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10話 《常識の通用しない神様》


前から強いかなと思っていたシュヴァルツ様が私の想像以上の圧倒的強さを披露して勝手にドン引きしている元女子高生の私、鳴神薫は異世界の空から一つの恋の終わりを観察していた。


「エミリー姫、君は王都に行くべきだ」


「でも、ユージ様…」


真剣な表情でエミリー姫に王都行きを薦めるユージ君。エミリー姫はユージ君にいつでもここに居てもいいと言われていたのか涙目で声を震わせながらユージ君に詰め寄る。


田舎に住む男が決死の思いで恋焦がれる身分違いのお姫様に別れを告げる、普通なら感動必死の場面なのだがミーシャさんと私の二人は冷めた目で見ている。


なぜならあのユージ君は、本人の頭を常識の域を超える威力をもった拳銃によって消滅させた神様のシュヴァルツ様が変装した姿なのだから。


というかあれは変装の域を超えています。というか変身?いや擬態かな?シュヴァルツ様は今、服も顔も体型も声も全てユージ君そのものになっている。


いや~びっくりしたよ。だって異世界に降りた直後に隣にいたシュヴァルツ様がノータイムでユージ君になっていたんだから。


さっき私達の目の前で爆発四散して消滅したユージ君に変わってるって、しかもシュヴァルツ様だった部分が口調以外にないのだから最初はシュヴァルツ様と分からなかった。ミーシャさんは知っていたのか分からないけどリアクションなしだったけど。


「ここにいたらまた危険に晒される。この前は上手くいったが次は君を守りきれるか分からない。だから安全なうちに王都へ向かい本来の目的を果たすんだ」


「ユージ様…」


なんでこんな状況になっているのかというと先程ユージ君の住む村に王都から使者が来たのだ。エミリー姫の国でもあった隣国でクーデターが起き、侵攻の危険が増大したため国境沿いのここに大量の軍が数日中に駐留することになったこと知らせる使者だった。村人達は突然のことで色々と大混乱となった。


そんな村人達の様子を見てユージ君は何かを察したかのようにエミリー姫に使者とともに王都へ行くことを薦める、という成り行きだ。


それにしてもシュヴァルツ様、ここまで迫真の演技である。表情からエミリー姫とは離れたくないがこれがエミリー姫にとって最良の選択だと苦渋の選択をしたという心の動きが分かる。そしてそのしぐさからエミリー姫を守れる自信がない自分の力のなさに憤りを感じていることが読み取れる。多分本人のユージ君よりもユージ君をしている。あなたは俳優か何かですか?


本当多芸ですねシュヴァルツ様。神様の基準が分からないけどシュヴァルツ様は神様の中でも有能な気がする。というかこれでシュヴァルツ様が無能だったら為事代行に人間必要ないんじゃないかな。


「エミリー姫、短い間だったけど楽しかったよ」


「ユージ様…ありがとうございます!このご恩は一生忘れません!」


最後に二人涙を流しながら笑顔で抱き合い、一つの初恋が終わりを告げた。


その後エミリー姫は王都からの使者に自身が隣国の姫だと正体を明かし、無事王都へと旅立った。ユージ君はエミリー姫の乗る王都へ向かう馬車を見送った後、村から姿を消した。


そして一瞬のうちに私達の元へと瞬間移動するのと同時にユージ君からシュヴァルツ様へと元の姿に戻った。


本当どんなからくりなんだろう、物凄い簡単なのかと思えるくらいシュヴァルツ様は簡単に何でもやるなぁ。


「ふぅ…」


「お疲れ様でした」


シュヴァルツ様をねぎらうミーシャさん。シュヴァルツ様も転生者に化けるのが色々と苦痛なのか疲れたような表情を見せる。


「変装、というかそれ成り代わりですよね?そんなことも出来るんですか…」


「見た目を変える程度は造作もない。お前の見た目も変えることが出来るぞ」


私の姿も変えることが出来る、その事実を聞いた瞬間私の脳裏にはこの地味な姿から脱却したい、プロポーションがいい完璧美人になりたいという欲望があふれ出た。


「じゃあ今すぐ私を巨乳な美人にして下さい!」


「そんなことをして意味はあるのか?」


シュヴァルツ様は私の願いを即答で拒否した。


てか興味なさそうな顔をするな!どうせお前も美人が好きなんだろうが!爆乳が好みのムッツリスケベなんだろうが!


