13話 《幼女の後輩》
可愛いのに色のせいで可愛くないコスチュームを貰って為事代行をすることになっている元女子高校生の私、鳴神薫は今猛烈に疲れています。ええ、シュヴァルツ様の戦闘訓練、というよりも蹂躙に近い何かが厳しすぎました。
私はあんまり思い出したくないのでシュヴァルツ様の声と私の悲鳴とともに修行の光景をダイジェストでお楽しみ下さい。
「実戦で学んでもらう。俺の打撃を回避して反撃して来い」
「はぎゃー!!」
「悲鳴をあげる前に身体を動かせ」
「思いっきり殴ろうとするな暴力神!」
「なら蹴りだ」
「ひぎゃー!!」
「まだ素人のお前が俺の攻撃を直前で見切ろうとするな。大きく身体を動かして躱せ」
「ふぎゃー!!」
「よし躱せた!ようやく反撃に」
「回避したら直ぐに攻撃に移れ。一瞬でも止まったら反撃を受けると思え」
「へぎゃー!!」
「うおおおおおおおおおおおおおおっ!!こうなったらヤケクソだあああああああああああああっ!!」
「冷静さを失うな馬鹿。中途半端な怒りは判断を鈍らせる」
「ほぎゃー!!」
と、いった感じで私が終始シュヴァルツ様のサンドバックになった修行ダイジェストでした。
私がシュヴァルツ様に攻撃を仕掛けようとしたら攻撃され、私がシュヴァルツ様の攻撃を躱そうとしたら躱せずに攻撃され、躱せたと思ったらまた攻撃され、最終的にやけくそで突進すれば思いっきり攻撃されました。
ええ、一回もシュヴァルツ様に攻撃に移る機会がなく私が気絶して強制終了となりました。
物理体勢を付与するコスチュームとその効果を倍増する加護のおかげで私へのダメージが少なかったのですが、それが逆に地獄のサンドバックタイムを延ばす要因になっていました。
身体に痣は何にもなく、終わった後の痛みは全くなかったのと目が覚めたときは私の部屋のベッドだったので夢かと思ったら服がコスチュームのままだったので夢じゃないと分かりました。多分シュヴァルツ様が怪我を治癒させて気絶している私をそのままベッドに放り込んだのだろう。
起きたときには肉体的疲労感は全くなかったのだがサンドバックにされた精神的疲労感は半端なかったので教室に向かう気力が全く湧いてこなかった。
で、今の私は教室の机に突っ伏しています。
「だ、大丈夫ですか?」
「大丈夫に見えますか~?」
ミーシャさん、心配してくれてありがとうございます。でも大丈夫ではないです。さっきまでぐっすり寝てたけど今日はもう何もやる気が起きませ~ん。
「そういえばシュヴァルツ様遅いですね~」
「そうですね、いつもなら私達が来れば直ぐに現れるのですが…」
ここでシュヴァルツ様がいないことに話題が向く。なぜなら私達二人が揃えば絶対に直ぐ降臨してくるはずのシュヴァルツ様が数分立っても降臨しないのだ。
このまま降臨しないでもいい、今日はなにもなしで終わりでいい。そんなことを思っていたらなぜかドアが出現した。
「え、ドア?」
なぜかドアが出現したことに驚くミーシャさんと私だった。なぜならシュヴァルツ様が降臨する際はドアなんて使わずその場に降臨するはずなのだ。それなのにドアが出現したという事は今から降臨するのはシュヴァルツ様ではないということになる。
どんな神様が来るのか警戒しながら、そしてワクワクしながらドアが開くのを待っているといきなりドアが勢いよく開いて、そこから褐色の肌をしたアホ毛のある白髪の幼女が教室に飛び込んできた。
「ひゃっほー!」
「へ!?」
あまりに突然の幼女出現に呆気に取られる私とミーシャさん。褐色の幼女は楽しそうに重そうな厚い民族衣装のような服を諸共せずに縦横無尽に教室を走り回る。
「つくえがいっぱい…あっ!」
次にドアから現れたのは天然パーマの金髪がとても可愛らしい幼女だった。金髪の幼女は物珍しそうに教室の様子を見渡しながら歩いていると傍にあった机の脚に左足を引っ掛けて盛大に転んでしまった。
「だ、大丈夫!?」
「うわあああああああああああああああああああああああああん!いたいよおおおおおおおおおおおおおおお!」
