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2話 《はじめての異世界》


神様のシュヴァルツ様に為事について色々なことを教えてもらいました私、鳴神薫は今命の危機に瀕しています。


「うわあああああああああああああああああああああああああっ!!」


はい、私は今現在憧れていた異世界の地面へ向けて絶賛落下中です。


落ちるううううううううっ!!ふざけるなよシュヴァルツああああああっ!なんか黒い穴の中から異世界の風景になってるんだけどこれって着地寸前って事だよねえええええええええっ!!


「鳴神さん、落ち着いてください鳴神さん」


私がじたばたしている中ミーシャさんがお淑やかに私の肩をポンと叩く。


ミーシャさんは落ちながら良く落ち着いていられますねえええええええええええっ!!その胆力羨ましいいいいいいいいいっ!!


「落ち着いていられるかああああああああああああああっ!絶賛地面に向けて落下中なん…だと…」


私が絶叫しながら落下地点の地面をじっと見つめると、その風景が動かないことに気がついた。


あれ?私落ちてない?空の上を、飛んでいる?


「…私飛んでるよー!というより浮いてるよー!凄いこれー!」


なんと私の身体は、というよりミーシャさんの身体も異世界の空に浮いていたのだ。


なんと、何時の間にか私は飛べるようになっていた!いや、死んでから能力が覚醒したパターンか!それとも浮遊霊になったの?何でもいい、私は今、異世界に浮いているぞー!!


「馬鹿だな」


私が恐怖のどん底から一転して有頂天になっていたところ、一連の流れを見ていたシュヴァルツ様が私の一喜一憂を鼻で笑った。


ここで私はここまで自分の見苦しい行動を全部見られていたという事実に気づき顔が真っ赤に染まった。


「鼻で笑わないでくださいシュヴァルツ様!先に言ってくださいよこんなこと!おかげで私は馬鹿さらしてたじゃないですか!」


「実際馬鹿じゃないか」


「ムキー!」


私は恥ずかしさと怒りに任せてシュヴァルツ様に襲い掛かった!しかしシュヴァルツ様は面倒くさそうに長い手で私の頭を抑えて腕も足も届かないようにした!シュヴァルツ様に私の攻撃は全く当たらなかった!


確かに浮いている中じたばたしていたのはアレだけど、それでも一言落ちないとか浮くとか言ってくれれば良かったじゃないかこの馬鹿ー!


「鳴神さん、落ち着いてください。話が進みませんよ」


「ミーシャさん!あなたも知っていたなら教えて下さいよー!」


ミーシャさんに八つ当たりしてもしょうがないけど私は怒鳴らずにいられなかった。


「申し訳ありません」


「あ…こっちも怒鳴ってすみません」


で、直ぐに謝られたので私も申し訳ない気持ちになってしまった。


「で、念願の異世界にきた感想はどうだ?」


シュヴァルツ様の言葉に私はハッとした。


そうだ、ここは私が来たいと憧れていた異世界なんだ!落下していると思い込んでいるときは全然気づかなかったけど!


改めて私は周りに広がる風景を見た。


そこには溢れんばかりの緑の森林に被われた山々、透明で今にも飲みたくなる衝動に駆られるほど綺麗な河川、走り出したくなるような草原に佇む見たことのない動物…いやモンスターだあれ!ともかくTVでしか見たことがない、いやそれ以上と言える自然の絶景と夢が広がる生態系がそこにはあった。


「凄ーい!!キレーイ!」


今まで見たことがない異世界の新鮮な景色に私は感激した。


どうやら近くに人も住んでいるようだ。河川の近くに木造の家々が木の柵に被われていた。村だ、よくファンタジーで見る村だアレ!そこには私のいた世界ではTVの番組で遊牧民が着ているのを見たっきり全く見なかったファンタジーでよく見る布の服を着て生活をしている人々の姿が観察できた。しかもその人々の中に掌から火を出して薪を燃やしているのを発見した!


魔法、キターーーーーーーーーーーーーー!!と、私は大きくガッツポーズをした。まさか魔法を生で見れる日が来るとは!我が一生に一遍の悔いなし!


「時代背景は中世、政治体系は主に君主制と貴族制の併用、魔力があり魔法技術が発達し科学技術は魔法の下位互換と蔑まれている。さらに魔力のある生物が魔力のない生物を駆逐したため食物連鎖に変化がある。よって人間が食物連鎖の頂点に立っていない」


シュヴァルツ様が何かを見ながらこの異世界について説明し始めた。


人間が食物連鎖の頂点に立ってないってことはつまり人間より強いモンスターがわんさかいるって事?うわぁ、夢が広がりますね!


