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自分探しの異世界冒険  作者: バーチ君
魔王?! 精霊王?!オレが?!
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馬獣人族のルドルフ

 栗鼠獣人の村を出た後、森の中を再び歩き始めた。森の中では小鳥のさえずりや野生動物の鳴き声が響き渡っている。何よりも空気がうまい。長いこと歩いて、やっと森が終わり草原に出た。少し遠いが、前方に高い城壁のようなものが見える。オレと師匠が城壁の方に近づいていくと、どうやら街のようだ。城門の近くに設置された検問所では大勢の獣人達が並んでいた。検問のところにいる兵士達はみんな馬獣人だ。


因みにこの世界の獣人達は元々妖精族であり、ほとんどが人間と同じ姿をしている。栗鼠獣人も馬獣人も同じだ。ただ、耳の形や尻尾の形、それと肌の色などで種族が異なる。


 しばらく列に並んでいると、牛獣人の男達が城門のところで兵士達と争いになっていた。オレと師匠がその様子を見ていると、馬獣人の隊長らしき人物が現れた。



「貴様らは我らを街に入れないつもりか?」


「そうは言っておらん。列に並べと言っておるのだ!」


「我らはゴズ様の命令で来ておるのだぞ!」



 ここで牛獣人達は剣を抜いた。それまで傍観していたオレも彼らの近くに行こうとしたが、師匠が声をかけてきた。



「シン。放って置け。」


「他の人達にも迷惑だし、オレもこれ以上並びたくないんです。」



 オレは牛獣人と馬獣人に近寄って行った。すると、牛獣人が何か言って来た。



「小僧! 何か用か?」


「後ろで並んでいる人達に迷惑なんだけど。」


「そんなこと知るか! 文句ならこいつらに言え!」



 馬獣人の隊長が言い返し、それに牛獣人が駄々をこねている。



「俺は順番を守れと言っているんだ!」


「ゴズ様の命令で来ている俺達を優先するのが当たり前だろうが。」



 オレはだんだん腹が立ってきた。すると、体中から黒い靄が現れ、周りの空気がだんだん冷えていく。周りの人達はその場から離れはじめた。すると、馬獣人に向けられていた牛獣人達の剣がオレに向けられた。



「小僧何者だ? 只者ではあるまい。」


「それを知ったらお前達死ぬぞ!」



 オレは体から闘気を解放して、右手を前に出し魔法を発動した。



「グラビティ―」



 牛獣人達が地面に叩きつけられる。必死に立ち上がろうとしているが、オレはそれを許さない。さらに魔力を高める。牛獣人達の身体から嫌な音がした。そして、地面にめり込んでいく。



「ギシッ、ミシッ」


「お、俺達が悪か、った。ゆ、許して、くだ、さい。」



 オレは魔法を解除して、牛獣人達に言った。


「お前達は一番後ろに並べよ!」


「はい!」



 牛獣人達は立ち上がると一目散に列の後ろに行った。その場にいた人達からは喚声が上がる。



「スゲ―――!」


「強いな! 君!」


「ねぇ、あの子、かっこいいわ~。」



 目立ってしまったオレは、久しぶりにフードを被って師匠のところまで行くと、馬獣人の隊長がやってきた。



「助かった。貴殿の名前は?」


「シンです。旅の途中なんですよ。」


「そうか。私はルドルフという。街の中に入ったら是非私に付き合ってほしい。」


「いいですけど、面倒ごとは嫌ですよ。」


「大丈夫だ。」



 オレと師匠が検問を通過すると、そこにはルドルフが待っていた。そして、オレと師匠はルドルフに案内され、かなり豪華に見えるレストランに入った。



「先ほどのお礼だ。好きなものを注文してくれ。」



 オレと師匠は遠慮なくステーキのコースを頼んだ。すると、ルドルフが話しかけてくる。



「シン殿は、子どもながら相当の実力者とお見受けした。」


「師匠と修行の旅をしているんで、多少は強いかもしれませんね。」


「あのレベルは多少どころではないぞ! 私にももっと力があればよいのだが。」


「何かあるんですか?」


「ああ、先ほどの牛獣人と我々馬獣人は昔から仲が悪くてな。4年に一度、この国の闘技大会があって、その前哨戦を行っているのだが、ここ最近我が馬獣人が負けておるのだ。」


