ナツとの再会
僕は管理神様によって地上の世界に戻された。場所は、最後に自分がいたリリシア帝国の帝都モツマータの城の跡地だ。そこにすでに城はなく、公園になっていた。僕は、師匠に会いたくて師匠の家まで転移した。
師匠はその美貌に似合わず畑仕事をしていた。10年はやはり長かったようだ。畑の面積が以前よりも大分広がり、いろんな種類の作物ができていた。僕は、師匠の後ろからゆっくりと近づいた。すると、師匠が気づいてこちらを振り返った。
2人の間で一瞬時間が止まった。師匠の目から大粒の涙が流れ出ている。僕は我慢できずに師匠に駆け寄り、抱き着いた。
「師匠――――――――!!!」
「お帰り!・・・・・・・・・ シン!」
師匠は相変わらず僕の頭をなでてきた。
「やっぱり帰って来てくれたな。ずっと待っていたんだぞ!」
「ごめんなさい。心配かけてしまって。」
「いいさ。帰ってきたんだから。」
師匠の目から再び大粒の涙が溢れた。
「早く家に入れ。中でゆっくり話そう。」
師匠が言うには、僕と魔王が消えてやはり10年が経過していた。リリシア帝国では、カエサルさんが皇帝となって国政に励んでいるらしい。カエサルさんとアナンさんの間にも男の子が生まれたそうだ。男の子の名前はアーサーだ。
「師匠は10年経ってもやっぱり若いですね。それに相変わらず美人だし。」
「お前も変わらないな。どこにいたんだ?」
「言っていいのかなぁ?」
「師匠の私に隠し事か?」
師匠がほっぺを膨らませて怒っている。
「実は僕、あの時死んで、また別の世界に生まれ変わるはずだったんですけど、師匠のいるこの世界にどうしても戻して欲しいって、管理神様に頼んで戻してもらったんです。」
「シンは管理神様に会ったのか?」
「はい。それに武神のタケルさんと魔法神のマジクさんに修行を付けてもらっていたんですよ。」
「はぁ―――――――?!」
「そんなに驚くことですか?」
「シン! お前は馬鹿か? 管理神様はこの世界の最高神様だぞ! 本来会うことすらできん! それに武神様と魔法神様に修行を付けてもらうなどありえん!」
「でも、みんなフレンドリーでしたよ。」
「やっぱりお前は・・・・」
「言いかけたら全部言ってくださいよ。」
「いや。いいんだ。お前が帰って来てくれただけで、私は嬉しいんだ。」
その日、久しぶりに僕は師匠の料理を食べた。不思議なことに神界にいた時は何も食べずに、何も飲まずにいた。神界では必要がないのかもしれない。師匠の料理は懐かしく、美味しかった。そしていつもの通り、僕が後片付けをして一緒にお風呂に入って、抱き枕になって寝た。すべてが久しぶりで新鮮だった。
翌日、僕は起きて朝食の準備をしたあと、庭で修行をしていた。師匠はすでに朝食を作り終わったが、声もかけずに僕の修行の様子を見ていた。ふと、僕は師匠の視線に気づいた。
「すみません。師匠。つい夢中になってしまって。」
「大丈夫だ。手を洗って中に入れ。」
「はい。」
僕が中に入って食事をとり始めると、師匠が言って来た。
「シン。お前、依然と全然違うな。」
「何がですか?」
「お前の強さは、すでに私を超えたようだ。どれほどきつい修行をしたのか想像もつかんよ。」
「僕自身は強くなった自覚はないんですが、タケルさんもマジクさんも僕が強くなったって言っていました。」
「これなら魔王が復活しても今度は勝てるな。」
「復活ですか?」
「ああ、そうだ。魔王ブラゴはお前の自爆攻撃で吹き飛んだ。今は魔力も体力もない状態だ。この私が、あやつの魔力を感じられないほどに衰弱しているのだろうな。」
「そうですか。」
「シン。これからどうするつもりだ?」
「管理神様に生き返らせていただいたご恩をお返しします。」
「管理神様に恩を返すとはどういうことだ?」
「最初の予定通り、この世界を平和な世界にします。それが、管理神様への恩返しになると思いますので。」
「そうか。ならまた旅に出るのか?」
「師匠。人ごとのように言わないでくださいよ。師匠も一緒に行ってくださいよ。」
「私がお前のそばにいていいのか? 足手まといにならないか?」
「何を言っているんですか? 僕がどうしてこの世界に戻ってきたのか言いましたよね。師匠と離れたくなかったからですよ。」
「シン。お前・・・・・・」
師匠が僕を力強く抱きしめた。師匠の胸に顔が埋もれて息ができない。苦しい。
「わかった。一緒に行こう。」
「はい。僕はもう死んでも師匠と離れませんから。」
「何を言っている。死んだらダメだろう。」
「それもそうですね。」
久しぶりに師匠の笑顔を見た。この時、僕は帰ってきてよかったと心から思った。
