14話 《神のパパと人のママ?》
「…すみませんもう一度言ってもらってもいいですか?」
先程のシュヴァルツ様の言葉を現実だと信じたくない私、鳴神薫は今の言葉が聞き間違いかどうか確認した。
子供達のお世話をするのは私にとっては別に問題ない。私は一人っ子であるためなのか自分より小さい子供が好きだ。職業体験で保育園を選択したり将来の職業の選択肢に保育士や幼稚園教諭をしようとしているほど子供が好きである。
そう、別に問題はないのだがこの無神経の神様と一緒に育てることが嫌なのだ。
「理解できなかったのか、なら言い方を変えよう。俺とお前が協力してあの4人の子供を一人前になるまで面倒を見ることになった」
「はああああああああああああああああああああああああああああああっ!!??」
やっぱり聞き間違いではなかったことに私はショックで絶叫した。
なんでこんな無表情で変態な奴と一緒に面倒を見ないといけないんだ!せめてあんたが介入しないというのなら受けてやってもよかったけどさぁ!
「なんで!?あんたと!?あの子達を!?育てるなんて!?ことになったんですか!?」
「落ち着け」
「いやいやいやいやいやいや落ち着けるかああああああ!!なんで私を女と見ていない無神経男と夫婦にならんといけんのじゃああああああああああっ!!」
私はシュヴァルツ様と夫婦っぽいことになるのが嫌で嫌で仕方がなかった。
確かに顔は良いよ、それに長身だし筋肉質な身体だし頭脳明晰だし強いし結婚するならこの人って本気で考える女の人は大量にいるだろう。
でも、でも私は絶対に嫌!だって私の事を貧乳と罵るし全裸を見ようともベッドに押し倒してこようとも私の事を異性として見ようともしない!それでもまだ紳士的な部分があればまだましだった。でもシュヴァルツ様は私に対して全く紳士的でないから余計に腹が立つ!
とにかく、シュヴァルツ様と夫婦なんて絶対に嫌だ!
「誰がお前に母親になれといった」
「ぎゃふん!」
私に落ち着く様子がないためシュヴァルツ様が私の頬を右手で思いっきりビンタした。
そのビンタにより私は思いっきり倒れた。
シュヴァルツ様の強烈なビンタと母親になれと言ってないという言葉にひとまず冷静になる私だった。
「理由は今から説明するから一旦黙れ」
「はい…」
私はビンタされた頬を手で触りながら立ち上がり返事をした。
「まずあの子供4人は一人で生活できない。よって誰かが面倒を見る必要がある」
最初の理由は私でも理解できた。でも一つ疑問があった。シュヴァルツ様は育てる人間になぜかミーシャさんを除外している。
「ミーシャさんでいいじゃないですか」
「前にミーシャから説明されただろうがあいつの立場は不安定でいつ魂を輪廻に戻すか不明だ。そうなった場合俺達二人が否が応でも4人を育てなければならない」
シュヴァルツ様もミーシャさんの立場が不安定であることを理解しているようだ。
「あ、そうでした…というかその不安定な立場をシュヴァルツ様がどうにかすればいいんじゃないですか?」
「詳しい話は伏せておくがミーシャの処遇関連に俺は関われない。よって俺がどうにかするというのは不可能だ」
それならシュヴァルツ様がミーシャさんの立場を明確にすればいいじゃないかと私は思ったがシュヴァルツ様はミーシャさんの立場を決めれる立場ではないようだ。
そこまで偉くないのかシュヴァルツ様…私には滅茶苦茶偉そうなのに…。
「…この無能」
「聞こえているぞ。だがミーシャの処遇が決まるまではミーシャにも手伝わせる。そこは安心しろ」
私はシュヴァルツ様の悪口を呟いたがシュヴァルツ様は少し反応しただけで全く気にせずに説明を続ける。
「それで俺とお前で育てる理由だな。今回為事代行のため選別される人間は神々4柱が1柱ずつ選別した。それに合わせて俺は為事の授業をどう進めるか考えていたのだが…」
「それが全員幼女だったと」
つまりこの状況はシュヴァルツ様の予想を超えていたようだ。まあ神様の代行をするために選別される人間が全員幼女だなんて予想不可能ですよ。
「そうだ、年齢や性別、種族がばらばらなのは予想していたが全員が5歳程度の子供というのは予想外だった。もし子供が選別された場合には選別された人間達によって育てることを視野に入れて計画を立てていた。だが選別された全員が子供だったため計画は無に帰した。そして子供4人の面倒をお前に全てを押し付けるのは負担が大きいと考え俺も手伝うということになった」
「つまりシュヴァルツ様がパパで私がママってことですね?お断りです」
理由は理解できたがだからと言ってシュヴァルツ様と夫婦みたいな関係になれってことですよね?確かに私への負担を考えてくれたのは感謝しますがそれとこれとは別です。そんなのお断りしますよ。
「だから違う」
「ふぎゃ!」
いい加減にしろとシュヴァルツ様は呆れながら私のおでこにデコピンをした。
いきなりデコピンするな!痛いっての!
