12話 《戦闘訓練》
シュヴァルツ様に全裸を見られるという恥ずかしい事故からどうにか立ち直った私、鳴神薫はミーシャさんからブレスレットの使い方を何回も確認して二度と事故が起こらないようにしました。それでもあの時起きた事実は消せるわけもなく、私の心には初めて親ではない男に全裸を見られたという恥辱が支配するようになった。
そして今回は教室ではなく何もない真っ白な空間に集合していた。こんな場所に来るのは3回目で前に来た2回ともトラウマものの虐殺を見せられたあまり来たくない場所である。
ちなみにシュヴァルツ様は何事もなかったかのように振舞っていますが私はどうしてもあの事故を思い出してシュヴァルツ様と目を合わすどころか顔をじっくり見ることが出来ないでいます。
「よし、じゃあ始めるぞ」
そんな中、シュヴァルツ様が何かを始める宣言をした。
「始めるって、何をですか?」
「お前の戦闘訓練だよ」
もじもじとしながら目を合わせずに私が質問したら、シュヴァルツ様が私のいきなり戦闘訓練を開始することを宣言し仰天した。
まあ真っ黒な戦闘服、というよりコスチュームを製作してもらったのだからいつかはするものだと思ってましたがいきなりするとは思わなかった。
「ええっ!?ちょっと待って下さいよ!あのコスチュームを着ただけで何か変わるんですか!?」
「知りたいのなら今すぐ着替えろ」
どうやらシュヴァルツ様は私の話を聞くつもりはないらしい。
「はいはい、分かりましたよ!」
私はシュヴァルツ様に文句を言うのを諦め、私は右腕に付けてあるブレスレットを左手で触りながら祈るように目を閉じた。
「ん?」
「変身!」
その掛け声とともに私は目を開け、ブレスレットとともに右腕を掲げるポーズをしていつもの制服からコスチュームへと変身した。
「黒き闇に響く鎮魂歌!シャドウビート!」
そして着替えたことを確認した後、右目にピースを決めながら可愛いポーズを取り、セリフ口上とともに自分の魔法少女名を高らかに宣言した。
これが私が考えた可愛らしい変身シークエンスです!エフェクトがないのが残念だけど結構イケてると思います!
「可愛いですよ鳴神さん」
「何だ、今のは?」
ミーシャさんは拍手をしながら笑顔で褒めてくれた。しかしシュヴァルツ様は私の行動を理解できないのか軽蔑したような目で私を見ていた。
「変身ポーズですよ!考えるのに苦労したんですよ!」
「それは必要なのか?」
「必要なんです!」
確かにシュヴァルツ様の指摘通りこれに実用的な意味はないです。でも夢見る女の子には可愛らしいポーズや魔法少女名は必要なんです!これでコスチュームが真っ黒じゃなければ口上も暗いものじゃなくてもっと可愛らしく出来ただろうに!
ちなみにこの辺りで私は事故から心を支配していた恥辱の事なんて忘れています。シュヴァルツ様が全く気にしない素振りをしていたので私が気にしたら負けみたいな感情が勝ったのだ。
「まあいい。鳴神、まず辺りを走ってみろ」
そんな私の気持ちを全く気にせず私に指示を出すシュヴァルツ様。
少しは可愛いとかここをこうすればもっといいとか指摘してくれてもいいじゃないか!
