シナトヨ王国の後始末
王都ボルンの街では国王が死亡したことがすでに発表され混乱している。街の中には武装して兵士達が溢れていた。もしかすると、国王派と宰相派の内戦もあり得るかもしれない。
「シン。急がないとまずいな。」
「はい。このままでは一般市民も巻き込まれる可能性があります。」
オレと師匠は王城へと急いだ。王城の近くにはバリケードが張られ、王城に近づくことすらできない。オレと師匠は『隠密』を発動して、城内に忍び込んだ。すると、城内でも軍服を着た人達が走り回っている。そして、オレと師匠は強い魔力を感じる謁見の間まで来た。
「待っていたぞ!」
王座に座っていたのは見知らぬ男だった。その周りを囲むように10人ほどの男達が待機している。どうやら全員が人間ではなさそうだ。
「待っていたとはどういうことだ?」
「お前達が来るだろうことはナザル様から聞いていたからな。」
「ナザルはどこにいる?」
「お前達が知ってもしょうがあるまい。どうせここで死ぬんだからな。」
「それはどうかな。」
男達がオレと師匠に切りかかってきた。早い。今までの敵と比べ物にならない速さだ。横を見ると師匠は、相手の攻撃をぎりぎり躱している。ここで、師匠の魔力と闘気がどんどん上昇した。背中からは漆黒の翼が出て、全身からは真っ黒なオーラが溢れ出ている。
「タイムスロー」
師匠が魔法を唱えると、相手の動きがスローモーションになった。師匠は男達の首を刎ねていく。全員の首を刎ね終わった瞬間、時間の流れが普通に戻った。だが、首のなくなった男達は死ぬこと無く、未だに師匠に向かって攻撃を仕掛けていく。
『ホムンクルスには核がある。核を狙え!』
天の声が聞こえた。
「師匠。彼らには核があります。核を狙ってください。」
男達が攻撃してくるのを避けながら師匠は1体の胸を手刀で貫いた。すると、ホムンクルスはただの人形となってその場に崩れた。オレも師匠に加勢しようとしたが、後ろから風の刃が飛んできた。避けたつもりだったが、頬から血が流れる。だが、オレにつけられた傷はみるみるうちに治癒した。
オレが向き直るとそこには宰相のドリアがいた。
「お前は許さん。」
「何を寝言言っている。ナザル様に作られたこの私が負けるはずが無かろう。」
オレは魔力と闘気を高めていく。全身から眩しい光が放たれ、背中には純白の翼が生えた。
「それがお前の真の姿か。なるほどな。なかなか強そうだな。」
ドリアの身体が漆黒の渦に飲まれていき、そして3mほどの筋肉の塊のようなトロールに似た魔物に変化した。
「まさか、トロール族の村人を襲ったのはこのためか?」
「俺はナザル様によって蘇ったんだ。トロールなどと一緒にされては困るな。」
ドリアが手を左右に振ると、“かまいたち”がオレを襲う。オレは全身の闘気でそれを跳ね返した。ドリアは大きくジャンプしてオレの頭上から剣を振り下ろしてくる。オレはそれを刀で受けとめた。
「どうだ! このパワー! この速さ! お前に勝ち目はないぞ!」
「それがお前の本気か? オレはまだ全然本気じゃないぞ!」
「嘘をつくな! ぎりぎり避けているくせに何を言う!」
「なら少しだけ見せてあげるよ。」
オレの姿は消えた。というよりドリアからすれば消えたように見えたはずだ。次の瞬間、ドリアの体中から血が噴き出した。
「貴様! 何をした?」
「別に何も。ただ、お前のところに行って刀で切りつけただけだ。」
「ふざけるな!」
「オレは弱い者いじめはしたくないから、これで最後な!」
「サンシャイン」
オレが魔法を唱えて手を上に挙げると、頭上に巨大な太陽が現れた。オレはそれをドリアに投げつけると、ドリアの身体が少しずつ消滅していく。
「ナザル様――――――!」
ドリアは完全に消滅した。師匠の方を見ると既に全員を倒して、座ってオレの戦いを見ていた。
「シン。さすがに疲れたな。」
「そうですか?」
「お前は強いから特別なんだよ。今日は帰ったらマッサージしてもらうからな。」
「はい。」
その日は師匠が疲れた様子だったので、師匠の家に帰ってゆっくり休んだ。そして翌日、オレと師匠はリリシア帝国のカエサルさんの城に行った。
「シン殿。ナツ殿。まさか、もう終わったんですか?」
「はい。終わりました。」
「さすがですね。では、4人をここへ呼びますから少しお待ちください。」
しばらくすると、アーサーに手を引かれてケント王子とアリス王女がやってきた。その後ろにはバットとカナが控えている。
「バットさん、カナさん。全て片付いたよ。ケントとアリスを連れて王城に戻りましょう。」
