師匠の正体
僕達4人はノアケの街を出て帝都モツマータに向かっている。ここで僕は気になっていることがあったので、カエサルさんに聞いてみた。
「カエサルさんに聞きたいことがあるんですが。」
「なんでしょう。」
「この国をいろいろ見て回ったんですが、国民のみんなも平和に暮らしているようですが、皇帝はどんな方なんですか?」
「シン殿の質問ですが、私は近衛兵です。いかにシン殿といえども情報を流すことはできません。」
「そうですよね。すみませんでした。」
「いいえ。大丈夫ですよ。」
ここで師匠が爆弾発言だ。
「シンが気にしているのは、この国の皇帝は野心家で、他国に侵略するかもしれないという噂を聞いたからだ。我々には関係ないがな。」
「そんな噂が・・・・・」
「僕達には何もできませんが、人々が平和に暮らせる世界を望んでいます。だから、僕は相手が魔王であっても平和を壊す人は許せません。」
「私はリリシア帝国の貴族です。皇帝の意思に従うことしかできません。」
「皇帝が間違えていてもですか? 国民が苦しむことになってもですか?」
「・・・・・」
ここで雰囲気が暗くなしまった。すると、アナンさんが気を利かせて話題を変えた。
「シン様、ナツ様。帝都に着いたら私が街をご案内しますわ。美味しいお店があるんですよ。是非行きましょう。」
「はい。お願いします。」
かなりの時間歩いたと思う。この世界の人達は歩くことに慣れているのか、あまり疲れた様子を見せない。電車や自動車のある地球がいかに便利だったのか今更ながらに知った。そして何も問題なく帝都に着いた。僕達が街に入ろうとすると、前からぞろぞろと兵士が集まってきた。
「カエサル様。お帰りなさいませ。公爵様がお待ちになっておられます。すぐに屋敷にお戻りください。」
「分かった。すぐに行く。」
どうやら急用があるらしい。
「シン殿、ナツ殿。一旦失礼するが、後ほど我が家に来てほしい。」
カエサルさんとアナンさんは兵士に連れられて自宅に戻って行った。
僕と師匠はとりあえず冒険者ギルドに向かった。ギルドの中に入ると何やら物々しい雰囲気だ。昼間なのに冒険者がたくさんいる。しかも。酒を飲んでいる者が一人もいない。
「師匠。何かあったんですかね?」
「聞いてみるか?」
「はい。」
僕達は受付の女性のところに行った。
「何かあったんですか?」
「ええ、どうやらブルート辺境伯様が、帝政に反対の勢力を結集して反乱を起こしたらしいです。」
「なら、なぜ冒険者達が忙しそうにしているんですか?」
「みんなどちらに加勢するかで悩んでいるんです。戦はお金になるから、でも勝てばいいけど負けた方は悲惨なことになるんですけどね。」
「それでギルドの立場はいいんですか?」
「ギルドは中立ですから。でも、冒険者達は自己責任で参加するんですよ。」
「そうなんですね。」
僕は師匠と相談した。
「師匠。このままだとたくさんの人が死にますよ。」
「ああ、シンの言う通りだ。人とは愚かな生き物だな。」
「呆れてないで、止める方法を考えましょうよ。」
「止めると言ってもなぁ~?」
師匠と2人で考えたが、良い案が浮かばない。時間だけが過ぎていく。とりあえず僕達はカエサルさんの家に向かった。カエサルさんの家は公爵家なので、当たり前だが貴族街にあり、とてつもなく大きかった。僕達が門番に声をかけると、話が通っていたようですぐに屋敷内に案内された。屋敷に入ると中は意外と質素で、働いている人の数も少なかった。ただ、敷地内には門番以外にも兵士達がたくさん集まっていた。
僕達は応接室に案内され、そこにはカエサルさんとアナンさん以外に品のいい男性がいた。恐らくカエサルさんのお父さんの公爵様だろう。
「シン殿、ナツ殿。よく来てくれました。紹介します。私の父のモリソンです。この国の公爵です。」
僕は席から立ち上がりフードを取って、片膝をついて挨拶をした。
「初めまして。公爵様。僕は冒険者のシンです。」
師匠は公爵様が相手だというのに、座ったままで普通に挨拶をしている。僕は師匠の顔を見たが、師匠は知らんぷりだ。