「最初ということで鳴神がいた世界とは全く違う世界に降ろした。満足か?」


「マジナイスシュヴァルツ様!」


私は満点の笑顔でシュヴァルツ様に向けていいねポーズをした。


あんた本当いい神だよ、さっきの一連の流れはチャラにしてあげる!


それにしてもこの世界凄い自然が綺麗だな~。人が手を加えた感じが全くないし自然を大切にする宗教でもあるのかな?


「自然が綺麗なのは魔力が自然から湧き、自然に愛される者に多く魔力が宿ると信じられているからだ。ゆえにこの世界では自然を汚すこと、破壊することは相当の大罪になる」


ここで私はシュヴァルツ様が持っている謎の分厚い本に気がついた。これを読みながら世界の解説をしていたみたいだ。


あれ、そんな本持ってましたっけ?しかも今までに見たことがないくらい分厚い本だ。よく片手で持てますねシュヴァルツ様。本の表紙模様も細かくて幾何学的で作るのに手間が掛かってそう。


「その本は何ですか?」


「この世界の全てが記録され、世界の流れを予知する本だ。正式名称はないが世界の本と呼称しよう」


「えっ、何それ見たい!」


今までの歴史だったり生物の生態だったり未来が予知できたりする本!見たい、何が書かれているかすっごい気になる!


私はシュヴァルツ様が持っている本を奪おうとした!しかしシュヴァルツ様は本を真上に持ち上げた!私はその場でジャンプをして取ろうとしたが全く届かなかった!


「神以外閲覧禁止だ、理由は考えれば分かる」


くそう、シュヴァルツ様の身長は推定185cm、私は153cm、約30cmの差があると思われる!手も長いしこれは届かない!


って、世界の全てが書かれた本ってとてつもなく世界にとって重要なものじゃん。ゲームに例えるなら全てが網羅された攻略本。悪用されれば世界にとって悪影響なのは必至。というか多分私が呼んでも文字が分からないと思う。そう都合よく日本語で書かれているわけないよね。


そこまで考え、私は本を取ろうとするのを止めた。


「今の状態について説明しよう。この状態ではどんなことをしてもこの世界に干渉できない」


すると本を胸元あたりの位置に戻してシュヴァルツ様が今の状態について説明を始めた。


「だからこうやって世界の重力を無視して浮けてるんですね」


「その通りだ。この状態でなら世界に影響を及ぼさずに世界の流れを乱す存在を探し、観察することが出来る」


私はこの状態を神の視点ということで納得した。


これなら…あ!スライムの群れを発見!やっぱりいるんだね~。ピョンピョンはねないでズルズルと伸び縮みして進むのね。


他にはモンスターはいないかな…。やっぱりファンタジー世界には欠かせないあいつを見つけないと!


「この本は世界の流れの乱れの予兆も感知する。というより世界を管理する神の報告以外で世界の流れの乱れの予兆を感知するためには世界の本を閲覧するしか方法はない。世界の本で乱れの予兆を感知し、流れが乱される世界に降り、乱す存在を抹消、そして流れを修正する。もしその原因を作った神がいたなら処断する。これが為事の流れだ」


「へ~。あ、ドラゴンだ!凄ーい!」


シュヴァルツ様の解説を他所に私はついにドラゴンを見つけることが出来た。緑色の巨体で威風堂々とした姿はこの生物がこの世界の食物連鎖の頂点に君臨していることを予想させた。


凄い大きい!翼を広げて滑空している!本物のドラゴンカッコいい!ゲームで見るやつなんかよりよっぽどかっこいい!現実にドラゴンがいるこの世界の住民羨ましい!火を噴くのかな?あ~、鱗とか触りたい!やっぱり硬いのかな?


「鳴神さんはドラゴンを見るのは初めてなんですね」


「そうなの!やっぱりファンタジーな異世界にドラゴンは欠かせないよね!」


というかミーシャさん、さっきから何も言わないと思ったらミーシャさんも異世界の風景に夢中だったのね。赤い目をキラキラさせている、可愛らしいよミーシャさん!


「確かに魔力のある世界には龍に関する生物が必ずいますね、関連性があるのかもしれませんね」


「魔力とドラゴンの関連性…凄い気になるなぁ!というよりミーシャさんも異世界に興味心身ですね」


「やはり私も初めて降りる世界には興味が湧きますから。いつも驚きの連続ですよ」


「うっわ~、楽しみ!」


ミーシャさんとの会話で私はこれから行く世界にはどんな驚きが待っているのかと胸を躍らせる。


あー、為事のたびに違う異世界に行けるのか~!科学が発展した世界だったり魔法と科学が融合したりケモ耳が主要民族だったり私じゃ想像できないような世界がわんさかあるんだろうな~!楽しみだな~!


