アルベルト王国の大掃除(2)
カルポネ商会の本社の5階の会議室に商人達が集まっている。
「カルポネ殿、グランデ商会が発売した便座が大人気ですぞ!」
「ああ、私も便座というから気にもしていなかったが、馬鹿売れしているようだな。」
「口惜しいですな。我らにはあの商品を扱うことができません。」
「グランデの暗殺はどうなったんですか?」
「報告がないのだ! 仕方あるまい。」
「ならば、別の方法でカルポネ商会を潰しましょう。」
「ヒナタ公爵様のお力でどうにかならないのですか?」
「グランデは王家御用達だ。下手に動けば血の気の多いリチャードの怒りを買うだろう。」
「それにしても口惜しいですな。」
姿を隠して聞いていれば商人達は言いたい放題だった。だんだん、怒りが込み上げてきた。
商人達の勝手な言い分に我慢できなくなったオレ達3人は、同時に姿を見せた。当然3人は魔族の姿だ。
「お前達は何者だ?」
カルポネの声を聞いて、部屋の外で見張りをしていた傭兵達が部屋に入ってきた。だが、師匠が人睨みすると傭兵達は動けなくなった。
「魔族か? なぜ魔族が?」
ここでセフィーロが声をかける。
「あなた方は、無礼ですね。ここにいるのは魔王様ですよ!」
「魔王?」
全員がオレを見る。
「少年ではないか?」
オレは剣を構えている傭兵達を睨みつけた。すると、オレの赤い瞳が黄金色になり、次の瞬間、傭兵達が砂となって消えた。
「ひぇ――――!」
商人達は腰砕け状態になり、その場に座り込んでしまった。すでに何人かは小便を漏らしている。
「セフィーロさん。始末していいよ。」
セフィーロの指から長い爪が伸びた。セフィーロがその場で手を右から左に振った。すると、商人達の身体が切り刻まれ、辺り一面が血の海になった。
その場がたくさんの死体と血で大変なことになっている。
「汚れたままなのは嫌だな。」
「グラトニー」
オレの右手から光が現れ、その場の汚れも死体もすべて吸い込んだ。
「さすがです。魔王様。」
「帰ろうか?」
「はい。」
オレと師匠とセフィーロは魔王城に戻った。しばらくすると、ハヤトとミアも戻ってきた。何やらミアが怒っている。
「だから、獲物は半々って約束したでしょ!」
「いいや。早い者勝ちだな。」
ここで、ミアが声をかけてきた。
「聞いてください。魔王様。ハヤトが私の獲物を横取りしたんです。」
「魔王様。誤解ですぞ。我の方が早く終わっただけのことです。」
とりあえずはすべて終了した様子だった。
「2人ともありがとう。奴隷達はどうしたかな?」
「はい。王城のリチャード様に全員渡してきました。」
「すべて順調だったね。みんなありがとう。」
「もったいないお言葉です。また、何か楽しいことがあったら、是非声をかけてくださいね。」
「そうするよ。ありがとう。」
オレは、さすがに疲れたので師匠の家に帰って、師匠に十分甘えた後ゆっくり寝た。
翌朝、オレはアルベルト王国のリチャードさんを訪ねた。オレが城内の応接室で待っていると、ザリウスさんとリチャードさんがやってきた。
「魔王陛下殿、この度はありがとうございました。」
リチャードさんが仰々しく挨拶をしてきた。オレは師匠と顔を見合わせて、リチャードさんに言った。
「リチャードさん。今まで通り“シン”でお願いします。別に偉くなったわけでもないので。」
「シン殿はやはり、器が大きいですね。私もシン殿のようになれるでしょうか?」
「別にオレは自分のことを特別だとも思っていませんから。リチャードさんはザリウスさんとグランデさんに相談しながら進めれば、失敗はないですよ。」
「だといいんですが。」
「国のため、国民のためを考えて行動してください。そうだ。奴隷だった人達はどうしていますか?」
「今から解放するつもりで、中庭の闘技場に集まってもらっています。」
「それは良かったです。師匠。奴隷紋を解除してあげないと。」
「そうだな。消してやった方がいいな。」
オレと師匠は奴隷達の前に出た。師匠が両手を広げて魔法を唱える。
「リカバリー」
すると、会場全体が光に包まれた。会場の中からどよめきが起こる。
「どうしたんだ?」
「いったい何なんだ?」
「消えてる! 奴隷紋が消えてるわ!」
「俺もだ! 消えてるぞ!」
「自由だわ! 私は自由になったんだわ! 神様~。」
その様子をオレと師匠は確認して、魔王城に戻った。玉座の近くにはセフィーロさんがいた。
「セフィーロさんは、オレが戻ってくることがよくわかるね。」
「はい。なにかあったらすぐに駆け付けられるように、魔王様の近くに眷属を置いていますから。」
「そうなんだね。ありがとう。」
「シン。これからどうするつもりだ?」
「この国の古代遺跡をどうにかしないといけないですよね。」
「そうだな。なら、片づけに行こうか?」
オレと師匠は古代遺跡のある旧ヒナタ公爵領のノブミまで飛翔して行った。古代遺跡は
ノブミの街の端の草原地帯にあった。オレと師匠が地上に舞い降り、古代遺跡の中に入ろうとすると、兵士達に止められた。
「貴様ら何者だ? ここには許可なく立ち入ることはできんぞ!」
まだ、ヒナタ公爵一派が捕縛されたことが伝わっていないようだった。
