シンの正体?
シンと師匠はシナトヨ王国の王都ボルンに向かうことになった。ボルンは今いる場所から西に位置している。
ナンツの街を出てからしばらく行くと、他の国と違い街道沿いのところどころに店があった。確かに、旅の途中で食料品が手に入るのは便利だったが、どうやって荷物を運んでいるのだろうかと不思議にも思う。荷物を運んでいる荷馬車に遭遇しないからだ。
「師匠。どうやって食料品を運んでいるのかな?」
「予想だが、夜に運び入れているか、転移で運んでいるかだろうな。」
「夜は魔物や盗賊がいて危険じゃないですか?」
「ダンジョンにも転移装置があったぐらいだから、転移でも不思議ではないな。」
「だとしたら、他の国からしてみたら脅威ですね。」
「そうだな。軍事利用されたら脅威だな。」
「まさか、ナザルが関係しているとか?」
「ダンジョンにブラゴがいたぐらいだから十分ありえるぞ。」
オレと師匠は街道沿いの店によって、どうやって食料品を運んでいるのか聞いてみた。だが、機密漏洩は死刑になるようで、誰も教えてくれなかった。
「転移で確定ですね。」
「そうだな。厳重な管理体制をひいているところを見ると、間違いなさそうだ。」
しばらく進むと看板があった。看板には“この先、湖の街モトス”と書いてあった。
街が近くなったようで、様々な方面からの道が大きな道につながっている。道を歩く人も馬車も徐々に増えてきた。そして、目の前の城門付近には大勢の人が並んでいた。
「師匠。これはしばらく待ちますね。」
「別に急ぐ旅でもないし構わんだろう。」
城門と言っても街の入口に木の柵がある程度で、それほど厳重ではない。その分、兵士の数も少なく時間がかかっているようだ。2時間ほど待って、ようやく中に入ることができた。中に入ると、そこからは下り坂になっている。そのため、大きな湖が一望できた。
「広いですね?」
「ああ、確かに池とは違うな。」
同じタイミングで街に入った家族連れがいた。子ども達が、はしゃいで坂を走っている。オレが危ないと思った瞬間、予想通りこけて泣き出した。母親らしき女性が手を当てると怪我をした個所が光り出し、傷が治っていく。
「師匠。見ましたか?」
「ああ、あれは『リカバリー』だな。」
「人族で使用できる人がいるんですね。」
「たまに、聖魔法を使える人族がいるからな。大体そういうのは教会関係者だ。」
「すると、あの家族連れも教会関係者ですかね。」
「その可能性はあるな。」
オレ達は家族連れを横目に見ながら坂を下って行った。
「師匠。あの家族、本当に家族ですかね?」
「どうしてだ?」
「なんか、うまく言えませんが、不自然に見えたんですけど。」
オレと師匠は坂を下って街の中に入って行った。湖の街だけあって観光街のようだ。湖畔には宿がたくさん並んでいる。宿の前では、観光客に声をかけている人達もいた。恐らく呼び込みだろう。
先ほどの家族連れを見かけたが、全員が頭からフードを被っている。以前の自分を思い出した。
“目立ちたくないのかな? それとも誰かから隠れているのかな?”
