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自分探しの異世界冒険  作者: バーチ君
魔王?! 精霊王?!オレが?!
28/107

アルベルト王国アヅミの街

 オレと師匠はコカトリスを退治した湿地帯を通って、アルベルト王国へ入った。入国に際して検問所ではほとんど待たされなかった。コカトリスのいた湿地帯を通って移動する人達がほとんどいないからだ。



「お前達はどこに行く予定だ。」


「観光です。」


「いいご身分だな!」


「商売の勉強も兼ねているんですよ。」


「なるほどな。いいぞ。入れ!」


「ありがとうございます。」



 今日はオレから師匠の手を握った。師匠が少し嬉しそうだった。


 検問を過ぎてからしばらく進むと、道は森の中へと続いていた。森の中では鳥のさえずる声があちらこちらで聞こえる。ところどころに見慣れない果実が実っている。



「師匠。これ食べて大丈夫ですか?」


「ああ、大丈夫だ。甘くてうまいぞ!」



 オレは一つ取って食べてみた。確かに甘くてうまい。だが、見た目と違って“ガリッ”って感じではない。色や見て目から林檎のようなものを想像したが、洋ナシのような食感だった。それなりに旨かったので、空間収納に仕舞った。



 しばらく歩いていると景色が変化してきた。もう少しで森から抜け出そうだ。そんな時、魔物の気配を感じた。



「シン!」


「はい。魔物のようです。行ってみますか?」


「街道沿いだ。討伐するぞ!」



 オレと師匠は魔物のいる方に向かった。すると、20匹ほどのゴブリンが、怪我をして気を失った人間の男女3人をどこかに運ぼうとしている。



「師匠。どうしますか?」


「あいつらはすぐに殺すことはしない。恐らく自分達の集落にでも連れ帰るつもりなんだろう。」


「なら、後をついて行きましょうか?」


「そうだな。他にも捕まっている者がいるかもしれないからな。」



 オレと師匠はゴブリン達に気付かれないように後を付けて行った。森の中をしばらく行くと少し開けた場所に岩山があった。どうやらゴブリン達の住処のようだ。洞穴らしきものが複数ある。捕えられている人間達は少し大きめの洞穴の中に運ばれていた。



「師匠。どうやら、あの洞穴が怪しいですね。もし他にもいるとしたらあそこに閉じ込められている可能性があります。」


「ああ、間違いないだろうな。シン。救出を優先するぞ。」


「はい。」


「私が囮になるから、その隙に救出しろ。」


「了解です。」



 師匠がゴブリン達の中に走って行った。時間を稼ぐために魔法を使わずに、手あたり次第手刀で殺していく。オレが見張りのいなくなった洞穴に入って行くと、木の柵でできた牢屋のような場所に5人程いた。そのうち女性2人は裸で放心状態だ。オレは、5人を洞窟から出して、森の中に連れていき身を隠すように言って、師匠の下に向かった。


 師匠がすでに20匹ほどのゴブリンを始末していたが、まだまだたくさんいる。



「師匠。救出しました。一気に片を付けましょう。」


「わかった。」



 師匠が魔法を発動する。



「シャドウアロー」



 するとゴブリン達の頭上に黒い矢が無数に出現し、ゴブリン達に降り注いだ。さらに、オレが追い打ちをかけた。



「トルネードカッター」



 辺り一面に竜巻が複数発生する。生き残っていたゴブリン達が竜巻に吸い込まれ、身体がバラバラ状態になって死んでいく。すると、一番大きな洞穴から裸の女性を抱えたゴブリンが出てきた。本来小柄なゴブリンだが、体長が3mはありそうだ。



「シン。あいつはゴブリンキングだ。恐らくこの集落の長だろう。」



 ゴブリンキングもゴブリンも魔物だ。本来、言葉はしゃべらない。ところが、ゴブリンキングは言葉を発した。



「ナカ、マ、コロ、シ、タ、ユ、ルサ、ナイ」



 オレは師匠を見た。師匠も驚いた様子だった。



「ナザ、ル、サマ、ノタ、メ、ガンバ、ル」



 オレは瞬間移動でゴブリンキングに近づき、拳を腹に叩き込んだ。ゴブリンキングが女性から手を離したすきに、オレは女性を抱きかかえ他の人間がいる場所まで連れて行った。


 ゴブリンキングは顔を真っ赤にして、右手に持っている大きな斧を振り上げて師匠に向かって行った。



「シャドウカッター」



 師匠の手から黒い風が流れ、鋭い刃となってゴブリンキングの身体を切り裂いた。血だらけになったゴブリンキングが最後に再び言葉を発した。



「ナザル、サ、マ」



 オレと師匠は捕まっていた人間達のもとに向かった。恐らく裸の女性達はすでにゴブリンキングに種を植え付けられた可能性が高い。そこで、オレは女性達に浄化の魔法をかけた。



