ザリウス国王とリチャード第1王子
グランデさんの自宅で相談した後、一旦解散となり、翌日、グランデさんと一緒にザリウス国王陛下に面会することになった。
現在は、師匠の家に転移して戻ってきている。
「師匠。やっぱり古代遺跡がありましたね。」
「ああ、他にもあるだろうから、私達で全部回収しないといけないな。」
「古代遺跡の場所がすべてわかったらいいんですけどね。」
「まっ、気長に考えるさ。私はシンと旅ができるだけでうれしいからな。」
「オレも師匠といられるだけで幸せですよ。」
翌日、オレと師匠はグランデさんと一緒に王城に向かった。
「グランデさん。国王陛下はどんな方ですか?」
「平和を重んじる方なのですが、そのために公爵一派のことを止まられないんですよ。」
「子どもはいないんですか?」
「立派な第1王子がいます。ただ、第1王子のリチャード様はお若いせいか少し血気盛んなところがありまして、公爵一派のことをいつも苦々しく思っておられるようです。」
「リチャードさんにも会わせてください。」
「はい。」
ここで師匠が聞いてきた。
「シン。どうするつもりだ。」
「はい。国王に統治能力が無いようなら、リチャードさんが国王になった方がいいと思うんですが。」
「若すぎないか?」
「カエサルさんだって頑張ったんだからできると思いますが。」
「会ってみてからだな。」
「オレもそう思います。」
師匠とオレの会話をグランデさんは真剣な顔で聞いていた。馬車が停まった。どうやら王城に到着したようだ。オレ達は王城の兵士に案内され応接室に向かった。
応接室で待っていると、ザリウス国王とリチャード第1王子が入ってきた。オレ達は片膝をついて臣下の礼を取った。
「よいよい。座ってくれ。」
「はい。」
オレ達は席に座った。ザリウス国王は、見た目気が弱そうで優しそうな中年男性だ。それに対してリチャード第1王子は、筋肉質で大柄な10代後半の男性だった。
「グランデ。今日は何の用だ。」
「はい。最初に紹介します。」
グランデさんが紹介を始めようとしたので、オレは自分から名乗った。
「オレはシンです。冒険者です。」
「私はナツ。同じく冒険者だ。」
オレ達の口の利き方に第1王子のリチャードが文句を言ってきた。
「貴様達。国王陛下に向かってその口の利き方はなんだ! 無礼であろう!」
オレはリチャードに言った。
「国王ってそんなに偉いの? オレは一生懸命真面目に生きている人。転んでいる人がいれば手を差し伸べることができる人。食べる物が無ければ、自分の食べる物を分け与えることができる人。そんな人が偉いと思うよ。それに、国王には率先してそういう人達の生活を守る義務があるんじゃないのかな。でも、この国では真面目な人も奴隷になったりするよね。それで、国王が偉いって言えるの?」
「おのれ~! 言わせておけば!」
リチャード第1王子が剣に手をかけた。
「リチャードさん。ここじゃ狭いから外に行こうよ。そこで、相手をしてあげるよ。」
「よし! ついて参れ!」
師匠は笑っている。グランデさんは額から冷や汗を流している。ザリウス国王はアタフタしているだけだ。
城の中庭の訓練場に来た。リチャード第1王子は、剣を手に持っている。オレは、何も武器を持たずに立っている。
「貴様。何故武器を手にしない。」
「あなた程度に武器はいらないでしょ。」
オレの言葉にリチャード第1王子は冷静さを失っている。顔を真っ赤にして怒りを表に出していた。
“なるほど、グランデさんが言った通り、この人は短気過ぎだな。”
「どこからでもいいよ。かかってきな。」
リチャードは剣を持って突進してきた。オレは軽く避ける。さらに、右に左にと剣を振るが、掠りもしない。オレがその様子を立ってみていると、怒りの表情をしながら、上段から剣を振り下ろしてきた。オレはあえてよけずに指2本で剣を受けとめた。
「なに~?!」
「あんた弱すぎなんだよ。自分が弱いことを知らずに、やたらと人に喧嘩をうっていたら大怪我じゃすまなくなるよ。あんたが怪我をするのは勝手だからいいさ。でも、それに国民を巻き込むのは馬鹿だよね。」
オレは腹に軽く蹴りを入れた。リチャード第1王子は地面を転がった。
「いいかい? 見ていなよ。」
オレは全身の魔力と闘気を開放した。すると、オレの身体から真っ黒なオーラが溢れ出る。闘技場には冷たい空気が流れ込み、晴天だった空には黒い雲が発生している。オレは、片手をあげて魔法を発動する。
「サンダー」
真っ黒な空から巨大な稲妻が地面に落ちた。硬いはずの訓練場の地面にクレーターができている。
「まだやるかい?」
