ダークエルフ族とリザードマン族
そのころ、先にリフカ大陸に向かったセフィーロとハヤトとミアは念話で連絡を取り合いながら、別行動でアーロンを探すことにした。
セフィーロは大陸をそのまま中央に向かって進み、ハヤトは海岸沿いを右に、ミアは左にとそれぞれ進んだ。
ミアが海岸沿いを南下して飛んでいると大きな森に差し掛かった。すると、森の中から何本もの矢が飛んできた。ミアはその矢を避けながら、上空で停止して下を魔眼で確認した。すると、数名が森の中で確認できた。魔法で一気に殲滅することも可能だったが、姿を消して矢を放った者達の近くに転移した。
「ねぇ。急に姿が見えなくなったんだけど。」
「私も見失ったわ。」
「このままだと、魔王ナザル様に罰を受けるわ。どうしましょう。」
「一旦村に戻りましょうか?」
ミアが姿を隠していることに誰も気づかない。彼女達はダークエルフだった。何よりも驚いたことに彼女達は“魔王ナザル”と言ったのだ。ミアはそのまま彼女達の後をついて聞くことにした。
しばらく森の中を歩いていると、急に開けた場所に出た。恐らくダークエルフの村だろう。だが、不思議なことにその村には女と子どもと歳よりしかいない。ミアは全身に物理結界を張って、姿を現すことにした。
「ねぇ。ここがあなた達の村なの?」
急に誰もいないはずの後ろから声をかけられたことに、女性達は驚くと同時にすぐに剣を構えた。
「お前どこから現れた?」
「ずっとあなた達の後ろにいたわよ。」
「お前は魔王ナザル様が言う通り、別の大陸から来た狂暴な魔族なのか?」
「失礼ね~! 私が狂暴ならあなた達はこうして生きていないわよ。」
「確かに。だが、我々の後をついて来て村ごと滅ぼすつもりなのだろう。」
「私はミア。堕天使族よ。堕天使族は嘘は言わないわ。私はあなた方の敵じゃないわ。剣を下ろして。」
遠くの木の上からミアに向かって矢が飛んできた。ミアがその方向を一睨みすると矢は砕け散った。
「待て! みんな! 攻撃するな! この者と話をしたい。」
「ダークネス様。よろしいのですか?」
「私達が全力でかかっても、彼女には勝てませんよ。彼女がその気になれば、この村ごと滅ぼせるでしょうに、彼女はそれをしないわ。何故かしら? 彼女は敵じゃないかもしれないでしょ。」
「わかりました。」
「ダークネスとか言ったな。話の分かるのがいてよかったよ。」
「ミアさん。ここではなんですから。我が屋敷にお越しください。」
ミアはダークネスに連れられて、ダークネスの屋敷に向かった。
「我が同胞達が大変失礼をしました。」
「別にいいよ。それより、“魔王ナザル”とか耳にしたけど。」
「はい。このリフカ大陸は魔族が住む大陸です。この大陸では、自分こそ最強だと言って常に戦いが起きていました。特に各種族で最強のものは、自分こそ魔王だと勝手に魔王を名乗ったりしていたのです。そこに、ナザル様が現れて、力自慢のもの達を次々と打ち負かして、絶対的な強者として魔王となったのです。」
「ナザルはあなた達が言う別大陸の魔族の中で、学者だった男だよ。そんな奴が強いはずが無いよ。」
「嘘ではありません。彼の強さは尋常ではありませんでした。そして、彼は別大陸から狂暴な魔族が襲ってきて、この大陸の魔族達を皆殺しにするから、見つけ次第殺すようにと指示が出たのです。」
「なるほどね。ダークネスさん達はそれを信じたんだね。」
「はい。それに、逆らえばこの村ごと滅ぼされてしまいますから。」
「でも、男達はどうしたの?」
「男達はみんな、ナザル様の命令で魔王城に行っています。」
「ダークネスさん。正直に話してくれてありがとうね。」
「私も正直に言うわね。驚かないで聞いてね。実は、私は別大陸の魔族四天王の一人なのよ。他の四天王達と魔王様とナザルの討伐に来たのよ。ナザルは邪神の手下なの。この世界を滅ぼそうとしているのよ。」
「えっ―――――! まさか?! そんな!!!」
「本当よ。魔王シン様は精霊王であり、エリーヌ様の使徒なのよ。」
その場にいたもの達の驚きは半端ない。
「ならば。我が主人達はエリーヌ様に敵対しようとしているのですか?」
「そうなるよね。でも、大丈夫。魔王ちゃんは優しいからね。きっと、助けてくれるよ。」
「”魔王ちゃん“?」
「見ればわかるわよ。でも、惚れたらだめだからね。近くに怖いナツ姉様がいるからね。」
「ナツ姉様ですか?」
「私と同じ堕天使族なんだけど、四天王の筆頭よ。それに魔王様と同じでエリーヌ様の使徒よ。」
「そんな方までいらっしゃるんですね。」
「ほかにバンパイア族の始祖のセフィーロと竜人族の始祖のハヤトも来てるよ。」
「ミアさんの話を聞いて、希望が湧いてきました。」
その頃、海岸沿いを北上したハヤトはリザードマンの集落にいた。丁度、男のリザードマン達が魔王城に向かおうと準備を整えていた時だった。
「皆の者! 何をしている! 早くこの者を打ち取れ~!」
「ティラ様。こいつ半端ない強さです。」
「お前らごとき、束になって掛かって来てもわしには勝てんぞ! 降伏するがよい!」
「ティラ様どうしましょう? このままでは村は・・・・・・」
「そなたも気づいたか?」
「はい。誰も死んでいません。」
「そうなんじゃ。あやつ、我らを殺す気はないようじゃな。」
ハヤトが本来の姿に戻った。それは、真っ白な古代竜の姿だった。
「我が子孫達よ! そなたらは精進が足りんようだ。もっと本気でかかってこい!」
ハヤトがみんなに呼びかけるが、ティラを始めとして全員がハヤトに平伏している。
「申し訳ございません。古代竜様。ご無礼の数々、どうかお許しください。」
ハヤトは元の竜人の姿に戻った。
「よいよい。だが、お前達、我が子孫として少し情けないぞ! もっと修行に励め!」
その後、村長ティアの屋敷に招かれ、魔王ナザルのこと、邪神のことなどを説明した。
「では、魔王ナザルはハヤト様達の大陸の魔族で、邪神の手下ということですな。」
「まっ、そういうことになるな。」
「なるほど納得しました。あれほどの強さ、邪神の加護を受けているとなれば理解できます。」
「我が魔王様は最高神エリーヌ様の使徒だ。ナザルや邪神などに負けはせぬ。」
「我々もハヤト様に加勢しますぞ!」
「ありがたい。魔王様に伝えよう。」




