料理革命
翌日、オレと師匠は城に戻り朝食をいただいた後、さっそくエドガーさんに案内されてベイ草を見に行った。確かに米だ。これなら、酢と味噌と麹ができる。あとは胡椒と醤油とソースがあればいい。米から酒も作れそうだ。
オレはカゲロウを呼んだ。
「お呼びですか。シン様。」
「カゲロウ。辛い木の実みたいなのがあるかな? 胡椒っていうんだけど。」
「それが胡椒かどうかはわかりませんが、とってきますね。」
後は大豆だ。オレは魔王城に戻ってセフィーロさんに頼んで大豆に似たものを探してもらった。
オレが師匠と酢と味噌づくりを試行錯誤しているとカゲロウが戻ってきた。
「シン様。いくつかの種類を取ってきました。調べてみてください。」
「ありがとう。」
オレはその中から山椒と胡椒に似たものを発見した。
翌日にはセフィーロさんが眷属に探させたようで、大豆に似た豆を持ってきてくれた。次から次へと材料が集まってくる。後は、実際に作ってみるだけだ。実験開始から2日後、時間経過の魔法を使うことで酢と味噌が完成した。さらに3日後、大豆に似た豆から醤油が完成した。ついでに師匠のためのお酒も完成した。さらにそれから3日後、マヨネーズとソースが完成した。オレと師匠は、それらを持ってエドガーさんのいる城に戻った。
「エドガーさん。この国の発展に繋がる物を作ってきました。調理場を借りていいですか?」
「いいですよ。どうぞ。」
エドガーさんが頭をかしげて不思議な顔をしている。
3時間後、セザール国王とその妃、エドガーさん、エル皇太子とマリアに食堂に来てもらった。
「今から皆さんにオレと師匠の作った料理を召し上がっていただきます。食後に感想を聞かせてください。」
最初にサラダからだした。あえてドレッシングにせず、マヨネーズにした。初めて口にしたマヨネーズにみんなが度肝を抜かれていた。次はスープだ。スープはあえてみそ汁にしてみた。これも初めての味だ。みんなが目を丸くして驚いている。次は、以前討伐したコカトリスの肉をチキン南蛮風に仕上げ、酢とマヨネーズ、砂糖を混ぜてたれを作った。
「美味しい! すごく美味しいわ!」
「確かに旨い!」
「最高だわ!」
確かにコカトリスの肉も絶品だ。だが、みんな初めてのたれの味に驚いていた。そしてメインはオークキングのステーキだ。これは塩と胡椒のみの味付けにした。
「なんなんだ! この旨さは!」
「旨すぎるぞ!」
女性陣は何も言わずに感動しながら食べている。最後は、プリンとアイスクリームを出した。女性からはおかわりを要求されるほど大好評だった。
「いかがでしたか? お口にあいましたか!」
「いや~! 恐れ入りました。これほどの料理、シン殿とナツ殿はいつもこのような料理を召し上がっているのか?」
「いいえ。今回初めて作りましたので。」
「え?!」
「この国の特産品の話をしましたよね? この料理に使った調味料を特産品にしたらどうですか? さらにこの国の食堂やレストランに斡旋すれば、この国はグルメ大国として評価されると思うんですけど。」
「シン殿。我が国のために考えていただいたんですか?」
「はい。約束しましたから。」
「本来、国王のこのわしや宰相のエドガーが考えなければいけのに、申し訳ない。」
「外から見た方が気づきやすいこともたくさんありますから。」
「シン君。だが、流通はどうするつもりかね?」
「グランデさんにお願いしますよ。製造工場もお願いするなら、製造方法などを秘密厳守でお願いしますけど。」
「シン殿にお任せします。」
オレと師匠はグランデさんの屋敷まで転移した。
「お久しぶりです。グランデさん。」
「これはこれは魔王様。いや、精霊王様ですね。」
「やはりご存じだったんですね。」
「当然ですよ。ミアさんがいつもここに来ますから。今日もそろそろ来る頃ですよ。」
すると、鼻歌を歌いながらミアがやってきた。相変わらず肌の露出が多い。
「あれ?! 魔王様にナツ姉様! どうしたんですか?」
