プロローグ
初投稿させていただく青色の太陽と申します。
異世界に関する小説が多くある中でその実情を書いた小説を投稿いたします。
この小説の中で異世界転生や異世界転移、パラレルワールドなどの設定が解説されますがその設定は世界だけの設定であり、他の小説の設定を否定するではございませんのでご了承くださいますようお願いします。
私の名前は鳴神薫、ちょっと胸の小さいことが気になる以外は何処にでもいる普通の女子高校生でした。
最初の自己紹介でなぜ過去形なのかというと、どうやら私は死んでしまったみたいだからです。
まあ死んだ時の記憶は全くないので確信している訳ではないのだけど、なんとなく自分が死んだという自覚がぼんやりとあった。
ちなみに私が目覚めたときには突拍子もなく何もない真っ白い空間にポツンと一人で座っていた。
それに思い出せる最後の記憶で私の着ていた服は黄色のワンピースだったのに対し、今は学校指定の制服であるブレザーだった。
「どこだここ…」
いきなり意味不明な場所で一人きりの状況に困惑する中、私はこれが最近色々と話題になっているアレなのかもという予感をひしひしと感じていた。
数分ほどするとどこからともなく現れた長い白髪に伸びきった白ひげ、真っ白いぶかぶかの衣装を着たお爺さんが棍棒のように太い杖をつきながらゆっくりと近づいてきた。
うん、どこからどう見ても私はえらーい神様です!みたいな風貌で逆に心配になるよ。
「すまん、儂のミスでお主を殺してしまった」
私の目の前まで近づいた神様は私に対して深々と頭を下げた。
神様の言葉で私はある事を確信して、神様に見えないように隠しながら右手で小さくガッツポーズをした。
これは、私の予想通り異世界転生のチャンスである!
私の感情は死んだことによるショックよりも転生できる喜びのほうが勝った。
「お詫びにチートをお主に授けて異世界転生させよう、もちろん記憶を維持したままじゃ」
神様が笑顔で放つ二言目もまるでどこかの小説からコピーペーストしてきたかのように私の予想通りのものだった。
話を聞いた私の頭の中は狂喜乱舞で、本当はショックな顔をしなければならない場面なのに笑みがこぼれてしまう。
まさか自分が異世界転生のチャンスが巡ってくるとは思ってもみなかった。最近色々とネット小説を読んで神様のミスでチートを授けられ、異世界に転生した主人公がチートや現代知識を駆使して無双していく様は地味な私とは対照的で輝いていた。
そんな輝ける転生者に私がなれるなんて心が躍るようだ。
「ちなみにこのまま輪廻に戻すことも可能だが…」
「異世界転生でお願いします!」
神様が提示してきた魅力がない二つ目の選択肢を私は即効拒否して異世界転生すると伝えた。
ヤバイ、ワクワクが止まらない、嬉し過ぎてこの場で変な踊りをしてしまいそうだ。
あ、そうだ。選ぶチートはどうしよう。
魔法とかがあるファンタジーな異世界なら魔力無限とかが定番かな?それとも逆に物理最強になって無双するのもいいかも。いや、知識の宝庫であり科学の英知であるスマートフォンを使い放題も捨てがたいな。
いや、この神様はどんな異世界に転生するかを言っていない。もしかしたら私の想像がつかない異世界に転生するかもしれない。なら無限に成長できる身体というのも選択肢に入るね。これならどんな世界でも対応できるし無双できそうだし!
いやいや、どうせなら王国の姫とか高い身分の家系に転生させてもらって一生贅沢三昧もいいかな!それとも平民ながら絶世の美女になって王子様を始めとしたイケメンハーレムを築くというのも…。
ああ~、実際自分が異世界転生することになってみるとどのチートにするか悩んでしまうな~。本当どれにしようかな~。
あ、絶対条件として胸を大きくしてもらおう。私はこれまで貧乳をネタに皆にからかわれてきた!絶対に巨乳になって魅力的な女性になってやる!
「それで、チートはどうするんじゃ?」
「ちょっと待って神様。今、今決めるから!」
ああ、どれにしよう!これから異世界で楽しく生きるんだから吟味に吟味を重ねたい!
