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わたしの〔ソウル〕こっくりさん  作者: 俺(41)
第一夜「こっくりさん」
4/22

二.

  七月二日(木曜日)


 六月上旬に梅雨入りしてから一日間だけの中休み以降、絶えず降り続いていた雨は、七月に入ると同時に止んだ。

 それどころか、雲一つ見当たらない。それが今日で二日目になる。

 とはいえ、大地を湿らせ続けた雨水が、この二日間でどうにかなるわけもなく、相変わらず狂ったような湿気と熱波が、驚異的な不快指数を叩き出し続けている。

 クーラーが無い部屋では、かなり気を使わないとすぐに熱中症になってしまう、そんな気候となっていた。


 糸川市立生能(いくの)中学校。

 ここは悠花(はるか)の通う、生徒数百八十名余りの小規模中学校である。

 小規模中学校と言っても、近隣の六つもの小学校――生能、中生能、南生能、川爪、岩筒、鬼臥(おにふせ)の六小学校にも及ぶ――の卒業生が通う。

 学区だけ見れば、かなりの大きさだ。

 その昔――だいたい二十五年ほど前――は、生徒数は現在の二倍弱、三百名は在籍していたという。

 そのため、この中学校の校舎はコンパクトながら、四階建てと大振りだ。

 教室のある校舎はコの字型になっており、コの字の上の横線部分は北棟、下は南棟と呼ばれ、縦線部は中央棟で、職員室や玄関がある。

 この中学校には、クーラーが設置されていない。

 つまり、人死にも出かねない熱気の中で、悠花のクラス二十六名は席に着き、暑さ――すでに「熱さ」と言っても過言ではない状況だが――に喘ぎながら授業を受けている。

 教える方も大変だ。

 玉のような汗をぽたり、ぽたりと垂らしながら、数式を黒板に書き殴っていく。

 生徒は汗を、ハンカチあるいは手で拭いつつ、板書したり問題を解いたりしていた。

 悠花のクラスは一年一組。

 北棟四階の、最も東側の教室である。

 ようやく六時間目の授業が終わり、ホームルームもつつがなく終了すると、生徒たちは、教室の掃除当番を除けば、部活動に出掛ける者、宿題を片付ける者、なんとなく残ってお喋りする者、ものすごい勢いで帰宅する者など様々である。

 そして悠花は今日も、こっくりさんを眺めていた。


「こっくりさん こっくりさん 北の窓からお入りください――」


 今日のメンバーは珍しいことに、望美とその取り巻きではなかった。

 永倉(えいくら) 佳奈(かな)と、尾藤(びとう) 伊佐美(いさみ)

