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魔王候補のイノベーター  作者: しまっっち
1/1

プロローグ

「じ・・・・・・み・・・け・・・」

頭の中で誰かが俺に何かを伝えようとしてくる。「ザー」というノイズが入りうまく聞き取れない不気味なその声は今となり日常のごく一部に過ぎない現象となった。「またか・・・・」そんな声が漏れる。

中学生に上がる頃くらいからこの声は聞こえるようになり、その原因は不明。唯一、考えられることといえば小学5年から6年にかけての一年間、交通事故によって記憶がなくなっていることだろう。しかし医師によれば直接の関係性がないためそれが言い切れるとは限らないわけで。

まぁ、ともあれ当時は不快感を抱いていたもののこの現象から被害が起こったわけでもなし、むしろ寝ているときにしか声は聞こえないし

そのせいで目が確実に目が覚めるが二度寝すればその日はもう声が聞こえないからなんの問題もない。

だからいつものように放っておいてもう一度寝れば・・・・・・・・

「・・・・・・・・って、ノーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」

寝起きにも限らず仰向け状態から勢いよく垂直座りになり、屋根の上で朝日を浴びながら気持ちよくねていた猫すら起こす大声を上げたかと思えば、即座に後ろに体を捻り枕元にある電子パネル時計に目をむける。

薄い青色の縁なし正方形パネルが三枚横並びに合わさり中心には白い数字で8:00となっている。

「まずい・・・非常にまずい」

太ももにかぶさっていた毛布を薙ぎ払い、慌ててベットから降りその衝撃で親指を突き指しながらも向かった先はクローゼット。

ガラガラッと勢いよく開けた目先にあるのは

黒いブレザー型の制服だ。肩から袖口にかけての横ラインから、ポケットのライン、襟から上前立にかけて赤い刺繍が入っている。制服の左胸には学校の紋章が白い刺繍で描かれており、ズボンに関しても腰の位置から足元にかけての横ラインにぶブレザー同様赤いラインが刺繍されている。そして、ブレザーの下に着るワイシャツは、男性は黒と白の二色から選択できるらしく、考える間もなく黒を選択。

いや~改めて見ると本当にかっこいいな。…いやいや、見とれている場合じゃない。早く支度だ。パジャマを脱ぎ捨て制服に着替え昨夜のうちに準備していたキャリアケースを持ち、

慌てて部屋を後にする。階段をおりた目先には玄関。革靴を出すため下駄箱に手をかけるとその上には仕事でなかなか帰ってこれない母さんの置手紙があった。そこには「がんばれよ!優魔」の一言。

「これだけ書くためにわざわざ戻ってきたのかよ」優魔の顔に笑みがこぼれる。

置手紙を胸の内ポケットにしまい靴を履き終えた優魔はドアを背に「行ってきます」とつぶやく。

当分の間は寮生活となるため家に帰れるのは夏休みになるだろう。ドアのほうに振り返り取っ手に手を置く。「二年半ぶりか・・・」眉を眉間に少しよせた優魔の口から不意にその言葉がでた。

ドアが重いな。中学一年生の冬からずっと引きこもり生活を送っていた俺にとって外にでるという行為は簡単ではないが行くしかない。気持ちを引き締め一息おき、ドアノブに置いていた手をゆっくりおろしたその瞬間、ドカンという何かが衝突したような爆音の直後、地響きが急速に大きくなっていき、気が付けば優魔はバラバラになった瓦礫や木材の下敷きになっていた。