「人間の軍隊を私的に育成することを抑止するために神が人間を主導的に育てるのは禁止されている。よって俺は子供の父親にはなれない。つまりお前に子供達の母親になれとは言わないがお前が中心となって4人を一人立ちできる程度まで育て、俺とミーシャがお前の補佐をする。もう一度言うがお前が奴らの母親にならなくても問題はない。分かったか?」
「…まあ分かりました」
シュヴァルツ様が二回も念押しをして言及するという事は本当にそんな意図はないのだろう。私はシュヴァルツ様を神様的な面では信頼しているが異性面では全く信用できていない。それが伝わればいいなと思いながら頷いた。
「それと為事代行や授業も平行して行うためこれからは覚悟しておけ」
それからシュヴァルツ様はあっさりとこれまで以上に多忙になると宣言した。
「はぁ!?それって私に自由時間はあるんですか!?」
「あるから安心しろ」
私は自由時間が無くなるのは嫌だとシュヴァルツ様に迫ったがその可能性はないと否定した。
「本当ですよね…」
「二言はない」
「ならいいです。これでも子供は好きですから任せてください!」
シュヴァルツ様が二言がないというので私は信用することにした。自由時間があり、それでいてミーシャさんとシュヴァルツ様が支えてくれるのならば子供たちを育てることに異論はない。
私は子供が大好きだからね。あの子たちも可愛くて直ぐにお世話したい。私は胸を張り四人の子供を育てることに了承した。
「そうか。ならこれを渡す」
するとシュヴァルツ様は4枚の紙を私に渡した。
「これは…あの子達のプロフィール?」
4枚の紙には4人の子供に関する特徴が細かく書かれていた。
「選別された子供達は全員個性が強い。今から一人ずつ説明する」
そしてシュヴァルツ様は四人の子供についての説明を始めた。
「まずは一番目立っていた活発すぎる奴からだな。コルネ・フリージア、龍人の子供だ」
龍人と聞いて私はトカゲのしっぽや角、そして翼が生えている姿を思い浮かべた。でもコルネちゃんにはそれらは全くない。
「あの子が龍人?確かに肌は褐色でしたけど龍要素がないですよ?」
まあ教室で見せたあの傍若無人で活発な性格は無邪気な子供の龍という感じはしましたけど。
「コルネはまだ小さく龍要素といえるものは少ない。まず髪で目立たないが角が生えていて服に隠れているが小さな尻尾も生えている。どちらも成長とともに大きくなる。指は普通の人間と同じ5本指で爪は今は普通の人間の子供のようで鋭くないが大人になれば少しずつ鋭利で頑丈な武器になる。手も指も強靭な爪に応じた形になる。歯や顎も同様に大人になるにつれて硬い物を砕けるように成長していく。鱗は成長しても一切現れないが褐色の肌は普通の人間より硬く高温に強い。最後に口から火を吐く器官があるが周りに危険を及ぼすため絶対に日常生活で使わせるな、いいな?」
「あ、はい」
早口でコルネちゃんの龍人の特性を一言も区切らずに淡々と説明するシュヴァルツ様に気圧されて空返事をする私だった。てか火を吐いたり爪が強靭になるって結構というかかなり危険な子じゃないか。気を付けないと死ぬかもしれない。
「性格はさっきも見ていただろうが無邪気で活発で長時間じっとしていられない。とにかく何かに挑もうとする。コルネが原因の喧嘩が絶えないだろうから注意しろ」
「ガキ大将って感じですね」
そういう子は保育園に一人入るって感じですね、女の子がそんな性格になるのは珍しいけど。
「それと素の戦闘能力はお前より上だ。もし暴れたなら変身するか俺を呼べ」
「はぁ…はぁ!?」
そしてシュヴァルツ様のあまりに衝撃的な一言に驚愕する私だった。
え、あの子今の私より強いの!?
