シンの死
ブルート辺境伯が帝都に来るまでに片を付けておかねばならない。そう思って僕は師匠とともに公爵の屋敷に向かった。城にはカエサルさんとともに行くことになっている。僕と師匠は護衛として一緒に行くことにした。
城の入口では、まだ辺境伯軍が武装解除した知らせが届いていないらしく、兵士達が慌ただしく動き回っていた。カエサルさんの姿を見つけると、城の中に案内された。案内された部屋は何故か応接室ではなく、謁見の間であった。僕達が中に入ると、不思議なことに中には皇帝以外は誰もいなかった。
僕達がカエサルさんに倣って臣下の礼を取ると、壇上の男つまり皇帝エドワード=リリシアが声をかけてきた。
「カエサル。新婚生活はどうだ?」
「はい。楽しんでいます。」
「それで、今日は何用だ! 余はブルートの討伐で忙しいのだが。」
「はい。皇帝陛下には本日をもって皇帝の地位から退位していただこうと思い参上しました。」
「ハッハッハッ、冗談ではなさそうだな。その後ろのもの達は魔族であろう。」
「えっ?!」
皇帝のこの発言には僕も師匠もカエサルさんも驚いた。
「何故、それを?」
「そこに懐かしい顔がいるからすぐわかったぞ! なぁ、ナツ=カザリーヌ。」
ここで師匠が焦っている。
「お前は何者だ? もしやお前も魔族か?」
カエサルさんが師匠の発言を否定した。
「そんなはずはない。皇帝と私はいとこだ。小さいころには一緒に遊んだ間柄だ。」
「フフフフ、愚かな人間よ。こやつは当の昔に死んだよ。この肉体は便利だからな。私がもらい受けただけだ。」
ここで師匠が魔法を放った。
「シャドウアロー」
皇帝の周りに黒い矢が現れ、一斉に皇帝に襲い掛かった。だが、皇帝は動かない。
「フン!」
皇帝の闘気で、矢がすべて砕けた。
「腕がなまったか? ナツよ!」
「やはり、貴様は魔王ブラゴ!」
「ハッハッハッ、気付くのが遅いわ!」
ブラゴは僕達に魔法を放った。
「シャドウドラゴン」
ブラガの手から出てきた黒い靄が大きな口を開けたドラゴンへと変化した。そして、僕達に襲い掛かる。咄嗟に僕は光魔法で応戦する。
「ホーリードラゴン」
僕の手から光の巨大なドラゴンが現れ、ブラゴの作り出したドラゴンと戦いになった。
「カエサルさん、このことをすぐにこの国のみんなに伝えて。早く行って!」
カエサルさんはその場から立ち去った。これで、心おきなく戦える。ブラゴの作ったドラゴンと僕の作ったドラゴンが同時に爆発した。城の天井が崩れる。ブラゴの姿が消えると、すでに師匠の近くにいた。師匠も瞬間移動でその場から離れようとしたが、次の瞬間、師匠の背中からお腹にかけてブラゴの手が出ていた。一瞬の出来事だった
「グフッ」
「どうして?!」
「今までの俺様と思うなよ。ナツ。私は神の力を手に入れたのだ。お前など相手にならんわ。」
ブラゴの身体が突如として3つに分かれた。
「分身体か!」
師匠の身体の傷が修復していく。
「そうだったな。お前には自己再生能力があったな。だが、今度は再生できんぞ!」
僕は師匠とブラゴの間に割って入った。
「貴様の相手は僕だ。」
僕はブラゴの頭の上に必殺技のブラックホールを出現させた。
「なるほどな。そこそこできるようだな。だが、無駄だ。」
ブラゴが手を横に大きく振ると、空間が避け、ブラックホールが消滅した。ここで師匠が叫んだ。
「シン。お前は逃げろ! 今のお前ではこいつには勝てない!」
“嫌だ! 僕はもう逃げない! 大切なものは自分の手で守るんだ!”
僕は圧倒的な力の差を認めざるをえなかった。すべての魔力と闘気を開放した。僕の身体は真っ黒な霧包まれて、背中には師匠と同じ黒い翼が現れた。
「貴様もナツと同じ堕天使族か? ならば自己再生できないようにしてやろう。」
僕と師匠の2人に対して、相手はブラゴ1人だ。それでも勝てそうな気がしなかった。これほどまでに魔王が強いとは思ってなかった。自分は少し強くなったと自惚れていたんだとこの時初めて、虎獣人のタイガの言葉の意味がわかった。
ブラゴは師匠に狙いを定めて攻撃してきた。厄介なのは分身体だ。ただでさえ強いのに、その強いブラゴが3人いることになる。3人は全く同等の威力で魔法を放ってくる。
“このままではやられるな! いつもなら、ここで天の声が聞こえるのに、なんで今回は聞こえないんだ!”
