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自分探しの異世界冒険  作者: バーチ君
魔族に転生しちゃった!
21/107

シンと師匠

 僕達は地竜の討伐を終え、ドワーフの街ミマキの領主ガテルの屋敷に行った。



「早かったではないか? それでどうであった?」


「はい。討伐しましたよ。」


「ではすぐに報酬を用意しよう。その前に討伐の証明できるものは何か持ってきたか?」


「はい。」



 僕は地竜の魔石を取り出した。



「オオ―――――! 確かにこれほどの魔石は地竜であろう。ところで、この魔石も譲ってもらえるのか?」



 僕はこの魔石を師匠との思い出にしたかった。



「いいえ。この魔石は僕にとってかけがえのないものになりました。お譲りできません。」


「そうか。残念だが仕方あるまい。」



 僕と師匠は約束のお金をもらって領主の館を後にした。


 2人で歩いていると師匠が突然聞いてきた。



「シン。なぜ魔石を売らなかったんだ?」



 まさか、師匠とのファーストキスの記念とは口が裂けても言えなかった。



「いいじゃないですか。それより、次の街に行きましょう。」



 僕は師匠の手を引っ張った。そして街を出たところで、僕達の目の前に体の大きな男性が突然現れた。



「俺は大地の大精霊ノームだ。我が子ども達、ドワーフ族を救っていただき感謝する。」


「僕はシンです。」


「私はナツだ。また大精霊が来たのか?」


「“また”とはどういうことかな?」


「ここにいるシンは、ドリアードにウンディーネ、それにシルフにも宝珠をもらったからな。」


「なんと?! そうだったか。我もシン殿に宝珠を授けて契約してもらおうと思ったのだがな。」


「いいですよ。是非契約してください。」



 大地の大精霊ノームが宝珠を渡してきた。僕が受け取ると宝珠は僕の中に入ってきた。



「ありがとうございます。ノームさん。ノームさんの力も使わせていただきます。」


「困ったことがあればいつでも呼ぶがよい。すぐに駆け付けよう。」



 ノームさんは土の中に消えていった。



「シン。お前、本当にすごいな! 7大精霊の内すでに4人の大精霊と契約したんだぞ! こんなこと、私も聞いたことがない。」


「確かに大精霊さん達には感謝しているけど、僕が一番感謝しているのは師匠ですから。」



 師匠は目を丸くして驚いていたが、すぐに笑顔になって笑っていた。




 僕達は次の街モトスを目指して歩き始めた。モトスには湖があり、ドワーフの街とも近かったので、観光地として栄えていた。だが、住民の大多数は人族だ。僕達が歩いていると見渡す限りの広い畑があった。農業も盛んなのだろう。すれ違う人も増えてきた。



「師匠。モトスの街って城壁がないですね。」


「そうだな。魔物が少ないのかもしれないな。」



 僕達が街の中に入るとすごい数の人がいた。そして、街のいたるところから湯気が出ている。



「温泉?」


「そのようだな。」



 僕達は早速冒険者ギルドに向かった。ギルドの中は、他の街と違ってほとんど冒険者がいなかった。僕達は暇そうにしている受付の女性のところに行った。



「どのような御用件ですか?」


「はい。この街のことが知りたくて来ました。湯気がたくさん出ているようですが。」


「はい。北に火山があるんです。でも、ここ数百年噴火していませんから、もう火山とは言えないかもしれませんけどね。その影響で温泉がたくさん出るんです。だから、保養地として人気の街なんです。それに、街の近くに魔物が出ることもありませんから安全ですしね。」


「それで冒険者が少ないんですね。」


「そうですね。この街には冒険者ギルドはあっても、冒険者はほとんどいませんね。」



 ここで師匠が受付の女性に聞いた。



「値段は高くてもいいので、個室に温泉がついている宿はあるか?」


「はい。『ムラユ』という宿ならありますよ。ここを出て左に行くと大きな建物の宿がありますので、すぐにわかりますよ。看板も出ていますから。」


「ありがとう。」



 僕は師匠と手を繋いでギルドを後にした。ギルドの受付のお姉さんに言われた通り歩いていくと『ムラユ』の看板があった。



「師匠。あそこみたいです。」



 僕は師匠の手を引っ張って宿屋の中に入った。すると、宿屋の中は今まで見たことがないほど豪華だった。僕がキョロキョロしていると、宿の女将が声をかけてきた。



「うちは最低一人一泊で大銀貨2枚だよ。大丈夫かい?」



 なんかその態度に僕はムッとした。この宿は気分悪いなぁ。僕が鞄から取り出すふりをして白金貨5枚を無造作に手に持っていると、女将の態度が急変する。



「あら、あら、この宿の最高級の部屋をご用意しますよ。どうぞこちらに。」



 その様子を見て師匠が僕の手を引っ張って言った。



「シン。行くぞ。ここはやめだ!」


「はい。」



 その様子を見て女将はあっけにとられていた。



「師匠も僕と同じことを思ったんですね。」


「ああ、人を見た目で判断したり、金を見て態度を変えるような奴は嫌いだ。」



 その後、宿を探して歩いていたがどの宿も満室だ。中には空室の宿もあったが、部屋に温泉がない。宿を探して歩いているうちに街の外れまで来てしまった。そこに、建物は大きいが少し古そうな宿屋があった。僕達が中に入ると、奥から女将らしき女性が笑顔で出迎えてくれた。