「コルネは近接戦闘の才能の塊だ。子供なのに為事代行に選別されるのはそれなりの理由があるということだ」
「と、とにかく大人しくなるように育てればいいんですね」
私はコルネちゃんをおとなしく育てないと反抗期になった時にマジで命の危機に瀕するから絶対におしとやかな子に育てようと決意した。
「別に大人しくなるように育てなくてもいい」
「へ?」
「お前は勘違いしているようだな。なぜ神々に忠誠を誓い命令を聞くだけの天使ではなく人間が為事代行をすることになったのか考えておけ」
「はあ…」
シュヴァルツ様が私のコルネちゃんの育成方針に異論を言い、さらに私に対しての課題を投げかけてきた。
天使ではなくて人間を為事代行に遣わせる理由ですか…。まーた課題を増やしてきたなこの神様は…。
「次は机に足を引っ掛けて転んでお前があやしていた子供だな。名前はアリス・スプリング。選別理由は膨大な魔力を持っているためだ」
次はアリスちゃんの説明を始めた。そしてその二言目で私は歓喜した。
「魔力ですか!じゃああの子は魔法使いになるんですね!」
つまりアリスちゃんには魔法を教えるってことですよね!それに私も参加したい!
「ああ、お前も魔法を使いたいのなら一緒に学べるようにしてやる」
「やった!」
シュヴァルツ様が無表情で私の考えを読みとり、私も魔法を教えてもらえることになった。魔法を自分一人だけで学ぶなんて寂しいことにならなくてよかったと私は心の奥底から喜んだ。
「性格はお前も体感したとおり大の泣き虫、とにかく何かあったら泣く。泣いたら優しくしてやれ。ちなみに引っ込み思案だとか内気な性格ではなく泣かなければただの年相応の元気な女の子だ。分かったな?」
「はい」
泣き虫以外は普通の女の子なのね。じゃあ泣かないように色々と工夫しないとね。
「次は終始無表情だった獣人だな、名前は楓。元の世界では従者をしていた。奉仕能力及び家事能力はあの年齢で成人顔負けの高さだ」
「あの年で家事能力の高い従者ですか…」
続けてシュヴァルツ様は楓ちゃんの説明に入った。あの年で家事が凄い、そしてシュヴァルツ様ばりの無表情、嫌な予感しかしない私だった。
「お前の予想通り楓の人格は破綻寸前だ。どんな指令でも忠実に従うよう徹底的に教育され、命令された通りにしか行動しない。自分からは絶対に行動しない、歩くことすら指示されないとしない」
「うわぁ…」
シュヴァルツ様が簡潔にまとめた楓ちゃんの過去と実情にに唖然とするしかない私だった。
歩くことすら指示されないとしないってもう従者というより奴隷なんじゃないかな…てかあの年齢でそうなってるってことは奴隷ってレベルじゃないんですけど。
「だが何かをしたいという好奇心は残っている。実際に何でも聞けといえば教室に着いて質問し、先程は自己紹介をしたいという意志は感じられた。とにかく自分から行動できるようにしてやってくれ」
「はい…」
前者の二人よりはるかに重い楓ちゃんを育てる責任感に押しつぶされそうになる私だった。
で、最後に残ったヒルダちゃんも闇が深そうだし予想だけで私の頭が痛くなる。
「楓は他の為事代行者の裏方、つまりは奉仕能力や家事能力、情報収集や隠密行動などのサポート特化にする。お前も最低限学んでもらうからな」
「え、あ、はい」
頭を抱える私にちゃっかりと課題を増やすシュヴァルツ様だった。
おい、自由時間本当にあるんだろうなシュヴァルツ様。自由時間という名の子育ての時間になりそうで不安になる私だった。
「最後に終始怯えていた奴だ。名前はヒルデガルド・フォン・ビューラーだ」
そして最後にヒルダちゃんの説明を始めた。
てかヒルダちゃんのフルネーム長いなぁ。
「ん?自己紹介じゃあヒルダって言ってたんですけど…」
「ヒルダは略称だ。ヒルデガルドが正式な名前だがヒルダと呼んでやれ」
「はい、それでなんであんな子が選別されたんですか?まさかまた魔力とかですか?」
私がシュヴァルツ様にヒルダちゃんの選別理由を聞くとシュヴァルツ様の顔が無表情を崩して苦悩の表情に変わった。
厄ネタなんですか?珍しく無表情を崩しているシュヴァルツ様を見てそう思い私が色々と凄く心配になる中シュヴァルツ様は口を開いた。
「選別された理由は…神の私利私欲だ」
「はぁ!?」
シュヴァルツ様の言葉は私がこれまでの人生の中で一、二を争う驚きを引き出すのに十分な言葉だった。
し、私利私欲!?世界を護るために選別された人間の選別理由が私利私欲って意味が分からないんですけど!?
