前世の夢 その3
上の子の元に産まれた双子の、弟の方が私が今回記憶を取り戻すきっかけになった『明日太』……あっちの世界での名前は『アスタール』、だ。
双子の上の方はアス……なんだったかな……。
正直、上か下かで覚えてただけだから覚えてないな。
この双子はどちらもひどく優秀で、父親である上の子なんてメじゃなかった。
父親も今考えて見ると、平均よりもずっと優秀だった気がするんだが、ハードルが高すぎたんだな……。
可哀相に。
その可哀相な事をやったの、私だけど。
隔世遺伝ってやつだったんだろうな。
その双子は色々おかしかった。
頭の出来もやたらと良かったし、魔力もやたらと多い。
更に5歳になったところで、魔法属性の鑑定を子供達も呼んで行うと、上のは7属性。
下のは、なんと8属性全部所持してた。
あの世界での魔法の属性は8種類。
全部揃ってるなんて言うのは、砂漠で落とした砂粒を一つ探すのよりも難しい。
というか、生まれつきの管理者でもないのに全属性持ちなんて、多分アイツの後には産まれないんじゃないだろうか?
ちなみに、理屈の上では上の子の7属性って言うのが上限だろう。
残念なことに、欠けている属性が私の望むものじゃなかっただけだ。
私の希望を叶えられなかった上の子は、娘によって攫われた。
その時の私は下の……アスタールさえ逃がさなければ問題なかったから気にしなかったけれど、今なら思う事がある。
食事の時と物を教える時にしか会わなかった祖父に、あんなに懐いてた孫だぞ?
ちょっとは気にしろ!!!
え?
ああ、食事時と物を教える時しか顔を出さなかった理由?
その頃には大分、頭の方がヤバくなってたからな……。
自分がチビ共に危害を加えない為、だ。
あのまま、後継者が見つからなかったら、世界を滅ぼしに掛かってたんじゃないかなぁ……。
本当にヤバかったんだよ、あの時。
その時の私は、上の子を連れ去った娘に、アスタールまで連れ去られない様に対策を講じた。
まぁ、やったの事は単純で、自分以外の者が目的地に着けない様にしただけだ。
いわゆる、ゲームなんかでよくある無限回廊ってやつ?
アスタールは外に出れないし、娘は中に入れないし言う事が無かった。
うん?
やり方は簡単だ。
闇と闇を繋いでやっただけ。
そうして、私はアスタールを外界から遮断した……つもりだったらしい。
まさか、異世界の相手と文通なんて手段で繋がるなんて、想像の範囲外だよ……。
しかも相手がりりんで、ネットゲームをやってるうちに恋人関係にまでなった??
アリエナイ……。
前々世が地球出身の私にとっても、想像できなかったよ……。
え?
うん。
元々、あっちの世界に行く前は地球で普通にゲームやラノベ読んで育った世代だよ?
あっちの世界では、前世の記憶なんかは無かったけどね。
なにはともあれアスタールのヤツは、弟子の娘を使って、クリフの条件を満たして……。
まんまとりりんを私の前から連れ去った。
私にとっては、まさにトンビに油揚げ攫っていかれたようなもんだ。
生まれ変わらせて貰える時には、彼女の側に……とこの10年の間思い続けていたと言うのに……。
「あれ、……お兄ちゃん?」
そうやって、地球に戻るまでの事を思い返している内に、クリフの待ち人が現れた。
って言うか、りりん?!
なんで??
生身の人間がここに来れるもんじゃないだろうに??
さっき、連れ去られて行ったばかりの筈のりりんが、アスタールを伴って目の前に居て飛び上がる。
彼女も、まさか自分の兄が地球の創造主だなんて知らなかったものだから、驚いていたものの、「あー……。まぁ、お兄ちゃんだし。」の一言で何故か納得していた。
まぁ、クリフは優秀すぎるしな……。
驚きのあまりクリフにひっついた状態で、彼女の話を聞いていたら、地球にいる友人達に最後のお別れと……出来る事なら、分け身を1代だけ置かせて欲しいとかそう言う話だった。
アスタールは、こっちの世界で家族として暮らしたいと思っている相手が居たらしい。
少し考え込む様子を見せるクリフに、わざと、コイツを孤独にする様に仕向けてた負い目もあって、私からも頼みこむ。
ようやく、口を開いたクリフが出した条件に思わず全員が黙り込んだ。
「条件付きでなら許可しよう。」
「条件……?」
「条件は、りりんと『魔王グラムナード』が双子で生まれる事、だ。」
肩のところにへばりついていた私をヒョイと摘まんで、2人に突き出しつつ口にされたクリフの言葉に、アスタールの耳が忙しくピコピコと上下する。
見た目のイメージ的には、手の平大の人魂を摘まんでる感じだ。
それにしてもアスタールは、表情が変わらない代わりに耳がピコピョコする癖は変わってないのか。
なんだか懐かしい。
イイ年の男がやってるのはナンだけど、子供がやってると滅茶苦茶可愛いんだよな……。
正直、ちびっこ二人組でピコピョコされた時には両方抱えて転げ回った……。
思わずピコピコしてる耳に齧りついて泣かれたのは、今となっては良い思い出か?
「……アルの先代様って、こんなところにいたんだ……。」
「ボロボロになって返品されてきた。」
「へぇ……。」
りりんは、興味津々だ。
じっと覗き込んでから、人差し指を私の方へとそっと伸ばす。
「アルの妻のリリンです。長いおつきあいになるか短いおつきあいになるかは分からないけど、よろしく。」
その顔に浮かんだ屈託ない笑顔を見て、彼女は私が自分の連れ合いにした事を何も知らないのだと思う。
でも……。
彼女が了承したとしても、私にされた仕打ちを忘れる訳のないアスタールは拒否するだろう。
何せ、恨まれて当然の事をしていたし、実際に彼と最後に相対した時私に対して暗い感情を向けてきていたのだし。
そう思いつつ視線を向けると、なんとヤツが首を縦に振るところだった。
私が驚き、呆然としている間に、粛々と話し合いが進んでいく。
クリフの手から、りりんの手へと渡された時の感情をどう言い表わせばいいのだろう?
彼女の手の中に収まるまでは、まるでコマ送りの映像を見るかのようにゆっくりしたものだったのを鮮明に覚えている。
そうして気が付いた時、私は既に幼児になっていたと言う事らしい。
蘭:なんで、あそこにりりんが来るって知ってたんだ??
クリフ:りりんに与えた属性の話を聞いて、アタリを付けた。
アレなら、連れ合いの心残りを何とかする方法を考えるからな。
蘭:……そのせいであんなに早く死んだんか……。