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自分探しの異世界冒険  作者: バーチ君
魔王?! 精霊王?!オレが?!
29/107

グランデ商会の会長グランデ

 アヅミの街を後にして次の街ジフミに向かった。ジフミの街に行く途中、街道沿いに壊れた馬車の残骸がいくつもあった。どうやら、魔物か盗賊に襲われたらしい。そして、700m先でオレの気配感知に反応があった。



「師匠。この先で大勢の人間が争っているみたいです。」


「本当か? 急ぐぞ!」



 オレと師匠は走って向かった。すると、馬車のまわりで人々が争っている。冒険者風の男女が5人、対する相手は30人程いた。双方に怪我人が出ている様子だ。中にはすでに動かない人もいた。どちらに加勢しようか悩んでいると、冒険者風の男性が大声で叫んでいる。



「貴様ら盗賊に負けるわけにはいかん!」


「馬車を置いて行けば命は助けてやるぞ!」



 2人のやり取りを聞いていたオレと師匠は、冒険者風の人達の加勢に入った。オレは剣を抜いて一気に相手を切り倒していく。師匠は馬車の周辺の盗賊達の相手をしていた。



「助かる!」



 冒険者風の男が感謝の言葉を口にした。それに対して、盗賊の首領らしき男が怒鳴ってきた。



「小僧! 貴様ら何者だ! 余計なまねをしやがって!」



 ここで、オレは盗賊達に聞いた。



「ここに来る前の馬車もお前達の仕業か?」


「ああ、そうだよ。これが俺達の商売だからな。」



 その言葉を聞いて怒りが込み上げてきた。全身から真っ黒な闘気が溢れ出ている。周りの空気が寒くなってきた。ここで、師匠が声をかけてきた。



「シン。闘気を抑えろ! こっちにも犠牲者が出るぞ!」



 冷静になって周りを見ると、盗賊達の中にも冒険者達の中にも地べたに座り込んで震えている者がいる。オレは盗賊達に向かって言った。



「お前らには生きる価値がない。死ね!」



「シャドウボール」



 黒い霧状のものがオレの手に現れると、どんどん大きくなり盗賊達を飲み込んでいく。すでに盗賊達は全身が硬直して動くことができない。 

 

 

「許してくれ!」


「勘弁してくれ!」



 盗賊達は泣き叫んでいる。オレは無慈悲に魔法を発動した。



「エアーカッター」



 目に見えない風の刃が盗賊達の首を次々と刎ねていく。



「ギャ―――――!」



 盗賊達全員が死んだことを確認して、オレが冒険者達に近づくと、冒険者達までオレのことを恐怖の目で見ていた。



「君は何者なんだ? 君のオーラ、君の魔法は、あれはいったい何なんだ?」



 冒険者達がまるで人間以外の怪物でも見るような目でオレを見ている。オレは少し悲しくなった。助けた人達からの視線がすごく痛かったからだ。そこに師匠がやってきた。



「お前達は助けてもらってお礼の言葉も言えないのか! シン! こんなやつらと話をする必要もない!行くぞ!」


「・・・・・」



 師匠はオレの肩を抱いて、その場からオレを遠ざけようとした。その時、馬車の中から一人の老人が現れた。



「ちょっと待って下さい。助けていただいて感謝します。私はグランデ商会のグランデといいます。是非一緒に馬車に乗って行ってください。」



 オレは師匠の顔を見た。師匠が頷いている。オレは師匠と一緒にグランデさんの馬車に乗せてもらうことにした。



「私が雇った冒険者達があなた方に不快な思いをさせてすみませんでした。許してやってください。」


「いいえ。もう大丈夫です。オレはシンです。」


「そちらのお奇麗な女性は?」


「私はナツだ。」


「シン殿にナツ殿ですか? 冒険者達が怖がったのは、シン殿の強さが尋常でなかったからでしょう。彼らもAランクの冒険者達ですから。」


「オレは師匠と修行の旅をしているんです。冒険者登録はしていますが、ランクを気にしたことはありません。」


「なるほどなるほど。ランクよりも実力ということですな。」


「もしかすると、10年ほど前に、隣国のリリシア帝国に現れた魔王を倒した人物というのは、あなたですか?」


「グランデさん。オレを何歳だと思っているんですか?」


「ああ、そうでしたな。これはうっかりしました。」



 グランデさんは目を細めて何やら考えているようだった。気分の落ち着かないオレは、グランデさんの視線を気にすることもなく、師匠に体を寄せて甘えた。



「仲がよろしいようですな。ところで、お二人の関係は?」


「師匠はオレの師匠であり、母であり姉でもあります。」


「母ですか?」



 うっかりしてしまった。現在のオレは11歳だ。人族の13歳ぐらいと同じに見えるだろうが、師匠もどう見ても18歳ぐらいにしか見えない。それが『母親』とはどう考えてもおかしい。



