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8話 《2つ目の異世界》


「お前、3回目なんだからいい加減慣れろ」


「唐突に落とされれば慣れてても驚きます!」


突然の落下に悲鳴を上げてしまった元女子高校生である私、鳴神薫はシュヴァルツ様に呆れられていた。


3回目だから慣れろだって?いやいや!いきなり落とされれば誰だって悲鳴を上げますよ!回数の問題じゃないですよ!てかあなた達が極端に動揺しないだけでまだまだ慣れないですよ!


さて、ここで怒ってもしょうがない。気を取り直して異世界の風景を眺めよう。


私が周りを見渡すとそこには前の異世界同様の雄大な自然が広がっていた。


…うん、綺麗だけど前来た異世界に似た風景だから感動が半減だ。それでも結構感激するけど。


「わ~、やっぱり綺麗な景色~」


「鳴神さん、あの林を見てください」


ミーシャさんが指を差した方向を見るとそこには本来緑色であるべき森林の中に真っ青の林があるではないか。


「え、あ!木の葉っぱが青い!」


「あの木は魔法樹と呼ばれている。植物が本来持つ葉緑素の変わりに太陽光を浴びて魔力を生成する青色色素を持っている。しかし葉は動物にとって非常に有害な毒素を持っており、食べることはおろか触ることすら害を為す。もし触れてしまえば皮膚が溶かされていき、食べてしまえば内臓に穴が開く。よって人間は葉の枯れた魔法樹しか伐採及び加工できない。そして長い年月をかけて育った魔法樹には多大な魔力が宿っているため杖や防具、装飾品に加工され重宝される」


シュヴァルツ様の異世界解説を他所にやっぱり始めて来る異世界では驚きの連続だなと感動する私だった。


という過去の世界も魔法が中心の世界なんだ。もしかして科学が発展している世界のほうが少ないのかな?


「この世界には魔法樹のように葉緑素の変わりに魔力を精製する色素を持つ植物が存在する。そこの草原の一部には魔法芝と呼ばれる青色の芝が生えている。こちらの葉は魔法樹とは違い動物に有害な毒素はないが人間の味覚では口に入れた瞬間吐き出すほどの苦さがあるため食べるのは主に草食動物だ」


シュヴァルツ様が指差す方向あった草原には青色の部分があり、そこが魔法芝の群生地であることが分かった。


さっきは気づかなかったけど細かく見ると全然違うんだね、勉強になります。


「つまりこの世界の魔力の色は青色って事ですか?」


「そうだ、少し移動するぞ」


するとシュヴァルツ様は移動を始めた。もう転生者の元に行くのかと思ったが付いた場所は大きな牧場だった。


メェ~メェ~と泣き声が聞こえたので羊の牧場なのかと凝視するとそこには私の常識を覆す光景が見えた。


「ここは、牧場ですか?」


「ミーシャさん見て!羊の毛の色が青い!」


「あ、本当ですね!」


普通の牧場かと思いきや飼われている羊の毛が青いことに私達は驚愕した。毛が白くない羊ってなんか凄いなおい!てか着色してもここまで青くならないよね?


「魔法芝を食べて育った羊の毛は魔力を帯びて青色に変色する。その羊から取れる青羊毛(せいようもう)と呼ばれ、その羊毛で作られた布には魔力を補助する効果がある。その布で作られた服を着ると魔法に耐性を持つだけではなく着たものの魔法の威力を向上させる効果がある。ちなみに肉のほうは全く効果がないどころかむしろ肉質が硬くなりまずくなるので廃棄されている」


「へ~」


餌を特別なものにしてブランド化するのと同じか。


全く染められずに作られた純粋な青色の布ですか。それで出来た服を一回でもいいから着てみたいなぁ…てか魔法関係で効果があるならもし魔法を使うことになったら是非着てみたい。


青空に響く魔法の鈴の音!魔法少女ブルーリング!なーんてね。幼少のときに妄想した自分が魔法少女になった時の姿を唐突に思い出して笑みがこぼれる私だった。というか子供の頃の妄想が現実に可能な状態にあるって私はかなり幸運だよね。