師匠のお小言が始まった。
「ミア。あなた何しているの? ほかにやることはないの?」
「ナツ姉様。私はここに仕事で来たのよ。グラちゃんがハクスまで来られないから、私がここで聞いてグラちゃんに変わって指示を出しているのよ。」
「すみませんな。ナツ殿そういうことです。」
ミアは大きな胸を前に突き出して“どうだ”とふんぞり返っている。
「今日はグランデさんにスチュアート王国について相談に来たんです。」
「話を聞きましょう。」
オレはグランデさんにスチュアート王国の現状と産業について説明した。そして、調味料の工場の設立とその商品の取り扱いもお願いした。
「一度、私もその調味料を使った料理を味わってみたいですな。」
「わかりました。では、食堂に行きましょう。」
オレ達4人はグランデさんの屋敷の食堂に行った。何故か、ミアも食べる気満々で席についている。
「ミア! あなたも食べる気なの?」
「だって、魔王様とナツ姉様の愛の結晶なんでしょ? 私も食べたい~!」
師匠が“愛の結晶”という言葉に顔が赤くなった。なんか師匠がちょろい。
オレと師匠がセザールさん達に出した料理を空間収納から取り出していく。サラダ、スープ、チキン南蛮、ステーキ、プリン、アイスとすべてを食べ終わった後、グランデさんが言った。
「シン殿。これは、世界の料理に革命がおこりますよ。」
「オレもそう思います。この世界の料理は味がどこも同じでしたから。」
「“この世界”ですか?」
うっかりとオレは口を滑らしてしまった。賢いグランデさんは何か悟ったかもしれない。
「はい。すべての国でという意味です。」
「ああ、そういうことですね。」
師匠がオレを見ている。これ以上余計なことは言わないようにしよう。
「シン殿。お引き受けしますよ。近いうちにスチュアート王国の王城にお伺いしたいのですが。」
「なら、ミアさんに連れていってもらってください。」
「ミアさんお願いしますね。」
「了解! 魔王様、任せて!」
オレと師匠はいったん師匠の家に帰った。
「シン。お前、何か焦ってないか?」
「どうしてですか? 師匠。」
「最近のお前を見ていると、楽しんで旅をしているように思えないんだ。」
オレはこの世界に来てからを振り返ってみた。最初は生きていくために強くなろうと必死だった。旅に出て、いろんな人達と出会ってそれなりに楽しかった。でも、最近は世界の平和が頭にあって、そのことだけを目指して進んでいるような気がした。
「そうですね。師匠。ちょっと、2人だけでゆっくりしたいです。」
師匠は何も言わずオレの身体を引き寄せキスをしてきた。そして、オレの頭を膝にのせてくれた。
それから3日間は何もせず、師匠の家のまわりを散歩したり畑仕事をしたりしていた。すると、カゲロウがやってきた。
「シン様。お休みのところ申し訳ありませんが、神聖エリーナ教国で問題が発生しました。」
「どうしたの?」
「教皇のハスクリットが暗殺されました。」
「犯人はエリーヌ教に反対している集団のようです。」
「じゃぁ、今国内は混乱しているのかな?」
「いいえ、大司教のヨハンと聖女アテナが中心となって立て直しをしています。」
「古代遺跡はどうなっている?」
「どうやら反勢力の支配下にあるようです。」
「まさか、ナザルが関係しているとか?」
「可能性はあります。」
「分かった。大変だけどまた何かあったら報告してね。」
「はい。」
カゲロウは戻って行った。
後ろから師匠が近づいてきてオレを後ろから抱きしめてきた。
「どうやら、神は2人がゆっくりすることを許してくれないようだな。」
「この世界が平和になればゆっくりできますよ。そうしたら2人だけの時間もたくさんできますから。」
2人の間にしばらく沈黙の時間があった。
「師匠。神聖エリーナ教国に行きましょう。」
「わかった。すぐ用意しよう。」
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