した。背中の翼は黒から純白に変化した。そして見るからに神々しい光を放った。
「オレは魔王だけど、精霊王でもあるんだよね。」
「精霊王様?!」
聖騎士達は一斉に片膝をついて臣下の礼を取った。
「精霊王様でしたか。知らぬこととはいえ・・・・」
「大丈夫だから。それより、これで信じてもらえたかな。」
「はい。」
「本当の敵はさっきの男が言った通り大司教だから。」
「精霊王様。我々が大司教のところまでご案内します。」
オレ達が教皇庁の地下を上に登っていくと、上では大騒ぎとなっていた。オレ達を案内している聖騎士が、近くにいた司教らしき男性に聞いた。
「何があったんだ?」
「大司教様が何者かに殺されました。」
オレ達は全員驚いた。悪の親玉と思っていた大司教が殺されたのだ。オレ達は殺された大司教のもとに向かった。
大司教の部屋に入ると確かに大司教は死んでいた。壁には“エリーヌは邪神だ”と書かれていた。いかにも反対勢力の仕業のように見えた。
「師匠。これはどうしたんでしょうか?」
「大司教は最初から殺されていたんだろうな。恐らくナザルの仕業だろう。あいつは悪魔族だ。悪魔族に乗り移らせていたんだろう。」
「一体どうして?」
「簡単な事さ。教皇と大司教が反対勢力に殺されたとなれば、もう戦争は止められんだろうからな。」
「ナザル! 絶対にあいつは許さない!」
オレは聖騎士に聞いた。
「この国でこの戦争を止められるのは他に誰がいる?」
「恐らく聖女様だけです。」
「師匠。聖女の救出が最優先のようです。」
オレと師匠が教皇庁を出て魔王城に戻った。いつものようにセフィーロさんが待っていた。
「報告があるんだよね? セフィーロさん。」
「はい。聖女ですが、やはり火山の古代遺跡の中に幽閉されています。」
「場所はわかるかな。」
「はい。調べてあります。」
「師匠。なぜ教皇と大司教は殺して、聖女を生かしているんでしょうね。」
ここでカゲロウが帰ってきたようで、カゲロウが答えた。
「封印されている前の管理神の封印を解くためですよ。シン様。」
「どういうこと?」
「封印は何重にもかけられています。そのカギが怨念を持った死者の魂と聖女の生き血なのです。ですが、他にも必要なものがあるかもしれません。」
「なら、一刻も早く聖女を救出しなくちゃ。」
「そうだな。シン。もしかすると、すでに前の管理神は復活しているかもしれん。気を引き締めていくぞ!」
「はい。」
ここでセフィーロが言って来た。
「私達もすぐに駆け付けることができるように待機しています。何かありましたらすぐにお呼びください。」
「ありがとう。」
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