「宿をお探しですか?」


「はい。できれば部屋に温泉があるとありがたいのですが。」


「あいにく部屋に温泉はありませんが、露天風呂ならありますよ。他にお客もいませんからご自由に入れますよ。」


「シン。この宿にするぞ!」


「はい。師匠。」



 僕達は看板に『サワイ亭』と書かれたこの宿に泊まることにした。案内された部屋の中に入ってみると、きちんと整理されていて意外と広かった。僕はフードを取り、しまっていた翼を出して完全にリラックスモードでいた。気が付くと、師匠が僕を見つめていた。

僕が師匠の視線に気付くと、師匠は目をそらして慌てて僕に言った。


「シン。今はいいが、外では絶対に翼を出すなよ。」


「はい。」



 宿の女将が夕食の用意ができたと呼びに来たので、僕達は1階の食堂に降りて行った。夕食のメニューは山菜や煮物、焼き魚だ。あまり期待していなかったが、すごく美味しい。



「美味しかったです。」


「あら、お口にあって良かったわ。厨房にいる主人に伝えておきますね。食材は全て主人がとってきたものなんですよ。」



 最初の宿の女将と違ってこの宿の女将は謙虚で優しそうだ。


 僕達は一旦部屋に戻るとすぐに温泉に行った。温泉は言われた通りの露天風呂だった。お客が僕達しかいなかったので、いつものように師匠と一緒に入った。僕が自分で体を洗っていると師匠が声をかけてきた。



「シン。背中を流してやる。布を寄こせ。」



 師匠が僕の背中を流してくれた。



「あの小さかった背中が、こんなに大きくなるとは感慨深いものがあるな。昔は私がお前の身体を全部洗ってやっていたんだぞ。覚えているか?」


「なんとなくです。」


「交代だ。今度は私の背中を洗ってくれ。」



 僕達魔族は、風呂に入って体を洗う時は当然翼を出して翼も洗う。現在師匠も翼を出している。僕は師匠の背中を洗いながら思った。自分では見えないけど、僕の翼も師匠の翼と同じ形なのかと。そう思いながら、翼を丁寧に洗い始めると師匠が体をくねくねし始め、急にやめるように言った。



「どうしたんですか?」


「何でもない。もう大丈夫だ。ありがとうな。」



 僕は先に湯舟に入って温まっていた。すると、そこに師匠が入ってきた。



「この街には何もなさそうだな。明日にはこの街を出て先を急ぐぞ。」


「はい。」


 

 そして翌日、僕達は再び旅に出た。



 僕達がモトスの街を出てすぐに、北の山から爆音が聞こえた。見ると噴火しないはずの火山から黒く太い煙が上空に上がっているのが見えた。もう噴火しないと思われていた火山が噴火したのだ。街から少し離れた僕達のいる場所まで小さな石が飛んできている。僕が師匠の顔を見ると、師匠も同じこと考えているようだった。


 僕と師匠は急いで街に戻り『サワイ亭』に向かった。街のいたるところで火事が起きている。サワイ亭の周りには家がないのが幸いしてか、火事にはなっていなかった。だが、石が降り注いでいる。僕は、宿の屋根に上り魔法を発動した。



「サークルバリア」



 すると、僕を中心に宿屋全体に物理結界が張られた。飛んでくる石がすべて結界で跳ね返される。今のところ建物に被害はない。街の中心を見ると火事の面積がかなり広がっていた。



「師匠。このままだと街がみんな燃えてしまいます。」



 僕の言葉を聞いて師匠が魔力と闘気を集中させていく。師匠の身体から黒い靄が噴き出し始めた。



「フォーリングレイン」



 師匠が魔法を発動させると、空に黒い雲がかかり、音を立てて激しく雨が降り始めた。すると、火の勢いがだんだん小さくなっていく。



「師匠。僕は噴火を止めてきます。」


「まて、シン。」



 僕は師匠の言うことも聞かずに翼を出して、火口まで瞬間移動した。真っ赤になった高温の粉塵と、毒素を含んだ噴煙が僕に襲い掛かる。僕の翼は噴石でボロボロだ。爆風に飛ばされそうになりながら、僕は必死に心の中で念じた。




“水の大精霊ウンディーネさん、土地の大精霊ノームさん、僕に力を貸して!”




僕は魔力を解放して大魔法を放った。



「クローズクレーター」



 すると、どこからともなく現れた大量の水が火口に流れ込み、地面が隆起して火口が閉じていく。黙々と立ち込めていた煙が徐々に薄くなり、やがて噴火が完全に収まった。



 魔力を使い果たし、もうろうとする意識の中、僕は火口に落ちて行った。





 気づいたら僕の頭は再び師匠の膝の上にあった。でも、今回は前回と様子が違う。師匠が泣いていたのだ。



「まったく、お前ってやつは無理をしおって。心配させるな! お前を失ったら私は生きていけぬではないか。」


「ごめんなさい。」


「師匠が僕の顔をなでている。」


「魔力を使いすぎたみたいです。師匠の家に連れて行ってくれますか? ゆっくり寝たいです。」



 再び僕は意識を手放した。


読んでいただいてありがとうございます。

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