私は慌てて駆け寄ると金髪の幼女は大声で泣き叫び始めた。
「うわわっ!泣かないで!痛いの痛いのとんでけー!」
「ああああああああああああああああああああああっ!!」
私がどうにか泣き止まそうとするが金髪の幼女は泣き止む気配はない。
一方その頃褐色の幼女は泣いている幼女に見向きもせず机によじ登り、机から机へと飛び乗り始めた。
「こんなすきま、とぶなんてわけないぞー!」
「机は乗るものじゃありません」
しかしそれを見かねたミーシャさんが褐色の幼女を捕まえ抱きかかえた。
「だれだおまえは!はなせ!」
褐色の幼女がミーシャさんに反抗している中、なぜかシュヴァルツ様がドアの中から降臨した。和服と白い割烹着を着た、しかも犬耳に可愛らしい尻尾の生えた幼女を連れて。
「ごしゅじん、ここはどこですか?」
「お前達が学ぶ場所だ、決して騒ぐ場所じゃない」
「まなぶばしょ…」
犬耳の幼女はシュヴァルツ様のことをご主人と呼び、無表情で尻尾をフリフリさせている。
どうしてこの教室がこんなカオスな状況をなったのかいち早く聞きたい私だったがその奥に、教室の端に何か黒いがいるのを発見した。
「…おおごえ…こわい」
そこにいたのはまたもや幼女だった。他の幼女よりも一回り小さい身体でぼさぼさの黒い髪で目が隠れている。いつここに来たのかわからないが教室の端で震えながら縮こまっている。
「おい、隅でビクビクするんじゃない」
「ひっ!ごめんなさい!たたかないで!」
「そんなつもりはない」
シュヴァルツ様が声をかけると暴力を振るわれるのかと感じたのか涙目で頭を防御しながら謝る幼女だった。
色々と唐突過ぎるカオスな状況に金髪の幼女の頭を優しくなでながら呆然とするしかない私だった。
「シュヴァルツ様、なんですかこれ」
「…お前の後輩だ」
シュヴァルツ様は無表情だが苦悶のある声色で私の質問に答えた。
この幼女達が…前に言ってた私の後輩…?嘘でしょおい。
※
それから金髪の幼女はどうにか泣き止み、端にいた幼女と暴れる褐色の幼女をどうにか落ち着かせ、4人の幼女を椅子に座らせることができた。
「さて、転んだ奴が泣き止んだところでそれぞれ自己紹介をしてもらう」
で、シュヴァルツ様は何の説明もなくそれぞれの自己紹介を始めようとした。
「その前にいいですか!この場でハッキリさせたいことがあります!」
「何だ鳴神」
しかし私には聞きたいことが山ほどあったので挙手しながら大声で質問を始めた。
「…こわい」
「こら、隠れようとするな。鳴神、大声はやめろ」
しかし目隠れ幼女が私の大声を怖がって机の下に隠れようとした。それをシュヴァルツ様が止め、大声を出した私を戒めた。
「あ、はい。それで、シュヴァルツ様はロリコンなんですか?」
「違う」
それで私は出来るだけ大声を出さずに核心を突いた質問をしたがシュヴァルツ様は考える間もなく無表情で即答した。
嘘だ!じゃあなんで幼女だらけなんだよ!と私は心の中で叫んだ。
「ろりこん?なんですかそれ?」
「知らなくていい」
金髪の幼女がロリコンについてシュヴァルツ様に聞くがシュヴァルツ様は軽くあしらうだけだった。
ロリコンってのはね、子供に欲情する変態のことなんだよ。
「なんだそれは!つよいのか!」
「強くない」
褐色の幼女が元気よく見当違いの理解をしようとしたがシュヴァルツ様が即座に否定した。
まあロリコンは別の意味で強いって言えるのだろうけどね…。
「じゃあ…ペドですか?」
「だから違う」
今度は言葉を変えて質問したがシュヴァルツ様はあっさりと否定した。
いやいや、じゃあなんで幼女だらけなのか説明を求めます。
「ごしゅじんはろりこん?それともぺどなのですか?」
「どれも違う」
シュヴァルツ様をご主人と呼ぶ獣耳の幼女がシュヴァルツ様に再度質問したが即答で否定した。
「じゃあなんで、私の後輩が幼女だらけなんですか?」
「俺が選別したわけじゃない」
どうにもシュヴァルツ様がこの子達を選別したわけじゃないらしい。
となると選別した他の神が全員ロリコンということなのか?
