明日太の見る夢 ~アスタール13歳~
賢者の石が異世界と繋がったと分かったのがどうしてかは『僕』は分からなかった。
ただ、この夢を見ている僕が理解したのは、『僕』のみた文字が英語だったと言う事。
すなわち、『僕』が垣間見る事が出来るようになったのは地球だ。
どうもインターネットか何かに接続したらしい。
『僕』は、その中から『日本語』を拾い上げて解読して行き始めた。
なんで日本語だったのかは最初は分からなかったけれども、彼にとって日本語……特にひらがなはとっつきやすかったらしい。
何故なら、彼が普段読み書きしている文字と似通っていたからだ。
ある程度読む事に自信がついてくると、『僕』は日本語のサイトを読み漁る。
特に熱心だったのは、『メル友募集』。
メールの送り方を理解すると、『僕』は片っ端からその募集にメールを送り始めた。
兎に角、どんな形でもいいから誰かと『会話』をしたかったらしい。
その頃になると、『祖父』は目に見えて正気を失い始めていて話相手にはならなかったし、『僕』自身もそれに引きずられ掛けている感覚があったからだろう。
相手の年齢や性別、自己アピールの類なんて何も見ずにただひたすら『僕』はメールを送る。
『なる。友達。メール。くれる』
滅茶苦茶カタコトなこんなメールに応えてくれたのは、たった一人の女の子。
名前はりりん。
彼女のメールに書かれていたのは、ほんの一行っきりだったけれど、『僕』は飛び上がらんばかりにソレを喜んだ。
『いいよ。日本語しか出来ないけどそれでもいい?』
そうして、異世界・地球の日本に住む少女と『僕』との間でメール交換が行われる様になった。
彼女から送られてくるのは、本当に些細な日常のあれこれ。
「お兄ちゃんの作ってくれたカルボナーラが美味し過ぎて、お夕飯食べ過ぎちゃった!
どうしよう?
太っちゃうかも!
アスタールは、今日は何してた?」
『僕』はカルボナーラが何か分からなかったから、インターネットで即座に調べる。
カロリーとやらの高い、何やら細長い食べ物の調理法らしい。
なんだか白くて見た目だけでは美味しそうに見えないなと思いながら、返事を返す。
「太る。問題?」
「お兄ちゃんと出掛ける時に、恥ずかしい思いさせるかも?
あと、可愛い服が似合わなくなるキガスル」
どうやら問題は『兄』が気にしなければ特にないらしい。
少し羨ましく思いながら、その日の自分の学んだ事を簡潔に伝える。
そうはいっても、いつも大体同じ内容だ。
変わり映えのしない毎日の中、それでも彼女との何でもない内容のメールを交わすのが『僕』の中で欠かす事が出来ない物になっていく。
やけに明瞭な夢を見て、僕は目を覚ました。
ぼんやりと薄暗い部屋を見回したのは、間違いなく『明日太』の部屋に居るのだと確認する為。
「……夢……だよね。」
呟く自分の声が、覚束なく震えてる。
まだ部屋の中は真っ暗で、とてもじゃないけれど僕が起きる様な時間じゃない。
夢の中の『祖父』を思いだすと、身体が震える。
例えようもなく、彼が怖い。
そして、優しい時の彼の表情が、身近にいる同い年の少女が時折見せる表情と被る。
時々彼女は、理由もなく申し訳なさそうな悲しげな表情で僕を見るんだ。
そんな顔をする様な事は何もしていないのに。
僕はソレを否定しようと頭を振ってその感覚を追い払う。
「……蘭はあんな事したり……しない。」
ブツブツと同じ言葉を繰り返し、無理矢理自分の心を納得させようとするけれど上手くいかない。
蘭は妹を病的に溺愛していてちょっとアブナイ時もあるけれど、それ以外だと面倒見も良くて優しい、少し男勝りなところのある女の子だ。
勉強が得意で運動神経も悪くない。
そのせいもあってか、女の子たちに人気がある。
学校の制服を長ズボンにしているせいもあってか、ちょっと男装の麗人ポジションと言うヤツらしいと、この間、彼女の妹のりりんが言っていた。
人当たりも良いのもあってか、幼稚園時代から彼女の事を知っている人間で彼女が嫌いだと言う人もあまりいない。
僕の自慢の従妹。
ヘンな夢のせいで、彼女と気まずくなりたくなくって僕は必死で夢の事を頭から追いやろうとした。