家族連れは静かに、脇道を入って行った。オレは師匠と『隠密』を発動して、後を付けて行くことにした。どうやら宿屋を探しているようだ。まわりをキョロキョロしながら様子を気にしている。すると、前方から覆面をした男達が現れた。
「やっと見つけたぞ! 王子と王女を置いていけ!」
女性と男性は隠してあった小刀を手にした。どうやら戦うようだ。
「師匠どうします?」
「どうせ助けるつもりなんだろ!」
オレと師匠は姿を現して男達の前に出た。
「貴様ら何者だ!」
「正義の味方かな。ねっ、師匠!」
「ふざけるな! こいつらから始末しろ!」
小さな子ども達の前で残酷な場面は見せられない。やはりここはあれしかないだろう。
「グラビティー」
オレが手を前に出して魔法を唱えると、全員が地面に張り付いた。
「おのれ~!」
「まだ、やる気なの? 死にたいの?」
オレが睨みつけると瞳の色が黄金色に変化して、男達の意識を刈り取る。
オレと師匠が家族連れのところまで行くと、丁寧に挨拶してきた。
「助けていただいてありがとうございます。私達は急ぎますので、ここで失礼します。」
「ちょっと待って! 何か訳アリのようだよね。王子様と王女様なんでしょ?」
2人はオレの言葉に反応して武器に手をかけた。
「オレは修行中の冒険者でシン。」「
「私はナツだ。何もしないから心配しなくていいぞ。」
2人は顔を見合わせて何やら相談している。そして、オレ達に向き直って話始めた。
「実はこのお方はシナトヨ王国の第1王子ケント様とシナトヨ王国の第1王女アリス様です。我々はその従者で、バットとカナです。」
「どうして王子様達が逃げているの?」
「はい。実は先日、国王陛下ヘーゲル様が宰相のドリアに殺されました。一族が皆殺しになったのですが、ケント様とアリス様は偶然我々と外に出かけていて、難を逃れたのです。」
「なるほどね。それでどこに行くつもりだったの?」
「魔族の国まで行けば追ってもこないだろうと思って向かっていました。」
「でも、魔族って怖いんでしょ?」
「死ぬよりましです。」
「シン。私達がその宰相とかを成敗するぞ!」
「はい。師匠。」
「成敗するとか、可能なんですか?」
「このままずっと隠れて暮らすつもりなの? それでこの子達は幸せになれるのかな?」
「あなた達は何者ですか? 王子とか王女とか聞いても平然としていますが。」
「そのうち分かるさ。」
オレと師匠は4人と同行することとなった。まだ国王ヘーゲルが殺されたことも世の中に広まっていなかったため、国民の中に動揺している様子は見られなかった。
オレが師匠と今後の予定を話し合っていると、カゲロウが戻ってきた。4人に知られたくないので4人から離れて話をした。
「カゲロウ。何かわかったのか?」
「はい。この国の宰相ドリアはナザルによって作り出されたホムンクルスです。」
「ホムンクルス?」
「ホムンクルスは人造人間だ。そんなことも知らんのか? シン。」
「どうやら、この国とシナアカ王国に戦争をさせたがっているようです。」
「なぜそんなことを。」
「理由まではわかりません。」
ここで師匠が考えている。
「シン。4人を連れて一気に王都まで行った方がよさそうだな。」
「そうですね。このままだと目立ち過ぎますからね。」
ここで、オレ達は一旦近くの山に行った。そこで、一泊野宿することにし、師匠に4人を見守ってもらっている間に、オレは翼を広げて王都ボルンまで飛んでいき、転移で戻ってきた。
翌朝、4人が目覚めたところで、オレはバットとカナに転移の話をした。最初は信じてもらえなかったが、実演してみせると目を丸くして驚いていた。
「さぁ、準備はいいかな? 行くよ。」
オレは全員を連れて王都ボルンまで転移した。いきなり山の中から街に転移したのでバットやカナはもちろんだが、王子のケントと王女のアリスも目をパチクリして驚いている。
「お兄ちゃん凄いね。」
普通の人間にはできない転移を見せたせいか、いきなり王子と王女がオレに懐いてきた。現在オレの両手は二人につながれている。その横で師匠は少し不貞腐れていた。そんな様子を見てカナが声をかけてきた。
「ナツ様。申し訳ありませんね。」
