最後の戦いに向けて
ミアとハヤトが、それぞれダークエルフ族とリザードマン族に遭遇している頃、大陸の中央に向かって飛んでいたセフィーロは眼下に街を発見した。セフィーロが街に降り立つと、そこには蝙蝠のような黒い翼を持った人々がいた。その様子から、セフィーロにはどの種族の街なのかすぐに理解できた。
“我が子孫達の街か。もしかするとアーロンのこともわかるかもしれないな。”
セフィーロが街の中を歩いていくと、前方からこの街の責任者らしき紳士がやってきた。
「あの~。この街に何か御用ですか?」
「はい。私セフィーロと申します。アーロン君を探しにきたんですが。」
「もしや、あなた様は始祖様でいらっしゃいますか?」
「そうですね。」
その紳士は片膝をついて、セフィーロに挨拶をした。周りの人々はその様子を見て不思議なようだった。
「申し遅れました。私、この街の長をしております。ドラリーと申します。どうぞ、私の屋敷までお越しください。」
セフィーロが案内されたのは小さなお城だった。
「アーロンからセフィーロ様や魔王様、四天王様のことは伺っております。この国の魔王ナザルとはえらい違いですな。」
「ナザルですか?」
「はい。突如現れて、いきなり頭角を現し、魔王の座に就いた成り上がりものです。」
「ナザルのことはよく知っていますよ。それで、アーロン君はどこにいますか?」
「アーロンは、魔王ナザルがセフィーロ様方を敵視し、この大陸の魔族の戦士達を集めていますので、その討伐に向かいました。」
「たった一人でいったのですか?」
「はい。みんなも止めたんですが、四天王様達のお陰でだいぶ強くなっておりまして、我々では止めることができませんでした。」
「確かに彼は強くなりましたが、相手は邪神ですから。彼が危険ですね。」
ドラリーはセフィーロの口から“邪神”という言葉が出たことに驚いた。
「ナザルは邪神の手下なんですよ。我々は、エリーヌ様からの使命を受けた魔王様を支えて、その邪神の討伐に来たんです。」
「セフィーロ様。アーロンの救出にお力をお貸しいただけませんか?」
「魔王様はアーロンのことを気に入っておられます。私がアーロンを探しているのも、魔王様のご指示ですから。」
「なんと優しいお方だ。では、我々も微力ながら邪神の討伐に参加しますぞ!」
「命の保証はしませんよ。」
「大丈夫です。覚悟の上です。」
「わかりました。では、急いで準備をしてください。」
ドラリーは部下に指示を出した。すると、すでに準備を始めていたもの達が次々と集まってきた。
セフィーロがドラリーの屋敷でドラリーと話をしていると、シンから念話が入った。
“セフィーロさん。ハヤトさん。ミアさん。師匠とリフカ大陸に着いたけど、みんなの状況を教えてくれるかな。”
“魔王様。私は現在バンパイア族の街にいます。アーロンが一人で魔王城に向かったようです。他のバンパイア族も邪神の討伐に参加するそうです。”
“魔王様。わしはリザードマン族の村にいますが、リザードマン達も邪神討伐に参加したいと申し出いますぞ。”
“魔王ちゃん。元気? 私はダークエルフ族の村にいるわよ。男達がナザルに騙されて、魔王城に駆り出されているみたいなの? なんとか助けてあげたいんだけど。”
“魔王城に一番近いのはバンパイア族の街だね。みんなそこに集合してくれるかな。”
“了解しました。”“わかったわ。”
オレと師匠とカゲロウはバンパイア族の街まで急いだ。さすがに、リフカ大陸は魔族の大陸だけあって魔素が濃い。下をのぞくと、大型の魔物達もいる。魔族はこの過酷な環境の中で生活しているのだ。なんとなく、この大陸の魔族が強くなったり、好戦的になったりするのが分かるような気がした。
魔王城まではかなり離れているのだろうが、魔王城の方向からどす黒い魔力を感じた。恐らく邪神だろう。それにしても、冷たく吐き気のする感じだ。隣を見ると、師匠の顔も歪んでいた。師匠もオレと同じ感覚に陥っているのだろう。
“シン。この感覚は邪神だな。すでに、復活しているとみて間違いなさそうだな。”
“はい。邪神の力が完全に戻らないうちに討伐に向かいましょう。師匠!”
“そうだな。”
オレ達がバンパイア族の街に到着すると、すでにハヤトさんとリザードマンの戦士達とミアがダークエルフ族のダークネスと一緒に来ていた。
「みんなお待たせ!」
オレの姿を見たリザードマン達が何やら騒がしい。
「おい! もしかしてあの子どもが別の大陸の魔王なのか?」
「多分そうだろうな。ハヤト様が挨拶しているからな。」
「大丈夫なんだろうな?」
オレや師匠など上位の魔族になると、かなり小さな声まで聞こえる。セフィーロが笑顔でオレに言って来た。
「魔王様。みんな、魔王様のことを子どもと思っておいでのようですね。」
セフィーロが何を言いたいかすぐにわかった。確かにオレのような子どもに命を預けるなどできないかもしれない。そこで、オレは少しだけ魔力と闘気を解放して上空に舞い上がった。オレの身体から眩しい光が放たれ、背中の黒い翼が純白の翼に変化し、瞳が輝いている。
「みんな。良く集まってくれた。これからオレ達はこの世界を守るために、邪神とナザルのいる魔王城に乗り込む。命を落とすかもしれない。だが、この世界の平和こそ最高神エリーヌ様の望みだ! オレとともに戦って欲しい!」
「オ―――――――!!」
オレのことを怪しんでいた者達も全員が空に腕を突き上げ、オレの言葉に呼応していた。
「セフィーロさんはアーロンを探して! ハヤトさんはリザードマン達とナザルに味方する者達の討伐ね! ミアさんはダークネスさんとダークエルフ達の説得に向かってくれるかな!」
「わかりました。魔王様とナツ殿はどうしますか?」
「ナザルの討伐に向かうよ。」
「お気をつけて! 何かあれば念話でお伝えします。」
全員がその場から出発した。オレと師匠も純白の翼で魔王城に向かった。オレ達の後ろにはカゲロウがいる。
オレと師匠は魔王城を見下ろせる山の頂上まで来た。
「師匠。いよいよです。今日は久しぶりに師匠の家まで転移してゆっくりしましょう。」
「そうだな。」
カゲロウが気を利かせて残って見張りをすると言い出した。
「ありがとう。カゲロウ。」
「シン様。ナツ様。ゆっくりしてきてください。」
明日はいよいよ決戦だ。思い起こしてみれば、前世で何の役にも立たない引きこもりだった自分が、この世界に来て師匠と出会い、魔法や武術を身につけ何とか人の役に立てるようになった。みんなから魔王やら精霊王やら神の使徒だとか言われ、友達もできたし、もう思い残すことはない。
「師匠。オレ、全力でこの世界を守ります。」
布団の中で、オレは独り言のようにつぶやいた。
「大丈夫だ。私もついている。ともにこの世界を守ろう。」