「ケチ!悪魔!変態!」


「自分を巨乳にしろと命令するお前の方が変態だろうが」


「がうっ!」


私がシュヴァルツ様に悪態をつくとおでこにデコピンが飛んできた。


パァンとデコピンの音じゃない音をさせ、衝撃で身体全体が仰け反るほどの威力を持つシュヴァルツ様のデコピンは超痛いです。


「いたた…というかシュヴァルツ様、演技上手いですね」


「為事の必須事項だ。お前にも覚えてもらうからな」


まさか演技も為事も必須事項なのかと驚く私だった。


ヒエ~、戦い方に演技と今日だけで今後の課題が増えていく~。


「それで、これからこの世界はどうなるのでしょうか?」


「前に解説した通り王子と結婚して世界の流れは正常に進む。転生者のことはエミリー姫の心の奥に生きるが影響はない」


ミーシャさんがワクワクしながらこの異世界のその後を聞いたがシュヴァルツ様は全く詳しく解説しなかった。


「もっと詳しくお願いします!」


「これ以上説明する必要性はない。戻るぞ」


「「え~」」


もっと詳しく世界のその後を聞きたい私達はふてくされながら異世界から元の教室へと戻った。


もっとサービスしてもいいじゃないですか…。


「本当こいつらは…」











そして私は自分の部屋に戻りベッドに寝転び、両足をバタバタさせながら図書空間で借りた漫画を読み、異世界の詳しい話を聞けなかったことにふてくされていた。


「あ~、もうシュヴァルツ様のケチ~」


シュヴァルツ様の文句を呟く私だが本人、ならぬ本神の前では言う勇気はありません。だからこそ一人のときに呟くのですが。


「あ~あ、こんな地味な顔で貧相な身体よりもボンキュッボンの美人になりたいよ~」


私は自分のコンプレックスである貧しい胸を触りながら願望を呟く。


ああ、せめて私のお尻が小さければバランスが取れて良かったんだけどなぁ…。キュッキュッボンな身体って何処に需要があるんだよ。


お尻はでかいんだからきっと大きくなると数年前に励ましてくれた友達の言葉を信じて何もしなかった私も私だが。


「何を言ってるんだお前は」


「ほおうぁ!?」


そんな女子の悩みを垂れ流している中、なぜかシュヴァルツ様が唐突に私のベッドの隣に音もなく現れた。私は変な悲鳴を上げながら飛び起きてシュヴァルツ様に回し蹴りを喰らわせようとした。


しかしシュヴァルツ様は表情を変えず右手で受け止めた。


というか可愛い女子の部屋に何の音もなく現れるな!本当シュヴァルツ様には私の常識が通用しないなこの神様!


「何だこの足は?」


「勝手に乙女の部屋に入ってくるな変態!というかこういう時には攻撃を受けるべきでしょ!」


私の右足を掴みながら強面の顔を近づけるシュヴァルツ様に文句を言う私だった。


こういう時男は女の子の攻撃を受けるってのが常識でしょ!なんで造作もなく受け止めてるんですか!


「知らんな」


「ちょ、足を離して…パンツ見えるって!離せこの変態!」


シュヴァルツ様が一向に私の足を離さないのでパンツが見えそうになり私が顔を赤くしながら離せと懇願したら直ぐに離してくれた。


スカートの可愛い女の子の足を掴み続けるってやっぱこいつ変態なの?


「ハァ…ハァ…一体何の用ですか!」


「鳴神、そんなに自分に自信が持てないか?」


私が叫びすぎて息切れをしている中シュヴァルツ様が唐突に変な事を聞いてきた。


「何ですか一体…」


「頭脳も平均、運動神経も平均、友人は自分よりも可愛い女ばかり。そして貧乳。自信を持てというほうが無理か」


シュヴァルツ様は淡々と私が気にしていたコンプレックスをズラズラと並べてきた。


確かに私は勉強では本当に中の中くらいだった。運動も特別得意ものはなかった。友達も地味な私なんか目じゃないくらい美人でスタイルのいい子ばっかりだった。そのため私は異性に刺身に乗ってあるたんぽぽ程度としか見られてなかっただろう。


シュヴァルツ様の指摘通り私が自分に自信を持ったことはなかった。


「貧乳っていうな変態!」


しかしそんなことよりも最後に私の最大のコンプレックスである貧乳を持ってきたことに私は怒り、また回し蹴りを放ったがシュヴァルツ様は余裕で避けてきた。というよりそのままの姿勢でよどみのない動きで避けたから一瞬後ろにテレポートしたのかと思った。


「回避するなよ!」


回避したことに怒り殴りかかろうとした私をシュヴァルツ様は傍にあるベッドに押し倒した。


今まで私に異性としてのアプローチが全くなかったシュヴァルツ様から押し倒してくるという突然の行動に私の頭は大混乱に陥り、顔は恥ずかしさで真っ赤に染まり、心臓の鼓動が早くなる。


え、なにこれ!私襲われている!?まさかここで純潔を奪われるの!?しかも変態の神様に!?


