1話 《初めての授業》
本日二回目の投稿です。
最新話は毎週日曜日午前6時に投稿いたします。
神様のミスで異世界転生する事になったが阻止されて、暗殺者の風貌をした神様に殺されそうになり、属性盛りすぎのメイドさんに助けを求め、人生初の土下座でどうにか生き残った元女子高校生である私、鳴神薫は今大変混乱している。
なんで私は死んだはずなのに高校の教室っぽい場所で学生机に置いてある筆記用具に目を白黒させながら学生椅子にちょこんと座っているの?
なんでミーシャさんはこの状況に何の疑問も持たずに落ち着いた笑顔で隣の席に座っているの?
なんでシュヴァルツ様も何もなかったかのように教室の教壇に立っているの?
そもそも私はどうやってここに来たの?さっきまで真っ白い空間にいたよね?
土下座で生き残った後、シュヴァルツ様がどこかに消えたかと思えば、私が瞬きをした瞬間にこの状況になっていた。混乱するなというのが無茶な話である。
「さて、早速始めるぞ」
そんなことも気にせずシュヴァルツ様は後ろにある大きな黒板の粉受けに置いてあった白のチョークを手に取る。
黒のスーツ着ているからまんま教師だよあなた、黒のレザーコートさえなければね。なんでレザーコートを脱がないのですか?形から入るなら脱いだほうがいいですよシュヴァルツ様。
「ちょ、ちょっと待ってください」
「何だ?早速殺されたいか?」
シュヴァルツ様が白のチョークを置き、懐から神様を殺したごついナイフを取り出す。
止めてよそれ!結構トラウマなんだから!
「止めてください!ナイフ仕舞ってください!」
「シュヴァルツ様、鳴神さんはこの状況に困惑しています。何も説明せずに始めるのはいかがかと」
取り乱している私を見てミーシャさんが私の代わりに聞きたいことを聞いてくれた。
ミーシャさん、フォローありがとうございます。でもあなたはもっとこの状況に驚いたり困惑したりもう少しリアクションをしたほうがいいよ。まるでロボットみたいじゃないか。
「そうか。鳴神、何から説明してほしい?」
するとナイフを懐に戻したシュヴァルツ様から質問の許しが出た。
説明してほしいことですか?そりゃ山ほどあるわ!
だってこの部屋、私が在籍していた高校の教室そっくりなんだけど窓が全くないし勿論廊下もない。周りは白色の壁しかないんだよ。
床も教室でよく見る正方形の木材なんだけど模様が規則的でランダム性が全くない。絶対木材使ってないだろこれ、塗ったというより印刷でもしたの?
それに二人しか生徒?がいないのに机は合計で20もある。逆にさびしいんだけどこれ、それとも生徒が増える予定でもあるんですか?
というか机に用意しているの、鉛筆と消しゴムとノートが一つずつしかないってどういうことなんですか!?シャーペンとかボールペン、せめて鉛筆削りを置いてくださいよ!鉛筆が折れたらどうしたらいいんですか?爪で削ればいいんですか?
他にも凝視すればこの空間だけでも色々と粗がありそうで、突っ込みどころ満載なんだけど全部説明してと言ったら絶対却下される。そういう神様だろうシュヴァルツ様は。
「じゃあ、なんで学校の教室っぽい場所でシュヴァルツ様が授業して私たちが授業を受けるみたいな状況になっているんでしょうか?」
というわけで私は一番疑問に思っていたこの状況について説明を求めた。
「鳴神、お前が乗った計画というのはお前達人魂…いやお前には人間と表現したほうが理解しやすいか。ともかくお前達人間に神が知識を与え、神々が行っている為事を代行させるというものだ。知識を与える方法は様々だがまずは授業という形を採用した。お前はそれのモデルケース、神の授業を受ける最初の人間となった。なぜ人間に代行させることになったのか簡単に説明すると、今の為事の現状は神材不足の状態で人の手も借りなければならない状況になる可能性があるからだ。そして今から俺がお前に授業を行う。理解できたか?」
シュヴァルツ様は私の予想に反して懇切丁寧に説明してくれた。これなら全部説明してとお願いしてもしてくれそう。
人材不足って言ってたけど多分人という字は神の字を当てはめるんだろうね。
つまり簡単に言うと神でやってる仕事が忙しいから人間に手伝ってもらうためにそのための授業をする。そして私がその第一号、ってこと?
