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自分探しの異世界冒険  作者: バーチ君
魔王?! 精霊王?!オレが?!
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虎獣人ビャッコ

 オレと師匠は馬獣人の街を後にした。そして、街道を次の街に向かって歩いているが、途中で嫌な噂を耳にした。次は猫獣人族の街マキミだが、その街の近くにある森で、言葉をしゃべる魔物のようなものを見かけた者がいるというのだ。オレは一瞬、ナザルのことが頭によぎった。




 “ナザルの目的はいったい何なんだろう?”



 

 オレと師匠が猫獣人族の街マキミに入ると、今まで見たことのないほどお洒落な街だった。カラフルな看板の服屋とレストランが通り沿いに並んでいる。街を歩く人達もみんなお洒落だ。冒険者すらお洒落な服を着ている。女性達はボディーラインを強調するような服が多く、男性達は首にスカーフを巻いてカーボーイのような帽子をかぶっている。



「師匠。この街は平和のようですね。」


「ああ、そうだな。シン、鼻の下が伸びているぞ!」



 オレはご機嫌が斜めになりつつある師匠の手を握った。



「そこの君。すごく奇麗な顔をしているわね。君に似合う服を見繕ってあげるから、うちの店に来ない?」



 外で掃き掃除をしていた服屋の女性に声をかけられた。



「いいえ。大丈夫です。」


「あら、そう。残念ね。」



 その後、大通りを曲がると市場があった。市場の中は肉と魚が中心だ。どれも新鮮なようだ。恐らく猫獣人達は野菜食より肉食を好むのだろう。さらに歩いていると、風俗街があった。オレはこの世界に来て初めて見た。風俗街の方を見ていると、師匠がオレの腕を強く引っ張る。



「痛いですよ。師匠。」


「シンも男だな。あんなものに興味があるとはな。」


「違いますよ。オレの住んでいた世界では珍しくないんですけど、この世界で初めて見たもんですから。」


「行くなよ。」


「オレまだ子どもですよ。師匠。」



 師匠の目が座っている。なんか怖い。



 その後もオレと師匠が街中を散策していると、正面から態度の大きな一団が現れた。虎獣人達だ。虎獣人達は、我が物顔で街を歩いている。猫獣人達は関わり合いにならないように道を開けている。虎獣人達はオレと師匠を見つけると急ぎ足で近づいてきた。



「お前ら人族か? 二人とも可愛い顔をしているじゃねぇか。俺達が遊んでやるからこっちに来な!」



 虎獣人がオレの手を掴もうとした。オレはその手を払って言った。



「オレは男だ! そんな物好きじゃないんで遠慮しますよ。」


「なんだと~! このやろ~! どっからどう見ても女じゃねえか!」



 師匠は笑っているが、オレはだんだんムカついてきた。いつものことだが、怒りの感情が強くなると体中から魔力や闘気が溢れてしまう。今回も、オレの身体から黒いオーラが漏れ始めた。



「小僧! 何か文句がありそうな面だな!」



 オレの身体から溢れ出る黒いオーラが日本の竜の形になっていく。すると、さすがに虎獣人達は怯え始めた。



「どうやら、お前達は死にたいようだな!」



 オレがドスの利いた声で話すと、虎獣人達は剣を抜いたまま尻もちをついてしまった。



「待て! そこまでにしてやってくれ! 代わりに俺が謝罪する。すまなかった。」



 声のする方を向くと、オレに近い銀髪の虎獣人がいた。体長が2mはあるだろう。



「別にオレは構わないですけど、街の人々に迷惑をかけるのは今後慎んでもらいましょうか。」


「わかった。約束しよう。その約束をこいつらが破った時は俺が始末する。それでいいか?」


「わかりました。」


「ところで、貴殿の名前を教えてくれるか?」


「オレはシンです。」


「私はナツだ。」


「俺はビャッコという。どうだ、一杯付き合わんか?」


「いいえ、オレはまだ酒が飲めませんから。」


「なら、飯でもごちそうするよ。お母さん! いいですよね?」



 師匠は『お母さん』と言われたことにかなり怒っているようだ。オレと不機嫌な師匠がビャッコに連れられて食堂に入った。



「シン殿は相当の実力者とお見受けするが。」


「師匠と修行の旅をしていますからね。それなりですよ。」


「俺と手合わせをしていただけないか?」



 ビャッコは真剣な顔で聞いてきた。



「何かあるんですか?」



 ビャッコは少し考えた後、話始めた。



「獣人族は弱肉強食の種族なんだ。我ら虎獣人族は強者に入る。それ故、先ほどの連中のように弱者の猫獣人族に威張る連中がいるんだ。どの種族も平等でなければいけないのにだ。」


「今の国王はどう考えているんですか?」


「今の国王も4年に一度の闘技大会で優勝したんだ。それ故、現状維持を望んでいるのだろうな。」


「他の種族は黙っているんですか?」


「いいや、我が種族こそは最強だと考えている種族もいる。実はそういう種族が内戦を引き起こそうとしているんだ。」


「どこの種族ですか?」


「猿獣人族や象獣人族、狼獣人族だな。」


「その3つの種族が協力しているんですか?」


「いいや、バラバラさ。それぞれの種族が、他の種族を屈服させようとしているんだ。」



 オレはビャッコさんの話を聞いて地球にいたときのことを思い出した。学校に行かなかったオレだが、ゲームの世界で日本にも戦国時代があったことは知っている。なにやら、その状況に近いのだろう。