 佳奈は目立つことは好まず、班での話し合いなどでも積極的な発言をしない、引っ込み思案で意思を伝えるのが苦手な娘だ。

 伊佐美はそんな佳奈との友人関係を四年続ける、心優しく面倒見の良い娘である。

 そこに、一人の男子が――、悠花の幼馴染がいた。

 竹林(たけばやし) 虎二(とらつぐ)は悠花の家から三軒隣りのご近所さんで、小学校に入る前から親しくしている幼馴染のうちの一人である。

身長は悠花より少し低い百三十七センチ、眉が太めで目鼻立ちがはっきりしている。

 竹を割ったような性格をしていて、やや筋肉質なことと運動全般が得意なこともあり、女子からの人気はそこそこだ。

「もうちょっと身長が高ければ」と女子に言われることもあるが、そんなことは本人が一番望んでいることだろう。

 そんな虎二が女子と、こっくりさんをしている。

 ――珍しいこともあるもんだなぁ。

 悠花がそう思っていたところ、

「悠花ァ、今日も見学か」

 背を向けていた虎二は、十円玉から指を離さず、器用に悠花の方を向いて言った。

「んー。わかってるでしょ、トラ」

 悠花は虎二のことをトラと呼ぶ。幼い頃からずっと、そう呼んできた。

「心配なのはわかってるけどよぉ。何かあったところで、お前にできることなんて、無くね?」

 虎二は運動バカで、頭を使うことは苦手なのだが時々、こうして本質を突く。

 悠花はぐぅの音も出なかった。


 しばらくすると、締めの口上が聞こえてきた。

「こっくりさん、こっくりさん、北の窓からお帰りください」

 わりと長い時間唱えていたところを見ると、あの〈こっくりさん〉はあまり帰りたくなかったようで、十円玉が〈はい〉の位置に移動するまでに、二十分ほどを要していた。

 最後のほうは、泣きそうな声になっていた。というか佳奈は、泣いていた。


「悠花ちゃんはこういうの、嫌い?」

 ひと仕事終えて満足げな表情の佳奈が、悠花に声をかける。

 喉元過ぎれば熱さを忘れるとは言うが、まぁ現金なものである。

「嫌いっていうか、おばーちゃんがねー。『動物霊なんて、何をするかわかったものじゃないから、そういう遊びはしちゃいけませんよ』って」

 悠花は素直なので、正直に答えた。

 佳奈は読書が趣味だ。

 四六時中、様々な本、雑誌や小説、漫画や辞書事典に至るまで読みふけるような娘で、それが祟ったか瓶底のようにぶ厚い眼鏡をかけている。

 それに外見をあまり気にしない性格が悪魔合体をしてしまったお陰で、やや残念な容姿に甘んじている。

 だが、そばかすや肩まで伸びたセミロングの天然パーマ、元々色素の薄い髪質などはきちんとケアすれば、そこそこ可愛くなるはずであった。

 そういう娘だったから、彼女がこっくりさんに手を出すとは悠花は思ってなかったし、このこっくりさんのやり方は――

「それにほら、あったじゃん、あのユーチューバーの事件」

「あー、〈IMOKIN(イモキン)〉のやつ?」

 悠花の言葉に伊佐美が反応した。

「そう、それ」

「あの、『こっくりさん緊急生配信回』ね」


 前世紀末から今世紀にかけてのこっくりさん盛衰記については以前、説明したとおりであるが、こっくりさんという儀式――あるいは遊び――が衰退した現代にあって、思い出したように話題にする者はあった。

 それが広まらなかったのは、その話題に喰い付く者が、単純に少なかったからだ。

 なぜかと言えば、それまでのインターネット上での表現法の乏しさにあった。テキストあるいは良くて画像を多用する程度の紹介では、解りにくいことこの上ない――つまりは「取っ付きにくかった」に他ならない。

 それが、ここ数年の間に環境が劇的に変化した。

 高速通信が一般化することによって、ユーチューバーという職業が生まれたのである。

 ユーチューバーとは、動画サイト「ユーチューブ」において、衆人の目を引くコンテンツを提供することで広告収入を得る人たちだ。

 ユーチューブとユーチューバーは広告会社から広告料を受け取り、広告会社は視聴数に応じた報酬を広告主から受け取る。広告主は視聴数分だけ自社のCMを視聴者に見せることができ、視聴者は無料でユーチューバーの動画が観れる。

 関わる全員が幸せになれるこのシステムに、乗らない手はない。そんな夢を見た多くの一般人が、ユーチューバーとして名乗りを上げた。

 去年の暮、そこに登場したのが件のIMOKINである。

 ヨシヒコ、WALIO(ワリオ)、パンちゃんの三人組の演者が、様々なことにチャレンジするという体裁で、真面目な顔で馬鹿なことをやっていた。

 毎月のイベントに合わせたコントや、実録風のリポート動画、たまに迷惑行為をして炎上する(多くの人から批判を受けること)など、一般的なユーチューバーらしい活動を行ない、着実に視聴者を増やしていた。