え~、なんで死んでも授業を聞かなきゃならないの~?すっごく面倒くさい~。でも態度には出しません。だって文句を言ったら即刻死が待ってる、多分態度にも出たらこの神様なら殺りかねないから絶対に出しません!
「まあ大体は、あと何でわざわざ学校の教室っぽくしたんですか?」
「お前が最も授業を受けやすい環境を創ったまでだ」
私の次の質問にシュヴァルツ様は手短に答えた。
作ったってのも多分創造って意味だよね。こういうところを見せないと神様に見えないんだよねシュヴァルツ様。
暗殺者っぽいしどちらかというと死神とかかな?と思ってしまう。あ、死神も神様か。
「では早速始めるぞ」
授業の開始をシュヴァルツ様が告げるとどこからともなくキーン、コーン、カーン、コーン、といつも学校で聞きなれたチャイムの音が教室内に響いた。
「わざわざチャイム鳴らさなくてもいいのに…」
他の部分は結構粗があるのになんでそこだけ忠実に再現してるのか理解できない私だった。
「最初は俺達神が行い、今後お前にもやってもらう為事についてだ」
「はい」
「為事は大まかに4つ、まず世界に悪影響を及ぼす存在の抹消だ」
「世界に悪影響?例えば世界を滅ぼす魔王とか?」
シュヴァルツ様が行う授業の序盤で早速私の頭に疑問が湧いた。
え、一々魔王とかを神様が殺すの?勇者とかその世界の人たちに任せないの?まあそんなことやってれば神材不足になるのも納得できるけど。
「鳴神さん、確かに世界を滅ぼさんとする魔王は確かにその世界にとっての悪ですが世界に悪影響を及ぼす存在であるかどうかは状況によります」
「えっ、そうなの?」
ミーシャさんの指摘がさらに私の頭を混乱させる。
いや、世界を滅ぼすとか普通に世界にとって悪影響じゃん。私には全く意味が分からないよミーシャさん。
「ミーシャの指摘通りだ鳴神。その世界に住む人間にとっては悪影響を及ぼす存在であっても、その世界そのものに悪影響を及ぼす存在ではない場合がある」
ちんぷんかんぷんだ。本当に意味が分からない。
何言っているんだミーシャさんとこの神様。
「世界の仕組みについては後々詳しく説明する。だがこれだけは覚えておけ、世界には流れというものが存在する」
「流れ?」
「道筋、とも説明できるな。ともかくお前が例に挙げた世界を滅ぼさんとする魔王がいる世界を具体例として説明しよう」
するとシュヴァルツ様が白のチョークを手に取り黒板に図を書き始めた。
「世界を滅ぼさんとする魔王がいるとなれば世界には結末があり、お前にも幾つか想像できるだろう。魔王が望みどおり世界を滅ぼす結末。勇者、もしくは世界の誰かが魔王を打倒する結末。魔王が世界を滅ぼすのを諦め世界の住人と和解する結末。そして魔王がいつまでも世界を滅ぼせずに老衰死する結末。他にもあるがいずれにしてもこれらの結末へ向かう道筋が世界には存在する」
シュヴァルツ様の説明と同時に物凄いスピードで黒板に図が描かれている。
まず黒板の上部分に世界の流れと大きく書いた。さらに黒板の右側に世界の結末と大きく書いて左側に結末という文字へ向かう大きな矢印を複数書いた。さらに矢印の中に魔王が躍動している図、勇者が魔王を倒している図、魔王と人間が手を取り合っている図、魔王が老人になって椅子に座っている図を描いた。
矢印の中にある図、というか絵だねあれ。めっちゃ絵を書くの上手いなシュヴァルツ様。線もチョークで書かれたとは思えないくらいめっちゃ細かいし何者なんだよこの神様。
