シナアカ王国の闇
シナトヨ王国の王都ボルンを出発したオレと師匠は、シナアカ王国を目指して出発した。シナトヨ王国では国王が変わったばかりで、国内が不安定になる可能性があった。そこで、師匠とオレは徒歩で国内の様子を見ながら進むことにした。
ボルンを北上して進んでいると、大きな川が流れる肥沃な穀倉地帯に差し掛かった。どうやら近くに街があるようだ。畑のいたるところに農作業している人達もいた。
「師匠。のどかですね。」
「ああ、世界中がこんな風に平和だったら良かったのにな。」
「それも、近いうちに可能になるんじゃないですか。」
「お前の場合は“可能になる”じゃなくて“可能にする”の間違いだろうけどな。」
いよいよ街が見えてきた。農作物を積んだ荷車も数台いた。荷台を覗くとすべて野菜だった。中には見たことのない野菜もある。
街の入り口に兵士はおらず、“ようこそアグリの街へ”と書いてあった。街の中に入ると結構人が多い。屋台も出ている。屋台のいい匂いに誘われて、オレはつい肉串を2本買ってしまった。他の街の肉串と違って、肉と肉の間に野菜が刺さっている。一口食べて思わず声を上げた。
「旨い! 旨いです! 師匠。」
師匠も一口食べた。
「旨い! 確かに旨いな!」
「おじさん。あと10本頂戴。」
オレはまとめて買って空間収納に仕舞った。丁度そのタイミングでカゲロウが帰ってきて、俺の肩にとまった。
「シン様。何やらシン様とナツ様からいい匂いがするんですけど。」
「たぶん肉串だね。」
「私の分はないんですか?」
「だって、カゲロウは鳥だろ?」
「私も食べたいです。シン様。」
「しょうがないな。」
オレはカゲロウに肉串を食べさせた。
「これすごく美味しいです。もう1本下さい。」
「ダメだよ。師匠もオレも1本しか食べてないんだから。それより、報告があるんだろう。」
「ああ、そうでした。シナトヨ王国とシナアカ王国の国境で紛争が発生しました。どうやら、シナトヨ王国の国王が交代した件が伝わったようです。」
「師匠。この街は何もなさそうだから、国境の街へ行きましょう。」
「分かった。」
オレと師匠は建物の陰に隠れて翼を広げ、カゲロウと一緒に国境の街カミムラに向かった。
上空から見ると、すでに戦闘は収まっているようだった。オレ達は地上に降りて徒歩で国境の街カミムラに入る。街に入ると、武具を纏った兵士達が疲れた様子で道に座り込んでいた。
「状況を確認しに冒険者ギルドに行こうか。」
「はい。」
ギルドに行くと、ギルド内には冒険者が一人もいなかった。恐らく戦争に巻き込まれるのが嫌でこの街を出たのであろう。受付の女性が、不思議そうにこちらを見ていたので声をかけた。
「あの~、お聞きしたいんですが。」
「なにかしら?」
「どうして冒険者がいないんですか?」
「戦争が嫌で街から出て行ったからよ。」
女性は少し不機嫌そうだ。
「どうして戦争になっているんですか?」
「向こうが勝手に攻めてきたんだから、向こうに聞いて頂戴。」
どうやらシナアカ王国から仕掛けてきたようだ。
オレと師匠は一旦ギルドの外に出た。
「カゲロウ。シナアカ王国の目的を調べてくれるか?」
「はい。」
「シン。こういうのはセフィーロの方が得意だぞ! あいつは眷属が多いからな。」
師匠の言葉でカゲロウはセフィーロに対抗心が出たようだ。オレも久しぶりに魔王城に行きたくなったので、魔王城まで転移した。
「お帰りなさいませ。魔王様。」
思った通りセフィーロが謁見の間で待っていた。
「シナアカ王国のことを調べればよろしいのですか?」
「そこまでわかっているんだ。すごいよね。セフィーロさん。」
「お褒めいただいて光栄です。では早速に。」
セフィーロさんはその場から立ち去った。すると、ミアがやってきた。ド派手な服装で、ほとんど裸のような恰好だ。
「ミアさん。どうしたの? その恰好。」
