幼稚園
幼稚園の受験と言うのは、思ったよりもずーっと簡単なモノだった。
私が、大人としての記憶を持っているからというのも多分に関係してはいたんだろうけど。
ちょっぴり不安だった妹の方も、特に問題なく入園がきまってくれてホッと一安心。
従兄の明日太も、同じ幼稚園への入園が決まっていて、母達の話を聞いた感じだと家柄とか寄付金によって大分その入園やらなんやらの難度が変わるらしいと知った。
世知辛い世の中だ。
そのお陰で、妹と同じ幼稚園に入れるらしいのでいいけれど。
ちなみに、この事で分かったのは我が家は思っていた以上に金持なのか、家柄が良いのかと言う事だ。
……道理で、短い距離でも車移動……。
色々と納得しつつ、前の前の人生では普通の庶民だったから、なんとなくこういうのは落ち着かない。
幼稚園も、勿論車で通うとかどんだけだ。
と、心の中でツッコミを入れていたモノの、よく考えたら前世の世界での貴族の生活と変わらないと言う事に気が付く。
あっちでは、神様兼国王様的な立場だったから、護衛やらなんやらも随分と多かったんだっけか。
今よりひどいな。
あちらの人生の終盤の方はそうでも無かったけど。
幼稚園の入園までは、ひたすら明日太の家に通ったり、ウチに明日太とその母が遊びに来たりと言うのが繰り返されたので、随分と私達3人は仲が良くなった。
もう、いっその事三つ子だと紹介した方が良い位のレベルなんじゃないかな?
既にそれ位の勢いで通じ合ってる様な気がする。
ただ、たまに行く未就園児の交流会では、私とりりんが双子だと紹介すると、大抵のヤツが「こっちの子と双子ちゃんかと思った。」と言うのには正直腹が立つ。
実際りりんとよりも、従兄の明日太の方が私と似ているのが否定できない辺りがまた……。
明日太も私も、良く似た従姉妹同士である母親達に似ているからと言うのもあって、父親似のりりんとよりも確かに似てるんだよね。
私も女に産まれたんだから、どうせならりりんみたいな可愛い系が良かったなぁ……。
お母さんは美人系なので、私も不細工じゃないけどさ。
女の子だったら小動物系の方が好みなんだ。
ソレに……。
前世でも良く似ていた孫息子と、今生ですらも似ているのを感じる度に、あの頃の行いを突きつけられている様な気分になるから。
あの子が、両親に抱きしめられて笑う度に、前世であの子からどれだけのものを奪ってきたのかを見せつけられる。
しかも、コレがまた明日太は良く笑うんだ……。
今も、蜜子さんの膝によじ登ってニコニコしていて、なんだか泣きたい気分になってきた。
前世の私の、明日太を虐待した記憶が痛すぎる。
自業自得だから泣いちゃいけない。
「らんちゃ?」
りりんはやたらと私の気持ちの浮き沈みに敏感で、こうやって急に気持ちが沈んだりすると、ぎゅっと抱きしめてくれたり、頭を撫でてくれる。
もうやばい。
転生する前から、可愛くて仕方なかったりりんだけど、今となってはもう、この子が居ないと生きていけないんじゃないかとそう思えて仕方がない。
私達が入った幼稚園は、いわゆるお金持ちの子女向けと言うヤツらしく、幼稚園~大学までその気になればエスカレーター式で通う事が出来るものだ。
幼稚園はその中でも一番門戸が狭くて、1学年30人程度しか入れなかったらしい。
……らしいっていうのは、1クラスしかないからそうなんだなと判断したからってだけ。
面接の時は、同じ教室にいるのよりも沢山の子供が来ていたのを覚えているから、彼等は入園を断られたんだろうと思う。
通い始めて1カ月もすると、仲の良い子悪い子が多少でてきはじめた。
その中でも明日太は、なんだか女の子にやたらと人気がある。
大人しくていつもニコニコしてるからだろうか?
同い年の子供にも人見知りを発揮する明日太は、しょっちゅう私かりりんのところに逃げ込んで来る。
逃げてくる明日太と一緒に、追い掛けてきた子達を上手くあしらって一緒に遊べるように持っていくのが私の毎日のお役目になった。
それにしても、女の子って言うのは3歳にして既に女なんだなと感じて、えらく驚く。
会話が……言動の内容が、男と随分違う。
男の子の方が『子供』らしいなと思いながら、明日太の頭を撫でまわす。
明日太はなんだかくすぐったそうな顔をしながらも、満更でもない様子でにこにこしてた。
りりんも適当に他の子からはぐれている子の相手をしているのを見て、私はほっとする。
りりんも、人見知りする方だと思ってたけど、思ったより大丈夫そうだな。
そんな訳で私が、りりんがひっそりとボッチになっているのに気が付いたのは、入園してから半年が過ぎた頃だった。
あれ???
りりん、お前ちゃんと友達作ってなかったっけ?????