「そして世界に存在する人々によって結末への道筋は徐々に絞られていき、やがて一つとなる。例としては魔王が重要拠点を征服する、勇者が魔王の側近を殺す、魔王の子孫が人間と恋慕するなどがある。そして世界の流れは簡単には変わらない。つまり結末へ向かう道筋が一本に絞られてしまったらどんなことがあってもその結末へと世界は向かう。これら全てを総合したのが世界の流れだ」
で、矢印に次々と大きく×印を書いていくシュヴァルツ様。残ったのは勇者が魔王を倒している絵だった。
成程、つまり世界にはゲームのように色々とエンドがあってどのエンドに行くのか最初は全く決まってないけど世界の人々の歩みによって徐々に決まっていって最終的にはひとつに絞られるのね。
うん、分かりやすいよシュヴァルツ様。ちょっと混乱が解けてひらめきました。
「つまりその流れを乱す存在が世界に悪影響を及ぼす存在ってことですか?」
「その通りだ」
シュヴァルツ様が私の答えに小さく頷くと私は小さくガッツポーズした。
やったぜ、まあここまで詳しくて分かりやすい説明をされたら分かってしまうよね。
「この程度で誇るな鳴神。世界に悪影響を及ぼす存在は幾つかあるが最近多いのが神が多大な加護を与えられ、世界に転生された人間だ」
シュヴァルツ様が最近多いと挙げたものは、多分私が良く見ていた小説で多くあった異世界転生なのだと私は直ぐに察した。
私を殺そうとしたときに薄々感じてたけどやっぱり異世界転生って世界に悪影響なんだね。
「私たちが止めなければ鳴神さんもそれになりかけたんです。そうなればあの人は問答無用で…」
そうか、ミーシャさんの言うとおり私も一歩間違えれば…あれ?
「シュヴァルツ様、どうして異世界転生自体が世界に悪影響なんですか?世界に悪影響を及ぼさない転生者もいますよね?」
私は小説にも書いてあるようなチートを与えられて転生しても、ひっそりと暮らしたいと思う転生者も多いと思います。
「それについては次回以降に詳しく話す。他にも色々あるがそのような存在を世界の流れが乱される前に、もしくは完全に流れが滅茶苦茶になる前に抹消するのが為事の一つ目だ。これが一番事案が多い。ここまでで質問はあるか?」
私の指摘を無表情で先送りして説明を続けたシュヴァルツ様だった。
あ、次回があるのね。次は異世界転生について詳しく教えてもらえるのかな?
で、この時点で質問か…ならこの疑問について聞こう。
「世界の流れに良い影響を与える存在はどうするんですか?」
やっぱり悪い影響を及ぼす存在があるなら良い影響を与える存在もあるでしょ。まさか良い影響なんてないなんてことはないよね?
「ふむ…まず世界の流れに良い影響とはいくつかあるが技術の促進や思想や宗教の布教などで結末の道筋を増えることだ。そんな存在は抹消しないが後々悪影響を及ぼす可能性が大いにあるため監視をして少しでもその予兆を感じたら抹消する。分かったか?」
「あ、はい」
私はシュヴァルツ様が険しい顔をしながら私の質問の答えを説明しているのを見るとそんな存在殆どいないと察した。
気づいたけど世界の流れに影響を及ぼす存在ってとてつもない大きな力を持つ存在って事なんだよね。そんな大きな存在が世界に与える影響なんて碌なものじゃないか。
「では流れを乱すことについて具体的に説明しよう。先程の魔王を例にすると魔王が世界を滅ぼす直前に、つまり世界の滅亡という結末が確定された世界に、ある日突然現れたとてつもない力を持った勇者が魔王を滅ぼす。この場合勇者が流れを乱す要因だ」
またもや私の頭の中がハテナマークで埋まった。
え?その場合世界を、人間を救ったんだからその勇者は英雄でしょ。
「お前、勇者が英雄だと思ったな?」
シュヴァルツ様に心を読まれた。そんなに分かりやすい顔になってたかな?