「走るだけですか、まあいいですけど…」
私はテンションを下げながらシュヴァルツ様の指示通り普通に走り始めた。
すると私はこれまでの私とは比べられないほどの速さで走れた。軽く走っているだけなのに今までの全速力で走ったときよりもずっと速い。というか常人が出せる速度じゃない速さで走れています。
「おお!おおおっ!?」
あまりの速さに変な声を出しながら走り続ける私のテンションは最底辺から最高潮まで急上昇した。周りの景色が真っ白だから速く走れているのを目視できないのが残念だけど身体全体で感じる風の感触が心地よい。私はどんどん走る速度を上げるが全く疲れない。凄く気持ちいい、マラソンを楽しむ人の感覚が分かった気がする。
「凄い!なんて速さで走っているんだ私!」
しかしコスチュームを着ただけでこんなに変わるのかと魔法少女アニメばりのご都合主義な強化に私は驚きを隠せないがそれとともに全身から喜びの感情が湧き出てきた。
「凄いですね鳴神さん」
ミーシャさんが何か言ったような気がして元々いた場所を振り向くとミーシャさんとシュヴァルツ様が米粒程度の大きさになるほどかなり離れていた。
仕方ないので元いた場所に戻りながら私はこれなら漫画でよく見る大ジャンプが出来るんじゃないかという発想にいたった。
よし、こうなったらここからカッコよくジャンプしてシュヴァルツ様とミーシャさんがいる場所にバッチリと着地してみよう!
「ヒャッホー!身体が軽ーい!とぅ!」
私は右足で力強く地面を蹴り上げた。すると私の身体はとんでもない高さまで宙に浮いた。ジャンプというより空中を歩いている感覚だった。
このまましっかり着地を決めようと私は体勢をしっかり整えて地面に向けて両足を向けるとしっかり着地、出来ずに右足首を挫いてしまった。
かなりの高さから着地したので右足首への痛みは想像以上だった。
「ギャー!!」
あまりの痛さとシュヴァルツ様の目の前で着地を失敗したという恥ずかしさが織り交じり、私はその場で悲鳴を挙げながら転げまわる。
「何がしたいんだこいつは…」
私の一連の行動に呆れながらシュヴァルツ様は転げ回る私の右足首にスッと触れると右足首を襲っていた激痛が一瞬にして消えた。
「あれ、痛みが…」
「この程度直ぐに治せる」
あまりにあっけなく痛みが引いたので急に冷静になるが寝転がったまま動けない私だった。
「シュヴァルツ様、どうして鳴神さんはいきなり身体能力が向上したんですか?」
ミーシャさんがシュヴァルツ様に私も聞きたいことを質問してくれた。
そうそう、いきなりコスチュームを着ただけで激変するなんて変ですよ。この服の材料が危ないものなんじゃないかと疑ってしまいます。
「着ている服の効力だ。あの服は身体の動きを補助する効果と物理的ダメージを軽減する効果がある」
「でもそれだけじゃああんなに急には…」
「そうですよ、魔法少女アニメじゃあるまいし…」
服の能力は分かりましたがそれでも服を着ただけで変わりすぎなんですよ。もしかしたら私達の感覚がおかしくて神の世界ではこれが普通の上昇具合なのかもしれませんけど。
てか物理的ダメージを軽減するって、もしそれがなかったら私の右足は複雑骨折してあまりの痛さに気絶していただろうなぁ…。
「魔法少女アニメに例えるな。加護の力も付与されているから向上率が常軌を逸しているんだ」
「加護!?どういうことですか!」
シュヴァルツ様があっさりと言い放った加護という言葉に反応した私は立ち上がってシュヴァルツ様に詰め寄る。
加護ってどういうことですか!?確かに私の加護はシュヴァルツ様が決めることにはなりましたがあまりに唐突過ぎますよ!しかもいつ、どこで、どうやって加護をくれたんですか!?
「お前にはもう加護を付与している。服の効力に応じて自身の力が向上する加護だ」
「いつ加護を付与したんですか!?」
「ブレスレットを渡した際についでに付与した。お前が賭けに負けたから俺が加護を決めさせてもらった。不満か?」
「いや、別に加護のないように不満とかはないですけど、せめて相談してくださいよ!」
シュヴァルツ様がくれた加護は服の効力によって私の能力が上がる加護みたいだ。確かに私が決めた戦い方にピッタリの加護だし変な加護でもないし不満はないんですけど加護をくれるときに一言言ってくれればいいのに!本当勝手に色々としてくれるなこの神様は!