「母のように食事を作ってくれたり、面倒を見てくれたりするということですよ。」


「そう言うことでしたか。」



 ここで師匠が話題を変えた。



「ところでグランデ殿は商会を経営しているということだが、何を扱っているんだ?」


「いろいろですよ。衣料品、食料品、魔道具、武器、日用雑貨などですね。」


「幅広いんですね。」


「このアルベルト王国は商業の国ですからね。近隣の国から仕入れたり、その逆で近隣の国に売ったりしていますから。ところで、お二人はどちらまで行かれるのですか?」

 

「とりあえず、ジフミの街に行って、それから先は師匠と相談して決めるつもりでした。」


「なら、私と一緒に王都のツバメまで行きませんか? あなた方2人が同行してくれれば私としても心強いです。報酬は支払いますよ。」


「どうします? 師匠。」



 ここで師匠が条件を出す。



「報酬はいくらでもいい。それよりも、私達のことについて詮索しないでいただこう。」


「わかりました。では、決まりですな。外の冒険者達は怪我をしているようですから、次のジフミまでとしてもらいましょう。」



 オレ達はジフミの街に到着した。王都の近くの街ということもあり、街中には人がたくさん出ていて賑わっていた。ただ、街の雰囲気に少し違和感があった。



「師匠。この街の雰囲気、なんか暗くないですか?」


「やはり、シンも感じたか? 恐らく原因はあれだな。」


 

 師匠が指さした先に、鎖でつながれた人達がいた。どこかに連れていかれるようだ。



「シン殿。ナツ殿。やはり気になりますか?」


「はい。彼らは犯罪者なんですか? とてもそうは見えませんが。」


「奴隷ですよ。」


「奴隷?」


「そうです。罪を犯して奴隷になるもの、借金の方に奴隷になるもの、本来はあり得ませんが攫われてきて奴隷にされるものもいますね。」


「彼らはどうなるんですか?」


「競売にかけられるんですよ。」


「売られるんですか?」


「そうですね。女の奴隷は最悪です。子どもでも大人でもお構いなしに、性奴隷にされますから。」



 オレは胸の辺りに痛みを感じた。次の瞬間、頭の中に声が聞こえる。




 『罪なき奴隷を解放せよ!』




 この声は間違いなく管理神様だ。やはり、神々もこの状況を好ましく思っていないようだ。


 オレ達はグランデさんと一緒にギルドに行った後、宿屋に行った。



「師匠。恐らく管理神様だと思うんですが、また声が聞こえました。」


「管理神様は何とおっしゃったのだ?」


「罪のない奴隷達は解放するようにって言われました。」


「そうか。それでどうすんだ?」


「奴隷達を誘拐してリリシア帝国に連れて行こうと思うんですけど、ダメですかね?」


「この街の奴隷達はそれでいいだろうが、根本的な解決にはならんぞ。」


「・・・・・」


「いっその事、私とシンでこの国を滅ぼしてしまうか?」


「ダメですよ。そんなことしたら魔王と一緒じゃないですか?」


「なら、この街の奴隷達だけでも何とかするか。」


「はい。カエサルさんに相談に行きましょう。」



 オレと師匠はリリシア帝国の皇帝カエサルさんに会うために城に転移した。最初は突然現れるオレ達に驚いていた執事やメイド達も慣れたようで、カエサルさんを呼びに行ってくれた。