「あとで私欲で選別した神は俺がどうにかする。お前は気にするな」
「いやいやいやいや気にするって!!何ですかその理由は!」
シュヴァルツ様は深く追及してほしくないのか話を切り上げようとした。しかし私はシュヴァルツ様のいつもと違う様子に余計気になり追及する。
「すまないが詳しい話は聞かないでくれ、この通りだ」
「え…」
するとシュヴァルツ様が、あの偉そうでいつもふんぞり返っているシュヴァルツ様が、私に対して頭を下げてきた。
あまりのことで呆然とする私だった。いつもの私だったらこの光景を写真に収めてゆするネタに使ってやりたいなんて思うのだがシュヴァルツ様が真剣に頭を下げているとはっきり伝わってきたのでこれを馬鹿にしようとは微塵にも思えなかった。
「あの、頭を上げてください。いつものシュヴァルツ様に戻って下さい」
「分かった、では説明を再開する」
いつものシュヴァルツ様に戻ってほしいとお願いすると直ぐにシュヴァルツ様は何事もなかったのかのようにいつものシュヴァルツ様に戻った。
おいぃ!そこは私の懐の深さに感銘するシーンじゃないのか!?普通に戻ってるんじゃないよ糞野郎!
「ヒルダは誕生時から両親や兄や姉に暴行や罵詈雑言などの虐待を受けていた。性的暴行はなかったようだがもし今回で選別されなければされていた可能性が高かった。虐待により大声などの大きな音に敏感に反応し、暴力的行動やそれに類似した行動に酷い拒否感を持ち、目立たないように狭い場所や暗い場所に隠れようとする」
「ああ、だからなのね…」
だが私のシュヴァルツ様への怒りはヒルダちゃんの楓ちゃんに勝るとも劣らない重い過去によってかき消された。
「出来るだけ大声は出さず暴力的指導はしないように。それと隠れようとする癖をなくさせろ。そしてコミュニケーション能力が著しく欠如しているためせめて同じく選別された3人とは仲良く会話できるようにしてやってくれ」
「分かりました…」
楓ちゃんといいヒルダちゃんといい後半の二人は前半の二人とは段違いの育てる責任感を感じる私だった。
「…すまない」
「なんでさっきからシュヴァルツ様が選別したわけでもないのにシュヴァルツ様が謝るんですか?」
で、さっきからシュヴァルツ様が私に謝罪をしてくるのが物凄く気になって理由を聞いてみた。
「…選別したのが身内だからだ」
ん?身内?
「へ?身内って…」
「俺の嫁だ」
「は、はああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!???」
その一言は、私の人生の中で最も大きいと断言できる驚きをもたらした。
「なぜさっきより驚いている。俺に伴侶がいる事がそんなにおかしいか?」
「そうですよ!なんでこんな女の心を理解する気ゼロの馬鹿男に奥さんが居るんですか!さては無理やり手篭めにしたな!この変態強姦魔!」
シュヴァルツ様に嫁なんて自然にできるわけがないと思っている私はシュヴァルツ様がその嫁を無理矢理嫁にしたのだと断言した。
てかそんな嫁が原因で困っているなら自業自得だよバーカ!
「そんな訳ないだろう、この話は終わりだ。とっとと必要な家具を書いて渡せ」
「へぷぅ!?」
シュヴァルツ様は私の馬頭に全く動じていないが私の動揺の仕方にイラっとしたのか懐から取り出したメモを私の頭に叩きつけた。
私はその衝撃で冷静になり、どんな家具がいいかな~なんて前世のころと同じように悩み始めた。
おまけ「家族構成」
「そういえば神様って一夫多妻制なんですか?」
「いや、そもそも結婚に対して制限はない。好きな時に一緒になり嫌いになれば別れるを繰り返しをする神々もいれば人間の結婚制度を採用する神々もいる。多夫多妻制なんてごちゃまぜな家族を持つ神もいる」
「ふ~ん、じゃあシュヴァルツ様の嫁は何人…じゃない何柱いるんですか?」
「妻は1柱だけ、そして娘が2柱いる」
「へぇ~って娘ぇ!?」
「だからなぜ俺の家族構成にそんなに驚くんだお前は…」




