アルベルト王国の大掃除(1)
翌日、オレにセフィーロさんから念話が入った。オレと師匠は急いで魔王城に転移した。
「魔王様。眷属より報告が入りました。どうやら公爵家一派には公爵を始め、侯爵1名、伯爵2名、子爵3名、男爵3名がいるようです。」
「では、彼らが一堂に集まるようにミアさんに名簿を渡して。」
「商人の方も判明しています。」
「その名簿はオレがもらいましょうか。ちょっと考えがありますから。」
その後、オレと師匠は商人の名簿を持ってグランデさんを訪ねた。
「どうしましたか。シン殿。」
「はい。これがカルポネ商会とその仲間の商人の名簿です。彼らを一網打尽にします。」
「この名簿はどうしたんですか?」
「魔族の仲間が調べてくれたんですよ。」
「ですが、彼らを一か所に集めるなんて可能なんですか?」
「以前、お湯の出る便座の話をしましたよね。商品はできていますか?」
「大方完成しています。」
「なら、それを大々的に発表しましょう。恐らく相当な話題になります。そこで、奴隷を扱っている商人にはこの商品を卸さないと表明すれば、困った彼らは集まって相談するはずですよ。」
「なるほど!」
「だけど、そうなるとグランデさんの命が狙われる可能性が出てきますから、しばらく身を隠していただきます。」
「わかりました。ではすぐに手配をしましょう。」
オレは師匠と魔王城に戻った。するとミアさんが待ち構えていた。
「良かったです。丁度魔王様にご報告しようと思ったところなんです。」
「どうですか? 状況は?」
ミアさんも師匠と同じ堕天使族だけあって、超美人だ。それに師匠よりも胸が大きく肌の露出が多い。オレはいつも目が泳いでしまう。そんな挙動不審なオレを師匠が腕を強く掴んだ。
「お二人は本当に仲がよろしんですね。羨ましいですよ。」
「ミアさんもすごく魅力的ですよ。」
オレの発言にミアさんは顔を赤くした。ここで師匠がミアに言った。
「ミア。報告はどうした!」
「そうだった。現在ヒナタ公爵の一派はほとんどが王都に来ています。ですので、セフィーロが男爵の1名を捕らえて、ヒナタ公爵一派の使用人達に噂を流しました。」
「どんな噂ですか?」
「ザリウス国王が退位して、リチャード第1王子が国王になり、公爵一派を全員捕らえて処刑すると吹き込みました。」
「そんな噂を耳にしたら、公爵達は焦るだろうな。」
そこにセフィーロが、捕らえた男爵を連れてやってきた。目隠しをされている男爵は周りが見えてない。恐怖心からか喚き散らしている。
「放せ! 貴様らは何者だ?! このようなことをしてただで済むと思っているのか!」
「セフィーロさん。目隠しを外してあげてください。」
目隠しを外された男爵は、周りの様子を見て驚いている。
「ここはどこだ?」
今、魔王城の玉座に黒い翼を付けたオレが座っている。その右側に同じく黒い翼を付けた師匠が立っている。そして、玉座の前の赤い絨毯にはセフィーロとミアがいて、男爵はその2人の足元に座らされている状態だ。
男爵はオレを見た。オレは全身から魔力を放出した。そして魔王らしい態度で話す。
「人間。ここは魔王城だ。本来貴様のようなゴミムシが入れる場所ではない。」
「ヒィ―――――!」
男爵は恐怖のあまり失禁してしまった。
「お前、オレの前でお漏らしか?」
ここで、師匠が男爵を鋭い目で睨んだ。
「魔王様の御前を汚すとは許せん。」
「お許しを。どうかお許しを。」
男爵は涙と鼻水で顔をクシャクシャにしながら懇願している。
「お前はリチャードに引き渡そう。お前のような汚れた血で、高潔なる我らが魔族の城を汚したくない。」
魔王城の兵士が男爵を牢に入れるため連れて行った。オレは魔王の風格を出すための演技に少し疲れた。そんなオレの姿を見て、師匠が笑って話しかけてきた。
「良かったわよ。シン。本当に魔王みたいだったわ。」
「ナツ殿。シン様は魔王様になられたんですから、“みたい”ではないですよ。」
ミアも笑っている。オレはこの雰囲気が大好きだった。仲間のみんなが笑顔でいるこの雰囲気が大好きだ。
「あっ、セフィーロさん、ミアさん。オレはこれから公の場ではシン=カザリーヌを名乗ります。」
「えっ?!」
「オレは師匠と一心同体なんですよ。」
「ならば、ナツ殿はいつ王妃になれるのですかな?」
「オレが成人したらね。」
「そうですよね。魔王様はまだお子ちゃまですもんね。」
「ミアさん、酷いですよ。」
オレ達が歓談していると、魔族の兵士がやってきた。そしてセフィーロさんに報告をしている。
「魔王様。どうやら公爵一派が公爵の屋敷に集まるようです。」
「ならば、皆で乗り込もうか?」
「はい!」
その頃ヒナタ公爵の屋敷には公爵に近い貴族達が続々と集まってきていた。
「噂を聞いたか?」
「ああ、まさかリチャードに王位を譲るとはな。あの腑抜けのザリウスと違ってリチャードは面倒だ!」