「確かにお前が思った通り一見すれば勇者は世界を救ったように見える。しかし魔王に滅ぼされかけた世界にその後直ぐに人類が豊かに暮らせるわけがない。あらゆる面において人間が生活するための資源が不足している。人類社会が復興することはおろか秩序の回復すら難しい状況になり、人類が魔王が出現する前の勢力まで回復するのに何百、何千年もの期間を費やすことになる」
淡々とシュヴァルツ様は世界の厳しさを語っていく。
そうだ、現実はゲームみたいに魔王を倒す=ハッピーエンドで終了じゃない。魔王を倒しても世界は続いていくんだよね。
「しかも人類の勢力回復はその間世界が平和でなければならないという前提の上での話だ。今回の例だと世界を滅ぼす直前までいった魔王の勢力は肥大化している。勇者がその勢力をどれだけ削ったかによるが一人の人間が肥大化した勢力を人類に被害を与えないほど削ることは出来るとは思えない。つまり魔王の勢力は残ってしまい魔王が死亡した瞬間その勢力の中で次の魔王を決めるために派閥争いがおきる。その争いに人類も確実に巻き込まれるだろう。そして人類は再び危機に陥る。しかも複数の勢力が人間を危機に追いやる存在となる。結果的に人類にとっては魔王が生きていたときより凄惨な状況になる。さて鳴神、こんな世界にしてしまった勇者は世界を、人類を救ったか?」
「いいえ…」
私はシュヴァルツ様の問いに小さく首を振った。
もしそんな状況になってしまえば魔王を倒した勇者は混沌を招いた愚か者として皆の嫌われ者になってしまうよね。どんなに勇者が人類のことを考えても、人類に貢献しようとも、魔族と戦い続けても。
「世界の流れを乱すという行為は世界そのものを混沌に陥れるのと同義と考えろ。それと俺たちは人間の味方じゃない。俺達が行う為事は端的に説明するなら世界と魂の管理を円滑にするためにあり、それを乱すものを排除することだ」
人間の味方じゃない、シュヴァルツ様は特に強調したわけではないがその言葉に私はかなりの重みを感じた。
「続けるぞ。為事の二つ目は世界の流れを修正することだ」
「流れの修正?」
乱された世界の流れって修正できるの?と一瞬思ったけど神様なんだから世界の流れに介入するなんて些細なことだよね。
「ああ、未然に世界の流れを乱されるのを防ぐのが一つ目の為事だが全ての存在を未然に抹消できるとは限らない。世界は多いからな」
「そんなに異世界って多いんですか?」
「シュヴァルツ様も全て把握できていません。世界を全て把握できている神様は私が知る限り二柱しかいらっしゃいません」
「はへ~」
私の質問とミーシャさんの補足にばつが悪そうな顔になるシュヴァルツ様だった。
シュヴァルツ様も全知全能ってわけじゃないのね。てか神様の数の数え方って柱なんだ、初めて知りました。
「話を続けるぞ。世界の流れが乱されると世界の存在が揺らぐ。一つの世界の存在が揺らぐと他の世界にも少なからず影響を及ぼす。さらに世界に済む人間にも影響を及ぼし、巡り巡って魂の輪廻にも影響を及ぼす。その結果世界全体に悪影響が及ぶ。それを未然に防ぐため世界に干渉して乱された流れを戻したり修正するんだ」
「それって神託とか使うんですか?」
なんか神様の声を人に聞かせたり海をドバーッと真っ二つに割ったりするのかな?
「それもあるが主に特定の人間に加護を与えたり特定の勢力に力を与えるなどをする。だが世界の人間だけでは乱された世界の流れを修正するのが困難な場合がある。その場合神々が下界して直接世界に関わることもある。この為事が一番時間を必要とする」
「へ~」
あ、多分だけど下界して直接世界に関わるという部分を人間に任せようとしてるのね。
一々世界に関わってたら神の数が不足するよね。
「先程の魔王を倒した勇者を例にしよう。まず世界滅亡直前に魔王を殺した勇者を排除する。ここまでが一つ目の為事だ。そして俺達が勢力争いを始めようとする魔王の勢力が一本化するように介入し、新たな魔王を誕生させてそれまでの世界の流れ通り魔王に世界を滅ぼさせる。ここまでが二つ目の為事だ。これでこの世界の流れは修正され、他の世界に影響は最小限で済む」
シュヴァルツ様がそれまで黒板に書いた絵を消してシュヴァルツ様が白のチョークで絵を書き始めた。
左から魔王を打破する勇者の絵、その勇者が倒される絵、複数の魔物が争う絵、争う魔物に介入するデフォルトシュヴァルツ様の絵、そして舞おうが誕生し世界を滅ぼす絵、をそれぞれ描いて矢印で繋いだ。
やっぱり絵上手いなこの神様。まさかシュヴァルツ様って絵の神様なのかな?