「それで、あの牛獣人達は強気な態度だったんですね。」


「その通りだ。あいつらは1週間後に行われるその前哨戦のメンバーなのだよ。」


「1週間後ですか?」


「そうなんだ。私もその前哨戦に大将として参加するのだが、勝てるかどうか。」



 オレは師匠と顔を見合わせる。師匠が頷いている。1週間でルドルフがどこまで強くなれるかはわからないが、オレは訓練に付き合うことにした。



「ルドルフさん。死ぬほどきついけど我慢できますか?」


「えっ?!」


「オレが修行に付き合いますよ。」


「それは本当か? シン殿!」


「はい。そのかわり、ルドルフさんが音を上げたらそこでやめますから。それでいいですか?」


「是非ともお願いする。」



 オレと師匠はルドルフさんの紹介してくれた宿に泊まることにした。宿屋に入ると、若い女性が対応してくれた。



「セイコーさん。こちらはシン殿とナツ殿だ。しばらく世話になるがよろしく頼む。」


「オレはシンです。」


「私はナツ。」


「いらっしゃい。美男美女ね。お二人は1部屋でいいかしら?」


「はい。」



 師匠がいつものようにオレの手を握って体を密着させていたからだろうか、セイコーさんは赤い顔をしながら言った。



「羨ましいわね。仲がよくて。」


 

 何故かルドルフさんの方を見ている。



 翌日、オレと師匠が朝食を食べに行くと、すでにルドルフさんが宿に来ていた。オレと師匠はルドルフさんを連れて魔王城に転移した。



「シン殿。ここはどこですか?」


「魔王城ですよ。」


「魔王城?!



 そこに堕天使族のミアと竜人族のハヤトがやってきた。



「魔王様、お帰りなさいませ。」


「魔王様?!」


「オレ魔王なんですよ。」


「ええ―――――――――!」


「大丈夫ですよ。我々魔族は、他の種族とは平和的な関係を築こうとしていますから。」


「それで魔王様。この獣人族の方はどうされたんですか?」


「ああ、1週間で強くしてあげたいんだ。」


「ならば、このハヤトが訓練しましょう。」



 オレが修行に付き合う予定だったが、ハヤトさんが目を輝かせてオレを見てきた。もう、こうなったらハヤトさんにお願いするしかない。



「ハヤトさん。ルドルフさんの身体が壊れない程度にお願いしていいですか?」


「わかりました。」


「ところで、セフィーロさんは?」



 ここでミアが教えてくれた。



「アラクネ達を連れて、ハクスの街に行っていますよ。なんか被服の製作のお手伝いとか言っていましたが。」




 “グランデさんがハクスの街の準備を進めてくれたのかな?”




 ハヤトさんが訓練場にルドルフさんを連れて行った。オレと師匠はハクスの街の様子を見に行ったり、馬獣人族の街を散策したりした後、夕方には師匠の家に戻った。久しぶりに2人だけになったのでオレは師匠に甘えた。師匠も分かっているのか、オレに膝枕をしてくれている。


そして翌日、魔王城に戻ると、魔王城の闘技場にはボロボロになったルドルフさんがいた。まだ朝なのに、すでにぐったりとしている。



「ああ、魔王様。ルドルフ殿は根性がありますよ。技術とパワーを身に付ければそこそこ強くなれると思いますよ。」



 師匠がルドルフさんに治癒魔法をかけている。治癒魔法で復活したルドルフさんが立ち上がって、再びハヤトさんのところに行った。



「ハヤト様。もう一度お願いします。」



 再び、ハヤトによる修業が始まった。




 それから1週間後、オレと師匠は最後の仕上げ問うことで、ルドルフさんとハヤトさんの模擬戦を見に行った。オレも師匠もルドルフさんの成長ぶりに驚いた。動きもパワーもまるで別人だ。



「魔王様。ルドルフ殿はもう大丈夫ですよ。」


「シン殿。ありがとうございました。ここでの訓練は私の人生の宝物です。ハヤト師匠に訓練を付けていただいて、強くなれた気がします。」


「ルドルフさん。よく頑張ったね。じゃぁ、戻ろうか?」


「はい。」



 オレと師匠はルドルフさんを連れて馬獣人の街まで戻った。



「ルドルフさん。オレと師匠のことは秘密ね。」


「承知しています。」



 そして、いよいよ馬獣人と牛獣人による前哨戦の日がやって来た。会場は馬獣人の街の端にある闘技場だ。そこには馬獣人の族長メズと牛獣人の族長ゴズの姿もあった。お互いの視線に火花が飛んでいる。


 選手入場門から選手が入場してきた。見た目では牛獣人族の方が体が大きい。ここで、審判団から試合の説明があった。5人対5人で勝ち抜き戦のようだ。5人全員が負けた方が負けだ。