「魔王様。ナツ姉様。似合うでしょ? アラクネ達に作ってもらったんだ。他にもいろいろあって、私が着るものが何故か流行るのよね。」
“そういえば、セフィーロさんが言っていたな。確かミアはグランデさんが縫製工場を作ったハクスの街に入り浸っているとか。”
「ミアさん。すごく似合うけど、肌出しすぎじゃないですか?」
「いいのよ。いい男を見つけるんだから。少しぐらいサービスしないとね。」
“サービスって、なんか違うような気がするんだけど。”
「こうでもしないとナツ姉様には勝てないからいいのよ。」
師匠は顔を赤くしてオレにしがみついてきた。そして、師匠が言った。
「ミア。あなたも早く運命の相手を見つけなさい。」
その後、オレと師匠は久しぶりに師匠の家に帰ってのんびりした。ベッドに寝転んだがなかなか寝られず、いろんなことを考えた。ここでふと気になることをうっかり小声でつぶやいてしまった。
「この世界が平和になったらオレはどうなるんだろう。もう必要なくなるよな。この世界からまた違う世界に飛ばされるのかな。」
隣ですでに寝ていると思ったが、師匠も起きていたようだ。突然師匠がオレを力強く抱きしめてきた。
「お前のいない世界など私には考えられん。」
「今度、管理神様に会うことが出来たら聞いてみようかな。オレはいったい何者なのか? この世界が平和になってもこの世界にいられるのか?」
その頃、神界では管理神と武神タケル、魔法神マジクがオレの様子を見ていた。
「管理神様。シン様は大分成長されているようですな。」
「まだまだよ。あの方のようになるにはね。」
「いつすべてを話すんですか?」
「時が満ちれば自然とそうなるわ。」
「あの2人は一緒にいさせてあげたいですね。」
「あの2人は、記憶をなくしても、どの世界に行っても、必ず出会うのよ。私とあの方の様にね。」
翌朝、オレと師匠は国境の街カミムラに戻った。疲れ切った兵士達が武器を持って国境の方向に向かっている。そこに、カゲロウが戻ってきた。
「疲れました。」
「ありがとう。それでそうだった?」
「はい。シナアカ王国の国王はひどい奴です。この国を滅ぼして自分の領土にしようとしています。」
「やっぱりそうか。」
そこに、セフィーロさんが現れた。
「魔王様。ご報告です。」
「ありがとう。セフィーロさん。」
「シナアカ王国に古代遺跡があります。既に発掘が終了していて、古代兵器も発見されています。古代兵器の調査も終わっているようで、本格的に古代兵器の増産体制に入りそうです。」
「でも、技術的に難しいよね?」
「ナザルの仕業です。前魔王のブラゴも直接的に関係しています。」
「なるほどね。どうしても戦争を起こしたいんだ。でもなぜだろうな?」
「死者の怨念を集めているのではないでしょうか? 戦争や犯罪で人が死ぬと魂は怨念となって残ります。ブラゴとナザルは悪魔族ですから。」
「でも、そんなに集めてどうするの?」
ここで、カゲロウが教えてくれた。
「聞いたことがあります。元々この世界の管理神は、今の管理神様ではなく、暴力的で争いを好んだようです。それを、今の管理神様が創造神様の力を借りて封印したらしいです。」
「ならば、ナザルとブラゴはその封印を解くために動いているのか?」
「シン。この戦争は何があってもとめるぞ!」
「はい。師匠。」
「ハヤトも体がなまっているようですし、ミアに至っては服に気を取られているようですから、我ら四天王も参戦したいのですがよろしいでしょうか?」
「そうだね。久しぶりにみんなで暴れようか。」
「はい。ではすぐに呼んでまいります。」
セフィーロさんが姿を消した。
「シン。元管理神が復活したら、私達全員でかかっても勝てないかもしれんぞ! そうなる前に、ナザルとブラゴを始末しないとな。」
「はい。さすがにオレも元管理神に勝てる気がしませんから。」
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