 そんな中、彼らが一気に視聴者数を増やすために行なったチャレンジこそ、

「こっくりさんの生配信」だった――

 それは十日前――六月二十一日(日曜日)のことである。


  * * *


 生配信は夜、二十二時から開始された。

 概要はこうだ。

 だいたい悪いことしかしないWALIOが、こっくりさんで遊ぶことを提案した。

「よう、こっくりさんって知ってるか。なんでも、キツネの霊が、知りたいことを教えてくれるって話だぜ」

 すると、世代的に知らないはずのない、だいたい天然ボケのヨシヒコが、

「な、なんですかそれはっ。やってみたいです。どうすればできますか」

 と、WALIOに噛み付くように迫る。

 ところがWALIOは細かいことは知らない。

 ヨシヒコのあまりの喰いつきに戸惑ったWALIOが、通常進行役を務めることの多いパンちゃんに振ると

「知らないから。知らないから」

 と言いながらも、聞くたびにどんどん準備が進んでいくというコントが始まった。

 全ての準備が整うまでに二十八分かかった。

 準備とはすなわち、

・外に通じる北側の窓を開ける

・テーブルの北側に油揚げとお酒(たぶん日本酒であろう)のお供え物

・テーブルの周囲、東西南北にロウソクを灯す

・問答のための文字列を記入した紙(呪符)の用意

 そして、

・十円玉

 である。

 そこそこ稼いでいるユーチューバーらしく、使用されたセットは本格的なものだった。

 軸の長い燭台は雪洞(ぼんぼり)で覆ってあり、そこには優しげな火を灯す和ろうそくと思しき立派なロウソクが据えてあった。

 呪符の文字はわざわざ墨を摺り、正方形に切った和紙に薄墨で書き込んでいる。

 十円玉も新品だったが、これには意味があったのかどうか。


 二十二時三十四分、照明が絞られ、光源がほとんどロウソクの灯だけとなった民家と思しきスタジオで、三人によるこっくりさんが始まった。

 北側は供物で塞がっているため、三人の位置は東にWALIO、南にパンちゃん、西にヨシヒコとなっている。

「こっくりさん こっくりさん 北の窓からお入りください」

 何度も、何度も同じ文言が繰り返される。

 カメラの位置は固定され、北東の方角から南西に向けられていた。

 同じ映像に同じ台詞。

 そろそろ視聴者が飽きてくる頃、にわかに動画にノイズが生じた。

 一度だけではなかった。数分のうちに二度、三度とブロックノイズが乗ったかと思うと今度は、生木を折るような【ピシッ】という甲高い音が十数秒の間隔で聞こえてくる。

 ――家鳴りという現象がある。

 木造建築の家屋によく発生する、建材が昼夜の気温差などによって伸縮し音が鳴る現象のことだ。

 それも生木を折るような高い音がするのだが、そういうものは大抵の場合、寝静まった深夜に一度、多くて二、三度も鳴れば充分である。もちろん十数秒ごとに鳴るなど有り得なかった。

 すると、これはいわゆる〈ラップ音〉と呼ばれる現象に違いない。

 幽霊などが起こすとされる、怪奇現象の一つである。

 ラップ音が鳴り響く中、とうとう十円玉が動き始めた。

 歓声を上げる一同。呼び出しに成功したのだ。

 そこにヨシヒコが

「それでは、こっくりさん。我々の中で誰が一番早く、彼女ができるでしょうか」

 今それを聞くのか。全国のちびっ子が同じツッコミを入れたであろうその時、一本のロウソクの火が大きく揺れた。

 十円玉は速やかに〈いいえ〉に移動する。誰かが操ってるとしか思えない速度だった。

「……移動が、速すぎやしねえか」

 WALIOの声は、震えていた。

 それでもヨシヒコの質問は続く。

 やれ人気者になれるかだの、それ最高年収はいくらかだの、わりとゲスなことばかり聞いている。俗物なのだろう。


 ややしばらくヨシヒコとこっくりさんのやり取りが続いていたが、唐突に一本のロウソクの灯が、

 消えた。

「「「うわっ」」」

 驚く一同。

 さらにもう一本の灯が掻き消えた。

 残りは二本。

「……」

 顔を見合わせる一同。そこに、何かが映り込む。

 一瞬の出来事で、視聴者はよくわからなかった。が、顔のように見えた。

 うまくは表現できないが、不吉な表情をした老人――老人、だったのだろうか。

 もちろん、演者にはわからない。

 そして、画像が乱れ始めた。

 さらにヨシヒコが何事かを喋り出す。が、よく聞き取れない。

 他の演者も同じらしく、何度も聞き返す。

 こちらは普通に聞こえるので、ヨシヒコの発声がおかしいのだとわかる。

 ヨシヒコの声に、知らない人の声が重なって聞こえてきた。

 少し高めの声だが、男性か女性かはわからない。

 ここに至って、パンちゃんが呪文のようなものを唱え始めた。

 こっくりさんにやたら詳しかったことを考えると、念仏か何かだろうか。

 音声が途切れ途切れになる。

 それほど時間を置かず、演者の声が変わり、ボイスチェンジャーでも通したかのような不気味な声が、チューニングの合っていないラジオのように雑音混じりに聞こえだした。

 ヨシヒコの奇行が始まった。

 動画は荒れ、音声も飛び飛びではあるが、ヨシヒコを取り押さえようとしている二人を殴る蹴る、噛み付きにサミング、燭台を振り回す凶器攻撃など、プロレスでもなかなか見られない格闘戦が展開されていた。

 酷く荒れた画像の中ヨシヒコが、WALIOに致命的な一撃を加えたように見えたところで、撮影のカメラが横倒しになり動画が途切れ、

 それと同時に生配信が終了した。

 二三時十一分のことであった。


 この動画は炎上した。

 正確に言えば、通常企画では三十万再生程度の再生数であった彼らの生配信は、十三万八千再生の時点で中断された。これは緊急の生配信としては驚異的な数字であろう。

 だが、この生配信を録画していた者の手により、この動画が無断UPされると、今度は五百万超再生された。コメントは「この動画は危険だから削除しろ」という主旨のもので溢れていた。

 よほど通報が集中したのか、運営の手により現在、この動画は凍結されている。

 この生配信を見ていた全国の子供たちは、これを見て怖がるどころか、同じことがしたいとこっくりさんを喚び出し始めた。彼らはこっくりさんを信じていないわけではない。危険だと感じるからこそ、その存在を知りつつも避けていたのだ。それなのに――


 今回のこっくりさんの流行はこの動画を元にしているため、全国各地で同じ様式の呪符が量産され、同じように呼び出し、同じように質問し……ただ、こっくりさんに帰ってもらうための口上は、不確実だ。