「オレはこの国のリチャード第1王子から許可をもらっているんだけど。」
「ここはヒナタ様の領地だ。いかに第1王子の許可があろうと通すわけにはいかんぞ!」
「ヒナタ公爵一派なら反逆罪で全員捕まったよ。」
「貴様! 何を訳のわからんことを言っているのだ! そんなはずはなかろう。子どもだろうと許さんぞ!」
すると、オレと兵士達のやり取りに我慢できなくなったのか、師匠が後ろから魔法を発動した。
「シャドウスリープ」
全員がその場で寝てしまった。
「これでいいだろう。時間の無駄だ。」
「まっ、仕方ないですね。」
オレと師匠は古代遺跡の中に入って行った。リリシア帝国の港町トマリの古代遺跡と中の様子が違っていた。トマリの古代遺跡が軍事基地のようだったのに対して、この遺跡は開発基地のようだった。いくつかの小部屋があり、それぞれの部屋に書籍が大量にあった。
さらに奥に進もうとすると、オレの魔力感知に反応があった。
「これはこれはお懐かしい。ナツ=カザリーヌ殿ではありませんか。」
声のする方を見ると、白い服を着た研究者風の男が立っていた。
「お前はナザル! ここで一体何をしている!」
「そこの坊やですか? 私の大切な道具を破壊してくれたのは。」
「道具?」
「そうですよ。ブラゴですよ。」
「魔王ブラゴがお前の道具とはどういうことだ!」
「少しばかり改造してあげたんですよ。」
「ふざけるな! 魔王がお前ごときの道具になるわけが無かろう!」
「ならば、他の道具もお見せしましょう。もう、ここの調査も終わりましたからね。」
ナザルが手を振ると空間に亀裂が発生した。その中から、三つ首で巨体のケルベロスが現れた。冥界の番犬と言われている存在だ。
「どうです。私の作品は? 私はこれで失礼しますよ。」
ナザルはその場から消えた。
「ワガアルジ、ナザルサマニハムカウオマエラハ、ユルサヌ。」
「ケルベロスがしゃべった?」
「シン。気を付けろ! ただのケルベロスとは違うようだ。」
「はい。」
ケルベロスがジャンプして鋭い爪でオレに襲い掛かる。オレは、それを横に避けて刀を抜いた。ケルベロスは速度を上げてオレに襲い掛かるが、オレには通用しない。
「キサマナニモノ? タダノマゾクトチガウ。」
オレは闘気を開放した。すると、身体から真っ黒な霧が噴き出す。さらに、闘気を開放すると真っ黒な霧の中から眩しい光が現れる、その姿は今までの白髪が変化して赤髪となり、目の色も赤から黄金色に変化していた。翼も黒から純白へと変化している。
「お前はこの世界に不要な存在だ。」
「オマエノソノスガタ、マゾクカ?」
「消えろ!『ブラックホール』」
オレは空間魔法のブラックホールを発動する。ブラゴに敗北した時と違い、黒色が濃く、中に引き込む力は数千倍だ。
「オノレ―――! ナザルサマ―――――!!!」
ケルベロスはブラックホールに吸い込まれて消滅した。
「シン。やはりお前は強くなったな。それにその姿も魅力的だぞ!」
師匠がオレに抱き着いてきた。顔が胸に埋もれて息ができない。
「師匠。苦しいです。」
「済まん。つい、シンが可愛くてな。」
師匠が顔を赤くしてもじもじ始めた。
「師匠。この奥になにかあるかもしれません。」
オレと師匠はナザルのいた場所からさらに奥の部屋に向かった。するとそこには、戦闘機・戦車・レーザー砲・小型ミサイルなどの大量の兵器があった。ほとんどが作る途中の未完成品だが、中にはすでに完成したものもある。
「こんなものが世に出たら大変だな!」
「はい。なんとしても全ての古代遺跡を探し出さないといけないです。」
オレは全てを空間収納にしまい、師匠が極大魔法で前回同様に古代遺跡その物を消滅させた。
その後、オレと師匠が魔王城に戻ると、いつもの通りセフィーロさんが玉座の近くにいた。
「お帰りなさいませ。魔王様。古代遺跡はどうでしたか?」
「すべて処分したけど、ゲイルがいたよ。」
「あの研究者のゲイルですか?」
「そうだよ。どうやらブラゴはゲイルの研究材料だったみたいだよ。」
「なんと?! それでゲイルはどうしたんですか?」
「改造したケルベロスを出して、逃げて行ったよ。」
「あやつも前魔王のブラゴ同様に悪魔族ですから、納得できますな。」
「ところで、シン。これからどうするつもりだ?」
「次の国に向かつもりですよ。師匠。」
「どこに行くか決めているのか?」
「いいえ。リリシア帝国、アルベルト王国とどちらにも古代遺跡がったから、他の国にもあると思うんです。」
「魔王様。そのことですが、アルベルト王国の隣のカナリーゼ共和国に行くのがよろしいかと思いますよ。」
「セフィーロさん。その国に何かあるの? 」
「特に何かあるわけではないのですが、様々な種族の獣人達が集まってできている国でして、少し不穏な噂を聞いたことがあります。」
「不穏な噂?」
「はい。覇権争いですね。自分の種族こそと考える輩がいるんですよ。」
「師匠。カナリーゼ共和国に決めたよ。」
「シンが決めたら、私はついていくだけよ。」
オレと師匠はカナリーゼ共和国に行くことに決めた。
読んでいただいてありがとうございます。
是非、評価とブックマークをよろしくお願いします。