考えてみれば地球にいたときの自分では考えられないことだ。毎日毎日ゲームをしてぐうたらな生活していたあの時とは大違いだ。まさか、自分が世界の平和を願い、厳しい修行をして、自分を鍛え、人を愛するようになるとは思いもしなかった。管理神様が言った通り、僕は少しだけ成長したのかもしれない。
旅に出る前日の夜、僕は師匠に自分の気持ちを伝えた。
「師匠。これからは自分のことを“オレ”って言います。」
「そんなこと、いちいち宣言することか~!」
「今回の件で身も心も生まれ変わりたいんです。」
なんとなく気恥しい。“ママ”が“お母さん”に、そして“おふくろ”に変化したときに似ている。
「いいんじゃないか。」
「それに、今度こそフードは外します。」
「いいのか? また、女どもに騒がれるぞ!」
「いいんです。その代わり、師匠がオレから離れないでいてくれればそれでいいです。」
オレは自分で言った言葉に、恥ずかしくなってもじもじしていると、師匠がオレを抱きしめようとしてきた。そこで、オレは頑張って背伸びして師匠の肩を掴んで、オレから師匠を抱きしめた。抱きしめたというより、身長の差があるため、抱き着いたと言った方が正しいかもしれない。そして、思いっきり背伸びして師匠に口づけをした。すると、師匠は目を丸くして驚いていた。
翌朝、オレと師匠は転移してリリシア帝国の帝都モツマータに来た。カエサルさんに会うためだ。オレ達が新たに建設された城に行くと、門兵に止められた。
「城に何か用か?」
「カエサルさんに会いに来たんだけど。」
「皇帝陛下に向かってカエサルさんとは何事だ!」
「いや。オレ達は友人なんだけど。」
「友人だと~?!」
そこに子どもを連れた女性が護衛に守られるようにしてやって来た。
「もしかして、シン様とナツ様ですか?」
「ああ、アナンさん。元気そうで何よりです。」
「主人もいますから、中にどうぞ! ご無事だったんですね。」
オレと師匠は城の中に案内された。門兵は皇后がいきなりオレ達にフレンドリーに話しかけてきたことに驚いていた。
オレ達は応接室に通された。待っていると、カエサルさんとアナンさんとアーサー君が入ってきた。カエサルさんがオレに駆け寄って感激の涙を流した。オレは立ち上がってカエサルさんの手を握り締め、2人は固く握手をした。
「シン殿が生きていてくれて本当に良かったです。」
「いや、オレは死にましたよ。」
「ええっ―――!」
「最高神様に頼んで生き返らせてもらったんですよ。」
「ええっ――――――――!!」
2人がしばらく放心状態だったので、オレと師匠は5歳になったばかりのアーサーと話をしていた。
「アーサー。オレは君のお父さんの友人なんだ。」
「知っているよ。シン様でしょ? いつも父上と母上が話しているもん。」
「アーサー。いいかい。お父さんのように強く、優しい男になれよ。」
「うん。僕はシン様のように悪者を倒して英雄になるんだ~!」
隣で師匠がニコニコとしている。ようやくカエサルさんとアナンさんが正気を取り戻した。
「シン殿の話は驚くことばかりですよ。」
「シン様は本当に最高神様にお会いになられたのですか?」
「いいえ。眩しすぎて、姿が見えませんでした。オレはまだ修行が足りないらしいですよ。」
「シン殿ほどの人物がですか?」
「ええ、でも武神のタケルさんや魔法神のマジクさんとはよく話しましたよ。修行させてもらったし。」
カエサルさんもアナンさんも驚き過ぎて気失ってしまった。このままでは話が進まないので、オレが治癒魔法をかけて目覚めさせた。
「カエサルさんもアナンさんもしっかりしてくださいよ。」
「シン殿が驚かせるからですよ。」
「それで、国政はうまくいっていますか?」
「はい。悪評のある貴族は、この10年で全員処分しました。今は国民のことを大切にする貴族が各領地を治めています。」
ここでナツが初めて話をした。
「大変だったな。カエサル殿。だが、何かあれば私達に言えばいい。私達はこれから世界中を旅して、平和を乱すものを排除していくつもりだ。」
すると、アナンさんが聞いてきた。
「もしかすると、シン様は神様の使徒になられたのですか?」
「そう言うわけではありませんよ。オレは最高神様に恩返しがしたいだけですから。」
「そうなんですね。でも、羨ましいです。愛する人と旅ができるなんて。あの頃が懐かしいです。」
師匠の顔が真っ赤になった。オレはそんな師匠の手をしっかりと握りしめた。
その後、オレと師匠は城を後にして旅を再開させた。
読んでいただいてありがとうございます。
「創造神の子が記憶を封印されて修行の旅をする異世界冒険」
「神の子レイの異世界冒険」
も是非読んでみてください。