「リカバリー」



 すると、裸の女性達の身体が明るく光り周りの空気も暖かくなった。



「もう大丈夫です。あなた方の身体はここに来る前の状態に戻りましたから。」


「ありがとうございました。」


 

 一人の女性が小さな声でお礼を言った。他の女性達は未だに泣いている。確かに彼女達の肉体は奇麗になったが、ここでの出来事が消えたわけではない。彼女達の心は相当傷ついていることだろう。オレはとても悲しい気持ちになった。そんなオレの様子を師匠が心配そうに見ている。


 師匠が転移して一旦家に戻り、彼女達のために服を持ってきた。そして、オレと師匠は彼女達を連れて、ここから一番近い街アヅミに向かうことにした。



「師匠。ゴブリンキングがしゃべるなんてありえるんですか?」


「普通ならありえないが、あいつ“ナザル”とか言ったな。」


「はい。オレも聞きました。」


「ナザルは魔族だ。魔族の中でも特に強いわけではないが、研究者だ。」


「研究者ですか?」


「そうだ。以前も話したが、魔族は本来妖精族からの進化だ。だが、魔物から魔族へと進化した種族もいるんだ。あいつはそれを研究しているんだ。」


「魔物から魔族ですか?」


「そうだ。アラクネなどはその代表だな。」


「アラクネって上半身が美女で下半身が蜘蛛の“魔物”ですよね?」


「シン。あいつらは“魔族”だぞ!」



 オレ達はアヅミの街に到着した。ゴブリン達に捕まっていた人達の件を知られたくなかったので、その場で全員が解散することになった。


 いつもの通りオレと師匠が冒険者ギルドに行くと、ギルド内では森にゴブリンの集落ができたとうことで、その討伐隊の募集がされていた。オレは師匠と相談して、すでに討伐したことを話そうと受付に向かった。



「坊や素敵ね。お姉さんに何か用かしら?」



 師匠がオレの腕を掴んで密着して来た。



「なんだ。お姉さんがいるの!」



 師匠はオレの姉と言われてなんか機嫌が悪い。



「はい。それより、ゴブリンの討伐ですけど。」


「ああ、申し込みね。カードを出して。」


「そうじゃなくて、もう討伐しましたから。」


「ええ?!」


「オレが師匠とここに来る途中に討伐しちゃいましたから。」


「ええ――――――!」



 受付の女性の驚きの声が、ギルド内に響き渡った。



「どういうこと?」


「ここに来る途中でゴブリンの集団を見かけたので、後を付けて行ったら集落があったんです。だから、集落ごと討伐したんですよ。」


「何か証明できるものはあるの?」


「ええ、ゴブリンキングの死体なら持っていますよ。」


「ちょっと裏に来て!」


「はい。」



 オレと師匠が裏の解体場に行ってゴブリンキングの死体を出した。



「本当だったのね。なら報酬を渡すから受付まで来てくれる?」


「はい。」



 受付で報酬の大金貨5枚を受け取った。



「君に聞いておきたいんだけど、捕まっていた人はいなかった?」


「いませんでしたよ。辺りをすべて捜索しましたけど。」


「そう。なら、いいわ。」



 オレと師匠はギルドを後にして、街中を散策した。すると、いろんな商店があった。やはり商業の国というだけのことはある。小さな町なのに服屋だけで10軒ほどあった。しかも魔道具屋まである。オレは魔道具にどんなものがあるのか知りたくて店の中に入った。



「いらっしゃい。何かお探しですか?」



老婆が声をかけてきた。



「中を少し見せてください。」


「ごゆっくりどうぞ。」



 師匠と中を見学していると、気になるものに、電池も油も使わないランタンや中に入っている水がなくならない水筒などがあった。それに、カラフルで小さな小石が無造作に置いてあった。



「師匠。この仕組み分かりますか?」


「ああ、すべて魔石の効果だ。この世界では誰もが大小の違いはあるが魔力を持っているのさ。だから、そこにある小石みたいなやつに魔力を流せば、何かしら効果がでるのさ。」


「つまり、この小石みたいなのに魔力を流すと、水が出たり明かりがついたりするんですね。」


「そうだ。魔石によってそれぞれ効果が違うがな。」


「魔石ってどこで手に入るんですか?」


「魔石は長い年月をかけて魔素が固まったものだ。普通は、魔石が取れる鉱山から出土するが、この前倒したゴブリンキングや魔力の強い魔物の体内にもあるぞ!」


「なら、ギルドに渡したゴブリンキングから取っておかないと。」


「受け取った報酬はそれも含んだ値段だ!」


「そうだったんですね。オレ今まで強い魔物をたくさん討伐してきたけど、一度も魔石を手にしたことないですよ。何か騙された気分です。」



 師匠が笑いながら言った。



「お前が受け取ってきた報酬は、魔石の値段も含まれたものだから損はしていないぞ!」


「そうですけど。」



 オレが頬を膨らませて怒っていると、師匠が頬にキスをしてきた。



「膨れているお前も大好きだな。ハッハッハッ」


読んでいただいてありがとうございます。

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