「さて、それともう一つ…」
「え?」
シュヴァルツ様が私から少し離れて一体何なのかと疑問に思っていると急にシュヴァルツ様の正拳突きが突如として反応できない速度で私の顔を目掛けて飛んできた。
私は目を閉じたりガードしたりする暇がなく思わず死を覚悟したがシュヴァルツ様の拳は私の鼻先数センチのところで寸止めされた。
「ヒッ…」
シュヴァルツ様の拳の迫力と恐怖に支配され私の腰が抜けてしまいその場にへたり込んでしまった。
ちょっとチビるかと思いました。まあ出ないのは分かってるんですけど。
「今の俺の拳、見えたか」
私はシュヴァルツ様の問いにブンブンと首を横に振る。
「今のお前は服と加護の影響で身体能力が向上しているが身体を動かす知識や技術、反射神経は全く向上していない。さらに物理的ダメージはほぼ0に抑えられるが魔法などの神秘の力によるダメージや精神的ダメージには全く耐性がない」
つまり服の効力である身体能力強化と物理耐性以外は全く強化されていないということですね。
「つまりこの服で戦うには拳法とかを会得して反射神経を鍛えないといけない。魔法を使う敵にはそれに似合った服で戦えって事ですか?」
「そうだ、それがお前の望んだ戦い方だろう」
シュヴァルツ様の言葉に頷く私だった。
「まあ、そうなんですけど、他の戦闘服は自分で調達ですか?」
「当たり前だ、それはサービスで作ってやった。ありがたく思え」
「最初は魔法が良かった…」
確かにサービスで強い服をくれたのは感謝しています。でも服の種類くらいは選択させて下さいよ…。私は近接で戦うよりも魔法で戦いたいんですよ…。これじゃあ魔法少女じゃなくて戦闘少女だよ…。
「それと加護についての注意点がある」
「なんですか?」
「例えばお前の着ていた制服など何の効果もない服を着たらお前の力は全く向上しない。服を決める際にはどのような効果があるのか把握すること。それともう一つ、魔力のように今のお前が持っていない力はどうあがいても向上しない」
「ええっ!?」
シュヴァルツ様の淡々とした言葉の中に会った重要すぎる宣告に私は酷く驚愕した。
それって今のままじゃあ魔法を使えないって事ですか!?
「じゃあ私が魔法を使うにはどうすればいいんですか!?」
「魔力が存在する世界に降りて、魔法について一から学ぶ必要がある」
「うへぇ…」
まさかこのコスチュームを着たときに身体能力が向上したみたいに魔法の効力があるコスチュームを着れば直ぐに魔法を使えるようになると思ってたのに…。
こうなれば次の世界は魔力のある世界で魔法について学べるようにして欲しいです!
「最後にもう一つ」
「まだあるの~」
神様から与えられた加護なのに注意することがありすぎることにうんざりする私だった。
「加護の影響はお前の魂が崩壊しないようセーブされている。さっきお前が走っていたが訓練して早く走る方法を理解すればあれよりも速く走ることは可能だ。鍛えてたらその分だけ能力の上昇率が上がるということだ」
「まだ上があるってことですか…」
つまり私がもっと強くなればそれに応じて加護の影響が増えてより強くなるって事ですか…。
通常の私は普通の女子高校生程度の身体能力しかない。それなのに車並みの速度で走れて自分の身長の何倍も跳躍できるんだ。もし鍛えればどんな感じになるんだろう…。
「ああ、まだその服の10%ほどしか使いこなせていない。もっと精進することだ」
「10%!?」
「あれで10%ということは…鳴神さん、凄いことになりますね」
つまり完全に使いこなせれば最低でも10倍は強くなるという事実に私もそうだがミーシャさんも驚いた。
単純計算で10倍早く動けるって事か…。確かに神の加護ってチートですねこれは。でも世界に悪影響を及ぼさない程度に控えめって感じ。まあ魔力無限とか無限成長とか不老不死みたいな直接的で強大なチートは世界に悪影響だってのは前の授業で学びましたし。
となると直ぐに魔法を高める効果のある服を探して魔法も使えるようにならないと…。
「…あ!」
ここで私は前の世界の解説を思い出した。
そうだ!前の異世界で丁度いいものがあったじゃないか!