幸い、顔が表にでているため窒息死は免れたが、胸から下は瓦礫や木材の重圧で身動きがとれない。

口の中は泥と鉄の味が交互にする。最悪だ。

「くっ・・・な、なにがおこ・・」

そこまで言いかけた言葉を遮るかのようにある声が耳に響いた。

「だ、誰か・・助けて・・ください・・・娘がっ」

その絶望に満ちた甲高い声は優魔の思考を停止させるほどの叫びだった。

ただただ手繰り寄せられるように頭を地べたに擦りながらゆっくりと数メートルしか離れてないその声のする方へと向き、


文字どおり、地獄の光景を目にした。


事務で使うようなでかいコピー機サイズの岩の下に5歳ぐらいの女の子が胴体だけを残し潰されていた。

あの叫び声をあげていたのは隣に座りこんでいるその子のお母さんだろう。

本来あるはずの右足は太ももあたりから切断されており、背中からは真っ赤に染まったドアノブだけが突き出ていた。

それだけじゃない。家という家はどこにも見当たらず、人よりも高い建物はない。水道管が破裂し水しぶきが勢いよく地上に吹き出し

まるで戦争後まもない跡地のような無残な景色が広がっていて、助けを乞う人たちであふれている。

「なんだよ・・・くそっ、ふざけんなよ」

薄暗い空に向かって投げ捨てる。目からは塩辛い水が溢れるように湧き出て、顔についた泥と一緒に地面に落ちていく。

この状況に怒りを感じているわけではない。【死】という呪縛に恐怖を感じているのだ。

周りを見渡せば自分もこの後どうなるか想像はできる。そして、その恐怖を畳み掛けるように優魔の見ている空に更なる絶望が姿を現した。


――――魔獣だ。


静電気のようにバチバチと稲妻が光る薄暗い雲の中から、真っ黒な長い胴体が洞穴から出てくるように顕われた。

それはまるで龍・・いやちがう。蛇か・・・。もはやそれも定かではない。言うなれば蛇と龍が融合したような歪な形をしている。

蛇に似た顔は、頭から背中に向けて大きく曲がりくねった角に、口には何でも噛み砕けそうな鋭く尖った歯がバランス悪く並んでいる。

口の裂け目からは、外側に向けて一枚一枚、人ひとり悠々に超える黒光りした鱗が細い尻尾まで綺麗に詰められており、

柔らかそうな腹部分の少し上には小さい腕が二本あるのが見て取れる。

これが魔獣・・・・

「・・・・・・ま、ま、魔獣だーーーーーーー」と男性の声が辺り一面に響き渡る。

男性が走り出すとそれに続けと言わんばかりに一人、また一人と瓦礫をうまくかわしながら全力でその場から逃げていく。


「急げ・・・・ころされるぞ」

「もうダメだ・・・・」

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

「邪魔だ、どけ!」

あちらこちらで戦慄の声が飛び交う。

なにを狂ったのか、魔獣の方に向かう人もいる。

さっきまでとは打って変わってお祭り騒ぎになっている地上が目についたのか、上空で旋回していた魔獣はゆっくりと、大きな体を左右に揺らしながら優魔の方に向かって近づいてきてる。

「ちょ、だ、だ、だれか・・・」

逃げかう人たちにむけて声をあげる。

「た、たすけて、誰かたすけてください・・たすけて、だれか・・・こっちに」

地上と上空、交互に目をむけ高度が少しずつ下がってくる魔獣が視界にはいるたびに感情が高ぶってくる。

「たすけて、たすけてよ、動けないんだ、お願いだから、だれか」

涙で目がぼやける。水中のなかで目を開けてるような感じだ。

でも、それでもわかる。一人一人の顔が。恐怖と絶望にみちた顔。

目がっても通り過ぎていく人たちに怒りさえ覚えてしまう。

それでも助けを求めた。理不尽だとわかってる。クソみたいな人間ってのも知ってる。

だけど、死ぬのは嫌なんだ。

優魔の思いがあらわになる。

「お願いだ、たすけて、たすけて、たすけて」

無我夢中に叫び続けた。魔獣が近づくと同時に優魔の心臓の鼓動も早くなる。

「たすけて・・・たすけて、たすけて、お願いだからたすけ・・・・・」

言葉を失った。助けてくれる人がいなくなったと言った方が正確だろう。

辺りにいるのは自力ではどうしようもできない人たち。あの母親の声はもうしない。諦めずに叫んでいる人もいれば

死を受け入れた人、そして、俺のことを震えながら目をまん丸くして見つめるじいさんを見ればなにが起こったのか一目瞭然だ。

俺を中心大きな影が広がり、姿勢を正した先には空をみることすら許されない大きな黒い塊に黄色く光る丸いものが二つ、俺を見つめている。

「な、なんで俺のとこ・・・に」

魔獣の口上から伸びる長い二本の髭が優魔の顔を撫でるように触れる。

うぅうぅと泣きながら首を左右に振り必死に抵抗する。

自分の心拍数で息ができない。

死ぬ・・・・ただそれだけが頭をよぎる。

ポタポタと雨のように水が垂れ、口を少し開いた魔獣は白く濁った瘴気をあて・・・・・・


「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

唐突に優魔の体に激痛が走る。

「あぁぁ、あぁぁ、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

な、なんだこれ・・・・

まるで、刃物で全身を何度も刺されてるような感覚。

頭だけが反り返り、優魔の悲痛な叫び声が走る。

眼からは赤い水が流れ出し・・・・・そして

「お迎えに上がりました。ゆうま・・・いえ、魔王様」

どこからともなく聞こえたその声とともに俺は意識を失った。




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