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快適なファンクエ生活のために


「狩場の情報は調べたし、現地にもいった。初心者向けの武器やビルドの情報も大体揃えたし、なんなら映えスポットも調べた。おっけ」


 準備万端、あとは何とかファンクエを楽しんでもらい、末永くパーティを組んでもらえるように上手いこと持っていくだけだ。


 少々張り切り過ぎてるかもしれないが、それも自分のため、今回のプレゼンでアーシャの今後が決まると言っても過言ではないのだから。


「、、早く来過ぎたかな?、、この格好変じゃないよね?」


 ゲームの開始場所である『平原の町』へとやってきたが、約束の時間までまだ30分もある。手持ち無沙汰のあまりショーウィンドウに映り込む自分を見ながら、繰り返し身なりを整える。


 三度目の前髪いじりを終えた頃、すぐ隣で座り込んだ少女がアーシャを見ていることに気づいた。


「おねーさん、さっきからソワソワして落ち着きがないね」

「あ、あはは」


 自覚はあったため、気恥ずかしくなって愛想笑いを返す。すると、少女は立ち上がり、アーシャの顔を覗き込む。


 見ると始めたてなのか、初期装備に身を包んだ少女はアーシャよりも頭ひとつ分小さく、まるで人形のようだ。


(わぁ、かわいいなぁ。私のアバターもこれくらい可愛ければ引く手数多だったろうに、、ちくしょう)


 内心で歯噛みしていると、少女は声を上げる。


「もしかして、、アーシャ?」

「え?そうですが、、」

「やっぱり!なんかそんな感じしたんだよね!てか、かっこいー!こっちじゃそんな感じなんだー!」


 少女は唐突にアーシャの手を握るとピョンピョン飛び跳ね、捲し立てる。


「え?ちょっ、なに!?だれ?あなた誰!?」

「私私、ハルナ!」

「え、ハルナさん!?」

「そそ、塚本春菜だよ、、むご!?」

「わー!?分かったからダメ!!本名厳禁!」


 躊躇なく本名を出すハルナの口を慌てて押さえる。幸いにも誰もこちらに注目してる様子はない。


「ぷは、分かった分かった。次から言わないようにするよ」

「気をつけたほうがいいよ。アバターもそんなに可愛いんだから」

「あー、そうなの?このゲーム、勝手に始まったんだけど、キャラメイクとかないの?」

「アバターは自動生成だから、気に入ったアバターが出るまで作り直す人もいるよ」


 言うまでもなく、これも低評価の理由の一つである。


「どんな美少女になってるのかなー?おっ」


 ハルナはアーシャが鏡がわりに使っていたガラスの前に立ち、自身のアバターを確認する。


「あはっ!すごい!!めっちゃ可愛いじゃん」


 お気に召したようでくるくる回ったり、色んなポーズを取ったりと大はしゃぎである。だが、若干の隣の芝は青い補正込みとはいえ、その容姿は間違いなく美少女である。


 そんな彼女がピョンピョン飛び跳ねているのだ、注目が集まるのは当然だろう。


「あの子可愛くね?」「いいなぁ、当たりアバター引けて」「結構回したんじゃね?」「だとしたらお疲れ様って感じだな」


 そんな声が聞こえてくるが、当の本人は我関せず。


「ハルナ、場所変えよう!」

「え、あ、りょうかい」


 ついにはアーシャの方が耐えきれなくなり、ハルナの手を引いてその場を離れる。


「もう!目立つ行為は禁止だからね。ただでさえ目を引く見た目してるんだから」

「えー、それ私悪くないよ。、、でもわかった」

「うーわ、かわいいかよ」

「え?なに?」

「何でもない」


 急に素直になり、シュンとなったハルナにときめきかけたが、すんでのところで引き返す。


(あぶないあぶない、私はノーマル。まだ大丈夫)

「アーシャ?ねぇ、アーシャってば!」

「ん?ああ、ごめん。考え事してた」

「どこまで行くの?」

「この先にあるお店だよ。初心者から中級者向けの装備品を売ってくれるプレイヤーが居るんだ」

「ふーん、、そうなんだ」


 しおらしいままのハルナに疑問符を浮かべながらも目的地へと足を向ける。


 道は入り組んでいるが道さえ知っていればすぐ着く。歩き出して2分ほど、裏路地の片隅にひっそりと佇む店を見つける。


 周りの建物と外観は相違ない。だが、違和感を感じる。それはおそらくドアの上に打ち付けられた看板のせいだろう。


 その看板にはこう書かれていた。


『アルの店』



 中に入ると、狭い店内に所狭しと商品が並んでいた。いや、並んでいるのではなく打ち捨てられていたのかもしれない。


 あまりにも乱雑に並べられた商品は山となり、雪崩を起こして床にぶち撒けられていた。


「、、、。」

「気持ちは分かるよ。でも性能の割にかなり安いから、ここの店」

「まぁ、、まかせる」

「ありがと」


 そんなやり取りをしていると奥から呆れたような声が飛んできた。


「ナァ?店先でイチャつくのやめてくんネェかな?」

「イチャついてなどいない」

「手ェ繋いで入ってきといて何言ってんダカ」


 そういえば手を引いてからそのままだった事を思い出す。ハルナがしおらしい原因がこれだと気付いた。


「うぇ!?いや、これはその!」

「マァいいさ。見た感じ初心者だロ?」


 ガチャガチャと音を立てて店の奥から現れたのは耐火服を着た。奇妙な仮面を付けた小柄な人物だった。


「ようこそ。アルの店へ、そこら辺の適当に見てけヤ」

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