「どうした」
「シュヴァルツ様、ちょっと異世界に降ろして下さい!いい事を思いつきました!」
「青羊毛で服を作る気だな?」
「なぜばれた!?」
シュヴァルツ様は考える様子もなく私の意図を完全に読み取った。
読唇術か何かですか!?
「お前が得ている情報で思いつくのがそれだけだからな」
ああ、確かに私の知っている情報は青羊毛だけでした…。そりゃ直ぐに看破されるに決まってるよね…。
「だがどうやって青羊毛を手に入れる?買うにしてもあの世界の貨幣をお前は持っていない、奪うなんてのは論外だ」
「うっ…」
シュヴァルツ様に次々と正論をぶつけられて思わず萎縮してしまう私だった。
確かに青羊毛を買うために必要な異世界のお金を持っていない。奪うなんて人道に反するしそもそもシュヴァルツ様が許してくれるはずもない。
「そもそも青羊毛の性能を俺から聞いただけで細かいところは全く知らないだろう。一体どんなものか把握してから検討するべきだろう」
「その通りです、ぐうの音も出ません…」
私は青羊毛について詳しく調べてからシュヴァルツ様に連れて行ってもらうことにしようと決めた。シュヴァルツ様が一緒なら多分奢ってくれるだろうし。
「そんなことを考える前にまずはその服を使いこなすことから始めるぞ。来いシャドウビート」
「やめて、真顔で言われると恥ずかしい!」
シュヴァルツ様が身構えながら指をクイッとしてかかってこいと挑発してきた。
つまり1対1でシュヴァルツ様と戦うのが訓練ということですね。正直勝てる気がしないが服の効力と加護があればいい線までいけるのじゃないかと淡い期待を持つ私だった。
そして私の事をこれまで鳴神としか呼んでなかったシュヴァルツ様が急に私の考えた魔法少女名を呼んできた恥ずかしさで私の顔が真っ赤になった。
そして私はシュヴァルツ様に突進しながら殴りかかろうとした。
しかし目の前にいたシュヴァルツ様の姿は一瞬にして消え、そのまま側面から謎の蹴りを喰らった。
「うぎゃー!!」
私は何処かのバトル漫画さながらに飛びながら蹴りを入れたのがシュヴァルツ様であることを確認しながら宙で痛みを感じる。
そして私は地面にバウンドしながら倒れこんだ。痛みは物理耐性があるからなのかそれとも手加減したのか分からないけどいつもの折檻よりも痛くなかった。
でもこれじゃあ一方的にやっぱり蹂躙されるだけじゃないか!とやけくそになりながら私は立ち上がってシュヴァルツ様に向かって走り始めた。
その後私は自分の想像通りシュヴァルツ様に蹂躙され、痛みでもう立ち上がれない、もう無理となったらシュヴァルツ様によって私の身体は完全に治癒されまたシュヴァルツ様によって蹂躙されるという無限ループを味わった。
いつか絶対シュヴァルツ様を平伏させてやるという恨みの感情とともにやっぱりシュヴァルツ様は強いという信頼感が同時に芽生えるという変な感覚に襲われながら私の戦闘訓練は続いていくのだった。
おまけ「口上」
「う~ん…」
「何を悩んでいる?」
「いや、まさか服の効果が身体能力向上とは全く思わなくて、何も考えず口上を黒き闇に響く鎮魂歌にしたんですけど全く能力に合わなくて…」
「つまり新しい口上を考えていると」
「そうです、シュヴァルツ様も考えて下さいよ」
「そうだな…お前のセンスを参考にするなら真夜中に響く疾風の円舞曲、というのはどうだ?」
「カッコいい!採用!」