「それで、ビャッコさんはどうしたいの?」


「俺がそれぞれの種族のもとを訪れ、最強のものを打ち破る。そうすれば、どの種族も俺には逆らえなくなるからな。」


「ビャッコさんが負けたらどうするんですか?」


「そうなれば、内戦は確実に起こるだろうな。」



 ここで師匠が小さい声で呟いた。



「シンがこんな国、滅ぼしてしまった方が早いぞ!」


「そんなことできませんよ。犠牲者が多すぎます。」


「ならば、お前が全種族を従えればよいではないか?」


「オレは自由に旅をしたいんです。それに、そうなったら師匠と一緒に居られる時間も減りますよ。」


「それは困る。お前がいない時間など考えられん。」


「何やら、話し中のところ悪いが、先ほどの件、頼んだぞ! シン殿。」


「はい。では、明日試合をしましょう。」



 オレと師匠はビャッコさんと試合の約束をした後、街を散策してそのまま師匠の家に帰った。



 翌日、待ち合わせの場所に行くと既にビャッコが来ていた。オレはビャッコに連れられて、街の端にある闘技場までやってきた。



「私が審判をしよう。」



 師匠が前に出た。ビャッコは背中の剣を抜いて構える。オレはまだ刀を抜いていない。とりあえず、刀なしで戦うつもりだ。



「シン殿。武器はよろしいのか?」


「はい。必要になれば取り出しますから。」


「そうか。ならば、シン殿に武器を持たせられるようにするまでだ!」



 2人が闘技場の中央で準備を終え待っていると、師匠から声がかかる。



「始め!」



 オレは自分からは攻撃をせず、ビャッコの様子を見ようと思った。ビャッコは、今までの獣人族の誰よりも早い。恐らく、魔族の四天王とオレ以外には誰にも見えないだろう。だが、オレにははっきりと見えている。


 ビャッコが横から剣を振ってきた。オレはジャンプして避ける。次にビャッコは振り向きざまに、手を横に振って“かまいたち”を発生させた。完全に避けきれなかったオレの髪が少しだけ、宙を舞った。



「さすがだな。シン殿。」


「ビャッコさんも大したもんですよ。オレの髪が切られたのは初めてなんだから。」



 ビャッコはオレを見て微笑んだ。そして、再び攻撃してくる。今度は指から鋭い爪を出し、それを下から上に引き裂くように腕を振るった。オレがバク転でそれを避けると、剣に雷魔法を付与して攻撃してきた。さすがに、オレも痛いのは嫌なので『バリア』で防ぐ。



「シン殿。俺は本気だ。なのに、少しも攻撃が当たらん。それどころか、貴殿は息一つ上がらず、まるで遊んでいるかのようだ。貴殿がどれほど強いか見てみたい。お願いできないだろうか?」


 

 師匠の顔を見た。師匠が頷いている。



「ビャッコさん。いいですけど、オレが本気を出すとこの国がまずいことになるから、少しだけ力を開放するね。」



 オレはそう言って、闘気と魔力を開放した。すると、オレの身体が眩しい光に包まれ、白髪が赤髪になり、赤目は黄金色へと変化し、背中には純白の翼が現れた。光が収まった先にはまるで天使のような少年が立っていた。



「これがシン殿の本当の姿か?」


「そうだよ。ビャッコさん。端にどいていてね。」



 オレは両手を上に挙げ、魔法を発動する。



「サンダー」



 ビャッコも雷魔法を使う。だからこそ、同じ雷魔法を見せた。空から巨大な稲妻が走り、地面に大きなクレーターを作る。



「バキバキドガドガ―――――――ン」



 ビャッコは不本意ながらも尻もちをついてしまった。



「これほどとは、信じられぬ。シン殿は何者なのだ? 天使なのか? 神なのか?」



 シンは魔族の姿に戻った。背中には漆黒の大きな翼がある。


「オレ? オレは魔王さ!」


「ま、ま、魔王?!!!」

 

「でも、安心してね。最初に言った通り敵じゃないからね。」



 ビャッコはオレと師匠を見た。師匠も魔族の姿になった。いつ見ても師匠の魔族の姿は美しい。オレもうっかり見とれてしまった。



「シン。私の顔に何かついているのか?」


「師匠があまりにもきれいだから見とれてました。」



 オレが正直に言うと、ビャッコの前にもかかわらずオレに抱き着いてきた。



「師匠。ビャッコさんがいるから。」



 ビャッコは突然のことで困っているようだ。



「お二人はいつもこうなのか?」


「はい。師匠はオレの師匠であって、同時に最愛の人ですから。」


「シン殿が羨ましいな。どうやらシン殿は優しい魔王様のようだな。」



 師匠があえてビャッコの前でオレに抱き着いてきた理由が少しわかった気がした。



「シン殿、ナツ殿。お願いだ。ともに各種族のもとを回ってはもらえないだろうか?」



「いいですよ。どうせ旅の途中だし。」



 オレ達3人は猫獣人族の街を後にして、猿獣人族の街に向かった。


読んでいただいてありがとうございます。

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