トロールの村
魔族の国は他の地よりもはるかに魔素が濃い。そのため魔物の数も多いが、魔物がそれぞれ強大化しやすい。魔族がみんな強くなるのはそのためだろう。普段から濃い魔素を取り入れているだけでなく、強くなった魔物と戦ったり、それを食べたりしているからだ。
オレ達は魔国とシナトヨ王国の国境の深い森の中に舞い降りた。その森から強い魔力を感じたからだ。
「シン。この辺りはトロール族の縄張りだぞ!」
「トロールって魔族なの?」
「ああ、そうだ。巨人族だ。セフィーロ達が倒した四天王の一人オーベルもトロール族だ。」
オレ達は森の中にある道を北に進んだ。すると、森が開けて巨大な建物の集落があった。そこには、体の色が緑色をしたトロール達がいた。大人達の身長は3mあるだろう。子どもですら2m近い。オレ達が村の入口付近にいると全員の視線がこちらに向いた。トロール族の子ども達よりも小さい人族のような身なりをした男女が来たのだから、不思議なのだろう。
トロール達がこちらを注視しているが、敵意は感じられない。だが、他種族が珍しいのか、子ども達が近寄ってきた。
「お前達小さいなぁ~。どこから来た?」
オレは魔王城のある方向を指さして答えた。
「向こうからだ!」
「嘘をつくな! 向こうは怖いところなんだぞ! お前達がいられるわけがないだろう!」
相手はまだ子どもだ。オレは近くにあった木の葉を取り、草笛を拭いた。すると、葉から音が出るのが不思議だったのか、トロールの子ども達はキョトンとしていた。その内、真似をしようとしたり、中には踊り始める者もいた。
「お前、悪い奴じゃない。村の中に入っていいぞ!」
オレと師匠はトロールの子ども達と村に入った。村の様子を見渡すとかなり原始的だ。当たり前だが、店もなければ宿屋もない。村人は自給自足の生活をしているのだろう。オレ達が村の様子を見ていると、男達が森の中から帰ってきた。その手にはブラックベアやグレートボアの死体が握られていた。恐らく、狩猟にでも出ていたのだろう。男達が帰ってきたことに気付くと、それぞれの家の中から女性達が刃物を持って現れる。どうやら魔物を解体して分配するようだ。
オレと師匠が井戸の端で座って見ていると、男のトロールが声をかけてきた。
「お前達はここで何をしている。」
「オーベルさんがいなくなった後の村の様子を見に来たのさ。」
「お前達は何者だ!」
「オレはシン。」
「私はナツだ。」
「人族ではないな! セフィーロの手のものか? 探っても何もないぞ!」
「別にそんなつもりはないさ。困っていることがあれば何とかしようと思って立ち寄っただけだから。」
「本当に何者なのだ?」
オレと師匠は魔族の姿に戻った。とは言っても背中から黒い翼を出しただけだ。
「お前達は魔族か?」
「そうだよ。オレは魔王シン=カザリーヌさ。」
「私は四天王筆頭ナツ=カザリーヌだ。」
「新たな魔王か?」
「そうだよ。」
「ここに立ち寄った理由を聞かせていただきたい。我々に謀反の疑いでも?」
「いいや。族長のオーベルさんがいなくなって、本当に困ったことがあったら、オレと師匠で何とかしようかと思っただけさ。平和が何よりだからね。」
ここでトロールの族長らしき男が声をかけてきた。
「魔王様。ようこそお越しくださいました。先ほどの話ですが、1点だけ問題がございます。」
「何かな? 言ってみて。」
「はい。最近、我らの支配地に国境を越えて人族が現れるようになりました。我らに敵意はないのですが、向こうから攻撃をしてくるのです。我々には再生能力がありますので、問題にしていなかったのですが、最近人族が使用する武器は、我々の再生を阻害するのです。このままでは、我々としても戦わざるをえません。」
もしかしたら、シナトヨ王国のどこかに古代遺跡があって、その遺跡から古代兵器が発掘された可能性が出てきた。
「わかったよ。人族はオレが何とかするよ。」
「お願いします。」
「他にはないかな?」
「はい。今のところはそれだけです。」
オレと師匠は、トロールの村を後にして、人族と遭遇するという森の中に入って行った。