「しかし魔法芝は一部の地域にしか生えておらず人工的に栽培できないため青羊毛の生産はとても少ない。よって青羊毛を用いて作られた服はとても貴重で軍の魔法部隊のエリートしか着ることが出来ない。服の色からその部隊は青色の薔薇(ブルーローズ)部隊と呼ばれており自国民からは羨望の的に、敵の軍からは畏怖の念を送られている」


ブルーローズ部隊!凄いカッコいいな!やっぱり魔法世界にもそんな代表的部隊があるんですね!ああ、ここに転生できたらブルーローズ部隊に入隊するために一生懸命頑張るのに…。


「ここも前の世界とは殆ど同じ中世で魔力のある世界だが全然違います。だから世界に降りるのはワクワクするんです」


「その気持ち、すっごい分かりますミーシャさん!」


ミーシャさんが前に言っていた驚きの連続の意味を身をもって理解し、うなずく私だった。


「それで、転生者は何処なんですか?」


ミーシャさんは異世界を満喫したのかシュヴァルツ様に本来の目的について尋ねた。


前は満喫しすぎて拳骨を喰らったから流石に懲りてますね。


「あの山の奥にある村だ。行くぞ」


山に向かって移動し始めた。ここでシュヴァルツ様がわざわざ異世界について色々と教えてくれるのか気になったので聞いてみることにした。


「あの、どうしてすんなり転生者のところに行かず最初は異世界の特徴について教えてくれるんですか?」


「そうしないとお前達が異世界に来たのに楽しめていないと駄々をこねると分かっているからだ」


図星だった。ミーシャさんも私と同様みたいで愛想笑いをしているけど冷や汗が出ている。


「し、しませんよそんなこと…」


「では今度からなしだな」


恥ずかしくて冗談でそんなことしないと私は言ってしまった。するとシュヴァルツ様は真に受けて今度からしないと宣言してしまった。


そ、そんな!楽しみが減ってしまうじゃないか!


「それとこれとは話は別です!」


「そうです、これからも異世界について色々とご教授お願いします」


私とミーシャさんはそれは嫌だと文句を言い始める。


「ほら、駄々をこねるじゃないか。だから何も言わずに付き合ってやっているんだよ」


「「うっ…」」


その一言に黙るしかない私達だった。シュヴァルツ様の前では私達の心は何でもお見通しのようだ。


そして風景が動きが止まった。どうやら目的の村に付いたようだ。早速シュヴァルツ様の憎悪の目がある男に向けられる。


「あそこにいる奴がそれだ」


私がシュヴァルツ様の見ている方向を確認するとそこいたのは農作業をしている短い金髪で茶色の目をした何処にでもいそうな普通の容姿の男だった。


え、あれが転生者?前の完璧男と比べたらいけないけど普通って感じしかしないんですけど。


「あれ、意外と普通…」


「ユージ・ローレンス。お前の言うひっそりと暮らしたい転生者だ」


ああ、ひっそりと暮らしたいと思うなら完璧な容姿は必要ないよね。それにこんな山奥の農村でのほほんと農作業しているわけがない。


でも為事の対象になるって事はもう何かやらかしているのかな?


「それと同時に主人公の加護を与えられている。既に世界の流れを乱そうとしている。なぜなら…」


「え!?」


シュヴァルツ様が何か言う前に家からこんな山奥の村には似合わない気品さと優雅なしぐさをするとんでもない美少女が近くの家から出てきた。


何あの可愛い女の子!?田舎の村には全く似合わない気品と美しさを持っているんですけど!


「あれはエミリー・ヴィルヌーヴ王女。隣国であるヴィルヌーヴ王国の姫だ」


隣国の姫が何でこんな村にいるの!?なんで転生者にデレデレしているの!?これが巻き込まれ体質、主人公の加護の力なの!?


