虎獣人タイガ
僕と師匠は港町トマリを旅立った。
「この後どこに行きますか?」
「皇帝の動きが気になる。古代兵器を失ってその野望がなくなればいいが、そうはいかないだろう。」
「古代遺跡ってここだけなんですかね?」
「恐らくほかにもあるだろうな。」
「そうですよね。」
「とりあえず帝都モツマータに向かおう。」
「はい。」
僕達は帝都を目指すことにしたのだが、帝都までの道のりは意外と遠い。最初に北上してドワーフの街ミマキを通過した後、湖の街モトスを通って、草原の街ノアケを超えれば帝都モツマータだ。
「師匠。次の街はドワーフの街ですよね? ドワーフってどんな種族ですか?」
「そうだな。ドワーフは元々妖精が進化した種族だ。あいつらは鍛冶をやらせれば天下一品だが、酒が大好きでな。いつでも酒を飲んでいるよ。」
「師匠もお酒が好きでよく飲んでいるじゃないですか?」
「私のは嗜むという程度だ。あいつらは違うぞ!」
「お酒のどこがいいんだろう? 果実水の方が美味しいのに。」
師匠が隣で笑っていた。だんだん道が険しくなってきた。どうやらドワーフ族は、山の近くに住んでいるようだ。壁はないが、門が見えてきた。そこには門番が2人いる。僕はフードを被って師匠と2人で街に入ろうと門番のところに行った。
「おい、お前達。身分証を出せ!」
僕達は言われるまま身分証を提示した。
「女と子どもが冒険者をしているのか?」
「はい。」
「入っていいぞ!」
門番の男性もそうだが、ドワーフ族の男性は子ども以外はみんな口髭を生やしていた。それに、男性も女性も背が低い。男性は口髭があるかないかで大人と子どもの区別がつくが、女性は難しい。
「師匠。ドワーフ族の男性はなんでみんな髭を生やしているんですか?」
「ああ、子どもと間違われないようにするためさ。」
「なら女性は?」
「胸の大きさで判断するしかないだろうな。」
「へぇ~。」
僕は師匠の胸を見た。
「馬鹿! 私は大人だ!」
街中を歩いていると、結構他種族の人達もいる。目につくのは剣や杖を持っている冒険者の姿だ。中には、肌の露出が多い女性冒険者もいた。
「あら、坊や! お姉さんに何か用?」
「いいえ、別に。」
「私のこと見ていたわよね? もっとみていいのよ。」
女冒険者は胸を強調するポーズを取った。
「僕には師匠がいますから、結構です。」
僕は師匠の手を握って師匠の後ろに下がった。
「そう。残念ね。」
女性冒険者はそのまま立ち去った。
「シン。あまりキョロキョロするなよ。今みたいに絡まれるぞ!」
「はい。」
僕達が街を歩いていると何やら人だかりができている。覗いてみるとどうやら喧嘩のようだ。虎獣人の男性冒険者と人族の冒険者5人がにらみ合っている状態だった。
「師匠あの虎獣人の人は1人ですよ。大丈夫ですかね?」
「シン。まぁ~、見ていろ。面白いぞ!」
虎獣人の男性冒険者と人族の冒険者5人が言い争っている。
「貴様! 俺にぶつかっておいてただですむと思っているのか?」
「貴殿らが話しながらよそ見しているのが悪い。拙者に落ち度はない。」
「ふざけるな! こっちは5人だ! 素直に謝れば許してやる。ただし、迷惑料は払ってもらうがな。」
「お断りする。拙者は5人でも10人でも構わん。やるなら、いつでもかかってこい。」
人族の冒険者5人が剣を抜いて切りかかった。だが、虎獣人の姿が消えた。普通の人間にはそう見えただろう。けど、僕には虎獣人の動きがはっきり見える。虎獣人は高速で男達の目の前まで行き、拳を鳩尾に叩きこみ、手刀で相手の意識を刈り取っていた。
見物人達から歓声が上がる。
「オオ――――――!!」
「スゲ―――! あいつの動きが見えなかったぜ!」
「俺もだ! 気付いたら冒険者が5人とも倒れていたぜ!」
虎獣人はその場を立ち去ろうとしたが、一瞬立ち止まって僕と師匠を見た。そして、そのまま街中に消えていった。
「師匠。すごかったですね。あの虎獣人の人、強かったですね。」
「ああ、あいつはただ者じゃないな。私とシンのことを気付いていたようだ。」
その後、師匠と街を散策した。やはり武器屋や金物屋が多かった。金物屋で師匠の包丁を買った後、街の様子を知るために僕達は冒険者ギルドに行った。ギルド内はどこも同じで、昼間から酒を飲んでいる冒険者達がいる。師匠が美人だからか、それとも僕が不自然にフードを被っているからか冒険者達がこちらを見ている。僕達はそれを無視して掲示板に向かった。
「おい、あの女、すげー美人じゃねぇか?」
「お酌でもしてもらいたいもんだな。」
「あの坊やは子どもかしらね?」
「子連れでもいいや。お前、声をかけて来いよ。」
「俺が声をかけるのか~?! お前がいけよ!」
何か冒険者達が話しているのが聞こえて来る。気が散ってしまう。
「シン。気にするな。」
「はい。」
掲示板を見ていると先ほどの虎獣人の冒険者が入ってきた。
「おい。タイガの奴だ! 眼を見るなよ!」
「ああ、わかってる。」
虎獣人が入ってきた瞬間ギルド内の空気が変わり、騒がしかったギルド内が静まり返った。虎獣人の冒険者タイガは掲示板の前まできて、僕達を一瞥した。すると突然、師匠がタイガに声をかけた。
「私達に何か用か?」
「いいや、別に用はない。」
師匠が掲示板に貼られている依頼の紙をはがそうと手を伸ばすと、タイガも同じ紙を取ろうとした。
「これは私が先に受けようとしたのだ。」
「いいや、これは拙者が受ける。」
師匠とタイガがにらみ合っている。
「師匠。別の依頼にしましょう。」
「シン。お前は黙っていろ!」
するとタイガが提案してきた。
「ワイバーンの討伐は難易度の高い仕事だ。どちらがふさわしいか裏の修練場で決めようじゃないか?」
「ああ、いいぞ。」
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