リチャード第1王子は顔を青くして剣をその手から落とした。地面に座り込んだまま立つこともできない。オレは魔法を解除してリチャード第1王子のもとに行き、手を差し出した。
「応接室で今後の相談をするんだろ!」
リチャード第1王子はオレの手を掴んで立ち上がった。
「小僧! 貴殿は何者なんだ?」
「だから最初に言ったでしょ。冒険者だから。」
全員が応接室に戻った。そして、ここから話し合いが始まる。
「リリシア帝国のカエサルさんと同じように、ザリウスさん、リチャードさんって呼ばせてもらうけどいいかな?」
「カエサルって、皇帝のカエサル殿のことか?」
リチャードさんが驚いて聞いてきた。
「そうですよ。友人なんですよ。アナンさんも。」
ザリウス国王が頷いている。
「そうでしたか。」
オレは自分の持論をその場で話した。
「リチャードさん。さっきオレが言ったことが分かりますか? オレがカエサルさんに皇帝になってもらったのは、カエサルさんが皇帝にふさわしい人物だったからですよ。」
「ええ――――――!!」
国王も第1王子も自分達の立場を忘れ、大声を出して驚いた。
「カエサル殿は確か、魔王騒動の後で皇帝に就任したのではなかったかな?」
「そうですよ。」
「シン殿はおいくつなのですかな?」
「11歳ですが。」
「では、計算が合わないのではないですかな?」
「ええ、オレはあの騒動の後、時間の経過しない場所に行っていましたから。」
「時間の経過しない場所ですか?」
「そうですよ。」
ここで師匠が言ってきた。
「シンは神界に行っていたんだ。」
ここで、ザリウスさんとリチャードさんの限界が来たようだ。2人とも意識を失った。グランデさんは大精霊の件もあってか、まだ耐えている。
「シン殿。本当に神界に行っていたんですか?」
「はい。地上に戻ったら10年が経過していましたけどね。」
「ならば、神々にお会いになられたんですか?」
「何人かですけどね。」
「なるほど、大精霊様方がシン殿に従う理由が分かりましたよ。」
「オレはグランデさんに話した通り、師匠と同じ堕天使族ですから、不思議な事ではないと思いますよ。」
ここでグランデさんが真剣な顔で考え込んでしまった。2人の意識が戻らないので、オレが2人に『ヒール』を発動すると、2人が意識を取り戻したので話を進めた。
「オレのことはそこまでにして、オレの考えを言います。」
もはや国王も第1王子も真剣な表情で聞いていた。
「お願いします。」
「最初に公爵一派にはこの国から退場していただきます。ただし、オレが“不要”と判断したもの達だけです。それ以外は、同じ国民として受け入れてください。」
「わかりました。」
「次に、ザリウスさんには引退していただき、リチャードさんが王に即位してください。それから、グランデさんに爵位を与えて、宰相に就任させてください。」
「私が貴族になるんですか? ましてや宰相など。」
「皆さんは『王権神授』という言葉を知っていますか?」
「いいえ。」
「王の権力は神より授けられるという考えです。つまり、さっきオレが言った通り“君主”にふさわしい人物が神から王に任命されるのです。当然権力を持ちますが、その分大きな義務が発生します。それは、国民の生活や世界の平和と秩序を守るということです。カエサルさんはすでに王にふさわしい人物なんですが、リチャードさんはまだ若く、経験が不足しているところがあります。そこで、宰相のグランデさんの助けが必要なんですよ。」
「わかりました。」
「それと、古代遺跡はオレと師匠が消滅させますので、承知してください。この世界には不要ですから。」
「わかりました。」
すべての話し合いが終了した時、リチャード第1王子が言ってきた。
「今日はシン殿に数々の無礼をしてしまい、許していただきたい。ところで、シン殿は“神の使徒”なのか?」
「別に管理神様からも武神のタケルさんからも魔法神のマジクさんからも頼まれたことはないですよ。」
オレの発言にリチャード第一王子は一瞬目を丸くしたが、直ぐに平常心を取り戻した。
「リチャードさん。オレはリチャードさんにいろいろ言ったけど、リチャードさんがこの国のリーダーになるんですよ。リーダーの考え一つで、国民の生活は良くも悪くもなるんです。だから、どんな時でも『冷静』を心がけてくださいね。」
「はい。神の言葉として肝に銘じます。」
その場に笑いが起きた。
オレと師匠とグランデさんは王城を後にして、街中を散策することにした。
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