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恋敵は前世の孫  作者: 霧聖羅
2.5章 アスタールと祖父の夢
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明日太の見る夢 ~アスタール5歳~

 幼い時から、まるで続きものの様に見てきた夢がある。

見ている間だけは鮮明で、それでいて目が覚めるとあっという間におぼろげになっていくソレが、ここ1年ほどで随分と記憶に残る様になった。

まるで、今とは別の人生を思い起こしているかのようだ。


 その夢の中のメインキャストは、『兄上』と『おじい様』と『自分』の三人。

極々稀に、『父上』と『母上』。

そして『叔母上』というのが出てくる事もある。

その夢の中の両親と言うのはどういう訳か僕たちとは疎遠で、離れて暮らしているのにも関わらず久方ぶりに顔を合わせても抱きしめあう事もない。

現実での両親とは大違いだ。

流石に6年生になった頃に、いつまでも親にしがみついているのもみっともないかと思って、自分から抱きつくのは止めたけれども、父は隙あらば肩を抱き寄せてくるし、母だって抱きしめるまでは行かないけれども触れ合う事を避けたりはしない。


 夢の中での『兄上』は、僕と同い年らしい。

とても活動的で利発な少年で、運動神経も抜群だ。

夢の中での僕は、狭い庭で木に登ったり走り回ったりする兄の事を眺めながら本を読んでる方が好きみたい。

本を読むのは現実の僕も好きだから、なんだか納得する。

祖父と三人で暮らしているらしいのに、祖父と顔を合わせる時間は多くない。

朝昼晩の食事時と、一日にほんの1~3時間(日によって違う)位のお勉強の時間だけ。

食事時も毎回居る訳じゃなくて、食事を持ってきてすぐに居なくなる事もあれば、食事の途中で怖い顔をして出ていく時もある。

祖父は幼い時にはもっと一緒に居てくれたような気がするのに、この頃――5~6歳ごろ?――には殆どと言っていい程顔を見せる事がないらしい。

兄も『僕』と二人きりで過ごすのは寂しそうだ。

暇になると、一緒になって本のページをめくる。

庭は二人で走り回るのは無理だとすぐに分かる程に狭くて、沢山ある本だけが二人の暇つぶしの材料だった。

こんなに幼い子供が読むのには随分と難しい本を開きながら、互いに分からない部分を相談し合いながら理解を深める。

兄弟の仲はひどく良くて、殆ど喧嘩をする事もない。

多分、それは本能的なモノだったんだろう。

幸いなことに、互いの好みは争い合う程被る事はなく、それなりに譲り合う事ができている。



――外の世界ってどうなっているんだろう?



 小さな小さな庭の空を見上げる。

この空が、どこにも繋がっていない事を『僕』も兄も知っていた。

ソレは、祖父が『僕』と兄の遊び場としてだけ用意した『箱庭』だったから。

いつまでかは分からないけれど、祖父がここを出ていって良いと判断するまでの間、そこから出られないらしいと言う事は分かっていた。

……まさか、『僕』だけがここに取り残されることになるなんてその時は思っても居なかった。




 その日の朝。

朝食を摂る祖父はひどくご機嫌なようにみえた。


「お祖父さま、どうしたの?」

「うん?」

「うれしそうだから。」


 いつになくリラックスした様子の祖父に、兄の方がよっぽど嬉しそうな顔でそう訊ねる。

『僕』は黙ってた。

なんだか、祖父の様子がおかしい。

妙にテンションが上がったかと思うと、急激にそれが下がる。

テンションが下がるのは瞬間的なもので、兄はそれに気付かずニコニコしていた。


「今日は、アスラーダとアスタールの魔力属性の判定をするから。」

「魔力属性?」

「ああ。それによって、ここで学び続けるか外に出るか決まるな。」

「……お祖父さまはどっちに『きたい』してるの?」


 兄が、祖父の『期待』に応えたいと思っているのは知っていたけれど、『僕』はそんな期待なんてどうでもいいと思っている。

祖父の『期待』に応えてしまったら、何か悪い事が起きる気がして仕方なかったからだ。


「どっちだろう?」


 兄にそう返した祖父は、困った様に笑う。


「お前達の為には、きっと私の期待に応えられない方が良いんだろうね。」

「僕、お祖父さまのきたいにこたえたい!」


 兄の真っ直ぐな眼差しに、目を細めた祖父は、表情は笑っているのにまるで泣いているようで……。

『僕』は、兄も『僕』も期待に応えられないですむ事を強く願う。

そして、そういう願いは大概叶わないものなんだ。




 魔力属性の判定とやらは、いつも生活している場所ではなくガランと広い部屋で待っていた『父』と『母』『叔母上』ともう一人会った事のない男の人の前で行われた。

ベルベットによく似た柔らかな布の上に置かれた水晶に、まずは兄が触れる。

オレンジ・青・赤・緑・黄色・白・紫。

クルクルと変化する七色の光が部屋を照らす。

周りの大人たちが驚きと喜びの声を上げる中、祖父だけは静かに諦めの色をその瞳に浮かべた。



――兄は、『期待』に応えられなかったらしい。



 周りの大人の反応から、期待に応えられたのではないかと目を輝かせて祖父を見上げた兄の表情が凍りつく。



――でも、これで兄上は自由だ。



 兄の肩に添えられていた手が離れ、『僕』のそこを掴む。

まるで、逃げられない様にとでも思っているかのように。

実際、『僕』は腰が引けていて逃げ出したいと思っていたからその反応も間違ってはいない。

大人たちの興奮した声が収まったところで、祖父に促され、渋々『僕』は水晶に手を置く。

オレンジ・青・赤・緑・黄色・白・紫。

そして黒の光がクルクルと部屋を照らした。

黒の光と言うのは表現として間違っている様にも思えるんだけれども、その瞬間だけ視界が完全に閉ざされる感じ?

それでいて、周りのモノはきちんと見えているという不思議な状態だ。


 その瞬間、クルリと『僕』は祖父の方を向かされ抱きあげられる。

間近に見たその瞳の奥に、狂気を感じ息を飲む。


「お前が、次代の錬金術師だ!」


 まるで、呪いの言葉だ。

狂気を感じさせる喜びの声を上げ、『僕』の身体を拘束する。

祖父の口からヒステリックな笑い声が上がる中、『叔母上』が祖父に食ってかかり、自らの言葉が祖父に届かないと分かると、兄を連れて空を駆けてその場を逃げ去った。



――叔母上。

僕も!

僕も連れていって……!!



 『僕』の伸ばした手に、兄の手も伸ばされたけれど、互いの手は触れ合う事もなくあっという間にその姿が豆粒のようになって、空へと消え失せる。




 そうして、祖父と『僕』の2人きりの生活が始まった。

明日太の前世、5歳編でした。

次は12歳編です。

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