「こいつら…」


そして異世界の風景に夢中な私たちは気づかなかった。後ろで怒気で謎の黒いオーラを放ちながら仁王立ちをしているシュヴァルツ様に。











「落ち着いたか?」


「すいませんでした…」


「申し訳ありませんでした」


その後私たちはシュヴァルツ様の拳骨により強制的に落ち着かされました。物凄く痛かったです。


まあミーシャさんはともかく私への折檻があのナイフによる首刈じゃなくて良かったです。


「さて、早速流れを乱す予兆がある場所に向かうぞ」


怒りが収まったのかシュヴァルツ様が本を開きながらある方向へ飛んでいった。


でも私はどう飛ぶか分からないなぁと思っていたらシュヴァルツ様と私たちが引き合うように私とミーシャさんの身体がシュヴァルツ様に引っ張られていく。


「うわ~、快適だ~」


何もしなくても移動できるって便利だな~。一体どんな力が働いてるんだろう、シュヴァルツ様が私たちを動かしているのかな?それともこの状態を作る空間をシュヴァルツ様が操っているのかな?


「シュヴァルツ様、予兆のある場所とは?」


「学校だ。名はルージュローズ学院。貴族と極少数の優秀な平民で構成されたルージュ王国唯一の学校だ」


「わ~、べただな~」


ファンタジー、というか異世界転生の王道である学校が舞台なのね。


となるとオーソドックスな異世界転生かな?それとも悪徳令嬢関連かな?


「何がべたなんだ?」


「いえ、何となく…なんで極小数の平民が学校に入れられるのかなって」


私は誤魔化すように質問をシュヴァルツ様にぶつけてみた。きっと分かりやすく解説してくれるよね。


「ルージュ王国は4代前の国王の時代に戦争や疫病などの理由で貴族の廃絶が相次ぎ領地を治める貴族が不足した。しかしルージュ王国は政治体制を変革せず貴族を補充する道を選んだ。その方法が優秀な平民をルージュローズ学院に入学させ、末端と政略結婚させて貴族に取り込むというものだ。無闇に爵位をばら撒くことなく自分たちの地位を保持しつつ、政治体制を維持するためだ」


「ふ~ん」


「貴族にとっては優秀な人材を獲得でき、平民にとっては成り上がりの手段となる。国にとっても優秀な人材を政治体制に参加させられる。理にかなっている制度だった。しかし問題は例外を除き爵位の低い末端しか政略結婚の対象にならなかったことだ。爵位の低い貴族はそれぞれ領地が削られていき、さらに平民の血を入れたと貴族社会の地位を下げ、また政略結婚の対象となる負のループに陥っている。しかし王族や爵位の高い貴族は地位を高めながら多くの領地を抱え、自身の利益を独占している」


「へ、へ~」


シュヴァルツ様は本で確認しながら時代背景や現在の実態、精度の問題点を含めて解説してくれた。私は全てを理解できず適当に相槌をした。


そこまで詳しく解説しなくてもいいのに…。もしかしてシュヴァルツ様解説したがりなのかな?


「既に領民の生活に差が出ている。高い爵位の貴族が治める領地は豊かで経済の循環も良い。しかし低い爵位の貴族が治める領地は税により経済の循環が悪く貧困に喘いでおり、動ける領民が豊かな領地に移住し始めさらに差が拡がる悪循環が表面化し始めている。あと数十年経てば増えすぎた低い爵位の貴族たちとその領民が反乱を起こし国が混乱に陥る」


シュヴァルツ様の唐突な反乱勃発宣言に私は目を丸くした。


ええ…目的の国滅びる一歩手前なんですか。


「その反乱もルージュ王国が存続していればの話だ」


ルージュ王国が滅びる要因がまだあることに私はさらに驚いた。


しかも他にも滅びる要因あるんだルージュ王国、そんな国にある唯一の学校って色々と寂れてそうだね。


やっぱりファンタジーな異世界でも現実は厳しいと実感する私だった。


「あれだ」


シュヴァルツ様の解説が終了すると同時に移動も終了し、私は目の前に会った大きな煉瓦と石材作りの建物に気づいた。


学校の周りを石材の壁で仕切られているが閉塞間が全くないほど広い敷地があり、草木や花壇も綺麗に整えられており、噴水や石像も汚れている様子はなく、ゴミひとつなく景観の美化に人手を使っているように感じた。