「同じく冒険者のナツよ。」
師匠が無礼な態度を取ったにもかかわらず、公爵様は笑顔だった。
「シン君。ナツさんのように椅子に座ってくれたまえ。私はカエサルの父親のモリソンだ。カエサルとアナンが世話になったようだな。感謝する。ありがとう。」
公爵様は平民の僕と師匠に深々と頭を下げた。どこかの偉ぶる貴族とは大違いだ。ここでカエサルさんが話しかけてきた。
「シン殿達もすでに聞き及んでいるかもしれませんが、この国で内戦が始まりそうなんです。我が公爵家は本来、皇帝側について戦わなければなりません。ですが、戦争で一番苦しむのは民です。そこで、父上ともども悩んでいるのです。」
ここで師匠がカエサルさんに言った。
「カエサル殿は公爵家であると同時に、近衛兵だよな? 参戦しなかったら反逆罪になるんじゃないのか?」
「そのとおりです。」
「だがな、もしカエサル殿が参戦したらこの私やシンと敵になるかもしれんぞ!」
「ええ――――――!!」
僕は驚きすぎて大声をあげてしまった。そして師匠の顔を見た。師匠は真剣だ。
「シン殿とナツ殿が敵になるのは困る。あなた達2人にこの国の兵士達が100人で対応しても、いや1000人でも勝てないでしょう。」
カエサルさんの発言にモリソン公爵が驚いている。
「カエサル。この2人はそれほど強いのか?」
「はい父上。恐らくこの国で相手になるものはいません。」
ここでさらに師匠が爆弾発言をする。
「カエサル殿は誤解をしているようだが、私とシンは修行の途中だ。それは知っているな。正直に言おう。シン一人でこの国を亡ぼすことも可能だ!」
「まさか?! でも、確かにシン殿の本気を私は見たことがない。それに、ナツ殿が誇張して言うとも思えない。・・・・・・シン殿、本当なのか?」
「・・・・・・」
「どうやら、私達はシン殿とナツ殿の実力を見誤っていたようです。お願いします。我々とともにこの内戦とめくれませんか?」
「カエサル殿がそう言ってくるのを待っていたぞ! いいだろう。シンと私が協力しよう。その代わり・・・・・・」
ここで師匠が言いかけたがやめてしまった。僕は師匠が何を言おうとしているのか大体わかった。そこで公爵様が聞いてきた。
「報酬なら十分な金額を用意しよう。」
僕が師匠の代わりに言った。
「お金はいりません。いくつかお願いがあります。今の皇帝には退位してもらい、カエサルさんに皇帝になってもらいます。」
「ええ――――――――!!!」
「なんと?!」
カエサルさんもアナンさんもモリソン公爵も口を大きく開けて驚いている。
「2つ目は、僕達は何があってもカエサルさん達の味方です。僕達のことを信じてください。」
「それはもちろんです。」
僕は師匠を見た。師匠が笑いながらうなずいている。
「最後に、これからお見せすること、僕達に関することをすべて秘密にしてください。」
「わかりました。」
カエサルもアナンも公爵までもが緊張している。
僕と師匠は立ち上がって、背中に仕舞ってある翼を広げた。
「魔族?!」
「そうです。僕も師匠も魔族です。」
「・・・・・・」
ここでモリソン公爵が顔を青ざめて言った。
「もしかして、ナツ殿はナツ=カザリーヌなのか?」
「あら、懐かしい名前ね。よくご存じだこと。」
「まさか、まさか、あの伝説の魔女がナツ殿とは・・・・・」
「父上。どういうことですか?」
「ナツ殿は最強の魔族の一人なのだ。絶対に逆らってはいけない魔族が2人いる。一人は魔王ブラゴだ。そしてもう一人が魔女ナツ=カザリーヌだ。」
僕は師匠を見た。師匠はニコニコしている。
「公爵殿。それは昔の話だ。それに恐らく私よりもシンの方が強いぞ!」
「それは誠か? なるほど、それならば先ほどの話も納得できる。シン殿一人でこの帝国は滅ぼされるだろうな。」
「僕はそんなことしませんよ。それに、僕はまだまだ修行中の身です。師匠の方がはるかに強いですから。」
師匠が僕の頭をなでてきた。
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