 いよいよ第1試合が始まる。すでに選手と審判が闘技場の中央にいた。



「第1試合始め!」



 馬獣人は素早い動きで牛獣人の周りを走りながら、剣で攻撃している。それに対して牛獣人の動きは遅い。だが、牛獣人が大剣を地面に振り下ろすと地面が揺れた。その瞬間、馬獣人の足がもつれた。その一瞬のスキを見逃さない。牛獣人が馬獣人に体当たりをした。馬獣人は壁まで飛ばされて気絶してしまった。牛獣人の勝ちだ。



 その後、馬獣人は2番手も3番手も4番手さえも勝てない。とうとう大将のルドルフさんを残すだけとなってしまった。相手はまだ5人全員が残っている。



「師匠。これほどの実力差があるんですね。」


「馬獣人はあまり訓練をしていないようだな。それに対して牛獣人はしっかりと鍛えているようだ。体つきが全然違うぞ!」


「確かにそうですね。」



 ここで、ルドルフさんが会場に現れた。武器を手にしていない。どうやらハヤトさんに鍛えられた通り、体術で勝負するようだ。



「第5試合始め!」



 試合開始の掛け声がかかると同時に、ルドルフさんが相手の選手に一気に近づき腹に蹴りを入れた。巨体の牛獣人は立った一発の蹴りでその場に倒れて意識を失った。



「勝者、ルドルフ!」


「オオ―――――――!」



 会場から大きな拍手と歓声が上がった。今まで一方的にやられて、意気消沈していた観客もルドルフの勝利に大きな拍手を送っている。



 続いて、第6試合、第7試合、第8試合、第9試合もルドルフさんが一方的に勝利した。だが、さすがにルドルフさんの息が上がり始めている。休憩もなく、いよいよ第10試合だ。



「ルドルフ。さすがだな。」


「後はお前だけだ。ガンツ。」


「オレは他の奴とは違うぞ! 牛獣人最強の俺が馬獣人最強のお前を倒すさ。」



 両者の睨み合いだ。会場もものすごい盛り上がりだ。



「ルドルフ! ルドルフ! ルドルフ・・・・・・・・」


「ガンツ! ガンツ! ガンツ・・・・・・・」



 緊張感がマックスだ。



「最終試合開始!」



 ルドルフが一気に距離を縮め、蹴りを入れるがガンツの強大な肉体がそれを跳ね返す。逆にガンツがルドルフにショルダータックルをお見舞いした。ルドルフの鼻から血が流れる。ガンツはその血を見るとさらに興奮したようにルドルフに襲い掛かる。ルドルフは体力が限界にきているようで、ぎりぎりかわしているが、ガンツの鋭いパンチがルドルフの腹に当たった。ルドルフが足を地面についた。そこをガンツはさらに攻撃しようと突進してきた。ルドルフはガンツの足に蹴りを入れる。ガンツはすごい勢いで転んだ。



「さすがだな。ルドルフ。」


「お前もな。ガンツ。」



 ここでガンツは頭の角を武器にするつもりなのだろう。頭を下げて突進してきた。ルドルフは大きくジャンプして、ガンツの頭に踵を落とした。ガンツはそのまま地面に叩きつけられる。ルドルフが近づくと、ガンツはすでに気絶していた。



「勝者ルドルフ!」


「オオ―――――――!」


「ルドルフ! ルドルフ! ルドルフ!・・・・・・」



 ルドルフコールが鳴りやまない。ここで、ガンツが意識を取り戻した。ルドルフはガンツに近づき手を差し伸べる。ルドルフとガンツはお互いの激闘をたたえ合い、固い握手をした。


 馬獣人族の族長のメズと牛獣人族の族長のゴズも席を立って、2人に拍手を送って讃えている。



「ルドルフ。闘技大会の本番では勝たせてもらうぞ!」


「ガンツ。お互いに勝ち抜けるように頑張ろうな。」



 2人は試合会場を去り、控室に戻った。オレと師匠が控室に行くと、ルドルフが立ち上がって挨拶をしてきた。



「シン殿のおかげで勝てました。感謝します。」


「ルドルフさんが頑張って強くなったからですよ。」



 師匠もルドルフさんを優しい眼差しで見ていた。



「では、シン。次の街に行こうか?」


「はい。」


「シン殿、ナツ殿。もう行ってしまわれるのか? メズ様にご紹介させていただこうかと思ったのだが。」


「そのうちまた会えると思いますよ。その時にはセイコーさんにしっかりプロポーズしておいてくださいね。」



 オレと師匠は次の街に向かった。


読んでいただいてありがとうございます。

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