シン、精霊王になる!
古民家の件が片付いた後、オレ達は街の冒険者ギルドに報告に行った。冒険者ギルドには、建物はすでになくなっていたと報告をした。それでも、ギルドからは報酬が出た。
報酬をもらった後、オレ達は再び狼獣人の街カイドウに向けて出発した。
「シン。残念だな。」
「何がですか?」
「バニーガールだよ。」
「師匠! 別にオレは・・・・」
「本当にお二人は仲がいいですね。」
師匠とオレは顔を赤くしてうつむいた。
草原地帯が続き、たまに現れるホーンラビットを狩りながら進んだ。
「あの先に見える城壁がカイドウなのかな?」
「シン殿は目がいいですな。獣人族の俺でもまだ見えませんよ。」
しばらく行くとオレが言った通り城壁が見えてきた。城門のところには武装した兵士達が立っていた。
「お前達はどこから来た? 身分証を出せ!」
兵士達がオレ達の差し出した身分証を確認している。オレ達3人は黙って周りの様子を見ていた。すると、大きな馬に乗った男が息を切らしながら、城門の中に飛び込んでいった。
「師匠。何かあったんですかね?」
「あの慌てぶりだ。間違いなく何かあったんだろうな。」
オレ達が街に入ると、兵士達で溢れていた。もともと狼獣人族は獣人族の中でも数が多い。それにもかかわらず、男達だけでなく、女達まで鎧兜を被っていた。彼らが、みんな同じ方向に走っている。どうやら集合が掛かったのだろう。
そこにしばらくいなかったカゲロウが戻ってきた。
「カゲロウ。どこに行っていたんだ?」
「この国の王都まで行っていました。」
「王都?」
「はい。今の王都ライアは元々獅子獣人族の街です。現国王のライオネルが国王になった時に王都が移ったんです。」
ここで、ビャッコが説明してくれた。獣人族の王都は王が変わるごとに遷都するようだ。
「王都で何かあったの?」
「はい。反乱のうわさを聞き付けたライオネルが象獣人族の街に攻め込みました。」
「それでどうなったの?」
「象獣人族の族長ファントは王都に連行されて、牢に閉じ込められています。」
「一般人の被害はどうなっている?」
「双方の兵士達には死傷者が出ていますが、一般人の死傷者はいないようです。」
「良かった~!」
「シン様。喜んでいられません。国王軍はこの狼獣人族の街カイドウに向かって進軍をしています。このままでは、この街で戦闘になるでしょう。」
「シン。どうするのだ?」
「シン殿。何とかなりませんか? このままでは戦争になってしまいます。」
オレは考えた。すべてを平和的に収める方法。どうすればいいのか。師匠は心配そうにオレを見ている。すると、声が聞こえた。
『お前が精霊王になればいい。』
「どうした? シン?」
「また、声が聞こえたんです。」
「何と言われたんだ?」
「オレが精霊王になればいいって。」
ビャッコが驚いた顔で聞いてきた。
「シン殿。誰に言われたんですか?」
「管理神様だけど。」
「えっ?! ええ――――――――――!!!」
ただ、どうすれば精霊王になれるのか知らないし、そもそも今現在精霊王っていないのかとか、疑問がどんどん湧き上がってきた。
すると、オレと師匠の周りに光の球体がいくつも集まってくる。そして、光の球体はそれぞれ人の姿を現した。
そこに現れたのは、森の大精霊ドリアード、水の大精霊ウンディーネ、風の大精霊シルフ、大地の大精霊ノーム、火の大精霊サラマンダー、闇の大精霊シェイプ、光の大精霊ウイスプだ。
「シン様の疑問にお答えしましょう。」
代表して光の大精霊ウイスプが話しかけてきた。
「精霊王は、本来我ら大精霊の中から順次選ばれます。つまり当番制のようなものです。それは、我らの中で飛びぬけた存在がでないように管理神様に創造されたからです。ですが、今回は管理神様がシン様を精霊王にするように言われました。ですから、私達に異存はありません。」
ここで、ノームが言って来た。
「そもそも我ら大精霊1体と契約することも考えられないのに、シン殿はすでに7大精霊の中でウイスプとシェイプ以外は契約しているんだから当然だぜ!」
ここで見た目が美少女の闇の大精霊シェイプが宝珠を差し出して言って来た。