「じゃあなんで全員幼女なんですか?神様は皆ロリコンなんですか?」
「違う。選別した神々の思惑が歪曲した結果だ」
どう思惑が歪曲すれば選別する人間が全員幼女になるのか理解できない私だった。
「じゃあなにがふぅ!」
私がなにがどうなれば幼女だらけになるのかと質問しようとしたらシュヴァルツ様にハリセンで叩かれた。
「話が進まないからとっとと自己紹介しろ。そろそろ野生児が暴れそうだ」
ハリセンをしまうシュヴァルツ様の視線の先には動きたくてうずうずしている褐色の幼女の姿があった。
「やせいじってだれだ!」
「お前だ」
褐色の幼女は野生児を探すように辺りを見渡したがシュヴァルツ様はそのまま褐色の幼女を指差して答えた。
「やっぱりたたくんだ…」
「怖がらなくていい、叩くのはこいつだけだ」
目隠れの幼女はハリセンで私を叩いたシュヴァルツ様を怖がるがシュヴァルツ様は私を指差して私以外を叩かないことを宣言した。
ってそれって幼女は叩かないけど私は叩くってどういう事!?
「それってどういう意味ですか!」
「おい」
このことについて私はシュヴァルツ様に詰め寄りたかったがそろそろシュヴァルツ様の目が殺気で満ち始めてきたのでこれはヤバイと思い止めました。
「うっ、分かりましたよ…」
私は立ち上がり皆の前で自己紹介を始めた。
「私は鳴神薫、皆の先輩…いや、お姉さんになる人です!よろしくね!」
笑顔で自己紹介ができ、自信満々に座ったがなぜか私に拍手が送られない。え、拍手しないのか!?
普通自己紹介をしたら拍手をするものじゃないのか!?
「よし、次はミーシャだ」
「ミーシャです、皆さんのお世話をいたします。よろしくお願いしますね」
私のジェネレーションギャップをお構いなしにスルーし、ミーシャさんが立ち上がり自己紹介をした。
そして拍手はなくそのままミーシャさんは座った。
「次はお前だ」
「はい!コルネはコルネ!コルネ・フリージアだ!これでいいな!」
勢いよく立ち上がった褐色の幼女改めコルネちゃんは元気よく自己紹介した。そしてそのまま教室内を走り回ろうと椅子に座らずそのまま動き始めた。
さっきも感じたけど凄い活発そうな子だね。
「コルネ、自分の自己紹介が終わったからといって走り回ろうとするな」
「ぶ~!」
しかしコルネちゃんはシュヴァルツ様に両脇を抱えられて強制的に椅子に座らされた。コルネちゃんの頬が大きく膨れてかなり不満そうだった。
なんかこの光景、癒されるなぁ…。
「次はさっき転んだお前だ」
「はい!わたしはアリス、アリス・スプリングです!よろしくおねがいします!」
今度は泣いていた金髪の幼女改めアリスちゃんがコルネちゃんに負けないほど元気よく笑顔で自己紹介をした。良かった、泣き虫だけど明るい子みたいだ。
「もう痛い箇所はないな」
「はい、さっきはごめんなさい…」
きちんと謝れるところを見る限りアリスちゃんはかなりお利口さんだ。
「別に謝らなくていい。次は机に隠れようとするお前だ」
「ふええっ!ご、ごめんなさいぃ!」
で、次にシュヴァルツ様が指名したのはまた机の下に隠れようとした目隠れの幼女だった。目隠れ幼女はシュヴァルツ様の声に盛大に怖がり泣きながら謝り始めた。
まあ幼女から見ればシュヴァルツ様は怖いよなぁと思いました。
「謝るくらいならさっさとしろ」
「は、はい!わ、わたしは、ヒルダ…です」
目隠れ幼女改めヒルダちゃんがビクビクしながら立ち上がり、声を震わせながら自己紹介をした。
この子これから大丈夫かなと一抹の不安を感じてしまう私だった。
「…まずはここにいる全員と怯えずに話せるようになれ」
「は、はいぃ!」
シュヴァルツ様のアドバイスを説教と思ったのか涙目で返事をするヒルダちゃん。
ああ、シュヴァルツ様と相性悪いなこの子。
「最後はまだかまだかと尻尾を振っているお前だ」
