プロローグ
こっくりさん、こっくりさん 北の窓からお入りください――
それは――
白く、
美しく、
そして大きな、狐だった。
それを喚び出したのは、友人を助けるためだった。
彼らは不用意に〈こっくりさん〉で遊び、そして、その代償を支払わされた。
次々に体調を崩し、病に臥せる友人たち。
救いの手は遅く、居ても立ってもいられなくなったわたしは
深夜に一人、〈こっくりさん〉をした。
そうして、ついに喚び出してしまったのだ。
本物の、こっくりさんを。
当時のわたしの部屋は天井まで二百三十センチ。
狐は、その天井いっぱい。
身体は、冬毛のように白いゴージャスな毛並みを差し引いてもスリムで、
むしろ、たくさんあるふわふわ尻尾の方が大きかったように思う。
火の玉――正確に言えば狐火――は澄んだ瑠璃色で、
そのゆらゆらと揺れる光が白い体毛に反射すると蒼銀に輝き、
それはそれは美しい銀毛に見えた。
顔も身体同様細長く、目の周りがとても印象的だった。
瞳は、煌めくルビーのような赤。
狐火が反射してきらきらと輝き、一瞬たりとも同じ色に留まらない。
まるで、冷たく燃える炎のように。
そして切れ長のまぶたには、紅を差したような赤。
お化粧でもしたのかと疑う、妖しい色気が漂っていた。
ため息が出た。
こんなに美しく、
格好良くて、
それでいてどこか愛らしい〝物ノ怪〟がいるものなのか、と――。
その正体がわかった時は、とても焦ったし、
少しだけ不安になったりもしたのだけれど。
わたしは生涯、この出会いを忘れはしないだろう。
ここから始まる、大きな白狐と共にした数々の、
出会いと別れの物語たちのことを。