そんな感じで私がどんなチートにするか迷っていると、何もない真っ白い空間の上部にブラックホールのような渦を巻く大きな黒い穴が突如として出現した。
その穴からフワッとこの空間に降りてきた二人がいた。
一人は黒いロングレザーコートの裏に黒のスーツを着て、整えられた黒髪と冷徹な暗殺者を連想させるような目つきの悪い黒目、肌の色と白シャツ以外真っ黒な男だ。
もう一人はコスプレでよく見るような白黒ミニスカメイド服を着て、長くてさらさらな白髪に赤眼、真っ白い肌にそして眼鏡と明らかに属性盛りすぎの女性だ。
神様のいる真っ白い空間はこの二人の登場により一気にコスプレ会場と化した。
「一体なにが…」
「何ぃ!?何故奴等がここに!?」
「愚問だな」
「ぐおっ!」
上空にいきなり大穴が出現して、謎過ぎる二人組が降りてくるという意味不明の現象が続々と発生したことにより再び困惑する私を他所に、黒い男がなぜか狼狽する神様を瞬時に取り押さえた。
「大丈夫ですか?」
何が起きているか分からず混乱状態の私の元にメイド服の女性が心配そうな表情で駆け寄ってきた。
近くで見ると凄く綺麗だなこの人。しかも凄くいい匂いがする。しかも胸の部分が結構綺麗に整っている、これは着やせするタイプの胸だな。
「ええい貴様ら!儂が誰だか分かって…」
「分かってる、だから死ね」
「あ、見てはダメです!」
私がメイドさんに見惚れていると取り押さえられていた神様の首が私の目の前で黒い男が懐から取り出したごついナイフによって身体から切断された。
神様だからなのか切断された部分からは血飛沫は飛び散らず、険しい顔をしたまま事切れた神様の顔と首あたりの切断部分がくっきりと見えた。
あまりに唐突で衝撃的過ぎる事態に私はその場で口をあんぐりと開け、呆然とするしかなかった。
「し、シュヴァルツ様!いくら何でも被害者の目の前で処断するのはどうかと思います!」
「一瞬でも生き長らえさせる価値はないから殺した。文句があるのか?」
「大有りです!なんでこんな悲惨な場面を彼女に見せる必要があるのですか!」
メイドさんがナイフを懐に仕舞って立ち上がった黒い男を叱咤する中、神様の死体が光る粒子になっていき徐々に体が透明になって消えていくのが見えた。
神様ってこんな感じで消えるんだ…。
神様が完全に消えたその瞬間、ようやく目の前で起きた怒涛の展開に私の頭が追いついた。
抵抗する神様の首が一瞬で切断されて死ぬ光景が私の脳裏に焼きついて離れない。神様が抵抗しながらも為す術もなく首を切られて死ぬ姿、何かが死ぬ瞬間を初めて見た私の精神的ダメージは大きかった。やばい、気持ち悪くなってきた。
「別に問題ない、この通り死体は直ぐに消える」
「そういう問題じゃありません!あなた、大丈…」
「オロロロロロロロロロロロ」
私はその場で吐いた。酷い風邪以外の原因で吐いたのは生まれて初めてだ。何も食べていないからなのか死んでいたからなのか胃液しか出なかった。
私、これから一体どうなるんだろうという不安と恐怖で頭がいっぱいだった。
※
「大丈夫?ごめんなさい、シュヴァルツ様は考えなしに行動することがあるから…」
「あ、ありがとうございます…」
しばらく時間が経ち、私はメイドさんに介抱されてどうにか会話ができる状態まで落ち着きました。
こんなに綺麗でしかも優しいなんて女同士なのに惚れそうだ。メイドに眼鏡に白いさらっさらな長髪に赤い目と属性過多過ぎて浮世離れしてるけど。
「…さて、とっととこいつを輪廻に戻すぞ」
するとぶっきらぼうな黒い男が私の目の前に言い知れぬ威圧感を放ちながら立ちふさがった。
「えっ!?転生させてもらえるんじゃないんですか!」
「老いぼれの約束したことなど俺は知らん」
私の言葉に無表情で男は答えた。
そんな、せっかくチートを持って異世界転生できると思ったのに!邪魔しやがってこのおじさん!暗殺者みたいな風貌しやがって!死んだやつのした約束など知らんみたいに言うな!
