兎獣人の街の古民家調査
猿獣人の街タカサを出たオレ達は、次に狼獣人の街カイドウに向かった。カイドウに行くには兎獣人の街ラビツを通過することになる。オレは心の中で少し楽しみだった。
「シン。お前、何かソワソワしてないか?」
「そんなことないですよ。」
「さっきから様子が変だぞ!」
「兎獣人の女性って網タイツとか履いているんですかね?」
「お前は馬鹿か! なんでそんな格好をするんだ! まさかお前・・・・」
師匠の顔が赤くなった。
「師匠。今度よろしくお願いします。」
「知らん!」
師匠は顔を赤くして横を向いてしまった。
“師匠はああ言ったけど絶対近いうちに網タイツ履くよな。”
なんか、師匠のバニーガール姿を想像していたらこっちまで赤くなってしまった。
オレ達は兎獣人の街ラビツに入った。街には城壁が無く、街の周りには野菜畑が一面に広がっていた。街の中に屋台があったが、野菜やデザート系の屋台だけだ。兎獣人達は栗鼠獣人と同様に菜食主義らしい。しかも、街を歩く人達を見てオレは少しがっかりした。
バニーガールがいなかったのだ。
やはり農業が中心の街だけあって、どの人達も質素な身なりをしている。それでも、みんな笑顔でいるのは素晴らしい。争いごととは無縁な平和な雰囲気の街だった。
「シン殿。この街で1泊しよう。」
「いいですよ。ビャッコさん。冒険者ギルドってあるんですかね?」
「獣人族の街には、どの街にもあるからきっとあると思いますよ。」
「師匠。ギルドに行きましょう。」
「ああ、そうだな。」
「ならば、宿を探した後に一緒に行きましょうか。」
オレ達は宿を探した。観光者も少ないのか宿が1軒しかなかった。看板には「人参亭」とあり、中に入ると小さな女の子が走って近寄ってきた。
「らっちゃい」
その後ろから恰幅のいい女性が現れた。
「お客さん達は3名かい? 部屋はどうする?」
「はい。オレ達は1部屋でいいです。」
「俺の部屋も頼む。」
オレ達はお金を払ってそれぞれの部屋に行った。部屋の中は広くはないが、清潔感があり、それに可愛い置物もあってファンシーな内装だった。
宿を出た後、オレ達は冒険者ギルドに向かった。ギルドの中に入って、オレは目を疑った。
“キタ―――――――!!!」
信じられないことに、ギルドの受付にいた3人の女性が全員バニーガールの格好をしていたのだ。
「シン! お前やっぱり・・・・・」
師匠は呆れた目つきでオレを見ている。その横でビャッコさんが笑っている。
「やはり、シン殿も男の子ですね。私も好きですよ。バニーガール」
ビャッコの余計な一言だった。師匠の目がマジになってきている。
「仕方ない。今度期待しておれ!」
「はい!」
すると、受付の女性が声をかけてきた。
「ようこそ。冒険者ギルドへ。何か御用ですか?」
「はい。街の様子を知りたくて来ました。」
「そうですか。この街は見ていただいた通り平和ですよ。犯罪も起きませんし。」
オレは話をしている間、どうしても視線が挙動不審になってしまう。原因は自分でもわかっている。大きかったんだ。すごく大きくてはみ出していたんだ。胸が。
オレは師匠に手を引かれて掲示板に向かった。掲示板には、畑の収穫の手伝いや種まきの手伝いしかない。ただ、一つだけ違うものがあった。古民家の調査だ。どうやら森の奥に古民家があるらしい。何もないのだが、街の人達が気味悪いということで調査の依頼が来ていた。
その日、オレ達は宿に戻り、翌日調査に行くことにした。部屋に戻ったオレは師匠と話をした。
「シン。お前、最近身長が伸びただけでなく雰囲気が変わってきたな。」
「そうですか?」
鏡で自分を見てみると、白髪なのだが少し赤みがかかってきている。瞳の色もいままでのように真っ赤ではない。どことなく赤が薄らいで黄色が入っている。
「確かに髪も瞳も以前と変化しているようです。それでですかね? 最近女性達に騒がれなくなったのは?」
「なんだ。騒がれたいのか?」
「違いますよ!」
「私がいつも一緒にいるからだろうな。」
「そう言うもんですか?」
なんか不思議に思った。オレには師匠がいる。でも、バニーガールの受付のお姉さんにも魅力を感じた。師匠は違うのかな?