「いいのよ。たまにはね。」
オレ達は、人目につかない宿屋を探したが、どこも兵士達で一杯だ。
「シン。また、カエサルに頼んだらどうだ。」
「カエサルさんにばかり迷惑かけられないよ。」
「だが、あそこにはアーサーもいるからいい遊び相手になるだろう。」
オレと師匠が話をしていると、バットとカナが声をかけてきた。
「先ほどから出ているカエサルとかいう御仁は信用できるのですか? 聞き覚えのある名前なんですが。」
「大丈夫だよ。リリシア帝国の皇帝だから。」
「ええ――――――――!」
オレは全員を連れてリリシア帝国の城に転移した。
「これは珍しい。シン様ではありませんか?」
いきなり全員で城の会議室に転移したら、丁度会議中だった。全員が片膝をついてオレとナツに挨拶をしている。
「カエサルさんごめんね。急に押しかけて。」
「一体どうしたんですか?」
オレはシナトヨ王国の件をカエサルに説明した。するとカエサルは喜んで引き受けてくれた。
「すぐにアナンとアーサーを呼びましょう。」
そんなこんなでその日の会議は中止となってしまった。なんか申し訳ない。
「シン殿もナツ殿もお忙しいようですね。やはり魔王は大変ですか?」
そこで、師匠が余計なことを話した。
「カエサル殿。シンは魔王でありながら精霊王にもなったぞ!」
「ええ―――――! 精霊達の王ですか? それはお忙しいはずですね。」
オレ達が話をしている隣でバットとカナが意識を失っていた。
「この2人どうしたんですかね?」
「シン殿は何も教えていなかったんですか?」
「ああ、だって別にいうことじゃないからね。」
アナンさんとアーサーがやってきた。丁度その時、バットとカナも意識を取り戻したようだ。
アーサーがオレに甘えてきた。
「シン兄ちゃんも大きくなったね。僕も大きくなったんだよ。」
「そうだな。アーサー、しっかり食べて大きくなれよ。」
「うん。いつかシン兄ちゃんと勝負してもらうんだ。」
「どうして?」
「だって、僕はナツ姉ちゃんと結婚するんだもん。」
「アーサーそれは無理だ。ナツ師匠は誰にも渡さないからな。」
師匠がアーサーを抱き上げて頬ずりしている。
「お話し中申し訳ない。シン殿は魔王なのか?」
「そうだよ。」
「精霊王でもあるのか?」
「両方だよ。」
バットとカナがオレに平伏した。
「知らぬこととはいえ、数々のご無礼、申し訳ありませんでした。何卒、天罰はこのバットにだけお与えください。」
「バットさん、何言ってるの? オレは神様じゃないんだよ。そんなことできるわけがないじゃん。」
「シン。お前何も知らずに精霊王を引き受けたのか? 精霊王は本来神界にいるんだぞ! 神に最も近い存在だ。というより、すでに神だな。」
「まさか~?」
オレ達の前に光り輝く球が現れ、人の形を成していく。
「光の大精霊のウイスプさん。どうしたの?」
「シン様が何も知らないようなので、ご教授させていただきにまいりました。」
「そうなの?」
「はい。この世界は創造神様によって作られました。それを管理されているのが管理神様です。この方々に階級をもうけることはできません。その下にシン様がご存知の武神様や魔法神様などがいます。そして、その下にいるのが精霊王様なのです。」
「えっ?! なら、オレは神様ってこと?」
「厳密に言うと現人神ですね。」
「ええ――――――――――――!!!」
その場の大人達は全員が驚いたが、一番驚いたのはこのオレだ。なるほど納得だ。ダンジョンのドラゴンが、オレに神聖なものを感じるといった意味がやっと分かった。
「ただ、シン様は魔王であって、精霊王であって、恐らく○○○なのだと思います。」
最後の部分が聞こえなかった。するといつものように頭の中に声がした。
『シン! お前は自分が何者なのか知る必要はない! それより修行に励め!』
その言葉で、オレは自分が何者なのかは気にはなるが考えないようにすることにした。
それから、王子と王女達4人をカエサルさんに預けて、オレと師匠はボルンの街まで転移で戻った。
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