まさに貴族が使うにふさわしい豪華な学校だった。


「結構豪華だ!」


私はもうちょっと寂れた建物を予想していたが綺麗で大きな建物にびっくりした。


ああ、こんな学校に異世界転生して通いたかったなぁ…。


敷地内を歩いている生徒たちも綺麗な制服?を着ている。あれ何て言うんだっけ?海外の卒業式で卒業生が来ているような黒いフードとローブ、いやガウンだっけ?中世の学校の制服ってあんな感じなのかな?それともこの世界だけなのかな?あれの名称、後でシュヴァルツ様に聞いてみよう。


「制服があるため普段は表面化していないがパーティなどではドレスの豪華さで差が顕著に出るようだ」


「うわぁ、爵位の低い貴族は惨めだろうなぁ…」


ちょっとだけ夢があるなと感じていた私にシュヴァルツ様が世知辛い事実を付け加えた。


ああ、多分パーティで爵位の高い貴族は豪華なドレスを着て、低い爵位の貴族の質素なドレスをあざ笑うんだろうなぁ…。


「低爵位の貴族は少しでも見栄を張るために少ない領地で重税を課すのですね」


「そういうことだ」


「なんというか、この学校の制度自体が世界の流れを乱しているような?」


私は学校の制度が流れを乱す要因なのかなと予想した。


だって実際ルージュ王国滅びそうだもん。というか世界の流れを乱す要因って人だけじゃなく物とか制度とかも対象になるのかな?


「制度はルージュ王国しか採用していない。というより一国を乱す程度の制度を改変するために神は降りたりしない」


シュヴァルツ様は私の予想をはっきりと否定した。


ですよね~。国ひとつが制度が原因で滅んでも世界の流れには影響がないんだね。いや、ルージュ王国は滅んでも世界の流れに影響がないくらい小さな国なんだろう。


「…あいつだな」


シュヴァルツ様がまるで汚物を見るかのような目をして何かを見つけた。顔も嫌悪感に満ちていて世界を乱す要因を見つけたんだと直ぐに理解できた。


「え、どれで…ん!?」


私も探そうとしたらそれは一瞬で見つかった。いや、見つけてくれと言わんばかりの違和感がそれにはあった。


この学校の生徒はほぼ全員が貴族、例えどんな背景があろうともどんな生徒でも私なんかより見た目がいい。私と同年代なのに皆カッコいい、可愛い、美しい、そんな生徒ばかりだ。そんな生徒たちを色とりどりの綺麗なビー玉に例えるなら、その存在はビー玉の中に紛れ込んだ純金の玉だ。どんなビー玉より価値はあるがその中に紛れ込むと違和感しかない、そんな感じだった。


その存在は男だった。キラキラと輝く金髪で、目はキリッとした金と銀のオッドアイで、長身で筋肉質な身体、顔はまさに誰もがイケメンと舌を巻くほどのカッコ良さだった。生きていた頃の私なら会って数秒で一目惚れしていただろう。


だがなぜだろう、一度死んでいるからなのか今は神の視点で見ているからなのかその人の存在には違和感しか覚えない。完成度が高すぎる、という感想しか湧かないのだ。


まるで名のある芸術家が数年もの歳月をかけて完成させた芸術品を芸術に関して全く関心のない人が見た感覚に似ている。それが完成されているのは分かるがそれの美しさに何の感情も湧かない。


異世界転生者って神の視点から見ると、客観的に見るとこんな風に見えるんだと私の中にあった異世界転生の夢がボロボロと崩れていくのが感じられた。


「あの人が世界の流れを乱す要因でしょうか?」


ミーシャさんも完璧男を見つけてシュヴァルツ様に確認した。


いや、あの人以外に何があるんですかミーシャさん。あれを客観的に見てそうだと直感しない人はいないでしょ。


「ああ、元は別の世界の人間だったが神の加護を受けてこの世界に転生した男だ。鳴神の言葉を借りると異世界転生者だな」


シュヴァルツ様が不機嫌そうに説明を始めた。


あれで異世界転生者じゃなかったら逆にびっくりだよ。


「名はスバル・スリジエ、元の世界での名は桜崎昴。この世界では平民の生まれでこの世界で比肩しうる者がないほどの魔力を持っている。幼少期から村の内政に関わり画期的な小麦の栽培技術や特産品のワイン製造により村を豊かにした実績を買われ貴族学校に入学した」


私はシュヴァルツ様の説明から引き出される転生者のテンプレ的行動に呆れるしかなかった。


うわ~、神様に魔力チートを貰って異世界転生特有の内政介入しちゃってるよ~。でも私の知識じゃあ内政介入して豊かに出来る自信がないから地頭はいいのかな?


