シンVS虎獣人タイガ
虎獣人タイガとギルドの依頼の取り合いで喧嘩となった師匠は、タイガからの決闘の申し出を受けてしまった。
「師匠。まずいですよ。目立ちますよ。」
「うるさい!」
何か師匠が意固地になっている気がする。僕達は裏の修練場に向かった。酒場にいた冒険者もぞろぞろついてくる。受付の女性が階段を凄い勢いで駆け上がって行ったが、恐らくギルド長に報告にでも行ったのかもしれない。
修練場は意外と広く、30m四方の正方形の形をしていた。脇には様々な武器がおいてあった。
修練場に着くとタイガが師匠に言った。
「好きな武器を取るがいい。」
「お前、何か勘違いしていないか? お前の相手はこいつだ!」
いきなり僕は前に突き出された。
「ええ――――――!!!」
その場にいた見物人達も、そして僕自身も大声を上げてしまった。
「シン。何を驚いている。いい機会じゃないか。早く用意しろ!」
「はい。師匠。」
「おい、聞いたか? あの子どもがタイガの相手をするんだってよ。」
「かわいそうにね。」
急遽タイガの相手をする羽目になった僕は、置いてある武器の中から剣を手にした。そして、修練場の中央に向かうと、髭を生やした筋肉質のドワーフが走ってやってきた。
「待て。この試合はギルドマスターのこのドルゴンが審判を務める。両者ともよいな!」
「ああ、いいぜ!」
「はい。」
ドルゴンから試合の注意事項の説明があった。相手が気絶した場合、負けを認めた場合に勝者が決定する。殺すのは無だ。剣と魔法とどちらも使用は可能だ。
「始め!」
タイガは僕が子どもであっても油断していない。さすがだ。タイガの身体から闘気がにじみ出る。どうやら本気で来るようだ。僕は相手の様子を見ようと全力は出していない。
タイガが動いた。先ほどの路上での決闘と同じように、一気に僕の前に来て拳を繰り出してきた。僕は身体を横にずらしてそれを避けた。
「オオ――――――!」
「お前見えたか? タイガの動きが!」
「いいや。まったく見えなかったぜ。さすがにタイガは強いな。」
「お前達は馬鹿か! 本当にすごいのはあの小僧だ! あの小僧はお前達でも見えないタイガの攻撃を、軽々かわしたんだぞ!」
「スゲ―――――――!」
タイガがニヤリと笑い。さらに速度を上げて攻撃してきた。さすがに今度は早い。咄嗟に躱したつもりだったが、僕のフードが上に捲れてしまった。すると、師匠が声をかけてきた。
「シン。フードが邪魔なら取っていいぞ!」
「はい。」
僕はフードを取った。すると周りから今まで以上の歓声が上がる。
「キャ―――――! 可愛い!!」
「ねぇ! あの子、チョー可愛いんだけど!」
タイガさんが声をかけてきた。
「やはり、お前達はただ者じゃなかったな。拙者の攻撃を2度も避けるとは相当な実力者だ。だがな、小僧。避けてばかりじゃ勝てないぞ!」
タイガが手から爪を出した。爪は鋭く、刃物のようだった。タイガは爪で攻撃しようと一気に加速して僕に近づく、僕は瞬間移動でタイガの後ろに回った。僕を見失ったタイガが振り向いた瞬間、僕はタイガの顔の前に剣を突き付けた。
「拙者の負けだ。」
「勝負あり!」
「オ―――――――!!」
「あの小僧、勝ちやがったぜ!」
「スゲ―――――!!」
「お姉さんとお友達になって―――――!」
タイガさんが僕の近くに来た。
「お前達は何者だ? お前も強いが、あの女からも強者の匂いがするぞ!」
「師匠は僕より強いよ。」
「やはりな。」
師匠がニコニコしながら僕のところまで来て、頭を撫でまわした。
「シン。立派だったぞ。得意な魔法を使わずによく勝った。褒めてやるぞ!」
それを聞いていた者達全員が口を大きく開けて驚いた。
「あいつ、あの強さで魔法の方が得意なんだってよ。信じられないぜ!」
「坊や―――! 魔法でお姉さんを何とかして――――!」
何を言っているのか意味の分からない見物人もいた。
タイガが師匠と僕に声をかけてきた。
「先ほどはすまなかった。お前達の実力を知りたかったのだ。上には上がいることを思い知らされたよ。」
「いいや。お前も強い。ただ、この子は別格なのさ。気にするな。」
師匠は先ほどとは全然違う。すごく優しい顔をしている。
僕と師匠は掲示板の依頼の紙を持って受付に行った。すると、受付には先ほどギルマスを呼びに行った女性がいた。
「この依頼を受けたいのだが。」
「あなたはずるいです。この子はあなたのなんなんですか? 手を繋いだり、頭をなでたり、私も抱っこは無理でも手ぐらい握りたいです。」
「お前は何をわけのわからないことを言っているのだ。この子は私の・・・・・・」
師匠は言葉に詰まっていた。僕は師匠の弟子? だよね?
僕は受付の女性に手を伸ばして言った。
「いいですよ。お姉さん。握手しましょ。」
「いいの? 本当にいいの?」
受付の女性は両手で僕の手を握ってきた。そして僕の手を自分の顔に近づけようとしたので、慌てて僕は手を引っ込めた。その様子を見ていたギルド内の女性達が僕の周りに集まってくる。
「ねぇ、お姉さんとも握手して!」
「私も!」
「私の方が先よ!」
僕は女性達にもみくちゃにされた。中には僕のことを後ろから抱き着いてくる人までいた。さすがに僕は師匠の後ろに隠れた。
「師匠。早く行こうよ。」
師匠はニコニコしながら僕の手を握ってギルドを出た。ギルド内からは女性達のため息が聞こえる。
今はフードを被りなおして師匠と手を繋いで街を歩いている。
「ねぇ。師匠。師匠は僕の師匠ですよね? 僕は師匠の弟子ですよね?」
何故か師匠は苦笑いしていた。
その日は夕食を取った後、師匠の家に帰りお風呂に入って寝ることにした。当然、お風呂は師匠と一緒に入っている。確か地球でも男の子が女湯に入れるのは5歳ぐらいまでだったはずだと思いながら、すでに11歳になった僕は未だに師匠の言葉に流されている。その日の師匠は僕の髪の毛を洗ったり、スキンシップが多い。戸惑いながらもいつものように師匠の抱き枕になって寝た。
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