港町トマリの悪者退治
僕と師匠はその日のうちにデビッド伯爵の屋敷に向かった。デビッド伯爵の屋敷では大騒ぎになっていた。なにせ遺跡島が消えてなくなったのだ。当たり前かもしれない。
『隠密』を発動して、屋敷の中に入ると先日の応接室にデビッド伯爵とラッド子爵、ビット子爵の3人が顔面蒼白状態でいた。
「デビッド伯爵様、皇帝陛下には何とご報告しましょう。」
「報告などできるものか! 下手をすれば我ら3人とも死刑だ!」
「では、どうなさるおつもりですか?」
「3人で他国へ逃げるか?」
「では、早速荷物をまとめに帰ります。」
「家財道具などは置いて行けよ! 金さえあれば、他国でも新しく買える!」
このデビッド伯爵というやつは救いようがないほど未熟な存在だ。僕も師匠も呆れて言葉を失った。僕と師匠がとともに『隠密』を解除すると、突如現れた女と子どもに3人は驚いていた。
「お前達は何者だ? どこから入ってきた?」
「ずっといたけど。ねっ! 師匠。」
「貴様らは絶対に許さん! 女を遊び道具にしたばかりか、罪もない人々を攫って利用した挙句に殺そうとした!」
「ふざけるな! 女、子どもの分際で貴様らに何ができる!」
「侵入者だ―――――!」
デビッド伯爵が大声を上げた。すると、デビッド伯爵の声を聴いて兵士達が部屋に入ってきた。
「死にたくなければ去れ! はむかうやつは殺す!」
珍しく師匠が怒っている。師匠の身体から黒い霧状のものが噴き出した。デビッド伯爵も兵士達も後ずさりしている。
師匠が兵士達に最後通告をした。
「この場に残っているということは殺してもよいということなのだな!」
師匠の身体からさらに闘気が溢れ、窓の扉が勢いよく開いた。部屋にいるのはデビッド伯爵、ラッド子爵、ビッド子爵と兵士5名だけだ。だが、騒ぎを聞きつけた兵士達が続々とやって来て、廊下で待機している。
「何をしている! 早くこいつらを殺さぬか!」
デビッド伯爵の怒鳴り声で、一人の兵士が師匠に切りかかった。しかし、師匠が腕を横に振ると、兵士の頭が身体から切り離された。
「ギャ―――――」
その様子を見て、兵士達は武器を捨てて部屋から一目散に逃げ出した。廊下にいた兵士達も状況が分からないようだが、部屋から聞こえた悲鳴を聞いて一緒に逃げて行った。部屋に残っているのは、デビッド伯爵とラッド子爵それにビッド子爵だけだ。状況が不利になると、デビッド伯爵が師匠に謝り始めた。
「お願いだ! なんでもする。助けてくれ!」
「無駄だ! お前達は生きる価値がない!」
すると、ラッド子爵が暴露し始めた。
「私はこの計画には反対だったのだ! デビッド伯爵様に逆らえずに従ったまでのことだ! この計画は全てデビッド伯爵様が考えたことだ。私に罪はない。見逃して欲しい。」
「この裏切り者が!」
デビッド伯爵は懐に隠してあった『銃』の引き金を引いた。ラッド子爵の胸に銃弾が当たり、ラッド子爵は絶命した。
「おい、女。これで形勢逆転だな。なかなかいい女じゃないか。命が欲しければ俺の言うことに従え。さもなければ、そっちの小僧も殺すぞ!」
デビッド伯爵は嫌らしい笑いを浮かべ、舌なめずりをしている。
「撃つなら早く撃て。」
その言葉にデビッド伯爵は怒りを表し言い返した。
「ならば、小僧を撃ってやる。その後、じっくりとお前を甚振ってやるよ。」
デビッド伯爵が僕を撃った。
「バキュ――――ン」
「下郎が! 女のくせにこの俺様に逆らうとは生意気なんだよ。貴様が逆らうからこうなるんだ。貴様も同じようになりたくなければ、俺様の言うことを聞け!」
僕の胸に穴が開き、血が流れる。だが、自己再生能力のあるせいで僕の傷はみるみるうちに治っていく。その様子を見て、デビッド伯爵の顔が青ざめていく。
「なぜだ? どうなっている? お前は何者だ?」
「シン。こいつらに教えてやろう。我らの正体を。」
「はい。」
僕と師匠は仕舞ってあった翼を出した。背中に漆黒の翼が出た。
「もしや、貴様らは魔族か?」
「ああ、そうだ。これでわかっただろう。お前らには私達を殺せぬ。」
「そんな・・・・・」
僕は師匠が動く前に刀を抜いて2人の首を刎ねた。
「シン。何故だ!」
「こういうことは僕がやります。師匠にはあまりやらせたくないんです。」
「シン・・・・・」
師匠が真剣な顔をして僕の手を掴んできた。
「終わったな。帰ろうか。」
「はい。」
僕達が『絆亭』に戻るとタキさんとジョン君が、体の大きな男性に抱き着いて泣いていた。恐らくお父さんなのだろう。僕と師匠を見つけると男性が駆け寄ってきた。
「ありがとうございます。あなた達のお陰でこうやって家族と再会できました。本当にありがとうございます。」
師匠は真剣な顔で答えた。
「あなたが家族に会いたいと必死で願ったからだ。」
その後、ジョン君の父親のラガーさんが、タキさんとジョン君にこれまでのことを説明した。たまたまその日は遺跡島の近くで漁をしていたら、兵士達に捕まり遺跡の中での労働を強いられることになった。そして、兵士からは遺跡の調査が終わり次第お金を渡して解放してやると言われたそうだ。だが、実際に作業が終わると殺されることになった。そこに、師匠と僕が現れたということだった。遺跡の中で発見された武器のことはよくわかっていないようだった。
タキさんとジョン君にとても感謝された。そして、ジョン君がフードを取っている僕に近寄ってきた。
「シン兄ちゃんって髪が白かったんだね。すごくかっこいいよ。いつもフードかぶっていたから気付かなかったよ。」
僕はジョン君の頭を撫でた。
「本当にかっこいいのはラガーさんじゃないかな? ジョン君とタキさんのために必死に頑張ったんだから。」
「そうだね。」
ジョン君はラガーさんのところに走って行った。
「私達はこれで失礼しますね。」
「えっ?! 泊まらないんですか?」
「ああ、シンも私も修行があるからな。次の街に向かうつもりだ。宿代のお釣りもいらないぞ。何かの足しにでもしてくれ。」
「シン兄ちゃんも師匠姉ちゃんも行っちゃうの?」
「ああ。ジョン君も元気でね。」
3人が深々と頭を下げて感謝の言葉を口にした。
「ありがとうございました。」
僕と師匠は笑顔でその場を立ち去った。
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