「カゲロウ。シナトヨ王国について調べてくれるか?」
「はい。」
カゲロウがオレの肩から飛び立った。
「シン。人族をどうするつもりだ? 殺すのか?」
「相手次第ですね。この世界に不要な存在であれば殺します。」
道のない森の中を大分かき分けて進んだ。すると、血の匂いがしてきた。木や地面に血液が付着している。その先に、銃のような形をした武器を持った兵士達が5人と、その足元にはブラックベアが倒れていた。兵士達はオレ達に気付いたようで、声をかけてきた。
「貴様らここで何をしている?」
「道に迷って彷徨っていたんですよ。」
「ここは魔族の国だぞ! 早く立ち去れ!」
「立ち去れと言われてもどっちに行っていいかわかりません。」
「しょうがない。少し待っていろ。」
兵士達は仕留めたブラックベアの解体を始めた。かなり手馴れている。待っていると、30分ほどで解体作業が終わった。
「俺達について来い。」
オレと師匠は一般人の振りをして先頭を歩く兵士の後ろについて行った。すると、少し開けた場所に出た。どうやらそこは宿営地のようだった。
「今日はここまでだ。明日、街まで連れて行ってやる。ただ、そっちの女は俺達と来い。調べたいことがある。」
兵士達は下種な笑いを浮かべて師匠を見た。師匠はか弱い女性を演じている。
「何を調べるんですか? 私は何もやましいものはもっていませんよ。」
「お前の存在がやましんだよ。」
いきなり兵士達が師匠の手を引っ張った。師匠はなされるまま地面に転んだ。
「お前達、何をするんだ?」
オレも師匠に合わせて演技をした。
「小僧は邪魔だ。ここで死ね。」
男が銃をオレに向けた。次の瞬間、男の首が吹き飛んだ。
「どうした? 何があった?」
残った4人の兵士達は慌てている。
オレと師匠は本来の姿に戻った。
「貴様らは魔族か?」
「ああ、そうだ。お前達には聞きたいことがある。素直に話すか?」
「誰がしゃべるもんか!」
兵士達が銃をオレと師匠に向けて撃った。オレも師匠も全身を霧状にして球を避ける。再び姿を現すと、兵士達は走って逃げようとした。
「グラビティー」
オレが重力魔法を発動すると、兵士達は転びながら地面に叩きつけられた。
「さて、しゃべってもらおうか?」
「・・・・・」
「なかなか強情なようだな。4人いるのか。一人生きていれば十分だな。他に用はない。」
オレの言葉を聞いて自分だけが助かりたいと思ったのか、全員が同じことを言ってきた。
「俺がしゃべる。だから助けてくれ。」
「あいつは下端だ。俺の方が情報が多い。」
他人がどうなろうと、自分だけが助かればいいという考えなのだろう。あまりにも醜い。師匠も呆れた表情をしている。
「なら、一人ずつ聞いて行こうか。嘘があった時点で殺す。言っておくがオレは魔王だ。我が国に不法侵入したお前達は楽には殺さんからな。」
「魔王?!」
「そうよ。彼は魔王よ。私は四天王筆頭のナツ=カザリーヌよ。」
「ヒィ―――」
あまりの恐怖に3人とも地面を濡らした。
「ならば聞こう。」
オレが兵士達から得た情報はいくつかあった。1つ目は武器は王都から支給されたものであり、具体的な情報は聞かされていない。ただし、今までの武器より魔物に対して効果があるということだ。2つ目は魔族の国への侵攻は本格的に計画されていない。現在は調査をするにとどまっているということだ。3つ目は古代遺跡が発見されたという噂はあるが、具体的な場所は公表されていない。以上が判明した。
「これで全部です。どうか命はお助け下さい。」
「しゃべってくれたんだから殺さないさ。直ぐにはね。」
「えっ?!」
オレは兵士全員を裸にした。そして、魔力探知で魔物達がいる場所を探してそこに全員を置き去りにした。
「シン。あの兵士達、きっと殺されるぞ!」
「師匠。この世界に必要だと管理神様が判断されれば、生き残りますよ。」
「それもそうだな。」
オレと師匠はトロールの族長に状況を説明して、シナトヨ国へと急いだ。
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