 何せ、もう続きは見られないのだから。


 その生配信を最後に、IMOKINチャンネルの更新は途絶えている――


  * * *


「あの生配信を見てたら突然、部屋に風が吹いてね……いや、窓も、襖も閉まってたよ。なのにいきなりそんなことがあったら、さ」

 ――さすがにやりたいなんていう気持ちも、吹き飛んだよね。

 悠花も突風に煽られるまでは、是非とも真似したい、あれに参加しなければならないという、焦りにも似た気持ちが支配的であった。

 だが、風に吹かれてからは興味だけが残り、こっくりさんで遊びたいという気持ちはなくなった。

 熱に浮かされたのが醒めた、正しくそんな感じであった。

「やだぁ!やめて怖い」

 佳奈が本気で怖がった。

 つい先ほどまで暗い笑顔でその『怖い』ことをやっていたとは思えなかった。

「そんなんでよく、こっくりさんやろうなんて思うよな」

「怖いもの見たさってのはあるけどねぇ」

 その様子を見て呆れた虎二に、伊佐美は佳奈へのフォローなのかどうか、佳奈に肯定的な相槌を打った。

 あるいは、伊佐美の本心だったのかもしれない。

「と、いうわけで、わたしは、そういうのに参加するのは控えてるんだ」

 悠花の話を聞いて納得したのか、佳奈は

「ふぅん」

 と言いながら、赤べこのように首を縦に小刻みに揺らした。

 その様子を見ていた悠花に、突如、悪寒が走った。

 ――いやな、雰囲気だ。

 三人がこっくりさんに興じていた机の方から、とてもいやな気配がした。

「……ところで、そのこっくりさん、もう帰ってもらってたっけ?」

 悠花が見ていた限りでは十円玉は、鳥居には戻っていなかったはずだ。

 えー、帰ってもらったよね、と言いつつ紙を確認する佳奈。すると、

「あっ」

 佳奈から驚きの声が出た。

 確か十円玉は〈はい〉の位置にあった、

 はずだった。

 それが、いつの間にか「こ」の位置に移動している。

「何?なんか……変。さっきまでこんなところに置いて……ひっ」

 突然、佳奈の声が絞られたように詰まった。

「どうしたの?」

 先ほどまで参加していたメンバー、伊佐美と虎二が佳奈の方に顔を向ける。

 佳奈の視線の先には、十円玉。

 その十円玉が、

 ひとりでに動いていた。


「ろ」


「す」


 ――ころす。

「い、いや、なにこれ」

「うわっ……」

 それを見た三人は、言葉を失った。

「……なんで、こんなふうになるの。やだ、怖い」

 参加者全員が顔を見合わせる。

 コインが勝手に動くなど、有り得ない。

 そんな常識を覆した十円玉に、更なる異変が起こった。

 不快な金属音とともに、変形を始めたのだ。

「――っ」

 声にならない声を上げるクラスメイト。

 その様子を愉しむかのように、十円玉はひしゃげていく。

 一分にも満たない時間のはずだった。

 その間にも十円玉は縦横に引き絞られ、妙なオブジェのように変形していた。――それは、見方によっては、炎のようにも見えた。

「やだぁ」

「無理、無理、無理、無理!」

「嘘でしょ、こんなの……」

 三人は恐慌状態に陥った。

 悠花はこっくりさんに参加していない。それが他のクラスメイトより精神的余裕をもたらしたのは確かだ。

 が、だからと言って怪現象が平気になるわけではない。

 悠花は無意識に、首から下げたお守りをぎゅっと握っていた。

 四人が息を殺して、呪符と、変わり果てた十円玉を見つめていると、


【ばぁん!】


 唐突に、窓ガラスが鳴った。

 一枚だけではない。

 教室のガラス全てが一斉に、だ。

 全員が硬直した。

 あまりの恐怖に、身体が固まってしまったのだ。

 お互いがお互いを、目だけで確認する。

 皆、泣きそうな顔をしていた。


【ごぉっ】


 さらに追い打ちをかけるかのように、教室内に突風が巻き起こった。

 つむじ風のような、渦巻く風が。

 ――ああ、この前の突風に、そっくりだ。

 悠花はそう思ったのだが、これを合図に今日の参加者は全員、教室から飛び出して行ってしまった。

 こっくりさんの呪符は、その風によってバラバラに破れた。

 悠花は……恐怖こそあったが、自分は参加していない――あの『宣告』の対象ではないような気がしたため、特に身動きはしなかった。

 単に、逃げる機会を失っていただけかもしれない。

 悠花の楽観的な予測が当たっていたのかどうか、参加者が去った教室からは、あの厭な雰囲気も消え去っていた。


 ――確かに何も、できなかったな。

 彼らの残していった荷物を整頓しつつ、先ほどの虎二の言葉を思い出して、少しだけ気落ちする悠花だった。

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