僕は焦った。このままでは師匠も僕も殺されてしまう。ならば、師匠だけでも助けたい。僕は、一つだけ方法を考えた。ブラゴを道連れに自爆する方法だ。どう考えてもそれしかない。
「ブラゴ。さすがにお前は魔王だけのことはある。だが、その最強の魔王が分身体を使って3体で攻撃とは少し情けないのではないか?」
「ほざけ! 小僧! たとえどんな手段を使おうとも勝てば最強なんだよ!」
「なるほど、でも一人では勝てないということを認めたんだな。」
「なんだと~! 貴様らごとき1人で十分だ!」
ブラゴが分身体を完全に回収した。次の瞬間、僕はブラゴの後ろに瞬間移動してブラゴを捕まえ、魔法を発動した。
「サンシャインボム」
僕の身体から眩しい光が放たれた。それはまるで巨大な太陽がこの地上に現れたかのような状態だ。周りのすべてのものをその熱で溶かしていく。城の床も天井も壁もドロドロ状態に溶けていく。
「おのれ! 貴様! 俺様を道連れに自爆するつもりか~!!」
「シ――――――――ン!!!」
「やめて――――――――!!!」
そして、ドロドロになった巨大な太陽は地面に落ち爆発した。
城は跡形もなくなっていた。そして、城の外にはカエサルさんをはじめとしてたくさんの兵士達がいた。その中に地面に座り込んでいる師匠の姿があった。
ナツは魔力感知でシンの魔力を探した。もしかしたら、この世界のどこかに飛ばされたのかもしれない。そんな思いがあったからだ。この世界のどこにいようともシンの魔力を感じ取る自信があった。だが、ナツにはシンの魔力を感じることはできなかった。
「シン。どうして?」
ナツはボーとするだけで涙も出なかった。一人誰にも何も言わず、自分の家に転移して帰った。もしかしたら、シンが先に帰っているかもしれない。そんな期待もあったからだ。だが、家の中は静まり返って誰もいなかった。寝室に行き、ベッドに寝転んだ。布団からはシンの匂いがした。ナツの目に初めて涙が流れた。それから、ナツは泣き続けた。
「シ――――――ン!」
何をするにもシンの顔が浮かんでくる。ご飯を食べても、お風呂に入っても、ベッドで寝ても、シン、シン、シン、シン、ナツは頭がおかしくなりそうなほど苦しかった。
☆☆☆☆☆ この世界の神界 ☆☆☆☆☆
“ここはどこだ? 僕は確かブラゴを道連れに自爆したんだよなぁ?”
「誰かいませんか―――!」
“誰もいないのかなぁ? 多分死んだんだよなぁ?”
僕がしばらく考えていると、眩しく輝く光の玉がやってきて話しかけてきた。
「少しは成長したようね。地球にいたときは、まるっきりやる気がなかったからね。」
「あなたは誰ですか? あなたの声に聞き覚えがあるんですけど。」
「当たり前でしょ! 何回助けたと思っているのよ!」
「やっぱり、あの声の人ですよね?」
「人じゃないけどね。」
「人じゃないってどういうことですか?」
「この世界を管理している神よ! 鈍いわねぇ!」
「神様ですか?」
「そうよ! 今回はなかなか努力していたんじゃないの。あんた。」
「あの~、僕はこの後どうなるんですか?」
「次の修行の旅に行かせるのよ。」
「神様にお願いがあるんですけど。」
「何かしら? 言ってごらんなさい!」
「もう一度、師匠のいる世界に行かせてはもらえませんか?」
「あなた、あの世界で死んだのよ! 無理に決まっているじゃん!」
「そこを何とか、美人の女神さまのお力で!」
「あんた私の顔も見えないくせに、美人とかよく言うわよね。」
「まっ、いいわ。その代わり、今回だけよ。次に死んだら、諦めるのよ。」
「わかりました。それと、もう一つお願いがあるんですけど。」
「なによ。言ってみなさい。」
「神様に修行を付けてもらうなんてできませんよね?」
「あんた。何言っているの!」
「魔王ブラゴが生きていたら、またすぐに殺されてしまうかもしれないので・・・」
「ブラゴは生きているわよ。」
「なら、是非お願いします。」
「わかったわ。武神と魔法神に頼んであげるわよ。そのかわり、次にここに来た時は、私のことをちゃんと覚えていて・・・・・・」
最後はよく聞き取れなかった。聞き取れなかったというより、相手が聞かせなかったという方が正しいかもしれない。
その後、僕は、とてつもなく長い時間、武神タケル様と魔法神マジク様に厳しく指導してもらった。どのくらいの期間が経過しただろうか?
「シン。お前はもう卒業だ。武術も剣術ももう教えることはないぞ! よく頑張ったな!」
「魔法も同じよ。あなたは神級魔法も見事に使いこなせるわ。もう卒業ね。」
「タケルさん、マジクさん本当にありがとうございました。でも、神様に『さん』付けなんて未だに気が引けるんですが。」
「いいんだ。お前は特別だからな。」
「そうなんですか?」
「ウッホン」
ここで、話を紛らわすようにこの世界の管理神が現れた。相変わらず光の玉状態だ。
「管理神様は何故姿を見せてくれないんですか?」
「私はすでに見せているさ。だが、私が眩しくて姿が見えないのはまだまだ魂が未熟な証拠だ。もっと修行に励め!」
「はい。」
“でも、正直言うと少しだけど見えているんだよね。どこかで会ったことがあるような・・・”
「では、地上に戻すぞ!」
「その前に一つだけ質問があります。」
「なんだ?」
「僕がここにきて大分時間が立っていると思いますが、地上ではどのくらいの年数がたっているんですか?」
「おおよそ10年だ!」
「10年?!」
「ああ、ただし神界には時間の経過はない。だから、お前の時間は経過していないがな。」
「わかりました。では、お願いします。」
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