獣人族会議と今後の相談
それから1週間後、完成したばかりの議事堂に獣人族の各代表が集まった。オレの正体を知っている者達は丁寧なあいさつをしてくるが、それ以外の者達は人族に見えるオレがこの場にいることを不自然に感じているようだった。そしていよいよ会議が始まるのだが、ここでやはり我慢できなかった族長が口を開いた。
「なんでここに人族がいるんだ! 場違いではないのか! ここは獣人族の代表が集まる場所だぞ!」
すると獅子獣人族のライオネルと狼獣人族のバロンが制止した。
「貴殿は何やら誤解しているようだ。ここにいるシン殿は人族などではないぞ!」
ライオネルがオレを見ながら言った。オレはみんなの前で正体を明かした。
「自己紹介しようか。オレはシン。人族ではない。魔族の王だ。同時に精霊の王でもある。」
「なんと?! 誠ですか?」
みんなが信じられないという顔でオレを見ている。仕方がないので、オレは精霊王の姿に変身した。その神々しい姿に全員が平伏した。
「みんな、椅子に座って。」
オレの言葉に全員が従って、椅子に座った。オレは全員を見渡して話し始めた。
「オレは管理神様からこの世界の平和を託されているんだ。そこでこの獣人の国も争いのない平和な国にしたいと思っている。これからオレの考えを言うので、それをここにいる皆で議論して欲しい。」
さすがに『管理神様』の名前を出したせいか、全員が真剣な顔でオレを見ている。
「最初に、各部族に自治権を与え、それをまとめる中央政府を作る。中央政府はこの代表者の会議だ。この会議で国の方針を決めればいい。そうすれば、今まで弱小とされて意見が言えなかった種族も平等に意見を言えるようになるだろう。あと、会議には取りまとめ役の議長が必要になるが、会議の議長は選挙か輪番制がいいと思う。初代議長はビャッコさんにお願いしようと思っている。次に、この国の名前をカナリーゼ共和国から変更したいんだ。オレを含め、7大精霊が見守っている国ということで、エレメント連邦国とし、首都はこの地アニムとしたい。元々獣人族も妖精族だ。その祖先である精霊が見守る国とするのがいいんじゃないかな。どうだろうか? みんなの意見を聞きたい。」
すると、代表者から様々な意見が出た。中央政府を維持するための費用をどうするのか、議長の任期はどれくらいにするべきか、輪番制の場合の順番をどうするのかなど。
「中央政府を維持する費用は、各部族に税を課すことにする。その税金は無理のない程度で出し合うことになるだろう。中央政府に貯金ができるようになれば、どこかの部族で自然災害があった場合でも、その貯金から救済することができる。」
「なるほど、それはいい。そうなれば、農作物が不作の時も安心だ!」
「それから、議長は7年に一度の交代がいいと思う。短すぎると政策を実現する前に交代になってしまうし、長すぎても権力が集中してしまう可能性があるから。」
「確かに我々獣人族の寿命は種族によって異なる。それを考えたら、丁度いいかもしれんな。」
最後に副議長の役職を設けることが提案された。議長は輪番制として、次に議長になる者は、いきなり議長になるより副議長として議長の手助けをした後に議長になる方が引継ぎをしやすいということだ。確かにその通りだ。今回、副議長はバロンさんになった。
そして、初めての代表者会議も終わって解散となり、それぞれが帰る前にオレに挨拶をしていった。
残ったオレは師匠と二人きりで議事堂の会議室にいる。
「シン。疲れただろう?」
師匠が後ろからオレの肩をもみながら話しかけてきた。
「うん。少しね。」
「これからどこに行くつもりだ?」
「一旦、魔王城に戻るよ。最近全然帰っていなかったからね。」
「そうだな。セフィーロとミアはともかくとして、ハヤトは口うるさいぞ!」
その頃噂されているハヤトは闘技場で、他の魔族の訓練をしていた。
「ハックション」
「ハヤト様、お風邪ですか?」
「竜人族の俺が風邪をひく訳がないだろう。誰かが噂しているんだろうな。」
オレと師匠が議事堂から外に出ると、待っていたかのようにカゲロウがオレの肩に飛んできた。
「カゲロウ。一旦魔王城に戻るよ。」
「シン様。私、魔王城に行くのは初めてです。なんかワクワクします。」
オレ達は魔王城に転移した。
魔王城の謁見の間に戻ると、いつも通りセフィーロがいた。
「魔王様。お帰りなさいませ。精霊王になられてもやはりお美しいですね。」
「やっぱり、オレが精霊王になったことを知っているんだね。」
「はい。眷属達から報告が来ましたから。」
「ドタドタドタ・・・・」
「魔王様が戻ったか?」
ハヤトが巨体を揺らしながら走ってきた。
「魔王様。なんか姿が変わってないか?」
「ああ、セフィーロさんから聞いてないんだね。オレ、精霊王になったから。」
「さすがですな。魔王様。魔族だけでなく、精霊達の王にまでなるとは。」
「ハヤトさん。獣人族の件、ありがとうね。」
「いいえ、大したことはしていませんから。」
「ところでミアさんは?」
セフィーロが答えた。
「最近、ハクスの街に入りびたりですよ。私がアラクネ達を連れて行ったのを知っているものですから、縫製工場も立ち上がって興味を持ったのでしょう。」
「シン。私もハクスに行ってみたいぞ! 服も新調したいし、シンの好きな“バニーガール”も必要だろう?」
「師匠!!!」
セフィーロとハヤトが不思議な顔でオレを見ていた。オレは思わず赤面して下を向いた。ここで、カゲロウが追い打ちをかける。
「バニー、バニー、バニーガール」
オレは魔法でカゲロウの口を閉じた。カゲロウが肩の上でドタバタと暴れる。
「カゲロウ! 余計なことをしゃべるなよ!」
カゲロウが頭を縦に振ったので、魔法を解除した。
「シン様! 酷いです! 死ぬかと思いましたよ!」
「何言っているんだ! フェニックスのお前が死ぬはずないだろうが!」
「ああ、そうだった!」
“フェニックス”という言葉を聞いて、ハヤトが驚いている。
「魔王様。今、フェニックスと言いませんでしたか?」
「言ったよ。このカゲロウはフェニックスなんだよ。」
「あの神獣のフェニックスですか?」
「そうだよ。」
「精霊王になられたばかりか、神獣まで従えるとは、やはり魔王様は・・・」
何やらハヤトが考え込んでしまった。
その後、オレは次に向かう国をみんなに相談した。カゲロウが言うには、シナアカ王国とシナトヨ王国で戦争が起こりそうな状況らしい。双方ともにここ最近、軍事力に力を入れているようだ。もしかしたら古代遺跡があるのかもしれない。
セフィーロからも報告があった。アルベルト王国の北西に位置する神聖エリーヌ教国において、古代遺跡のようなものが発見されたようだ。
「どうする? シン!」
「やっぱり、戦争が起きそうな場所からだね。」
「なら、シナトヨ王国から行くか?」
「どうして?」
「魔王城から近いからだ。」
オレと師匠はカゲロウを連れて魔王城から飛び立った。
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