虎獣人ビャッコVS猿獣人コング
いざ、猿獣人の街に向かおうと思った時に師匠が話しかけてきた。
「シン。ここに来る途中で耳にした“しゃべる魔物を見た森”というのが気になる。行ってみないか?」
「はい。オレも気になっていました。」
オレと師匠とビャッコで街の近くの森に入って行った。森の中にはホーンボアやホーンラビットなどがいたが、特に気になる事はなかった。狩った魔物は全てオレの空間収納にしまって、さらに奥に進んでいくと大きな滝があった。滝には虹がかかっていて幻想的な景色だ。どこか神秘的なものさえ感じる。すると、滝の奥の洞窟の中から1羽の鳥が飛んできた。人に慣れているのかオレの頭にとまった。すると、いつもの声が聞こえた。
『その鳥を連れていけ、いずれ役に立つだろう。』
恐らく管理神様だろう。オレの頭にとまった鳥がしゃべり始めた。
「私を連れて行くがいい。きっと主殿の役に立って見せよう。」
オレと師匠は顔を見合わせた。隣でビャッコは不思議なものを見た顔をしている。
「シン殿。これは?」
「多分、オレのことが気に入ったんだと思いますよ。」
ここで師匠が言った。
「恐らく、この街に入る時に聞いた噂はこの鳥のことだろうな。魔物と勘違いでもしたんだろうさ。」
「はい。オレもそう思います。」
「ならば、シン殿、ナツ殿。猿獣人族の街に急ぎましょう。」
オレ達は森を出て、猿獣人の街まで急いで進んだ。行く途中で確認したいことがあったのでビャッコに聞いた。
「ビャッコさんは闘技大会に出なかったんですか?」
「ああ、シン殿やナツ殿のように長いこと旅に出ていましたから。ですが、戻ってみたら冒険者ギルド内で、先日話したような内容の噂を耳にしたんですよ。それで、いろいろな伝で確認したら、どうやらその噂が真実のようなんです。」
「じゃぁ、ビャッコさんは各種族の最強が誰なのか知らないんですか?」
「名前は調べてありますが、実力まではわかりません。」
ここで、師匠が話に加わった。
「猿獣人族の最強は誰だ?」
「コングというものらしいです。」
「そんな奴、私が殺してしまおうか?」
「待ってください。ナツ殿。それでは何の解決にもなりません。獣人族のこの私が
勝ってこそ意味があるのです。」
「師匠。今回はオレも手出ししないようにするから、師匠も手出しちゃだめですよ。」
オレに甘えるように言われたのが嬉しかったのか、師匠が身体をくねらせながら体を密着してきた。
「師匠。歩きづらいよ。」
「フン!」
ここでシンの方にとまっている鳥が師匠をからかった。
「怒られた! ナツがシンに怒られた!」
「お前! 焼き鳥にして食ってしまうぞ!」
「ダメだよ! 師匠。」
オレは歩きながら優しく師匠の手を握った。
しばらく行くとようやく猿獣人の街タカサに着いた。すでに夕暮れ時だったので、急いで宿を取り、その日は解散となった。部屋に入ったオレと師匠は鳥を連れて師匠の家に転移した。
「さぁ、鳥君。君の正体を教えてくれるかな? 管理神様が連れて行けって言うんだからただ者じゃないよね?」
「当たり前よ! 最初に行っときますけど、“君”じゃないからね。そこは間違えないで!」
師匠が切れかかっている。
「そんなことはどうでもいい。何者だ!」
ここで鳥は本来の姿に戻った。ものすごく鮮やかで神聖な雰囲気を醸し出している。
「私はフェニックスよ。そうね~、神獣ね!」
「お前、本当にフェニックスか?」
「主殿、酷いです。疑うなんて。」
「ごめんごめん。お詫びに名前を付けてあげるよ。」
「本当ですか? ありがとうございます。」
オレは考えた。かなり真剣に考えた。だが、何も浮かばない。
“昔飼っていたインコはピッチとピーコだったよな~。”
オレが頭の中で考えていると、急にフェニックスが怒り始めた。
「シン様。ピッチとか安直な名前は断固拒否します!」
”なぜわかったんだろう?“
「だったら、カゲロウにしよう。」
「カゲロウですか? どんな意味ですか?」
「意味? 特に意味はないよ。何かカッコいいじゃん。」
「確かにかっこいいですけど!」
「じゃぁ、決まりだ。」
「私こんなこともできるんですよ。」
カゲロウは突然人化した。超美少女だ。歳で言うと、10歳ぐらいだろうか? 妹ができたようで可愛らしい。オレがカゲロウの頭をなでていると、師匠が焼きもちを焼いてきた。
「師匠。カゲロウはまだ子どもなんですよ。いいじゃないですか。」
すると次の瞬間、カゲロウが超美女になった。その豊満なボディーからは大人の色気がムンムンする。オレは見とれてしまった。すると師匠が怒り始める。
「カゲロウ。お前は私が許可をするまで鳥の姿でいろ!」
「はい。承知しました。」
カゲロウは渋々鳥の姿に戻った。