「先月ヴィルヌーヴ王国でアデール公爵家を中心とした諸侯によるクーデターにより隣国であるハンプール王国に亡命しようとしたが途中で追っ手の兵士に襲われた。それを転生者が助けた。それで今は転生者の家に居候している」


ああ、本当に何もしてないのに世界の流れに巻き込まれてますね…、まあ兵士に襲われている綺麗なお姫様を助けない男はいないでしょうけど…。


「で、追っ手の兵士が敗北したことを察したクーデター軍の部隊が6日後にこの村へ進軍する。部隊はエミリー姫を渡せば村に危害は加えないが転生者は姫の引渡しを拒否し部隊を敗走させる」


これも納得できる。姫を引き渡せば助けてやるなんてクーデター軍の言うことなんて信用できないだろう。けど敗走させるって事は一部隊相手に一人で勝つのか、やっぱりあの転生者も魔力チートとかを持っているのね。


「そして転生者は村の英雄となり、ハンプール王国の中央部も知るところとなり王都へと呼ばれる。その後転生者は王族の後ろ盾を手にして姫と婚約することとなる。そして姫とともにクーデター軍に対する戦いの旗印となりクーデター軍に勝利し、ヴィルヌーヴ王国を復興させることになる」


山奥で助けた姫様とともにクーデター軍と戦い、そして一緒に王国を復興させる。ひっそり暮らしたいだけなのにやっぱり転生者は世界の流れに身を投じることになってるんだと思い知る私だった。


「主人公の加護を持てばひっそりと暮らせないのですね」


「そうだ、本来であればエミリー姫は追っ手に襲われるが命からがら逃げることに成功し、亡命は成功する。そしてハンプール王国の王子と結婚し後の流れは同じだ」


あ、本来の世界の流れでも姫様は助かって王国は復興できるのね。良かった、これで姫様は捕まって処刑とか後味の悪い結末だったらこのままでいいじゃんと意見してたよ。そして確実にシュヴァルツ様に怒られて殴られてたね。


…ん?ちょっと待って?それって王子が転生者になっただけで世界の流れを乱しているといえるの?


「シュヴァルツ様、それなら王子の役が転生者になっただけでそこまで世界の流れを乱していないと思うんですけど?」


「問題はヴィルヌーヴ王国を復興させた後だ。王子と姫との間に生まれる子供がこの世界の中心となる。これは王子と姫が生まれた瞬間に確定した世界の流れだ。つまり王子ではなく転生者と結婚した時点で世界の中心となる人間が生まれなくなるため世界の流れは乱される」


つまり王子とエミリー姫との間に生まれる子供がこの世界の本来の主人公ってこと?確かに主人公が生まれない世界になったら世界の流れを乱すなんて話じゃないね。


「それで、どうするんですか?」


「この前排除方法を説明したな?」


排除方法と聞いて私は前の世界での解説を思い出した。えっと、無理やり神の世界で直接排除するのと世界の流れに介入して排除するんだっけ?あれ、前は後者で今回は前者…あ!?


「ちょ、ちょっと待ってください!」


「なんだ?」


「これって姫を王都に送り届けるだけで解決する話じゃないんですか!?転生者を呼び出して殺す必要があるんですか!?」


私は前回選ばなかった方法で転生者を排除するとシュヴァルツ様が言っていたを思い出した。前回選ばなかった方法は神の世界に拉致して実力で排除すること。


でもこの案件転生者を殺さなくてもいい案件に思えるんですけど!


「転生者に魅力の加護はないが姫は既に転生者に気を許し始めており、転生者も姫に惹かれている。もう姫を王都に送り届けるだけでは解決する話じゃない。さらに主人公の加護がある限り世界の流れは常に危機にさらされる。だから殺す必要がある」


「でも…」


確かにエミリー姫は転生者にデレデレしていたし転生者も満更でもなさそうだった。


でも主人公の加護があるという理由だけで殺さなくても…それに私達が世界の流れに介入し続ければ転生者を殺さなくても解決するんじゃないの?転生者はひっそりと暮らしたいみたいだし。


「そこの木の陰を見ろ」


シュヴァルツ様の目線の先にある木の陰にいたのは蹲って泣いている一人の少女だった。ぼさぼさの茶髪で顔もそばかすだらけでお世辞にも可愛いとはいえない、私とどっこいどっこいの地味な女の子だった。


…自分で思ってちょっと悲しくなってきた。


「あの女の子は?」


「転生者の幼馴染で婚約者だ」


「ええっ!?」


多分イチャイチャしている姫様と転生者を見て寝取られたと思ってるんだろうな、可愛そうに…。


「つまり転生者は婚約者がいるのに姫を居候させているのですか?」


「そうだ、しかも転生者は婚約破棄してこの姫と結婚したほうがいいんじゃないかと考え始めている。容姿も、性格も、器も、全て姫が大勝しているからな」


転生者の思考にドン引きするミーシャさんと私だった。


確かに姫様は可愛いけどだからって幼馴染の婚約者を捨てるって…男として恥ずかしくないの?