「さて小娘、今なら優しく介錯してやる」
男は先程神様の首を切断したナイフを懐から再び取り出した。
わ、私も神様みたいに首を切られるの!?うっそでしょ!?なんで死んだのにもう一回死ななきゃならないの!?
てかそこは神が優しく手が触れるだけで輪廻に戻れるとかじゃないの!?なんで殺さないと輪廻に戻れないのよ!神の世界って融通が利かないなおい!
「こ、殺されるー!助けてメイドさーん!」
私は恐怖で涙目になりながら近くにいたメイドさんに抱きつき助けを求めた。優しいこの人なら絶対味方になってくれると思っての行動だった。
「シュヴァルツ様、流石にそれはどうかと」
やっぱりメイドさんは味方になってくれた。さあ、私の運命はメイドさんに全てが委ねられた!
「じゃあ痛みも苦しみもないように毒殺がいいのか?」
男は懐から小さいビンを取り出した。
ビンの中身はいかにも猛毒ですよと主張している濃い紫色の固体に近いドロドロとした液体だった。
「いーやー!」
殺しの方法とかそういう問題じゃないって!てか何あれ!?いかにも物凄い毒性があると主張している液体は!?あんなのを飲まされたら絶対苦痛にまみれて死ぬから!このおじさん色々とおかしくない!?
「だからそういう問題では…」
メイドさん、本当に頼みます!私は首を切断されたり毒を飲んだりしたくありません!
「じゃあお前はどうしたいんだ?」
「以前話されていたあの計画、彼女をモデルケースにされてはどうかと」
男の問いにメイドさんは即答した。
良かった、この男なら即答できないなら殺すとか言いそうだったからね。メイドさんマジナイス!
「だがさっきまで転生に狂喜していたこいつが使い物になるかどうか…」
「お願いします!それでお願いします!だから殺さないでください!」
男が私の利用価値に疑問を持ったことを察した私はその場で人生初の土下座をした。しかも自分の人生の中で一番早いと思えるくらいの素早い動作で。
ここが私の人生の分水嶺と確信した、もう死んでるけど。
私はもう一度死にたくない!こんな理不尽な死に方じゃなくて、せめて自分が納得できる死に方をしたいんです!
「私からもお願いします」
メイドさんも頭を下げて男に頼み込んだ。本当メイドさんには感謝しかありませんよ。
「お前、同情で生かそうとしてないか?」
「それが何か?」
メイドさんは男の問いにまた即答した。
あ、同情なんですね。運命を感じたとかそういう理由ではないんですね。嬉しいけどなんかちょっと悲しい気分になるよメイドさん…。
てか同情でも何でもいいから殺さないで!お願いします!と思いながら私は真っ白い地面に頭をこすりつける。
「…まあいいだろう」
男は仕方ないという表情でため息を吐きながらメイドさんの提案の同意した。
やったー!生き残ったー!死んでるけど生き残ったー!私は飛び上がりながら喜びを身体全体で表現した。
メイドさんも安堵の表情をしている。ありがとうメイドさん!このご恩は一生忘れません!
「おい小娘、文句を一言でも言ったらその場で殺すからな」
そしてすぐさま男の放った一言で私の心と身体が同時に凍りついた。どうやら私の命の危機はしばらく続くみたいだ。
お父さん、お母さん、私はこれからどうなるのでしょう。
ただ分かることがひとつだけあった。
これから絶対に今までの人生で味わったことがない面倒なことが押し寄せてくるんだろうなぁ…。
おまけ「呼び方」
「ところであなたのお名前は?」
「鳴神、鳴神薫です」
「鳴神さんね、私はミーシャ。これからよろしくね」
「(薫ちゃんって呼んでほしいな…)よろしくお願いします、ミーシャさん」
「あのお方はシュヴァルツ様、神様だからくれぐれも粗相のないようにお願いしますね」
「えっ!?この風貌で神様なの!?」
「早速死にたいようだな鳴神」
「すいませんすいません!どうか殺さないでシュヴァルツ様!」
「こいつ、本当に大丈夫なのか…」