「ナツ様。大丈夫ですよ。私はお二人の力になるためにここにいますから。シン様を誘惑するようなことはしませんので。」
カゲロウはオレと師匠の顔を見て言った。師匠はなぜか目が泳いでいた。
オレと師匠とカゲロウは宿に転移で戻ってきた。オレが師匠の抱き枕になる姿は見られたくなかったので、カゲロウには夜の間は部屋から出ていくように言った。カゲロウも素直に従いどこかに飛んで行った。
翌朝、師匠とオレが食堂に行くと既にビャッコが食事をしていた。オレ達は、朝食を食べた後、3人で街の様子を観察しに出かけた。どうやら噂は本当のようで、街の中を武装した兵士達が走り回っている。時々人族に見えるオレと師匠に目を向ける兵士もいたが、みんな無視して走って行ったしまった。
「ビャッコさん、これからどうするの?」
「恐らく、兵士達の中心にコングがいると思う。そこに行って、決闘を申し込むさ。」
「なら、私とシンも一緒に行こう。」
兵士達が走って行く方向にオレ達も向かった。そこには、1000人を超える兵士達が集まっていた。思った通り、コングは一番前にいる。
「ビャッコさん。一番前に行くのに邪魔な兵士はどかしてもいいかな?」
「シン殿。お願いする。」
オレは火魔法で2つの大きな壁を作った。兵士達は、突然現れた炎の壁に驚いて尻もちをついている。おかげで、そこに道ができた。オレと師匠とビャッコはその炎の壁の中央を歩いて行った。
「貴様らは何者だ?」
「俺は虎獣人のビャッコだ。コングに用があってきた。」
コングが一番前に出てきた。ビャッコよりも大きい。体長が3mはありそうだ。それに両腕の筋肉が半端ない。
「俺様に用とはなんだ?」
「お前に決闘を申し込む。もし俺が勝った時は、兵士達の武装を解除して欲しい。」
「お前が勝つことなどありえんが、いいだろう。その勝負を受けて立ってやろう。お前が負けたときはどうするのだ。」
「その時は、煮るなり焼くなりしてもらって結構だ。」
「その言葉忘れるなよ。」
オレは火魔法を解除した。すると、ビャッコとコングを取り囲むように大きな円ができた。そして、見物人からは罵声が飛んでいる。
「殺しちまえ!」
「虎獣人ごときが!」
「コング! コング! コング!・・・・・」
コングは大盾と大剣を持っている。対するビャッコは普通の剣だけだ。2人のにらみ合いが続いたが、最初にコングが動く。コングは地面を左右に走り、フェイントをかける。その大きな体に似合わず動きが速い。コングの大剣がビャッコに襲い掛かるが、ビャッコはそれをまともに受けることはせず横に流した。
今度はビャッコが剣を横に振った。すると、コングはそれを大盾で受けとめる。
「貴様。なかなかやるではないか。」
「お前もな。」
ビャッコが剣に雷を付与した。コングはそれを見て、体勢を低くしながらビャッコに切りかかった。ビャッコはそれを剣で受けとめた。ビャッコの剣からコングの大剣に電流が走る。両方の剣から火花が出た。どうやらコングの剣の持ち手には電流が流れないようになっているようだ。
「雷対策は十分しているさ。これでも、戦士だからな。」
「だが、これならどうかな。」
ビャッコが剣を地面すれすれに横に振ると、電流の斬撃がコングの足に命中した。コングの足から血が流れる。
「ウォ―――!」
ビャッコは剣に流す雷を強くして、上段からコングに襲い掛かった。コングは大盾でそれを防ぐが、大盾の両脇から電流がコングに流れ込む。
「グォ――――――!!」
コングがその場に倒れた。起き上がる気力はもうないだろう。すると、周りにいた兵士達が一斉に剣を抜いた。そして、ビャッコに襲い掛かろうとしている。
「お前達! やめろ! この俺様に恥をかかせるつもりか!」
コングの声で、全員が剣を仕舞った。
「ビャッコとやら。俺の負けだ。約束通り武装は解除しよう。だが、なぜ命を懸けてまでそのようなことするのだ!」
「我ら獣人族はもともと妖精族だ! 皆が平等に仲良く生きることを神は望んでおられる。どの種族が偉いとかはないんだ!」
「確かに、お前の言う通りかもしれん。俺達は長いこと弱者の扱いを受けてきた。だからこそ、このような体制をなくしたいと考えていたんだ。」
「そうか。ならば俺と貴殿は同志だ!」
「そうだな。ともに、この体制を作り直そう。」
ビャッコとコングは固い握手をした。オレと師匠は離れてその様子を見ている。
「良かったですね。師匠。」
「ああ、そうだな。」
その後、オレと師匠とビャッコはコングに食事に誘われた。ビャッコとコングは意気投合して、美味しそうに酒を飲んだ。オレは師匠と2人でじっくりと食事を味わった。カゲロウは出された木の実を黙々と食べている。
翌日、オレ達は次の街に向かった。
読んでいただいてありがとうございます。
是非、評価とブックマークをよろしくお願いします。