 いつものように応接室に通され、待っているとカエサルさんがやってきた。



「何かありましたか?」


「はい。今、隣国のアルベルト王国にいるんですけど、どうやら奴隷制度があるようなんですよ。」


「そうですか。このリリシア帝国にも奴隷制度がありましたが、この10年間ですべて解放しました。ただ、犯罪奴隷達だけはそのままですがね。」


「それで、この国に奴隷達を連れてきたいんですが、この国の国民として保護してもらえますか?」


「国民が増えることはありがたいことです。いいですよ。」


「ありがとうございます。」


「ただ、あの国の奴隷制度がなくならない限り、永遠に奴隷は発生しますよ。」


「そうなんだ。シンとも考えたんだが、いい案が思い当たらんのだ。」


「いっそのこと、あの国をシン殿とナツ殿で滅ぼしてしまったらどうですか?」


「カエサルさん! 師匠と同じこと言わないでくださいよ!」


「冗談ですよ。」


「何かいい案がありませんか? カエサルさん。」


「奴隷がいるのは奴隷商人がいるからです。それと、奴隷を買うものがいることが原因ですね。」


「どういう人達が奴隷を買うんですか?」


「我が国では主に大商人や貴族でしたね。貴族は全員処分しました。大商人は家財を没収して国外追放にしました。」


「ありがとうございます。カエサルさん。参考になりました。」



 オレ達は奴隷を連れて戻ってくる約束をして、ジフミの街に戻った。街に戻るとすぐに奴隷商の店に行った。珍しく師匠もフードを被り、オレもフードを被っている。店の中に入ると地下室があり、そこに20人ほどの男女が牢屋に閉じ込められていた。全員が体のどこかに奴隷紋と呼ばれる印がついている。



「あなた達は何者ですか?」


「皆さんを解放しに来ました。」


「本当ですか?」


「はい。」


「でも、私達にはこの奴隷紋がるのでここから逃げられません。」


「大丈夫です。」



 オレは全員に『リカバリー』を発動した。すると、奴隷達の奴隷紋が消えてなくなっていく。



「うそ~!」



 奴隷達はみんな驚いている。奴隷達を牢屋から出して一緒にリリシア帝国の城の前まで転移した。



「ええ――――――――!!!」



 行きなり目の前の景色が変わったことで、全員が驚いていた。



「ここはどこですか?」


「リリシア帝国です。」


「・・・・・・」



 誰も信じようとしなかった。そこに門兵がやって来て挨拶してきた。



「シン様。ナツ様。カエサル皇帝ですね。すぐに報告して参ります。」



 門兵がオレ達に頭を下げたことにも驚いていたが、本当にリリシア帝国なのかと不安になっている者達もいた。そこに、護衛を連れて見るからに皇帝の服装をしたカエサルさんがやってきた。



「シン殿。ナツ殿。この人達ですか?」


「はい。恐らくまともに食事もとっていなかったと思います。しばらく保護していただいて、その後解放してあげてください。」


「わかりました。」



 オレとカエサルさんの言葉に全員が口を開いて驚いている。



「もしかして、この国の皇帝陛下様ですか?」


「そうです。カエサルといいます。安心してください。今日から皆さんはこの国の国民です。この国には奴隷制度はありません。みなさんはこれからしばらくこの街で生活していただきます。その後、自由にしていただいて結構ですので。」



 奴隷達は、オレと師匠とカエサルさんに向かって土下座して拝み始めた。



「神様! ありがとうございます。」



 オレと師匠はカエサルさんに挨拶をして、ジフミの街の宿に戻った。




 翌朝、食堂で朝食を食べていると何やら外が騒がしい。兵士達が慌ただしく走り回っている。そこに、グランデさんがやってきた。



「おはようございます。グランデさん。」


「おはようございます。シン殿、ナツ殿。何やら外が騒々しいですね。」


「ああ、何があったんだろうな?」



 師匠が惚けた。その惚ける様子を見てオレは吹き出しそうになった。演技が下手過ぎる。


 朝食を食べ終わり、次の街に出発しようと外で馬車の準備をしていると、兵士達がやってきた。



「お前達、身分証を見せろ!」


 

 いわれるまま冒険者カードを見せた。



「冒険者か?」


「はい。このグランデさんの護衛です。何かあったんですか?」


「昨夜、奴隷商の奴隷が全員いなくなったんだ! 怪しいやつを見かけたら報告しろ!」


「はい。」



 グランデさんがオレと師匠の顔を見た。オレ達は何も知らないふりをした。



「さあ、王都に行きましょう。最初の約束通り、何も詮索しませんよ。」



 グランデさんは何か気付いている様子だったが、特に何も言ってこなかった。


読んでいただいてありがとうございます。

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