ノジリの街のコカトリス討伐
オレは師匠との旅を再開した。次に目指すはアルベルト王国だ。帝国の北側に位置していて、この大陸における流通の中心的な国だ。そのため、商業が盛んで大商人が多い国でもある。
オレと師匠の旅の最大の目的は世界平和の実現だが、もう一つある。それは、古代遺跡の調査だ。リリシア帝国内にあった古代遺跡と同様の遺跡が他の場所にも存在するかもしれない。そこから発掘される古代兵器は世界平和を乱す可能性がある。発見次第、処分するつもりだ。
オレと師匠が帝都を歩いているときも、今まで同様に女性達から注目を浴びたが、オレはもう気にしないで歩くことができた。神界にいる間に精神的にも成長できたのかもしれない。
オレ達はアルベルト王国との国境の街ノジリに来た。この街はリリシア帝国の最北の街だ。街といっても、それほど大きくない。ただ、郊外には広大な湿地帯が広がっていた。
国境の街ということもあり、10mの高さの城壁が街の周りに張り巡らされている。オレと師匠がカエサルさんから頂いた勲章を見せると、いつものような取り調べ的なこともなく、門番はすぐに中に入れてくれた。
街中を散策していると、屋台もいくつかあった。
「師匠。あの店から美味しそうな匂いがします。・・・・するぞ!」
「そうだな。食べようか? シン。無理するな。今まで通りでいいんだぞ!」
オレは少しでも師匠に認めてもらおうと話し方も背伸びしている。
オレは屋台で2本買って、師匠と1本ずつ食べた。鶏肉のような食感だったが、すごく美味しかった。
「旨いな。何の肉だろうな?」
「オレ、聞いてきますよ。」
「おじさん。この肉は何の肉ですか?」
「ああ、これはキングフログだ。湿地帯で捕れるんだよ。」
「ありがとう。美味しかったです。」
「そうか。旨かったか。それはよかった。最近じゃ、あの湿地帯も物騒になったから、このキングフログの肉も高級品になってきたからな。」
「どういうことだ?」
話を聞いていた師匠が後ろから話に加わってきた。
「最近、あの湿地帯で行方不明になるものが出始めてな。冒険者達も行きたがらないんだよ。」
「そうか。それは困ったなぁ。」
オレは師匠と調査に乗り出すことにした。
「師匠。」
「ああ、シンが言いたいことはわかっている。行こうか。」
「はい。」
オレ達は今入ってきたばかりの城門を出て湿地帯に向かった。湿地帯にはたくさんの野生動物や魔物が集まってくる。湿地帯の近くで、しばらく様子を見ることにした。
湿地帯にはキングフログがたくさんいた。そしてそれを狙う大きな蛇もいる。その蛇を狙う鷲のような大型の鳥も飛んでいた。1日中様子を見ていたが何の変化もなかった。
一旦師匠の家に帰り、翌日再びノジリの街まで来た。ここで情報収集のため、オレ達は冒険者ギルドに向かった。ギルド内はいつものように酔っ払いがいる。
「おい、あの湿地帯には一体何があるんだ。俺はこのままキングフログを捕まえられなくなったら、子ども達を養っていけなくなるぜ。」
「だったら、昼間から酒なんか飲んでねぇで働けよ!」
「俺は冒険者でいたいんだ!」
なんか、どっちもどっちのような会話が耳に入る。オレ達は受付に行ったが、誰もいなかった。
「すみませ―――――ん。」
大きな声を出すと、酒場にいた酔っ払い達もみんなこっちを見てきた。
「おい、あの美女達は何者だ?」
「知らねぇよ。姉妹かな? どっちも美人だぜ!」
すると受付に女性が現れた。
「何か御用ですか?」
「聞きたいことがあるんですが。」
オレが話すと、受付の女性はオレの顔を見てボーとしている。
「あなたは男性ですか?」
「ええ?! そうですが。」
「友だちなりましょ。私の家を教えますから是非に・・・・」
「ちょっと待ってください。オレには師匠がいますから。」
師匠は身体をくねくねし始めた。オレは小さい声で師匠に言った。
「師匠。話を合わせてください。」
すると、師匠が真剣な顔つきになる。
「何か用事でもあるのか?」
「いいえ、いいんです。」
「そうか。ならば、湿地帯の件について聞きたいんだが、細かい情報を教えてくれ。」
その後、受付の女性から情報を聞き出した。この2カ月前からキングフログを取りに行く冒険者達が行方不明になり始めたらしい。冒険者達がいなくるのは、決まって早朝であること。荷物がそのまま放置してあることから盗賊の仕業ではなさそうだ。近くに鳥の羽のようなものが落ちているということがあるようだ。以上のことが判明した。
「師匠。やはり、魔物の仕業ですね。」
「そうだろうな。鳥のように翼をもつものの犯行だろう。」
オレ達はギルドを出た後、街の様子を見て歩いた。街は特に変わった様子もない。オレ達は街のレストランに入って食事をした。周りの人達が、オレ達のことを見てくるので、オレはわざと師匠の近くの席に移動して、肩を寄せて座った。興味ありげに見ていた人達も、オレ達の仲がいいのを見て視線をそらした。
