マリアとの再会
オレと師匠は王都カワタチに向かうことにした。
ケアサの街を出た後、王都の手前まで飛翔していった。途中に街もあったが寄ることもなく王都まで急いだ。王都の手前まで飛んでいくと、眼下で護衛の兵士達に守られた馬車が盗賊達に襲われていた。
「師匠。あの馬車を救助します。」
「分かった。」
下降していくと、上空を飛ぶオレ達に気づいたのか敵味方関係なく人々が騒ぎ始めた。
「あれはなんだ!」
「魔族だ!」
「魔族だぞ!」
「オレは魔王シン=カザリーヌだ! 盗賊ども、覚悟するがいい!」
オレが上空で闘気を解放する漆黒のオーラが身体からあふれ、地上には強い風が吹いた。
「ヒェ―――――――!!!」
盗賊達が逃げ出そうとする。すかさずオレは魔法を放つ。
「サンダーアロー」
すると、真っ黒な矢が電気を放ちながら、盗賊達に襲い掛かる。防ぎようもない雷の矢に盗賊達は次々と頭や体を撃ち抜かれ、その場に倒れていった。
オレと師匠が地上に降りると、護衛の兵士達が剣を構えて警戒している。
「オレ達は敵じゃないよ。剣を下ろしてくれるかな。」
それでも、兵士達は身構えていた。すると馬車の中から一人の少女が降りてきた。
「今の声、聞き覚えがあるんだけど。」
「姫様、危険です。魔王です。すぐに馬車にお戻りください。」
「魔王?!」
その少女はオレをじっと見つめた。次の瞬間、オレに駆け寄って抱き着いてきた。
「シ――――――ン!!! 会いたかった――――――!」
「もしかして、マリアか?」
「そうよ。忘れたの?」
「いいや。美人になったから分からなかったよ。」
「美人だなんて! シンは正直すぎよ!」
マリアは体をくねくねしている。すると、馬車の中から一人の青年が現れた。
「シン。紹介するわ。私の夫のエル=スチュアートよ。この国の皇太子なの。」
「初めまして。オレはシンです。」
「私はナツだ。」
すると、皇太子のエルが話しかけてきた。
「君がマリアがよく話をしてくれるシン君か? 確かに美形だな。羨ましいよ。でも、魔王ってどういうことだい?」
「ああ、マリアに言ってなかったけどオレは魔族なんですよ。いろいろあって今は魔王をやっています。」
師匠が付け加えた。
「それだけじゃないぞ! シンは精霊王でもあるからな。」
オレと師匠、それにマリアを除いて全員が片膝をついて臣下の礼を取っている。
「精霊王様とは知らずにご無礼をしました。」
「エル。どうしたの? みんなも。」
「マリア! この方は精霊王様だ!」
「えええっ―――――――! シンが精霊王?!」
「エルさん、皆さん。普通にしてください。別にオレはそんなに偉い存在じゃないですから、マリアの友人のシンですから。」
その後、全員が普通に戻ってくれた。オレと師匠は馬車に同乗させてもらって、王城に向かった。どうやらエドガーさんも城にいるらしい。
オレ達が城につくと応接室に案内された。そこに国王セザール=スチュアートとエドガーさんもやってきた。オレと師匠は席を立って挨拶をしようとすると、2人が片膝をついて挨拶をしてきた。
「セザール国王にエドガーさん。普通にしてください。オレは修行中の冒険者のシンですから。」
全員が席に着いた。
「エドガー伯爵、いや、侯爵ですね。お久しぶりです。その節は大変お世話になりました。」
「まさかあの時のシン君が精霊王になっているとは思わなかったよ。」
ここで師匠が発言する。
「エドガーとやら。魔王シン=カザリーヌが世話になった。ありがとう。四天王筆頭の私からも礼を言う。」
セザール国王もエドガー侯爵も驚いた。
「魔王ですか?!」
「ああ、そうだ。」
「どうやら本当のようですね。」
「でも、シン君が魔王ならこの世界も安全になったということですね。」
「エドガー侯爵、誤解ですよ。皆さんは魔族に“悪”というイメージを持っておいでのようですが、人族も魔族も精霊もすべて神によって作られた存在です。魔族は決して悪ではありませんから。」
「どうやらそのようですな。わしもエドガーも誤解していたようです。」
「実は今日はお話があって来たんです。」
ここでシンは世界会議の話をした。セザール国王もエドガー侯爵も驚いていた。
「我々が知らないところでそのようなことがあったんですね。シン君が精霊王になった理由が分かる気がしてきたよ。」
「どうですか? このスチュアート王国も世界会議に参加しませんか?」
「是非とも参加させてください。我が国は小国ゆえ、他の国の様にお役に立てることも少ないかもしれんが、世界平和には是非協力させていただきたい。」
「ありがとうございます。セザールさん。ところで、この国には特産とかありますか?」
ここでセザール国王とエドガー侯爵が考え込んだ。
「これといってないですな。」
「ならば、特産品を作りましょう。オレも協力しますよ。グランデ商会のグランデさんも友人ですから。」
「なんと、あの世界規模のグランデ商会の会長も知り合いでしたか。」
「はい。いろいろありまして、リリシア帝国のノジリという街に縫製工場を作ってもらって、オレの仲間が協力しているんですよ。」
「あのファッションの街ノジリですか?」
「有名になったんですね。何もなかったノジリの街も。」
「シン君がかかわっていたとは思わなかったよ。」
「シン君、この国もなんとか豊かにしていきたいんだ。心苦しいが是非協力して欲しい。」
「師匠。いいですよね?」
「ああ、これも世界平和の一環だ!」
その日、オレ達は王城で一緒にご飯を頂くことになった。オレはこの世界に来てからいつも思っていた。この世界の食事は地球に比べて貧相だ。どこの国に行っても同じ味付けだ。確かに美味しい料理もあるが、やはり調味料が少ないのが原因だろう。
「エドガーさん。お米ってないですか?」
「お米とはどんなものですか?」
オレは具体的に説明した。すると、米とは違うがそれに近いものはあるらしい。特にこの国に多く生えているベイ草と呼ばれる植物で、手入れも必要なく、雑草のように1年中手に入るようだ。現在はそれを家畜の餌にしている。
「エドガーさん。明日そのベイ草を見せてもらっていいですか?」
「わかりました。」
食後、オレと師匠は王城に部屋を用意されたが、落ち着かないので師匠の家に戻って休むことにした。
「シン。そのベイ草で何かするのか?」
「はい。私が知っているものと同じなら、何種類か調味料が作れるかもしれません。」
「調味料か? 確かにどこの料理も同じ味だからな。」
「師匠は長いこと薬を作っていましたよね?」
「ああ、瓶詰にして発酵させたり、煮たり、煎ったりしてな。」
「もしかしたら師匠の薬づくりが役に立つかもしれません。」
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