「もっと早くにあやつを殺しておけばよかった!」
「今頃言っても遅いわ!」
ここでヒナタ公爵が公爵邸の大会議室に姿を見せた。全員が公爵に向かって挨拶をした。
まるでヒナタ公爵こそがこの国の国王であるかのような状態だ。
「椅子にかけてくれたまえ。」
全員が椅子に腰かけた。そして真剣な顔でヒナタ公爵を見ている。
「みんなも噂を聞いただろう。ザリウスが王位をリチャードに譲る件だ。それはいいとして、こともあろうに我々を処刑するなどとほざいているようだ。」
「どうされるんですか? ヒナタ公爵様。」
「あの若造に思い知らせようぞ! 今日、それぞれの領地に帰り、我々は挙兵しようではないか!」
「オオ―――――!」
「やっとこの国が我らのものになるのか!」
「やりましょうぞ!」
「では、いよいよあの遺跡から見つかった兵器を使うのですな。」
「ああ、そうだ。あれさえあればこの国どころか世界を我々が支配することができるぞ!」
「そうしたら、我らはそれぞれが一国一城の主ですな。ハッハッハッ」
ここで公爵達は挙兵の具体的な作戦の話し合いに入った。すると、会場の空気がだんだん冷えてくる。
「おい、なんか寒くないか?」
「そうだな。これは武者震いってやつか。ハッハッハッ」
能天気な貴族達はすでにシン達がこの会場で身を潜めていることを知らなかった。
「なんか、息苦しくないか?」
「ああ、さっきからわしも同じだ。」
すると、部屋の中にもかかわらず、そこに黒い霧が発生し、霧の中からは背中に黒い翼を出した紳士が現れた。紳士の口元には鋭い牙がある。
「貴様何者だ? どこから入った?」
「私は魔王軍の四天王、バンパイアロードのセフィーロです。お見知りおきを。」
貴族達が全員驚いている。すると、続々と四天王が姿を現す。
「私は魔王軍の四天王、ミアよ。」
肌の露出が多い美女に貴族達の目が向いた。
「我は魔王軍四天王のハヤトである。」
ドラゴンに近い姿をしたハヤトに貴族達は怯えた。
「私は魔王軍四天王筆頭のナツ=カザリーヌよ。知っていらして?」
ナツ=カザリーヌは伝説の魔族だ。公爵の顔が青ざめていく。
そして一段と濃い靄が発生し、その靄から伝わる闘気が会場の壁にひびを入れる。
「バリバリバリ」
そこに背中から翼を出した一人の少年が姿を現す。
「オレは魔王シン=カザリーヌだ。お前達に死を連れてきてやったぞ!」
全員が椅子から転げ落ち、震えて小便を漏らしている。
「助けてくれ!」
「何でもする! 助けてくれ!」
中にはすでに気絶した者もいた。小さいほうでなく大きい方を漏らす者までいた。会場内に糞尿の匂いが立ち込める。
「魔王様。この場所は臭いですわ。早く始末しちゃいましょ。」
その言葉に貴族達の恐怖心はマックスだ。
「セフィーロさん。お願いね。」
「畏まりました。魔王様。」
セフィーロが右手を前に出すと手から黒い霧が蛇の形になっていく。そして、貴族達を全員縛り上げた。
「じゃぁ、予定通りハヤトさんは奴隷商を皆殺しね。ミアさんも手伝ってあげてくれるかな。奴隷達は解放して王城に連れてきてね。ミアさん、病人や怪我人の治療もお願いね。」
「畏まりました。では、行ってまいります。魔王様。」
「さて、セフィーロさん。こいつらは王城に連れていくよ。」
オレ達は公爵一派の貴族達を連れて王城に転移した。大人数が一度に王城の謁見の間に現れたので、王城の兵士達は驚いて警戒している。
「オレだよ。心配しないで。ザリウスさんとリチャードさんを呼んで来てくれるかな?」
兵士は慌てて部屋の外に出て行った。公爵一派の貴族達はうるさいので眠らせてある。しばらくして、外から足音が聞こえた。そして、そこにザリウスさんとリチャードさんが部屋に入ってきた。
「シン殿。これは?!」
「仲間に協力してもらって、ヒナタ公爵一派を全員捕まえてきましたよ。」
「そちらの方は?」
「私は魔王軍四天王の一人、バンパイアロードのセフィーロです。」
「えっ?!」
「シン殿。これはどういうことですか?」
「あれ?! 言ってなかったかな? オレ、魔王になったから。」
「ええ――――――――!!!」
「そうだ。オレの仲間がここにたくさんの奴隷達を連れてくるから、受け入れの準備をしといてくれますか? ここで奴隷達の面倒を見てあげて欲しいんです。彼らが元気になったら、それぞれ自由にさせていいですから、それと公爵一派の集めたお金をどうせ没収するだろうから、自由にするときにお金も上げて下さいね。」
その後、ヒナタ公爵一派の貴族達はリチャードさんに引き渡して、オレ達は商人達が一堂に集まっている会場に向かった。
「父上。シン殿はいったい何者なんでしょうか?」
「さあな。だが、あの方がいればこの世界もよくなるかもしれんな。」
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