「私も契約したいんだけど、これもらってください。お願いします。」
すると先ほど説明してくれた大人の美女のような光の大精霊ウイスプも同じように宝珠を差し出してきた。
「私も契約をお願いします。」
オレは2人から宝珠を受け取った。これで7大精霊のすべてと契約したことになる。2人の宝珠がオレの身体に吸い込まれた瞬間、今までと違いオレの身体が眩しく光り出した。そして、本来は赤みがかった白髪のオレの髪が完全な赤に変化し、瞳の色も黄色がかった赤色が完全な黄金色に変化した。
次の瞬間、7大精霊達がオレに跪いた。
「精霊王様。おめでとうございます。」
「ありがとう。みんな。でも、精霊王って何するの?」
「特にこれと言ってありません。ただ私達が精霊王になった時は、2つのことは常に気を付けています。」
「何かな?」
「はい。最初は、精霊の森にある世界樹を守ること。もう一つは、この世界に悪い気を増やさないことです。」
「精霊の森ってどこにあるの?」
ここでドリアードが教えてくれた。
「はい。普段は結界でこの世界から隔離されています。私がシン様と最初に出会ったエルフ族の森のさらに奥深い場所にあります。」
「なら近くまでは転移ですぐに行けるよね。」
ここでウイスプが教えてくれる。
「精霊王様は行きたいと思えば、いつでも世界樹の元まで行けますよ。」
ここで、師匠とビャッコがいたことを思い出した。師匠はニコニコしながらオレに密着して話を聞いている。ビャッコは大きな口を開けて座り込んでしまい、放心状態だ。
「みんなありがとう。困ったときはみんなの力を借りるね。」
「精霊王様が困っていたら頼まれなくてもすぐに駆け付けます。」
「あの、精霊王じゃなくて、今まで通りシンでお願いしたいんだけど。」
「ご命令とあれば全員が“シン様”と呼ばせていただきます。」
大精霊達はその場から姿を消した。
「ビャッコさん! ビャッコさん!」
「あれ?! 大精霊様達はどちらに?」
「みんな帰ってもらったよ。」
「なんか俺の空耳かもしれませんが、シン殿が精霊王になったとかなんとか聞こえていたような気がするんですが。」
「はい。なりましたよ。」
「やっぱりですか? シン殿は魔王であり精霊王でありって、本当にいったい何者なんですか?」
「ごめん。自分でも自分のことが分からないんだ。でも、ひとつだけ間違いないことがあります。例え何があってもオレが何者であっても、オレは師匠と一緒にいます。」
「私はお前といつまでも一緒にいるさ。安心しろ! シン!」
「はい。」
中央広場の噴水のベンチに座って少し休んでいると、動きがあった。狼獣人族達が隊列を組んで城門のところで配置につこうとしている。いよいよ戦争の準備が始まったようだ。
「カゲロウ。国王軍はいつ頃到着予定かわかる?」
「恐らく、明日の早朝には到着すると思われます。」
「師匠。ビャッコさん。宿を取って休みましょう。ここにいてもしょうがないし。」
「そうですな。」
オレ達は宿を見つけて、部屋に行った。
「シン。お前、責任重大になったな。」
「はい。でも、管理神様はオレに何を望んでいるんでしょうね?」
「それは、私にもわからん。神が何を考えているかなんて誰にも分らんだろうな。」
何か疲れた。いろんなことがありすぎた。さすがにオレも許容範囲を超えたようだ。地球にいたころには考えもしなかった。毎日だらだらと生きていただけのオレがまさか、魔王になり精霊王になり、この先どうなるんだろう。
翌朝、オレと師匠はまだ暗いうちに起きて城門の方に向かった。そこにはすでにビャッコの姿があった。恐らく、ビャッコは眠れなかったんだろう。
「シン殿。ナツ殿。早いですね。」
「はい。事前に様子を見ておきたかったので。」
すると、馬に乗った兵士が慌てて城門に入ってきた。そして、狼獣人の族長バロンに大声で報告した。
「国王軍はおよそ10,000人です。もう少しで、この街までやってきます。」
「ご苦労! 向こうで少し休め!」
「はい。」
国王軍約10,000人に対して狼獣人族は約3,000人だ。相当な犠牲者が出るだろう。
読んでいただいてありがとうございます。
是非、評価とブックマークをよろしくお願いします。