ナイジェ王国のエルフの里
ドリアードさんが名残惜しそうに帰って行った。オレと師匠もミチルを連れてナイジェ王国に転移した。
「ミチルちゃん。エルフの里まで案内してくれるかな。」
「はい。任せてください。」
ミチルちゃんは見た目が12歳ぐらいの少女だ。エルフ族も魔族と同様に長寿の種族だが、魔族同様に15歳の成人までは人族と歳の取り方が同じようだ。
「ところでシン様はおいくつなんですか?」
「オレは15歳だよ。どうして?」
「なら、お兄ちゃんですね。もう、決まった相手はいるんですか?」
オレは師匠の顔を見た。師匠は2人の会話を聞いていないふりをしている。
「いるよ。師匠さ。オレの一番大事な人だからね!」
師匠がニコニコしている。嬉しそうだ。オレとつないでいる手に力が入った。
「そうなんだ~。ナツ様が相手じゃ勝てそうもないな。」
「ミチルちゃんにもきっとお似合いの人が見つかるよ。」
「ああ、そろそろです。」
オレ達3人は、王都スターゲートから、かなり西に来た場所に広がる広大な森の中を歩いている。森の奥に行くにしたがって霧が濃くなってきた。
「師匠。この霧は?」
「ああ、そうだ。エルフ族の結界だな。これだけ厳重な結界があるのに、どうしてミチルは人族になんか捕まったんだ?」
「人族が魔物を狩りに森に来ていたから、結界から出て様子を眺めていたらいきなり襲われたの。」
「両親が心配してるだろう?」
「多分ね。」
ミチルは反省しているのか、下を向いてしまった。しばらく歩いていると、霧が晴れて集落が見えてきた。
「ここだよ。私の村。」
ミチルがいきなり走り始めた。オレと師匠もミチルの後を追って走った。集落の入口には、木の柵があり、そこに兵士のようなエルフ達がいた。
「ミチルじゃないか! お前、どこに行っていたんだ! 村中でお前のことを探したんだぞ!」
「ごめんなさい。人族に捕まって、大きな街まで連れて行かれて・・・・」
ミチルは感極まったのか、泣き始めてしまった。
「まあ、いい。無事で何よりだ。それよりも早く家に帰って両親を安心させてやれ!」
「うん。」
どうやら優しい兵士のようだ。兵士はオレと師匠の方を見た。
「お前達は何者だ!」
「エリオンさん。この人達は私を助け出して、ここまで連れてきてくれたの。」
「そうだったのか。」
エリオンが再びオレと師匠を見た。そして、お礼を言ってきた。
「失礼しました。ミチルを助けていただきありがとうござました。どうぞ、中にお入りください。長老のところまでご案内します。」
「はい。」
オレと師匠はエリオンの後について行った。ミチルは一旦家に帰り、その後で長老の家まで来ることになった。
「ここです。少しここでお待ちください。」
オレ達の大陸にあるエルフ国のゲーテさんの家と同じような感じだ。
“キャサリンさん何してるかな~? 久しぶりに会いたいな~。”
心の中でそんなことを考えていると、師匠が言ってきた。
「シン。お前、今、キャサリンに会いたいとか考えただろう!」
「えっ?! よくわかりましたね。」
「お前の鼻の下が伸びていたからな。」
オレは慌てて自分の顔を触って確かめた。
「まぁ、いいだろう。私もお前を独占するつもりはないからな。」
「オレは師匠一筋ですから!!」
ふてくされた様子の師匠の顔が急にほころんだ。
「お待たせしました。こちらにどうぞ。」
エリオンさんに言われるまま中に入った。中に入ると長老らしき人物がいた。オレ達の姿を見て何かを感じ取ったようだ。
「この度は我が同族のミチルを助けていただいてありがとうございます。私はこの里の長老をしていますカスパーと言います。」
「オレはシン=カザリーヌです。」
「私はナツ=カザリーヌだ。」
「お二人はご夫婦でしたか。」
「いいえ。今はまだ婚約者です。でも、近いうちにオレは師匠と結婚します。」
師匠が真っ赤な顔をしてうつむいている。
「大変失礼ですが、お二人は人族ではありませんな。なにやら神聖な魔力を感じますが。」
そこに、真っ赤に目をはらしたミチルとその両親がやってきた。
「カスパーおばあちゃん。ごめんなさい。」
「ミチル。元気で何よりだ。もっと近くに来ておくれ。」
ミチルは長老に抱き着いて、泣きながら謝った。
「もういいんだよ。無事に帰ってこれたんだから。」
「うん。シン様とナツ様の仲間の人達に助けられたんだ。」
「申し遅れました。私はミチルの父のダンです。こっちは妻のミリアです。この度は娘を助けていただいてありがとうございました。」
「いいえ。助けたのはオレ達でなく、仲間ですから。仲間には伝えておきますよ。」
「仲間って、セフィーロさんとハヤトさんのこと? さすが魔族の四天王です。すごく強かったです。」
「魔族?!」
「はい。オレ達は魔族です。」
近くにいたエリオンさんから殺気が感じられた。ミチルの両親の顔色も変化した。だが、長老カスパーはニコニコしている。
「お前達! 失礼だぞ!」
「ですが・・・」
「この方達はミチルの命の恩人じゃ。それに、魔族もエルフ族も同じように神の子じゃ。本当に怖いのは、悪の心を持った連中だ!」
「さすがカスパーおばあちゃんだね。精霊王のシン様と同じことを言ってる。」
「な、な、なんと! 精霊王様じゃと!!!」
「実はオレは魔王なんです。でも、精霊王でもあって、隣の師匠と一緒にエリーヌ様の使徒もしているんです。」
カスパーもエリオンもミチルの両親も同時に平伏した。
「皆さん普通にしてください。オレ達はそんなに偉い存在じゃないですから。」
「精霊王様は我々エルフ族にとって信仰の対象なんです。その神と思える方が目の前にいるとは、長いこと生きていて良かったですわい。」
「ここで断言します。この世界の最高神エリーヌ様が偉いのであって、オレは決して偉くありませんから。」
「なんと謙虚な。なんとお優しい方なんじゃ。」
師匠がオレの顔を見て微笑んでいる。
「エリオン。宴じゃ。今日は村中のみんなで宴じゃ。」
「はい。畏まりました。直ぐに準備します。」
宴と聞いてオレは少し焦った。ゲーテさんやキャサリンさんの時も宴に参加したが、野菜や果物ばかりだった苦い思い出がある。そんなことが頭に浮かんだ。オレと師匠は何か手伝おうと思って、村を散策した。
「師匠。今日は宴に参加して、明日セフィーロさん達に合流しましょう。」
「そうだな。久しぶりに飲むか。」
「師匠はいつも飲んでるじゃないですか。」
「子どものお前にはわからんだろうが、エルフ族の酒は格別なんだよ。」
「オレ、成人したんですけど!」
「なら、お前も飲むか?」
「わかりました! 付き合います!」