「鳴神、転生者はお前がかばう価値がない自分勝手で下卑た人間だ。それでもお前は転生者をかばうか?」


「…いいえ」


一気にあの転生者が下種な人間に見えてきた。ああ、こういう人間模様を見てあのお爺さんは楽しんでたんだろうなぁ…。


「よし、なら直ぐに奴を排除する。鳴神、お前は後々戦う力をつけて転生者と戦ってもらうため転生者を利用して戦い方についても説明してやる」


「はい…」


…今回は転生者があれだから排除も納得できるけど次もこんな状況で、転生者が性格が良くて本当にひっそりと暮らしたい場合も排除してしまうのかな?


それだとシュヴァルツ様、というより神様ってちょっと頭が固いんじゃないかなと考えてしまう。


「ん?鳴神、奴をかばうのか?」


そんな私の考えを読むようにシュヴァルツ様は言葉を発する。


「いいえ、そんなんじゃないですけど…転生者にチャンスは与えないんですか?」


「与えるわけないだろう」


まあ今回はかばう気持ちは一気に失せましたけど、信じたいというか、姫様を引き離せばあの婚約者とひっそり暮らせるんじゃないかと頭の片隅で考えています。


いきなり殺すのは、なんか、駄目だと。転生者にチャンスを与えてもいいんじゃないかなと思ってます。


「なら、賭けてみるか?鳴神薫」


賭け、ですか?何を賭けるんですか?


「転生者が本当にひっそりと暮らしたいと思うなら姫を手放し、婚約者とよりを戻すだろう」


「…はい、そう思います」


私はシュヴァルツ様の言葉に頷く。転生者の気持ちは変わるか分からないし婚約者との関係が修復できるか知らないけど。


「賭けの内容は俺が転生者にこの世界の流れを説明する。姫を手放し今後一切関わらずに婚約者と結婚しひっそりと暮らすことを誓えばお前の勝ち、誓わずに拒否した場合はお前の負けだ」


ああ、流れを説明して姫様が無事に王国を復興できると分かれば転生者も身を引くかもしれない。もし転生者がまだひっそりと暮らしたいと思っているなら勝つ可能性はある!


「お前が勝てば転生者が天寿を全うするまで世界の流れに関わらないように俺が調整を続けよう」


「もし私が負ければ?」


「為事に関わる人間にはその代償として人間が自由に選択した加護を与えることになる。お前が今回の賭けに負ければ与えられる加護は俺が選択する」


ん?私の加護を賭けるって事?それって、もし私が負ければ私が与えられる加護はシュヴァルツ様の思うがままってこと?


でもシュヴァルツ様は無駄な加護だったり下種な加護を与えないと思う。少なくとも私が不利になるような加護は与えないだろう。私の意志は完全に無視はするだろうけど。


つまり、私にデメリットは殆どない!私の教育のために賭けを提案してきたんだ!


「どうする?」


「その賭け、乗ります!」


私は賭けに乗った。私はひっそりと暮らしたいと今でも考えていると信じているよユージ!




おまけ「前世」


「そういえば今回の転生者の前世はどうだったんですか?」


「武藤雄二、語ることがほぼないほど平凡な人生だな。家族は会社員で共働きの父と母、一人っ子で大事に育てられた。進学した学校は高校、大学ともに平均的な公立で部活動は帰宅部。友人には恵まれたが彼女はいない。そして貨物自動車に轢かれて死んだとあの翁に伝えられ転生した」


「他に何かないのですか?」


「ない」


「ひっそりと暮らしたいと考える理由が分かりませんね。そんな前世を送ったのであれば波乱万丈の人生を望むのでは?」


「俺もミーシャと同意見だ。鳴神、お前はどう思う?」


(ヤバイ、これは賭けに負けそうだ)


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