すると、ケントとアリスが駄々をこね始めた。
「僕はアーサー君ともっと遊びたいんだ。」
「私はアーサーのお嫁さんになるの。」
「ケント、アリス。またくればいいから、それよりお前達は、国民を守らないといけないんだぞ。お前達の父親のようにな。」
2人は家族のことを思い出したのか下を向いてしまった。
「師匠。確かあの国には転移装置がありましたよね。」
「ああ、そうだな。」
「使ってもいいですかね?」
「軍事利用でなければいいだろう。」
ここでカエサルさんが聞いてきた。
「シン殿。転移装置とは何ですか?」
オレはカエサルさんにシナトヨ国の転移装置の話をした。
「それは便利ですね。それが世に広がれば物流革命が起きますよ。」
「そうなんだけど、軍事利用されたらまずいよね。」
「なら、シン殿が信用できる国にだけ設置すればいいんじゃないですか?」
「そうだよね。・・・そうしようか。・・・・・そうするよ。」
オレは迷ったが、いざとなればオレがすべて破壊すればいいことだし、そう思ってリリシア帝国とシナトヨ王国を結ぶ転移装置を設置することにした。
それから、4人を連れてシナトヨ王国の王城に転移で戻った。城の中はすでに片付けられていて、ケント王子とマリア王女が戻ったことを知ると、続々と貴族達が城にやってきた。バットさんとカナさんにお願いして、全員を会議室に集めてもらった。
「何事だ! バット! いきなり我らをこのような場所に集めて。無礼であろう。」
「ご存知の通り、宰相ドリアの謀反によってここに居られるケント王子とアリス王女以外の王族は惨殺されました。そこで、ケント王子に即位していただきたいと思いますが、いかがですか?」
「ケント王子はまだ子どもではないか? 政治はどうするのだ!」
「この際だ! 王家には退いていただいて、この公爵のガリュウが王となるのがふさわしいであろう。」
すると、身分の高そうな貴族がそれに反論する。
「公爵殿、何をおっしゃる。我らは王家の血筋だ。私こそふさわしいと思うのだが。」
『隠密』をかけて聞いていたがあきれるばかりだ。オレはもう我慢の限界だったので、師匠とともに姿を現した。突然現れたオレと師匠に会場内は騒然とする。
「お前達は何者だ? どこから入ってきた?」
「最初からいたよ。お前達さぁ、自分達のことばかり言っているけど、国民のことが心配じゃないのか? ケント王子が一人前になるまで支えようというものは、一人もいないのか?」
「貴様! 無礼であろう!」
「お前、オレに無礼とか言ったか? オレが誰なのか知っていて言ったのか?」
「シン。もうよしな。こいつらはダメだ。全員殺そう。」
オレと師匠の言葉を聞いてバットとカナは顔面蒼白状態だ。
全員が立ち上がって剣を抜こうとした。すると、そこに輝く7色の球体が現れ、それぞれが人化していく。
「我らは7大精霊である。控えよ!」
全員が大精霊達に向かって平伏した。
「貴様ら、こともあろうに精霊王様に何たる無礼。我らがこの国を亡ぼそうか!」
「精霊王?!」
「オレのことだよ。オレは魔王シン=カザリーヌだ。そして精霊王だ。」
オレの言葉を聞いて、全員が震え始めた。
「お許しください。精霊王様。何卒お許しを。」
「なら、オレの言った通りにして欲しんだ。」
「精霊王様のおっしゃるとおりに致します。」
「なら、オレがケント王子を王に任命し、その後見役になるよ。それなら文句はないだろ。ただし、普段オレはいないからオレの代理としてバットとカナを任命する。異存はないな。」
「ハハッ――――。」
オレは7大精霊の皆さんにお礼を言って帰ってもらった。
会議も解散となり、現在会議室にはケントとアリス、バットとカナ、オレと師匠の6人だけだ。師匠がケントとアリスの相手をしている。
「シン様。本当に私とカナが後見役の代理でよろしいのでしょうか?」
「一番ふさわしい人をオレは任命したつもりなんだけど。」
「私もカナもシン様の意見に従います。困ったときは・・・・」
「カエサルさんに相談したらいいですよ。」
「私がですか?」
「オレからも頼んでおくから。」
「わかりました。」
オレと師匠は王城内の武器庫にあった転移装置を確認した。すると、何とか魔法でコピーを作れそうだった。オレはそれをすべて空間収納にしまって、リリシア帝国の城に設置しに行った。その際、ケントやアリス、バットやカナのこともお願いしてきた。
さて、次はシナアカ王国だ。
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