久しぶりのスチュアート王国
シナアカ王国の騒動を収めたシンとナツが今後の世界の平和について考え始めた。
「シン。これまでに平和になった国で友好関係を結べないか?」
「師匠。どういうことですか?」
「リリシア帝国、アルベルト王国、エレメント連邦国、シナトヨ王国、シナアカ王国、エルフの国の6つの国で、友好関係ができればこの世界も平和に近づくのではないか?」
「オレのいた地球では、国際連合という組織がありました。あまり勉強していなかったので、どんな組織だったかよく知りませんが、みんなが平和に暮らす組織だったのは確かです。」
「それをこの世界でも作ったらどうだ? それができるのはお前だけだぞ!」
「そうですね。みんなのところに行って提案してみましょう。」
オレと師匠はリリシア帝国のカエサルさんを訪ねた。
「カエサルさん。先日はありがとうございました。」
「シン殿。あの転移装置は便利ですね。私もアナンもアーサーもちょくちょくシナトヨ国に行かせてもらっていますよ。」
「良かったです。今日は相談があって来たんですが、実は世界会議みたいなものを作りたいんです。」
「世界会議ですか? なんか、想像を絶するような話ですね。」
「この世界の平和を維持するために、各国の代表を集めて話し合いをするような場を作りたいんです。」
「確かに転移装置があれば可能ですね。」
「そうなんです。転移装置を有効利用すれば、人々の生活も便利になりますよね。だから、世界に一定基準を設けて人々にも広げていいと思うんですよ。」
「なるほど、そういった大事なことを話し合う会議ということですね。」
「それだけでなくて、文化交流や交易や交換留学など、様々な事も話し合います。それと、最も重要なのは、各国の間の問題を話し合いで平和的に解決したり、自然災害などで困っているときにお互いに助け合ったりできますよね。」
「なるほど、そんな会議が出来れば世界が平和になりますね。参加する国はどこにするんですか?」
オレは今まで尋ねた国の名前を列挙した。
「シン殿。神聖エリーヌ教国やスチュアート王国はどうするんですか?」
「今はまだ声がかけられないよね。どんな問題を抱えているかわからないからね。」
「わかりました。では、我が国は是非参加させていただきます。」
「ありがとう。カエサルさん。」
その後、アルベルト王国のリチャードさん、エレメント連邦国のビャッコさん、シナトヨ王国のケントとバットさん、カナさん、シナアカ王国のシュナイダーさん、エルフ族のゲーテさん、キャサリンさんに声をかけた。どの国も全員が賛成してくれた。特に、ゲーテさんとキャサリンさんはオレが魔王や精霊王になったことを知って気を失ってしまった。
ここで師匠が話しかけてきた。
「シン。神聖エリーヌ教国とスチュアート王国は仲間外れにされたと考えるかもしれんぞ!」
確かに世界平和のための会議が逆効果になる可能性がある。特にスチュアート王国にはエドガー伯爵やマリアがいる。オレがこの世界に来て初めて出会った人族の友人だ。とりあえず、エドガー伯爵を訪ねてみることにした。
「師匠。スチュアート王国に行きます。」
「そうか。ならば私も一緒に行こう。」
オレと師匠はスチュアート王国のケアサの街に転移した。久しぶりに見た街並みは以前と何も変わっていなかった。オレは街を歩きながらキョロキョロしていると、ドワンさんの武器屋が目に飛び込んできた。
「師匠。この店覚えていますか?」
「覚えているさ。ドワンの店だろ?」
「寄って行ってもいいですか?」
「私も久しぶりに会ってみたいしな。」
オレ達はドワンさんの店を訪ねた。
「すみませ――――ん! ドワンさんいますか~?」
中から髭を生やした小柄なドワーフが出てきた。ドワンさんは師匠を見て目を丸くして驚いている。
「あんたはいつぞやの!・・・・・・ まさか?! ありえん! あれから100年も経っているんだ! でも、そっくりだ!」
ドワンさんは驚きのあまり隣にいるオレが目に入らないようだ。一人でボソボソ言っている。
「ドワンさん。お久しぶりです。」
オレが声をかけるとやっとオレに気づいたようだ。
「ああ、あの時の坊主か? でかくなったなぁ~! あの刀はどうだ?」
「はい。すごく役に立っていますよ。」
オレは刀をドワンさんに見せた。
「大分使っているようだな。」
「ドワン。久しぶりだな。」
「やっぱり、あんただったか?」
「ああそうだ。私が歳も取らずにいるから不思議なんだろう?」
「どういうことだ? まさか!」
「その通りだ。私もここにいるシンも魔族だ!」
「やはりそうか! あんたの強さも異常だったが、ここにいる少年から感じる力も異常だから、何かあるとは思っていたよ。」
「ドワンさん。オレ、ミマキの街でギルマスのドルゴンさんや領主のガテルさんに会ったよ。」
「そうか、そうか。 ガテル様もドルゴンも元気だったか?」
「はい。2人に頼まれて魔物の討伐もしたんですよ。」
「ありがとうな。だが、シンは何か変わったか? 魔力が以前よりも大分濃く感じるぞ! それに神聖な匂いがするな。」
すると、オレ達の目の前に光の玉が現れ人の形に変化していく。
「俺は土地の大精霊ノームだ!」
「え?! ノーム様?!」
ドワンさんは手に持っていた鍛冶の道具を落とし、地面に平伏した。
「ドワンとやら。鍛冶の仕事に励んでおるようだな。感心だ。」
「もったいないお言葉です。」
「それに精霊王様が世話になったようだ。礼を言うぞ!」
「精霊王様?!」
ドワンは顔を上げて周りを見渡している。
「ドワン。何をしている。精霊王様ならお前の目の前にいらっしゃるではないか?」
「ドワンさん。オレのことですよ。」
「えええっ―――――――!!!」
「なんか大精霊のみんなに気に入られてそういうとこになりました。」
ここで師匠がドワンに告げた。
「ドワン。シンは魔王にもなったからな!」
「魔王?!」
さすがにドワンさんの許容範囲を超えたようだ。目を開けたまま意識が飛んでしまった。
「ノームさん、ありがとう。」
「いいえ、ドワーフ達は私の子孫ですからたまに気にしているんです。では、また。」
ノームさんが帰って行った。しばらくして、ドワンさんが気づいてオレに平伏した。
「やめてくださいよ。ドワンさん。」
「ですが、精霊王様の前ですから。」
「オレはただのシンです。今までも、これからもです。」
ドワンさんが普通に戻ってくれた。
「ドワンさんに聞きたいんですけど、エドガー伯爵とマリアは元気ですか?」
「皆さん、王都カワタチに行みました。 エドガー伯爵は侯爵になられて、確かこの国の宰相をしているはずです。」
「そうなんですか。」
ドワンが敬語になっている。この際、無視しよう。それよりも、人のいいエドガー伯爵が出世したことがオレには嬉しかった。それとこの国の王に人を見る目があることに少し期待が膨らんだ。
「ドワンさん。また来ますね。」
「2人ともお元気で。」
読んでいただいてありがとうございます。