「スバル様~、お待ち下さい~」


「スバル様、今日こそあなたの魔法を私に教えて下さい!」


シュヴァルツ様の解説途中で下にいる転生者の元に二人の華やかな美人が転生者にくっついてイチャイチャし始めた。


ど、どちらも胸が大きい!しかもそれを転生者の身体に当てて誘惑している!見せ付けているんじゃないよ!胸があれば私だって…おっと、落ち着け私!正気に戻れ私!


ま、まああの顔で実力もあるんだから女の子が惚れるのも分かる。二人同時に惚れるのも分かる。二人とも結構綺麗だから爵位は高いのかな?


「両脇にいるのはルージュ王国の王女、もう一人はこの国一の領地を持つ公爵家の令嬢だ」


シュヴァルツ様は淡々と驚愕的事実を無表情で説明をする。


おいおい、この国一位と二位の超お嬢様じゃないか!凄いな転生者!


「国のトップの娘を二人も侍らせているのですか?」


「数週間前にルージュローズ学院で起きた生徒連続殺人事件にてスバル・スリジエが二人を護って犯人を捕まえたのを機に二人はスバル・スリジエに惚れたようだ。犯人は貧乏だった男爵の生徒で被害者は全員爵位が高い貴族だった。動機は言わなくても分かるな」


シュヴァルツ様から説明される転生者に訪れるテンプレ的出来事にまた呆れる私だった。


うっわ~、異世界転生特有の事件解決からの高い身分の令嬢に惚れられるパターンだ~。しかも二人同時ですか~。


てか事件の全貌さっきのシュヴァルツ様がした解説のおかげで分かっちゃったよ。


自分たちが貧乏しててさらに領地を切り詰められているのに爵位の高い貴族は豊富な領地で贅沢三昧だもんな~。そら殺意も溜まるに決まってる、犯罪に走るのはいけないと思うけど。


でもよく単独犯で実行したな男爵生徒、絶対他の生徒とか不満のある貴族とか協力してくれる人はもっといただろうに…。そうしたら犯罪に手を染めなくてもよかったのに…。


「スバル・スリジエは、元の世界ではどうだったのですか?」


「そうだな。桜崎昴、医者の父と元看護師で専業主婦の母に年の離れた優秀で後に父と同じ医者になる兄とともに生活していた。自身も父と同じ医者を志望し、勉学に一生懸命励んだ。中学受験高校受験はともに国でトップの学校に合格するも医者になるため自信を持って受けた大学受験に失敗した。その後は初めての挫折と今まで優しかった家族が受験失敗から突如豹変し無能扱いを受けたショックにより心に深い傷を負い引きこもりとなる。最後には20歳の誕生日にもう大人なんだから自立しろと家族に罵られ、手切れ金とともに家から追い出され失意の中貨物自動車に轢かれて死亡。となっている」


ミーシャさんの質問にシュヴァルツ様が今まで見ていた本を目の前で消し、別の本をレザーコートの裏から取り出して転生者の転生前について解説を始めた。


あの、今どうやってあの分厚い本を一瞬で消したんですか?そんでそのレザーコートのどこにそんな分厚い本を入れていたんですか?


というか私はそんな事より転生前の人生にもっと詳しく聞きたいんだけど!たった一回の失敗で全部失って最後は厄介払いされて事故死って悲しすぎないその転落人生。


あんな芸術品のような笑い顔の裏にそんなくらい過去があったのね…。なんかあの転生者がこの世界で好き勝手やってもちょっと許せる気がする。


あ、ミーシャさんもさっきまで何の興味もない目で転生者を見ていたんだけど今は哀れみの目で転生者を見守っているんですけど。


「同情はしてもいいがスバル・スリジエは世界の流れを乱す要因だ。それを忘れるな」


シュヴァルツ様は変わらず汚物を見るような目で転生者を睨んでいた。この人にとってはどんな過去を持っていても世界の流れが一番大事みたいだ。神様らしいね。




おまけ「トラック」


「シュヴァルツ様、なんで異世界転生の時は皆トラックに轢かれるんですか?」


「唐突になんだ?」


「いや、何となくですけど」


「まあいい。トラック、正式名称は貨物自動車と呼ぶ。その貨物自動車が使用されるのかについては三つの要素がある。まず使用される世界では普段から道路を走っているため、次に質量が重く殺傷能力が高いため、最後に転生者自身に過失がなくても死亡させられるため、以上の三つの要素から轢かれて死んだと転生者が通達されても不信感を抱かない。そして最も手間が掛からず確実に死亡させられるため多く使用されている。理解できたか?」


「凄い分かりやすい説明ありがとうございます!」



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