てかさらっとシュヴァルツ様が世界を滅ぼすのが被害を最小限で済ませる方法って説明したけど本当人間の考えじゃあ理解できないなぁ。
「3つ目は排除した魂が通常通り輪廻に戻すための調整。4つ目は為事は流れを乱す存在に関わった神の処断。この二つ為事に人間が関わることは絶対にないため説明はしない」
「どうしてですか?」
「簡単なことだ。魂の管理に人間が関わることは古より禁止されている。さらに神は神にしか裁けない、裁いてはいけないからだ」
二つの仕事に人間である私が関わってはいけない理由は私でも直ぐに理解できた。
魂の管理って事はつまり人間の転生先の管理とか閻魔様とかの仕事とかだと思う。そんなの人間が関わったら公平な判断が出来なくなるよね。
それに人間が神様を裁くなんておこがましいことだよね。個人的にはトラウマを与えてくれたシュヴァルツ様を懲らしめたいけど。
「ともかく為事は以上の四つだがお前たちにやってもらう為事は二つ、世界に悪影響を及ぼす存在の抹消と世界の流れの修正だ。理解できたか?」
「は~い」
とっても分かりやすかったですよシュヴァルツ様。まあ難しい内容じゃなかったし、黒板には図、というか絵しか描いてないけど凄く上手かったし。
「気の抜けた返事だな…まあいい、今回の授業はこれで以上だ」
シュヴァルツ様が授業を終了を宣言するとまたもや聞きなれたチャイムの音が響く。どこから響いているのこのチャイム…。
ん?授業は以上ってことは、これから休憩かな?
「ではこれから実習に入る」
実習?何するの一体?まさか戦闘訓練とか?止めてよそんなの!私はさっきまで普通の女子高校生だったのよ!
「実習ってなんですか?」
「お前が言うところの異世界に降りる」
「えっ、マジですか!」
突然の異世界降下宣言に私は驚くとともに喜んだ。
まさかこんなに早く異世界を見れるとは思わなかった!
いや、待てよ。この神様なら私の世界に似た異世界に連れて行きそうだ。
私はファンタジーで夢あふれる異世界に降り……ん?降りるってまさか…
「じゃあ行くぞ」
「へ?」
シュヴァルツ様の唐突な指パッチンとともに私たち3人のいる教室の真下に最初の真っ白い空間にできたあの渦巻いた黒い穴が出現した。
うん、これ床がなくなっちゃったね。私が座っていた椅子も机もいつの間にか無くなっちゃったし。
私、落ちるねこれ。
「うぎゃああああああああああああああああああああああああ!!!?」
私はスカイダイビングのように凄い速度で自分の体が下へ落ちるのを身体全体で感じながら、恐怖で号泣しながら悪あがきで手足をじたばたさせる。
落ちるううううううううううっ!私は飛ぶこともかっこよく着地も出来ないのよおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!死ぬ!死んじゃうからあああああああああああああっ!!
せめてパラシュートを用意しとけよシュヴァルツ様の大馬鹿やろおおおおおおおおおおおおおおっ!!
おまけ「仕事と為事の違い」
「鳴神、為事の字が違う」
「え、仕事って私の習った言語ではこの字なのですが…」
「俺達神は何かに仕えることはない。だから為事のことも『事を為す』ということで為事と書け」
「あ、成程」
「それで鳴神、覚えられるのならば態々ノートに書かなくてもいいのだがなぜ俺の説明を一々細かくノートに書いているんだ?」
「ならなんで用意したの?」
「なんとなくだ」