「ちょ…え!?一体何を…」


「いいか鳴神、お前に為事を代行するにおいて最も重要なことを教えてやる。お前はこれから鳴神薫でない人生を数多く送ってもらう。だがお前が鳴神薫を捨てることは死を意味する」


シュヴァルツ様は無表情のまま私の顔に自分の顔を近づけながらまた変な事を言い始めた。


シュヴァルツ様の顔は眉一つ動かさない無表情で、私の身体を性的に弄る気配もない。


つまりシュヴァルツ様はここで私にエッチなことをするつもりはないらしい。というかシュヴァルツ様は私を女として認識していないみたいだ。赤面して心の中ではかなり慌てていて今もドキドキしている私が馬鹿みたいじゃないか。


というよりそんなこと言うだけなら私をベッドに押し倒す必要ないですよね?やっぱりあなたは変態だな。


「…どういう意味ですか?」


「意味は自分で考えろ。少なくともそこに置いてある漫画を読んでも分からないだろうがな」


シュヴァルツ様は漫画を一瞥しながら私から離れた。


私はそのままベッドから上半身を起こしたが押し倒された感触が脳裏から離れずドキドキが止まらなかった。


「漫画は無意味とでも言いたいんですか?」


漫画を批判されたことにちょっと怒る私だった。漫画だって立派な文化なんですよ!


「俺は自由時間の行動を強制するつもりはない。漫画を読むなとも言わない。だが今のお前が呼んでも状況は変わらないと忠告してやる」


確かに私の読んでいる漫画は私を状況を変えるような事や役に立ちそうな知識は描いていない。


本当シュヴァルツ様の指摘は正論で的を射ているから苛立つ。


「俺の言葉の意味を理解した時、お前は鳴神薫でいられるのか見ていてやる」


シュヴァルツ様は私に背を向けて最後に捨て台詞を吐いて一瞬で何処かへと消えた。


結局あの神様好き勝手言って消えやがった…。


「何を言ってるんだあの神様は…。私は鳴神薫ですよ。どんな体であろうがどんな顔であろうが記憶は鳴神薫なんですから…」


私はまたベッドに寝転びため息を吐きながら文句を呟いた。


「それともう一つ」


「ほわぁ!?不意に現れないでくださいよぉ!?」


するとまたシュヴァルツ様が音もなく不意に現れた。


二度目は流石におかしいでしょ!最初で要件を全部済ませろよぉ!


「異世界に直接介入するために降りた際、俺達は身分を偽ることになる。俺は基本的に学者という設定だ。お前はどうしたい?」


次にシュヴァルツ様は私でも理由が分かる建設的な話をし始めた。


確かに為事代行や神様なんて名乗るわけにも行かないし、はっきりとした偽の身分がないと異世界に介入するときに色々と困るよね。


というかシュヴァルツ様っていつもは学者なんですか。まあ見た目からインテリ感はありますし知識は持ってそうですけどその格好では第一印象が暗殺者にしか見えないですよ。


「普通に学生じゃあだめなんですか?」


「お前の年齢に適した学校がない世界がある。その場合はどうするんだ?」


「あ…」


私の疑問にシュヴァルツ様は淡々と答える。そうだった、私のいた世界でも昔は私の年齢以下でも成人になっていたんだ。


「じゃあ…シュヴァルツ様の助手で」


少し悩んだ結果、シュヴァルツ様が一番手間が掛からなさそうな助手になることにした。これなら文句を言われる筋合いもないしね。


「良いだろう、助手が学者に様呼びは適切ではない。その場合の呼び方は考えておけ」


シュヴァルツ様は私の答えに小さく頷き今度こそシュヴァルツ様は私の部屋から消えた。


それから直ぐに再登場するのではないかと警戒したがシュヴァルツ様はそれから数時間経っても降臨しなかった。


今回のシュヴァルツ様の襲来で私はこれからもこんな風に音もなく出現することに戦々恐々するようになった。


そして私はまたシュヴァルツ様が降臨するんじゃないかと思い、シュヴァルツ様に下着姿などの恥ずかしい姿を見られるという突然のラッキースケベを警戒してお風呂にも入れず着替えたりすることも出来ず、さらには人に見られたくないような無防備な体勢にもなれず、最後に押し倒されたときに感じた悶々とした気持ちが鎮まらず、その日は眠ることが出来なかった。




おまけ「ミーシャさんの身分」


「ということがあったんですがミーシャさんの場合はどんな関係になるんですか?」


「私は一貫してシュヴァルツ様の従者ですね。捨て子で天涯孤独でシュヴァルツ様に拾われた設定が多いです」


「私もそれにすればよかったかなぁ…」


「そうなるとメイド服着用が義務付けられますよ?」


「メイドしか選択肢がないの!?」



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