最後にシュヴァルツ様が指名したのはさっきから大人しくしていた獣耳の幼女だった。
お利口さんなのは分かったけどちょっと無表情すぎて怖い。でも尻尾は結構動いているから尻尾で感情を表現しているとしたら凄く可愛いな。
「はい。わたくしのなまえはかえででございます」
「名前は楓のみか」
「はい」
獣耳の幼女改め楓ちゃんはスッと立ち上がり淡々と自己紹介をしたあとスッと座った。
感情を表に出さないし子供らしからぬ大人しさだし何か色々と抱えてそうだなと心配になる私だった。
「そうか、ではそれぞれの名前を覚えておけ。そして鳴神」
「なんです…おわぁ!」
自己紹介が終わりシュヴァルツ様が私を呼んだので返事をすると突如目の前の風景が変わった。一瞬にして教室から何と私の部屋に変わったのだ。椅子に座っていた私はそのままの体勢を維持できずに尻餅をついてしまった。
瞬間移動で移動したのは初めてだけどするなら言ってくださいよ!リアクションが取り辛いし感動が半減するだろうがぁ!
「一体なんですか!」
「あいつらが居るとお前も気になって話が進まないから移動させてもらった」
その場で直ぐに立ち上がりシュヴァルツ様に詰め寄る私だったがそんなこと気にせずシュヴァルツ様は話を始めた。
というかあの子達はミーシャさんに任せて放置でいいの?
「だからってなんで私の部屋なんですか…」
「ここに用があった」
「おわぁ!?」
で、私の部屋に何の用があるのか気になったがシュヴァルツ様が手を動かすと部屋の面積が一瞬で大きくなった。
「凄い!広くなった!でも家具がないからさびしさが…」
一瞬で何倍もの大きさになった部屋を見て驚愕する私だったが家具の少なさにより部屋のさびしさがより倍増したことに悲しみを禁じえない。
「広くないと色々と大変になるからな。後で必要な家具を教えろ。色などの要望は詳しく書け」
「ええっ!?くれるんですか!」
まさかシュヴァルツ様から家具をくれるという思いがけない展開に今日最大の驚きを感じた私だった。
「不服か?」
「いいえ!!でも…あっ」
何の家具を部屋に置こうかとワクワクしながら考えているとひとつのことに気がついた。
シュヴァルツ様が何もなしに私に何かをくれるなんておかしい。シュヴァルツ様は罠を仕掛ける神様じゃないから…。うん、まさかとは思うけど私にしてほしいことがあるねこれ。
「鳴神、今察した事を言ってみろ」
「えっと、あの子達のことなんですけど…私があの子達を育てるんですか?」
私はシュヴァルツ様の問いに今までの出来事から考えた私の予想を率直に答えた。
これ、絶対私があの子達を育てるパターンですよね。私があの子達のママになって一人前になるまで面倒を見るってパターンですよね。
「いや、少し違う」
「?」
少し違う、というシュヴァルツ様の言葉にもしかして少しの間だけなのかという淡い期待をする私だった。
「俺とお前で育てるんだ」
「…はぁ?」
しかし続けて言いはなったシュヴァルツ様の言葉を聞いた私の頭ではある方程式が完成した。
私とシュヴァルツ様で子供達を育てるってことは、私がママ役でシュヴァルツ様がパパ役、つまり私とシュヴァルツ様が夫婦になる。
い、嫌だああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!
こっ、こんな無表情で、全裸を見てもベッドに押し倒しても欲情しない、私を女として見ていない、何を考えているか全く分からない神様と夫婦になるなんて絶対に嫌だああああああああああああああああああああああああああっ!!
おまけ「消えた後の幼女とミーシャ」
「き、きえた…?」
「す、すっげー!しゅばってきえたぞ!」
「こ、こわかった…」
「ごしゅじん…」
「(ああ、一旦世話を私に押し付けましたね…)さあ皆さん、私がここのことを教えます。聞いてくださいね」