「私にはお前しか見えんぞ! シン!」
師匠に申し訳ない気持ちになると同時に、嬉しかった。ものすごく嬉しかった。
翌朝、宿の部屋に戻り二人でベッドに寝転んだ。ベッドがきれいなのが不自然になるからだ。そして、すぐに食堂に行ってご飯を食べた。すると小さい女の子が挨拶してきた。
「おはようごちゃいまちゅ。」
まだ、言葉がたどたどしい。なんかすごく可愛く思えた。
「シンは子どもが好きか?」
「好きかどうかわからないですけど、可愛いとは思いますよ。」
「そうか。」
師匠が何か考えているようだった。
食事を終えた3人は宿を出て、森の中の古民家に向かった。森の中に入ってしばらくすると、目の前に大きな光が2つ現れた。オレはすぐにそれが何なのかわかった。
「シン様、ナツ様。お久しぶりです。」
「シン殿、ナツ殿。久しぶりだな。」
「お久しぶりです。ドライアードさんとノームさん。」
ここで一人意識を失いかけいるものがいた。ビャッコだ。
「シン殿。この方達はもしかすると・・・・」
「そうですよ。森の大精霊のドリアードさんと大地の大精霊のノームさんですよ。」
ここでビャッコが自己紹介を始めた。
「わた、私は虎獣人の、ビャ、ビャッコといいます。」
ここでノームがビャッコに爆弾発言だ。
「ビャッコとやら貴殿のことはシン殿を通して知っている。貴殿の志は我らと同じものだ。そのまま進むがよい。」
「ありがとうございます。シン殿を通して?」
「そうよ。ビャッコとやら。我らはシン様と契約をしているの。シン様は我らの主なのよ。」
「シン殿。それは誠か?」
「契約しているのは本当だけど、オレは主とは思っていないですよ。ドリアードさんもノームさんもウンディーネさんもシルフさんもみんな友人ですから。」
「ウンディーネ? シルフ?」
「水の大精霊のウンディーネさんと風の大精霊のシルフさんですよ。」
「ええ―――――!!」
ここでノームがオレに声をかけてきた。
「シン殿に頼みがあるんだが。」
「なんでしょうか?」
「実は我らがシン殿と契約をしたことを知ったサラマンダーの奴が嫉妬してな。何故俺が契約できないのかとうるさいのだ。シン殿、サラマンダーとも契約してもらえないか?」
「いいですよ。」
「ならば、・・・・」
ノームがサラマンダーを呼びに行こうとした瞬間、目の前に大きな炎が現れた。炎が収まると、真っ赤な髪をした上半身裸のマッチョな男性が立っていた。
「吾輩はサラマンダーだ。やっとシン殿の前に来られたわ。それで、シン殿、契約をお願いしたいんだが、いいだろうか?」
「いいですよ。」
サラマンダーは宝珠を取り出して渡してきた。オレはいつものようにそれを受け取ると、宝珠は光輝きオレの身体の中に入ってくる。
「シン殿。ありがとう。」
「でも、なんで大精霊のみんなはオレと契約したがるの?」
すると、ドリアードが教えてくれた。
「シン様からは神聖な気がいただけるんですよ。我ら精霊は魔素ではなく、この世界の気を吸収しているんです。たまに、黒い気を吸ってしまう精霊がいると邪精霊になってしまう者もいるんですよ。」
「オレから神聖な気が出ているの?」
「そうです。シン様からは清らかな心地の良い気がいただけるんですよ。」
ここで思案顔だった師匠が納得したかのようなにこやかな顔になった。オレには何のことかよくわかっていないのに。
「シン様、これからどちらに行かれるんですか?」
「ああ、この先に古民家があるらしいんだけど、その調査ですよ。」
「あの古民家ですか?」
「ドリアードさんは何か知っているんですか?」
「はい。大分前の話ですが、この世界で大きな戦争が起こったことがあるんです。その時に一人の偉大な魔女がいました。彼女は自分の家族を守るために自分の家に結界を張ったんです。その戦争で、この辺一帯は焼け野原になったんですが、その時に残った家があの家なんですよ。」
「でも、ドリアードさん。この辺一帯森ですよね?」
「私やノーム、ウンディーネが協力して眷属達と一緒に森を復活させたんですよ。」
「そうだったんですね。じゃぁ、あの家はその時からあるんですね?」
「はい。あの家の家族達も魔女もすでにこの世にいません。できれば、あの家をナツ殿の魔法で消滅してもらえないでしょうか?」
「どうしてですか?」
「あの家の結界の効果も消えて、ゴーストたちのたまり場になってしまっているんですよ。」
「シン。お前がゴーストたちを浄化しろ。その後で私が消し去るから。」
「魔族のオレに聖魔法が使えますか?」
「やってみればわかるさ。」
大精霊達が帰った後、オレと師匠とビャッコは古民家のある場所まで来た。確かにオレの魔力感知にたくさんの反応がある。恐らく、ゴースト達だろう。オレが家の中に入ると、いろんな場所でガタガタと音がしたり、閉まっているドアが勝手に開いたりした。地球にいた時ならば気を失うような怪奇現象だ。オレはゴーストが成仏するようにと念じながら、身体から魔力を解放して聖魔法を放った。
眩しい光がオレを中心に広がっていく、暗闇の中から明るい光の玉が次々と上空に消えて行く。最後の一つが上空に消えるのを確認して、オレは家の外に出た。
「シン。ご苦労だった。後は任せろ。」
師匠が『ディスアピアランス』を発動すると、森の中に立っていた建物がきれいに消滅した。
「シン殿もナツ殿も本当にすごいですね。俺はとても2人に勝てる気がしませんよ。」
読んでいただいてありがとうございます。