「師匠。これもオレにとって修行なのかもしれません。」
「修行?」
「オレが前の世界にいたときの話はしましたよね?」
「ああ。聞いたな。」
「周りの人に容姿のことでいろいろ言われて、それが嫌で外に出なくなったんですよ。今回も同じなんです。」
「でも、チヤホヤされてるじゃないか?」
「どっちにしても、人にじろじろ見られて陰で何か言われているのは同じなんですよ。」
「そう言うもんかな~。」
「はい。だから、オレはもう気にしないようにします。」
「そうだな。」
その日も師匠の家に帰っていつものようにゆっくりと休んだ。
そして翌日の早朝、オレ達はまだ暗いうちから湿地帯の近くで『隠密』を発動して待機していた。すると、空から巨大な鳥が現れた。
「師匠! あれは何ですか? 鳥のようだけど後ろが蛇ですよ!」
「あれはコカトリスだ。あいつは強いぞ!」
じっくりと見ていると、頭が鳥で胴体と翼はドラゴンだ。尻尾は巨大な蛇になっている。
「あいつは、口から毒を吐く。それにあいつに見られると見られたものは石化するか、焼き殺されるんだ。」
「なら、あいつの前には出られませんね。」
「そう言うことだ。」
「師匠はここにいてください。オレが討伐してきます。もしオレが石化するようなことがあれば、師匠の魔法か薬で石化の解除をお願いします。」
「わかった。気を付けろよ。」
「はい。」
オレはコカトリスに見られないように頭上に転移して、刀を頭に突き刺した。コカトリスの頭から血が噴き出す。コカトリスが苦し紛れに頭を振り、オレは一瞬飛ばされた。コカトリスがオレの方を見た瞬間に、オレはコカトリスの背後に転移した。オレのいた場所にあった木が石化している。
“やっぱり、あの石化はまずいな。”
コカトリスが、上空に羽ばたこうとした。オレは刀に魔力を付与しして光る刀でコカトリスの右の翼を切断した。
「ギャ―――――!!」
コカトリスは背中から血を流しながら、口から毒液を吐きまくっている。
“このままだと、周りに影響が出てしまう。”
オレが全身の魔力と闘気を開放すると、黒かった翼は白く変化し、赤色の目は黄金色に変わった。神界で武神や魔法神の厳しい修行を終えたときの姿だ。コカトリスが目の前のオレを睨みつけるが石化しない。
「無駄だ! もうゆっくり休むがいい。」
オレは眩しく光る刀を横に振った。すると、コカトリスの首が地面に落ちた。
地面に舞い降りたオレのところに師匠が駆け寄ってきた。
「シン! お前、その姿は?」
「はい。神界でタケルさんやマジクさんから厳しく指導されていたら、こんな姿に変化しちゃいました。」
「そうか。やっぱりな。」
「何がやっぱりなんですか?」
「私もお前も堕天使族だ! 堕天使が再び神界に言ったらどうなる?」
「天使?!」
「そうだろうな。だが、お前の場合はもっと・・・・ような・・・・。」
「つまり、オレは天使の力を行使できるようになったということですか?」
「そういうことだな。」
「なら、師匠もきっとオレと同じようになれますよ。」
「そうなら嬉しいがな。」
オレはコカトリスを空間収納に入れてコスゲの街の冒険者ギルドまで来た。
受付に先日の女性職員がいたので話しかけた。
「すみません。一応報告しておきますけど、もう湿地帯は安全ですから、他の冒険者の人達に伝えておいてください。」
「どういうことかしら?」
「あそこにいたのはコカトリスでした。オレが討伐しましたから。」
「ええっ――――――!! 信じられないわ!」
受付の女性は階段を駆け上がってギルマスの部屋に行ったようだ。しばらくして、細マッチョの男性を連れて戻ってきた。
「本当かね? コカトリスを討伐したっていうのは。」
「はい。」
ならば、ギルドの裏に来てくれ。
酒場にいた冒険者達も話を聞いていたらしく、ぞろぞろとついてきた。
「あのガキ。本当か?」
「嘘だったら承知しねぇぞ!」
オレは空間収納からコカトリスの死体を出した。
「オオ―――――――!!!」
凄い歓声だ。
「俺、初めて見たぜ!」
「俺もだ! あれがコカトリスか!」
信じられないという顔をしたギルマスが聞いてきた。
「君は何者なんだ?」
師匠は隣でオレの腕を組んで微笑んでいる。
オレはカエサルさんからもらった勲章を見せた。
「まさか、君があの英雄のシン殿か?」
「英雄かどうかは知りませんけどね。」
その場が騒然とした。オレが魔王を討伐したという話が帝国中、いや大陸中に知れ渡っていた。
その後、ギルド内の酒場で宴会が始まった。当然オレは果実水だけどね。
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